第392話 愛に時間を

 時間の流れが一定ではないのは、主観的にも客観的にも明らかな物理学的事実である。

 三ヶ月という余命宣告は、誰にとっての時間であったのか。

 少なくとも月子にとっては、とんでもなく時間の経過が早く感じる。

 逆に俊はとんでもない量の楽曲を作ることによって、時間を歪めようとしていた。

 イリヤも27歳で死ぬまでに、二万曲を作ったと言われるが、実際には未完成曲が多かったのは、今回明らかになった事実。

 ノイズも結成からそろそろ九年近くになるが、発表したのは400曲ほど。

 ただこれはリマスターをどう数えるかとか、ツアーのために潰れていた時間があったとかで、いちがいにどれぐらいのペースであったかは言えない。

 しかしこの三ヶ月ほどの間で、40曲を作ったというのだけは事実である。

 これもとんでもないペースだが、しかしイリヤの作った曲が完成曲だけにしても2000曲だった場合、一日に数曲も作っていた日があるのではないか。


「マンガには同時進行というものがある」

 千歳はそんなことを言っているが、最近は一本に絞っているマンガ家が多いと思う。

 そもそも一作あたりの作画カロリーが高くなって、同時進行できる作家が減っているのではないか。

 少なくとも週刊誌や月刊誌でそれなりのレベルの作家で、複数作制作している若手は、ホルスタイン先生ぐらいではなかろうか。

 あの人はそれ以外の部分も超人的であるので、ちょっと同列に並べることは出来ないかもしれないが。

 もう若手ではない、というツッコミは置いておいて。


 俊は曲を作りながら、詰まったら他の曲を作り始めて気分を変え、そして思いついたら元の曲に戻っていく。

 その隙に徳島が曲を完成させようとしたりしているので、そこでバトルが勃発しそうになる。

 ただそんなことをしている暇があれば、他の曲を完成させることを優先する。

 全く同じ部分がある曲が二つ出来て、ゴートが大笑いしながら片方をボツにする。

 ボツにされた方を阿部がしっかり確保しておいて、後でアレンジをしてもらうことを考える。

 その曲を頭の中で流す白雪とTOKIWAが、いい感じにイメージを変えて完成させてしまう。

 もはや誰に著作権があるのか、分からない状態である。

「オバケのQ太郎みたいなことにならないといいけど……」

 阿部はそんなことを言っていたが、マンガを多く読む千歳も、守備範囲の作品でないのでそれは知らなかった。


 体力はなくなっていくが、なんとか生きている。

 そしてマイクの前に立って、歌うことは出来るのだ。

「もっと力を抜いて」

 白雪はそう月子に言うが、彼女は聞いていないだろう。

 なんだか命の輝きが失われていくというか、良く言えば人間離れしていっている。

 そんな姿を白雪は、以前に一度見ているからこそ、必死で止めようとしてはいるのだ。 

 無駄で、意味のないことと分かっていながら。


 人間の命の価値は、単純なその長さではない。

 一番単純に価値を決めるなら、どれだけの子供を作ったか、ということは分かりやすい。

 そんなものに価値があるのかと言われるかもしれないが、単純に自然界では勝ち組だ。

 サラブレッドだって種馬になれば、多くの子供を残すではないか。

 200年以上も昔の祖先が、全て分かっていたりする。

 人間よりも寿命が短いのだから、とんでもないことではある。

 遺伝子に価値がある生物の場合、逆に人間よりも血統は重視されるのだろう。


 人間はすると、子供を残すだけがその価値ではない。

 社会的な生物なのだから、その社会にどれだけ影響を残したか、それが重要となる。

 ただそれが価値だと分かっていても、自分の命を削ってでも、それを達成しようとするだろうか。

(私は結局、のんびりと音楽をやって、それで死んでいくんだな)

