第337話 残暑の終りに

 夏の名残と言うよりは、完全に残暑の暑さが酷暑のままの九月である。

 上旬も過ぎて中旬に入るあたり、当然のように俊は作曲を始める。

 依頼のあった、劇場版アニメの主題歌とサウンドトラック。

 主題歌はともかく曲だけであると、作曲者の力量がはっきりと分かる。

「今の君なら出来るでしょ」

 そう言ったのは三部作の二作目を任されている、MNRの白雪であった。


 原作のイメージに従って、曲を制作して行く。

 それは確かに俊の得意なことである。

 主題歌と劇中歌を二つと言われたが、一つはものすごく壮大なもの。

 そしてもう一つは草原を旅するような穏やかなもの。

 イメージとしてはそんな、漠然としたものである。

 だがそういったイメージから、曲を生み出すのがプロであるのだ。


「こんな感じかな」

 ギターはあまりコードを使わず、ボーカル二人と共鳴するように、メロディを奏でる。

 暁の音に奥行きが出てきた。

「また上手くなったな」

 ギターも弾く信吾からすると、成長する20歳の若さというのは、前を走っていると嫉妬しそうになる。

「でも三味線なんか使っていいの?」

「駄目なら却下されるだけだしな」

 俊はBGMに関して、かなり独特な楽曲も作っている。


 こういうのは本当は、徳島などが好きなはずなのだ。

 ただ彼は自分の嗜好と、能力に関してがいまいち一致していない。

 自分の作りたい曲、相手が求める曲、それが分かっていながらも、一番いい曲を無関係に作ってしまう。

 そういう意味では俊は、とても無難な職人だ。

 天才はいつか、その鮮烈な輝きが、失われてしまうこともあるだろう。

 だが職人の技術というのは、精進する限り失われることがない。


 今、この世界に残っている創作物。

 別に音楽に限らず、絵画や建築、彫刻に茶碗などといったもの。

 全ての物が天才の作ったものではないはずだ。

 名前の残らない、職人が作った物が、時代を超えて最高の価値と認められる。

 俊は自分の名前が残るより、曲が残った方がいいと考える。

 そこを間違えない限り、この世界で生き残ってはいけるのだろう。




 作曲はともかく、もう一つ考えなくてはいけないこともある。

 来年のアメリカツアーの話である。

 二月から三月にかけて、アメリカのツアーを行う。

 動員規模は意外と少なく、せいぜい5000人規模のハコを準備して行くといったものだ。

 しかし5000人が少ないと言えるのは、ノイズもよくもここまで来たものだ。

(商業的な成功は、もう頂点が近いな)

 俊ははっきりとそれを感じている。

 だがここから、歴史に残るにはどうすればいいのか。


 子供の頃の夢が、現実に近づいてきていた。

 一度はそんなことは不可能だと、現実的に考えるようになったのに。

 そう、自分だけでは不可能だったのだ。

 月子に出会い、暁が加わり、そして多くの吸収があった。


 自分一人では不可能だから、人間は力を合わせる。

 シンガーソングライターにしても、本当にアレンジまで全て、自分でやってしまう人間は少ない。

 作曲に関しては、その三割ほどは他のメンバーも絡んでいる。

 アレンジまで含めたら、俊のやっていることは五割程度か。

 もちろん作る曲にもよるし、アレンジに電子音などを使うなら、一気に度合いが変わってくる。


「あのさ、この主題歌の方って、幽玄なラブソングにした方がよくない? ラブソングっていうのも違うかもしれないけど」

「あ、なるほど」

 難航していた主題歌の方に、暁の意見が出て来た。

 これまでならばむしろ、激しいロックが彼女の持ち味であったのだが。

 奥行きと、深みを増している。

(やっぱり才能なんだろうな)

