第390話 永遠

 音と言葉で殴り合う。

「サリエリ君さああ! これは露骨すぎるでしょおおお!」

 画風の変わった表情で、徳島がいきり立っている。

「な、何が!」

「この曲さあああ! 永遠のアセリアのパクリじゃんかあああ!」

「そんなはずが……!」


 混沌としたスタジオでは、疲れ果て気絶している人間が何人かいる。

 目の下に深い隈を作りながらも、徳島は元気であった。

 そして俊は己の作ったはずの曲を聞き、呆然としていた。

「ほ、本当だ。ほぼパクリだ!」

「いい曲だけど、アニソンか何かのそっくりさんなのかな?」

 千歳はタイトルから想像する。俊は色々とインプットしているので、確かに一部が気付かないうちにそっくりということはあるのだ。

「え~と、なになに、え・い・え・ん・の・あ・せ・り・あ、と」

 千歳は検索したのだが、出てきた情報は眉根を寄せるものだった。

「美少女ゲーの主題歌で、しかもタイトルが主題歌と一緒じゃん。元曲は、と」

 こういう時にYourtubeは便利である。


 一部の熱狂的なファンは、美少女ゲーの主題歌である鳥の詩を「国歌」などと言ったりしている。

 なのでそういうゲームにおいても、たまに何かの拍子で、傑作が生まれることは分かっているのだ。

「あ~、なるほどいい曲だけど、確かにパクリと言われるね」

「そう! だから作るなら、俺はこうする!!!」

 そして徳島が流すのは、元ネタは確かに分かるが、明らかに違うものであった。

 こいつ、わざわざ作ってから、ツッコミをいれやがった。

「ギターソロ短いけどいいねえ」

 暁は気に入ったらしいが、なんともかんとも。

「あたしらが生まれる前の曲かあ」

「それ言ったら90年代だって」

「もうライブカバーで80年代アニソンもしてるしね」

 パクリなのが重要なのであって、年代やジャンルは問題ではないのだ。


 俊は大きなダメージを受けたが、それならばと勢いをつけてしまう。

「ならこれだってリトルグッバイじゃねかああ!」

 月子と花音の二人で合わせた曲は、主に徳島主導で作ったものである。

「それはそれ! これはこれ!」

 ああ、渡辺家の地下が、島本時空に覆われていく。


 どうどう、と二人を引き離す周辺の人間である。

 この二人、混ぜると爆発力は凄いのだが、暴発する確率もひどく高い。

「くそおお! ギター出来る人間たくさんいるから、本気のノイジーガール作るからなああ!」

 え、そんなのあったの、とギターである暁と千歳も知らない情報が開示されていたりする。

 当初の予定よりも、複雑になったのがノイジーガール。

 さらにそれを、千歳のリズムギターで複雑化させた。

 後にはさらにリマスターをしたが、まだあったというのか、進化形が。


「ええと、リトルグッバイ。ゼーガペインの主題歌。ゼーガペイン?」

「名作だから見たらいいよ! 六話から本気だから! 六話から傑作だから!」

 戸惑っている玲に対して、千歳が布教活動を行っている。

 OPもEDもEDじゃねえのか、と言われた作品である。

 そもそもリトルグッバイは月子が、歌ってみたで当初カバーしているのだ。




 なるほど、ここが混沌の大地か。

 戦女神が守護したもう場所であるのかもしれない。

 メンバーは入れ替わることが多いが、ノイズ、旧MNR、フラワーフェスタ、ミステリアス・ピンク、ケイトリー・コートナー、TOKIWA、ゴート、佐藤恵美理といったオールスター状態となっている。