 白雪はそう考えていて、別にそれでいいと思っている。

 紫苑と紅旗のことだけは、少し見守っていたいが。


 月子は命を燃焼させているが、それが逆に寿命を伸ばしているようにも思える。

 実際にその余命は、三ヶ月とも言われていたのだ。

 その三ヶ月は、もう過ぎようとしていた。

 激しく生きるほど、逆に人は長く生きるのか。

 もっともそれに付き合っている俊などは、明らかに寿命を縮めていると思うのだ。

(手塚治虫も、睡眠時間を削っていたから、割と早死にしたらしいし)

 だが残した原稿の量では、ジャンプで40年の連載をしても、全く届かないものである。


 なんのために生きるのか。

 誰のために生きるのか。

 人間は結局、この二つだけを考えればいいのだろう。

 俊は本来、楽曲を残しさえすれば、他はどうでもいいという人間だったのだ。

 ただその音楽のために、月子がいた。

 だから今は、月子のために生きている。


 まるで一緒に燃え尽きようとする存在ではないか。

 そんなことも周囲からは見えるのだが、それを徳島などは焚きつけている。

 彼もまた音楽以外には、何もいらないという人間である。

 俊も損得を考えず、完全にそのためだけの存在になっている。

 純粋になっていくほど、人間離れして行く。

 まるで月子と心中するかのように、その音楽の魂を燃やし尽くしている。


 暁はそれでいいのか、と考える周囲の人間はいる。

 だが俊は止まらないと、暁はちゃんと分かっている。

(あたしが死ぬとしても、同じようなことはやってくれないだろうな)

 そのあたり嫉妬の心が湧きあがっても、おかしくないはずであるのだが。

(ツキちゃんなら仕方がない)

 そして暁も、そのギターを奏でるのだ。




 複雑な人間関係、というほどのことでもないだろう。

 だが彩に連れて来られた楓は、その後は自分一人で何度も、俊の家を訪れている。

 まるでショッカーの基地、などと言っても彼女には全く分からなかっただろう。

 いや、そんなものが分かるのは、もう老人の世代であって、阿部であっても分からないのだが。

 知識だけならば、普通に千歳以外に、白雪も知っていたりはする。


(本当にここにいていいのかな)

 同じレコード会社であるが、別レーベルである。

 ただ楓は本来、妊娠期間中の彩が、付けられた付き人のようなものであった。

 そこでレッスンなども受けるはずが、もういきなり歌を入れるように言われている。

 そして歌うのだが、具体的な改善点を含み、どんどんと駄目出しをされていく。


 楓はいわゆる「芸能界に入るつもりなどなかった」というタイプの人間だ。

 だが才能が勝手に、彼女の未来を作っていった。

 しかし両親や姉の手を煩わせないようになった今、しっかりと自分でも稼いでいくと最終的に決断したのは自分だ。

 間もなく高校に入学するが、月子の事情を知らされて、とんでもない場所にいるのだと分かる。


 未来の歌姫、なのかもしれない。

 だが今のこの場では、一番キャリアも実力もない。

 才能だけで使われている、という不安定な立場。

 しかし才能を使うことに、慣れている人間がたくさんいた。

 上達していると言うよりは、これはいったいなんであろう。

 確かに千歳が、自分自身の受けたボイトレをしてくれて、上手くなっているのは分かる。

 だがこれは、あれである。

 修羅場を潜り抜けるとでも言った感じに近い。


『違うなあ』

 レコーディングをしていても、俊の駄目出しは多い。

 ただ感情的に責めるのではなく、怒るわけでもなく、具体性を持たせようと考えている。

『あのね、今の楓ちゃんの歌だと、素材のまんまなの』

 いつの間にか、こういう言語化が得意になってきた千歳である。

『強い感情とか一生懸命さは分かるけど、歌詞をもっと読み込んで……俊さん、もっと背景を説明した方がいいんじゃない?』

『そうだな。一度出てきて』

 難しいことを言われている。


 間もなく高校生になるばかりの楓には、人生経験の引き出しがない。

 ただ声に深みがちゃんとあるな、とはここにいる人間のほとんどが気付いていた。

 生まれつきの体の弱さで、あまり運動も出来なかった彼女が、傾倒していたのが歌である。

 三線と楓をかついで、姉が海浜までやってくる。

 そこで上手く風に乗せるように、歌声を響かせていたのだ。


 病魔と言うよりは、単純に虚弱。

 そして二次性徴期と共に体質が変化し、かなり丈夫になった。

 東京に出てくることを許されたのは、姉がスポーツの大会のために、東京に出てくることがたまにあるから。

 楓から解放されれば、姉も全力でやりたいことが出来る。

 彼女が思っているほど、周囲は重荷とも感じてないのだが。




 人間は苦しいことや悲しいことから、物語を紡ぐことが得意だ。

 嬉しいことや楽しいことだけを紡がれても、共感することは難しい。

 他人の苦しみや哀しみを見るのが、人間は本来好きなのだから。 

 あとはみっともない喜劇あたりであろうか。


 かつてはトレンディドラマなどが一世を風靡したものだが、今はそんな時代ではない。

 美男や美女というのは、粗探しをされる時代なのだ。

 一定の年齢以上の人間であれば、ちょっと辛辣すぎる時代だ、と思うかもしれない。 

 そういった悲劇の中で、どんな人間でも共感出来るのは、人間の死である。


 ゴートは全力で、月子の死を飾ってやるつもりである。

 だからこそプロデューサーのようなことをして、永劫回帰との二股をかけている。

 あちらはあちらでやることがあるが、こちらを優先するのは決めている。

 当初の予定の三ヶ月は過ぎた。

 月子は弱ってはいるようだが、致命的な感じを受けないのだ。

 ここから復活するのでは、などとゴートなどは考えたりもする。

 それはないと分かっているのは、花音や白雪といった、感性の人間の持ち主。

 ゴートはあくまでも計算する人間だ。


 月子の存在を世界に刻み付けてやろう。

 その代わりに自分も利益を得る。

 ゴートは他者の死を、あえて利用するというほどの悪趣味ではない。

 だが月子と俊を見ていると、残してやりたいと思えるのだ。

 特に俊は、己の音楽生命すらかけているのが分かる。


 自分を構成する大きな要素を、ここで使い尽くすつもりなのか。

 ゴートとしてはそれを止めるより、やりたいようにやらせる方を選ぶ。

 意外と言うわけでもなく、白雪も同様の見解だ。

 人はただ生きているだけでは、死んでいないだけである。

 死ぬまでに何をするかで、その生命の鼓動はまだ残り続ける。


「フェスには参加出来るかもしれないですね」

 ゴートの言葉に阿部は、少し驚いて頭を振る。

「そんな準備は、ちょっと無理でしょうね」

「そうかな」

 一曲のレコーディングを終えると、かなりの休憩が必要になる月子。

 だが歌っている間は、今が全盛期だと感じさせる、たっぷりとした衝動を声に乗せてくるのだ。