 船頭多くして、という諺もあるのだが。

 一応はゴートがプロデュースとプロモーターの席につき、俊が完全に制作に専念している。

 白雪は助言者の位置を外さない。


「あのさ、せっかくこんだけ歌える女の子がいるんだから、サクラ大戦みたいな曲もやってみたくない!?」

「ぐ! ……やってみたい! やってみたくはあるが……それは趣旨がおかしくなるだろう!」

 徳島の誘惑は、まさに悪魔の囁きであった。

 しかし今の俊は、己の創造性の全てを解放しているだけに、理性の働きが弱くなっているのだ。

「やめなさい」

 ミステリアス・ピンクのキレイな方、ミスティがハリセンを徳島の頭に落とす。

「すみませんねえ、うちのダンナが」

「いえいえ」

 ホリィと暁がそれぞれ、一時的にこの二人を隔離する。


「ここが地獄か」

 二人の強烈な引力に、同じく助言者であったはずのTOKIWAも、かなり魂を引かれていた。

「ここからが本当の地獄だと思うよ」

 淡々とした表情で、容赦のないことを言う白雪。

 ヒートの活動終盤も、こんな感じであったのだ。

 既に地獄を見た女は、もう肝が座っている。


 作詞をしていた千歳に、引き離された徳島は近づく。

「これえええ! フリーレンの影響受けすぎだしいいいい!」

「違うもん! 超人ロックだもん! 1000年以上生きてるからって一緒にすんなあ!」

 なお超人ロックは2022年に、50年以上の連載の果てに、永遠の未完結作品となった。


 それにしてもトップレベルの女性シンガーが多いため、いくらでも難易度の高い曲が作れてしまう。

 英語パートをケイティに歌ってもらい、日本語パートを日本女性陣が歌うという、超絶贅沢すぎる構成の曲も作っていたりする。

 この音楽原盤権をどこが持つかで、音楽業界は戦争が起こるだろう。

 発表さえ出来たらどうでもいい、と考えてしまっている俊はストッパーがもうない。

 商売を度外視してしまえば、徳島と同じようなレベルに達してしまう。

 これが本当の俊の姿なのか、とノイズのメンバーでさえもが思った。


「昔から本当に、集中し始めると他が見えなくなる子だったのよ」

「あ、お義母さん」

 そう俊のことを説明してくれるのは、日本に戻ってきた母であった。

 暁との仲は、あまり近すぎることもないため、それなりによろしい。

 大きくなって抱っこを嫌がる響に代わって、今は和音を抱っこしている。


 俊は天才か、というと本人は否定する。

 天才なら高校生の時点で、もう一気にデビューでもしてそのまま売れっ子に、というぐらいの感覚でいるのだ。

 だが俊の過集中の傾向は、母が矯正したのだ。

 執念はともかく、一般的な社会で生きていくには、かなり問題があると思ったために。

 元々学校の勉強なども良く出来たのは、この異常な集中力によるものだ。

 月子のためということを建前に、俊は自分を制限するものを、全て外してしまっていた。

 さらにそこに、燃料をせっせと足していく徳島がいる。

 燃料の加減を間違えて、既に何度も爆発しているが。


 俊はもう遠慮していない。

「母さん、ボーカル入ってくれない?」

 クラシック畑の人間ではあるが、母は元はポップスを歌わされていたのだ。

 当然ながら今も、歌うことが出来なくはない。

 そして歌唱力自体は、あの時代よりも上がっている。


 ミステリアス・ピンクの二人は相当の練習をして、今ではライブでも出来るほどには上手くなっている。

 また千歳やフラワーフェスタの他のメンバーなど、普通にバンドボーカルが出来るレベルの人間は大量にいる。

 しかしその中で月子を中心に、淡く溶けてしまうような白雪の声、色が見えるような華やかな花音の声、まさに遠くまで響いていくケイティの声など、ボーカル陣が自信を叩き折られる声が響いている。