「ノイズ、このまま解散ですか? あの楓ちゃん、レコード会社は同じなわけだし、新しいメインボーカルで使えないの?」

 現場が緊迫していても、ゴートはこうやって冷静すぎるぐらい冷静な意見を持っている。

「ただ力があるだけじゃ、バンドにはならないでしょ」

 阿部はそう言うが、月子と合わせて上手く、ハーモニーを奏でているのだ。


 ノイズに合ったボーカルだ、というのは確かである。

 発展途上というのも、他のメンバーのサポートがあればどうにかなるだろう。

 だがメインボーカルはバンドの顔だ。

 フレディが死んだ後のQUEENを、それ以前と同一視する人間はいないだろう。

 月子にあって楓にないのは、カリスマ化するためのバックグラウンドである。


 単に病弱な幼少期、というだけでは足りないのだ。

 月子のような両親の死、障害といったハンデが、物語の上では全て逆のプラスに働く。

 それこそ花音のような、伝説の母親を持ち、母の遺体から生まれたというような、とんでもないバックグラウンドがないと。

 永劫回帰のボーカルのタイガなども、両親は幼くして死亡し、育ててくれた祖父も死亡している。

 そういった悲劇を持っていないと、一般大衆は反応しにくい。


 月子のような背景を持ち、そして力量を持つような存在は、そうそういるものではない。

 俊はあくまでも月子の、ボーカルとしての力を必要とした。

 色々な複雑な背景を知ったのは、その後のことである。

 そういった音楽性以外の部分で売ることを、かなりためらったのは確かである。

 正確には、どのタイミングで公表するか、ということが重要だったのだ。




 別に全ての天才が、不幸である必要などはない。

 イリヤなどはクラシックの世界から離れる時、周囲との大きな確執があったという。

 そして死に様はドラマティックすぎたが、それまでは特に不幸などではなかったのだ。

 花音にしてもそういった背景があると言われても、自分が生まれた時までの話。

 義理の両親や、親にも近い先生には、大切に育ててもらった。


 ケイティなどはもっと単純で、アルプスの近くに住んでいてネットに流したものを、イリヤに発見されたというだけだ。

 彼女はアメリカ音楽業界という、とんでもない金の動くところで生きてはいるが、不幸なわけではない。

 ただゴートは、ヒート解散後の白雪の方が、ずっと歌に深みは出ていると思っている。

 そして恵まれて生まれて、恵まれて育った自分が、才能にまで恵まれているというのを、物足りなく思っているのだ。


 前に出て行く人間は、もっとドラマティックな背景が必要だ。

 そんな妙な信念を、ゴートは持っている。

 めんどくさいところが、この計算高い男にもあるのだ。

「昔のミュージシャンが薬物に手を染めたり、同性愛に走ったりするのは、無理矢理そういう個性を獲得しようとした結果だと思うんだよね」

「それは確かに」

 破天荒でなければロックスターではない、という時代は90年代初頭ぐらいまではあったろうか。

 ただカート・コバーンが派手に自殺をした結果、もうそれ以上のことは誰も出来なくなってしまった。


 俊自身はもっと単純で、純粋に考えているだろう。

 だが今やっているのは、どれだけ月子の死を飾るか、ということだ。

 生前に既にやっておく、葬式の準備に似ている。

 予定であれば多くの楽曲は、月子の死後に発表されるはずであったのだ。

 悪いことではないが、思ったよりもずっと、月子は長生きしている。


 精神が肉体を凌駕するのか。

 それは別にスポーツに限った話ではない。

 また思ったよりも月子は、体重が落ちていたりもしない。

 実は医師には、そろそろ緩和ケアに入った方がいいのでは、とまで言われているのだが。


 わずかな鈍痛はあるし、起き上がるのにも力がいる。

 ぐっすりと眠るためにも、鎮痛剤と睡眠薬が必要となる。

 そうやって寝ている間は、わずかに寿命が延びている気がする。

 そんな月子であるのだが、周囲からはまだしも、死なないのではと思われたりしている。

 死の匂いが分かる人間は、今の日本社会には少ないだろう。


 明らかに肉体を削っていって、体の水分が上昇している。

 結果的に体重は、さほど減っていないという数字にはなっているが。

 自宅療養とはいっていたも、最後には病院にいてくれないと、色々と手続きが面倒になる。

 だが医師も不思議であるが、月子の病状は本当に直前のところで、止まっているように見える。


 そこまでは知らないゴートであるが、ライブは出来るだろうか、と考えはした。

 ノイズの単独ライブというのは、もう難しいだろう。

 月子が連続して歌うことは、既に出来なくなっている。

 そもそもハコのどこを抑えるのか、という問題も出てくる。 

 ちゃんとして計画が立てられないと、ハコの準備も出来ない。

 フェスならばけっこう直前に、急病などで代役が入ったりもするが。




 ライブは生命を燃焼する活動である。

 だからといって、寿命が縮まるわけではないはずだ。

 しかし今の月子に、あまり過激な行動はさせられない。

 いざとなったらステージで倒れてしまう可能性もある。

 そういったことを考えると、大きなハコでそれをやれば、事件になってしまう。

 そもそもそんな状態の人間を、ステージに立たせることが問題だ。


 自分だったら絶対にやらせない。

 ヒートのリーダーの死に方が、それにかなり近いものであったのだ。

 当時は大きく報道されて、よって音楽業界から去っていったメンバーもいる。

 少なくとも表舞台には、白雪さえも立つことはなくなった。

 ある程度のほとぼりが冷めるまでは。


 ただ現在のノイズを取り巻く環境は、奇跡が起きていると言ってもいい。

 さすがに一度はアメリカに戻ったケイティが、またもスケジュールを調整してきている。

 白雪は俊と徳島の頭にハリセンを叩きつけ続けているが、自分の仕事もちゃっかりとしている。

 そして永劫回帰のスケジューリングなどは、ゴートもこの場所でやっているのだ。

 まるでトキワ荘において、色々な人間がそれぞれ、アシスタントをしながら自分の作品も描いているような。

 もちろん中心となっているのは、ノイズなのであるが。


 イリヤの曲の断片を、曲にしてしまうことには成功したりもした。

 某マンガに対比させるように、エンジェル・ハウリング(英字)などというタイトルにしたりもしたが。

 この英語部分をケイティに歌ってもらうという、とんでもない贅沢な使い方。

 普通ならどれだけの金額が動くのか、想像するだけで怖い。

 おそらくケイティはジム・ウォルシュのように「無料で仕事をするな」と怒られたりしているだろう。

 だが彼女ぐらいの成功者になると、金はもう問題ではないのだ。

 もちろんスタッフのために仕事はしないといけないが、自分のやりたいことであれば、金などは問題にならないのである。


 ゴジラ映画でいくら当てていようが、本人はウルトラマンがしたければ、ウルトラマンのポーズを取ればいい。

 ウルトラマンを元ネタに、歴史を変えるアニメを作ってしまってもいいのだ。

 この数ヶ月のノイズの活動というのは、まだ公に出ていない部分がほとんどだ。

 ただかなりのペースで新曲を発信していて、そのMVを作るのを俊は、さすがに他人に任せている。

 実写でもアニメでもいいと言いながら、アニメでないと難しいことを、散々に注文をつけていたりする。


 ここで起こった全てのことは、果たしてどれぐらい表に出るのか。

 いや、これはいずれ、表に出さないといけないことであろうが。

 昔の緩かった時代と違って、今は著作権や版権が厳しいものだ。

 だが俊のやっていることや徳島のやっていることは、完全にアウトのラインに入り込んでいる。

(どう誤魔化すかな)

 そしてゴートも誤魔化す方向に入っているあたり、もうどうしようもないのかもしれない。


「普通に真っ当な手続きを取りましょう」

 こうゴートに言ったのは、恵美理であった。

 権利関係に詳しいというか、詳しくなってしまった弁護士が義理の姉であるので、それに既に相談してしまったらしい。

「ちゃんと契約を作れば、それに従って処理すればいいだけでしょう」

「いや、その契約をどうすればいいのかが問題であって」

「大丈夫。お義姉さんも、自分のノンフィクション作品の映画化で、色々とややこしい経験はしているから」

「弁護士ではなく?」

「弁護士だけど、ノンフィクション作家でもあるの。ほら、白い軌跡って今の子は知らないかしら」

 今の子扱いされるゴートであるが、確かに若い頃の映画であったか。


 重要なのはおかしな権利関係の問題などで、ここでの作品が表に出なくなったりしないこと。

 そういうことにはもちろん、レコード会社の法務部などは、しっかりと働いてくれるだろう。

 しかし企業の法務部は、当然ながら企業の利益のために働かなければいけない。

 独立した弁護士に契約書を作ってもらう方が、それはいいことになると思うのだ。

「どうでもいいからやっといてください」

 かつての俊からは信じられない言葉が飛び出したが、今の彼は想像と創造の海の中にいる。

 かちっとした決まりごとなど、触れたくもないのだろう。

「うちの親父たちが怒りそうだなあ」

 ゴートは言葉でそう言うが、逆にそれが爽快とでも思っていそうな表情をしていた。

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