 ケイティだけに英語パートを任せると、ちょっと単調になってしまう。

 なので英語でも歌える母に、そこを任せるというわけだ。

 花音も英語で歌えるのだが、彼女には日本語パートを歌ってもらう必要がある。

 まさに使えるものは親でも使う、俊のエゴが全開になっていた。




 今この場には、強烈なエゴの持ち主が大量にいる。

 しかしそのエゴを一番強く押し通そうとしているのは、やはり俊であった。

 命がけで作品を作っている。

 寿命を削ってでも、これを作らないといけないのだ。

 それこそがまさに、自分が生まれてきた理由である。

 月子を永遠に残すために、自分がすべきことはなんでもする。


 手段を周到に選んできた人間が、手段を選ばずに作品を作るとどうなるか。

 それはもう色々と様々な意味で、酷すぎることが起こる。

 だが人の命がかかっているのだから、自分の社会生命ぐらいはかけてもいいだろう、と俊が開き直ってしまっている。

 そしてそれをバックアップする能力のある人間が、本気でバックアップしているのだ。


 とんでもない熱量があるのは間違いなかった。

 ちゃんと制御された熱量であった。

 誰かが来たら、とにかく何かをさせてしまえ。

 それはもう現代の音楽制作現場とは、絶対に一線を画しているもの。

 しかしちゃんと楽曲は出来上がっているのだ。


 後にノイズ傑作群と呼ばれる楽曲の多くが、ここでどんどんと作られていた。

 CDで言うならば四枚組にするような、とんでもない分量の楽曲が作られている。

 そしてそれをレコーディングしていくのだが、完成した順番にレコーディングされるのではない。

 レコーディングの演奏や歌唱が出来る人間がいれば、その順番にやっていくのだ。

 なんだかんだ言いながら、レコーディングのエンジニア技術を持っているのは、俊とTOKIWAぐらいである。

 スケジュールを埋められているはずの男が、さっさと作品を作ってしまって、さらに無料で手伝っていく。

 そんなブラックどころではない、ブラックホールな空間が、ここに出現していた。


「エンジニアぐらい、他の誰かに頼めばいいのに」

「駄目だ。それは駄目だ。ただでさえバレたらやばいのに、危険度を上げるわけにはいかない」

 千歳がのん気に言うが、軽薄なゴートがそれを止める。

 今のこの家でなされていることは、後の音楽業界にえらい影響を残すのだが、それはかなり秘密が守られて行われていた。

 既に充分知っている人間は多いはずだが、本当に拡散してしまったら、潰すための力が働いただろう。

 

 業界的に許されない、とかそういうことではない。

 ギャラの発生していない仕事を、勝手にやってしまっているのがまずいのだ。

 それに俊も別に、意見をガンガンと戦わせてはいるが、曲をそのまま作ってもらっているわけではない。

 ものすごく微妙な著作権のバランス。

 そして花音が持ち出したのは、イリヤの遺作と言うよりは、断片的なフレーズばかりであった。


 なんだか組み立てる前のパズルと言うか、完成形を考えずに生み出した才能の断片。

 これはもうどうにもならないだろうから、作れるならば使ってしまえ、と花音は投げ捨てていったのだ。

「これからDevil's Wayを作れっていのうかよ!」

 俊もひとしきり切れた後、使えそうな部分を本当に選んでいった。

 なお俊が選ばなかったものを、徳島はさらに漁っていく。

 なんだかんだ言いながら、音楽に対する貪欲さは、この二人はトップレベルなのだろう。




 起床した時には、特に何も異常はない。

 だが少し体をひねり、起き上がろうとすると、背中から胸にかけて痛みが走る。

 10分ほどもかけて少しずつ動いていくと、どうにか起き上がることが出来る。

 そして一度起き上がってしまえば、これまたどうにか動くことが出来るようになるのだ。


 病院に行って、投薬してもらう。

 状態はあまりよくないが、目立って進行が早くなってもいない。

 医師は不思議そうにするが、そういうこともあるらしい。

「入院はしないんですね」

「はい。もうこのままで」

 そうは言っても本当のぎりぎりになれば、どうなるかは分からないが。


 体の中のどこかが痛いのだが、どこかがはっきりとしない。

 ただ普通に歩くことは出来るが、もう走ることは難しい。

 変に腰を曲げるだけで、痛みが走るのだ。

 下手をすると腕を伸ばしただけで、背骨に痛みが走る。


 だが歌える。

 ステージに立つことはもう無理だが、まだマイクの前に立って歌うことは出来る。

 三味線を弾くことは、かなり難しくなってきた。

 それを自然と分かっているのか、俊の楽曲にそういうタイプは出てこなくなっている。


 病院には春菜が付き添っている。

 彼女とももう、それなりに長い付き合いになってきた。

 ノイズのメンバーとは違うが、彼女もまた月子が世界に対して歌うため、必要な味方の一人。

「本当に体調は大丈夫なの?」

「今は不思議と、動けることは動けるから」

 自分がただ、歌うためだけの存在になっているような。

 月子は残された時間を考えるが、おそらく全てを出し尽くすまでは、体が病の進行を止めているのでは、とも思う。


 花音が言っていた、歌で病気を癒すということ。

 それはさすがに大げさとしても、人の精神は肉体を凌駕することはある。

 詳しくは知らないが、白雪も今の月子を見て、懐かしそうな顔をする。

 彼女もまた月子にとっては、ちゃんと見分けがつく人間の一人である。


 自宅ではないが、既に自宅のように感じる、もう随分と長く住んでいるこの家。

 今日も地下では盛大に、混沌の中から熱量が生まれているのだろう。

 月子は背筋を伸ばせば、痛みもしっかりと消えてくれる。

 強く歌う分には、全く問題がない。

 肺に転移がないのが、幸いであったろう。

 歌えなくなった時、おそらく月子は死んでしまう。


 今日もまた、新しい曲が出来ていた。

 やつれた俊の容貌であるが、そこから紡がれる音楽は美しい。

 彼もまた自分と同じように、寿命を燃やしているように感じる。

 だが月子が感じるのは、生命の減少ではない。

 おそらく俊は、自分の才能を燃やし尽くしているのだ。

 月子のためであり、そして自分自身のためでもある。

 このノイズというバンドのために、己の才能を使い尽くす。

 だがノイズというのは、果たしてどこまでを含めればいいのだろうか。


 今日もレコーディングが始まる。

 月子に合わせて様々な、シンガーたちが歌ってくる。

 特に一緒に歌って相性がいいのは、白雪と花音だ。

 ケイティの声は俊のイメージとは、ちょっと違うものであるらしい。


 作った曲のために、それぞれ違うボーカルにコーラスしてもらう。

 贅沢すぎるこの状況が、果たしていつまで続くのか。

 半年生き残れば、意外ともっと長く生きられるかも、と医師は言っていた。

 その頃には月子は、28歳になっている。

 27歳で天才は死ぬ、というジンクス。

 花音の母であるイリヤも、それによって死んでいる。

 彼女の場合は一番過激な、暗殺という手段であった。

 犯人が直後に殺されているため、その詳細な理由はもう、永遠に秘密になっている。




 この日は新たな来客があった。

 月子は以前、彼女と俊が険悪な様子で話していたのを憶えている。

 もっともだいぶん昔のことなので、今は関係を改善したのか。

 彩が連れて来たのは、まだ中学生ぐらいの少女であろうか。

「私が面倒を見ているというか、鍛えているというか」

「風間楓です」

 ギャルではないのだろうが、かなり日焼けした少女である。

 少し訛りがあるので、南国の出身なのだろうか。


 とりあえず歌ってもらおう、という話になった。

 そしてなるほど、と俊も月子も頷く。

(わたしを初めて見たとき、俊さんはこうだったのかな)

 素材であるが、とびきりのものだ。

 月子の声や花音の声もそうだが、彼女の声はとびきり遠くにまで響きそうだ。

 おそらくは野外型のステージで、映える存在であろう。


 沖縄で育ち、ずっと外で歌っていたという。

 そのあたりは少し、千歳にも似ているかもしれない。

 声を遠くに届かせるという点では、不思議な力を感じる。

 これは教えてもらってどうにかなる、というものでもないだろう。


 ただ今から彼女を、鍛えているような時間はない。

 なので素材をそのまま、活かすことになるだろう。

「それにしても、揃ったねえ」

「何がだ?」

 千歳は頷いているが、俊としてはよく分からない。

「惜しくも名前じゃなくて名字だけど、風」

 それから花音の方を見る。

「花。今はいないけど白雪さんで雪」

 そして月子である。

「風花雪月!」

「しょーもない一致をわざわざ宣言しなくても」

 だが後に楓は、風楓と書いてふうかと読む名前でデビューすることになる。


 どうでもいい偶然の一致だ。

 そういうことを言うならば、千歳の名前などにも、色々な意味があるであろう。

 思えば俊は俊敏などという、短い単位の言葉となる。

 それに対して千歳は、トワとも名乗っている通り、永遠の存在を意識する。

 両親を失った彼女にとっては、永遠の存在がほしかったのかもしれない。

 もっとも彼女の居場所のノイズは、もうすぐ失われようとしているが。




 年齢はけっこうバラバラであるが、見た目はどうであるのか。

 アラフォーともうずっと言われている白雪は、見た目だけは全く変わっていない。

 花音は普通に大人びてきているし、月子も外見だけなら昔から、それなりに大人びたところはあった。

 そこに中学生の参加である。

 白雪を見て、同じぐらいの年頃の人がいる、と勘違いして周囲を慌てさせたりもしたものだ。

 普通に勘違いされることであるが、白雪は中学生ぐらいに見られることを嫌う。

 若く見られるのではなく、幼く見られているということだからだ。

 老けて見られるよりはいいであろうに。


 また違うタイプのシンガーが出てきて、俊の灰色の脳細胞は活性化する。

 そして作った曲を使って、徳島と殴りあうのだ。

 その末に疲れ果てて、両者ダブルノックダウン。

 白雪が適当にアレンジをまとめて、これでいいかと完成させる。


 エンジニアの能力は、基本的に俊と徳島のものだ。

 もっとも徳島は、かなりクセのある技術者であるが。

 ゴートや白雪も、全く知識がないわけではない。

 しかしずっとノイズの音源を作ってきた、俊にかなうはずもない。

 こういったものはセンスもあるが、それよりは経験の蓄積が大きい。

 まさに技術者の仕事であるからだ。


 そうやってまた新しく楽曲を作っていく。

 少し休んでいる月子は、シンセサイザーとPCを操作する俊を見ながら、自分の体の中の熱を探す。

 この熱が、冷たい澱を止めてくれている。

 生み出す熱量が続く限りは、自分は歌う存在でいられる気がする。

 もちろんそれは勘違いで、実際には時間は限られている。


 千歳が隣りに座っていた。

「なんだか学園祭の前みたい」

「そうなの?」

 月子は普通の学園祭など、経験したことがない。

 千歳が大学でやっていたのは、大規模なものであった。

 音大であるので、かなりの規模があったものだ。


 ずっと続いてほしいな、とこの修羅場を見ながらも千歳は思う。

 目の前で失われてしまった、両親の命。

 間もなく失われると言われている月子は、隣りで呼吸をしている。

 だが、全てのものは、限りがあるからこそ美しいのではないか。

 夜を照らす月でさえも、わずかずつ地球から遠ざかっているという。

 もちろんそれが消える前に、人類は絶滅するのだろう。

 この地球を離れて、他の星に移住するというような、そんなSFが必要なのだと、千歳が言っていたものだ。

(まだ、ここにいたいけど、あとどれだけ……)

 最後の力で、自分の命を紡ぎだす。

 そんな幸運に恵まれる人間など、世界にはほとんどいないだろう。

 自分は幸福なのだな、と月子ははっきりと感じていた。

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