 栄二はそう思いながらも、ドラムパターンを増やしていく。

 その中には人間では叩けない、あるいはツインドラムの音もあったりする。


 他者の才能を認めると、自分の立ち位置が分かってくる。

 そしてそこから、どう進めばいいのかも分かってくる。

 凡人にも凡人なりの、積み重ねたものがある。

 それによって音楽は、芸術へと昇華されるのだ。

「哀しいラブソングになるな」

「この作品って、元々そういうものじゃん」

「まあコメディ要素は強いけど、最初からそういうテーマだったしな」

 メンバーの中では、作品を一番理解しているのは千歳だろうか。

 しかしそれを言語化するのは、やはり俊が一番であるのだ。




 失ってきたものが多い人間こそ、この物語の美しさが分かる。

 人は誰もが、永遠の旅人。

 ノイズのこのベースにしても、今の拠点であるにすぎない。

 トキワ荘からでも、創作者たちは旅立っていった。

 どんなサロンであっても、いつかはなくなってしまうものだ。


 場所というのは重要ではないのかもしれない。

 ただそれに付随した記憶だけが、その人にとっては永遠のものとなる。

 他の誰かが全て忘れても、死に行く者には関係ない。

 何を残したか、が年を取るにつれて気になるらしい。

 ほとんどの人間は、そこで一度は自我の危機を迎えるのだとか。


 俊はノイズを生み出す前から、一応は曲を作っていた。

 ただし普通の曲よりは、ネタ曲での反響が大きかった。

 不本意であるし、一生あれが自分の曲だと、名乗り出ることはなかっただろう。

 ノイズが成立して、武道館でやったあたりで、ようやく本当の勝ち筋が見えてきただろうか。

 今は昔よりも、ずっとはっきりと見えてきている。

 しかしその道が、思ったよりもずっと細いのも、なんとなく分かっている。


 周囲が騒がしくなっている。

 元々隠すことと明らかにすることがはっきりしているだけに、俊はマスコミへの対応がしやすい。

 もっともあまり、隠し事のない俊には、マスコミも張り付いてこないが。

 暁のマンションに行く用事も終わったし、そもそもあそこはセキュリティがしっかりしている。

 他に攻めてくるとしたら、信吾の女性関係か。


 これに関しては俊は、特に何も言えない。

 もちろん本当なら、穏便に別れるというのが一番いいのだろう。

 ここまで信吾を支えてきた三人を、切るというのは難しいだろうが。

 そもそも信吾はノイズに入ってから、女を増やしてはいない。

 昔はどうだったという話なら、俊にだって付き合いはあったのだ。

 もっとも二股以上はかけていなかったが。

 彼女がいる状況で向こうから粉をかけられても、無視していたという程度ならばある。


 他には月子が居候している件を、スキャンダルにしてしまうことか。

 だがそれは信吾も一緒にいるし、他にも同居人はいる。

 佳代も少しは仕事が入ってきて、経済的な余裕が出来てきたらしい。

 ただそれでも彼女の収入で、一番大きい割合を占めているのは、ノイズの商品のデザインをした部分の意匠権である。

 丸々は買い取っていないので、彼女には定期収入となっている。


 来年一年の動きで、未来が大きく分岐するような気がする。

 その来年の準備を、この時期にしていかなければいけない。

 夏場にはまた、全国ツアーを行うことになるだろう。

 ただその規模は前回よりも、ずっと大きなものになる。

「あづ~」

 空調の利いたスタジオに、そう言って暁が入ってくる。

「お土産~。残暑が厳しいよね~」

「九月も下旬なのに、まだ夏だからな」

 猛暑日が続いている。


 ちょっとお高いアイスを、味わって食べる。

「今年も暑いよね」

「残暑がな。八月の間は気合で乗り切れるんだが」

 俊と暁は、すぐに約束の分を終わらせてから、普通の距離を保っている。

 約束の間も、ずっと第三者のいるところでの距離は変わらなかった。




 肌を合わせ、体を重ねる。

 約束の分が終わってから、二人はもうそれについて話さないようにした。 

 実のところはもっとしてみたいとは、お互いに思っていた。

 だが口にすることはなく、記憶の中で反芻する。

(聞いてたよりすごく気持ちよかったなあ)

 暁は俊が上手かったのだ、と思っている。

(めちゃくちゃ気持ちよかったな)

 俊は他と比較して、ものすごく相性が良かったのが分かっている。


 そのままだらだらと、関係を続けるという選択もあったのかもしれない。

 だがきっぱりとやめたのは、お互いにきりがついたところだ。

 新しい関係から新たなものが、生まれるきっかけにはなったのかもしれない。

 しかし一時的なものにして、元のものに戻すと決めていたのだ。

 まだここからノイズとしての活動が続いていく。

 そこに性欲を持ち込みたくはない。


 俊はやがて、相応しい女性を選んで結婚するのだろう。

 暁としてはもう、そこは割り切ることが出来た。

 他の女がいたとしても、俊と音楽でつながっているのは、自分や月子に千歳である。

 そして俊は妻よりも、メンバーの方を大切にするだろう。そういう男だ。

 逆に俊としては、暁が他の男といずれくっつくのか、と思うと悩ましいものがある。

 しかし暁が選ぶならば、それはいい男なのだろうな、と諦めることにした。


 いや、もう付き合っちゃえよ。

 二人の関係を知っている者がいれば、そう言ったかもしれない。

 だが発端は事故のようなものであり、お互いに納得の末に決めたことだ。

 男女の関係を無理に、結婚に結び付けなくてもいいだろう。

 そういった関係でなくても、二人には共通したものがあるのだから。


 今日もまた、曲を作りながら、スケジュールを考える。

 来年のことはおおよそ決まっているが、さらにその先のこともあるだろう。

 ただ今年の予定が、むしろ決まっていない。

 年末にフェスに参加するのは、確定している。

 そして10月以内には、俊の作曲作業も終わるはずだ。


 フェスまでに幾つか、ライブはしておきたい。

「夏の疲れも取れてきたしね」

 千歳がそう言うのは、八月の末のフェスから少し、また暁の演奏が乱れていたからだ。

 ただあれは、体のあちこちの筋肉を、下手に使いすぎた筋肉痛によるものである。

 また確かに夏バテ気味で九月は過ごしたが、たっぷりと休養はした。


 暁に限らず、今年の夏はノイズの全員が、疲れたことは確かなのだ。

 だからこそ一ヶ月ほど、かなり長い休養としたわけで。

 アメリカのフェスに参加して、そこから日本のフェスでも演奏した。

 だが来年になればさらに、海外遠征は増えるかもしれない。

「もっと体力つけないとね」

 女性陣の他の二人に比べると、月子は体力が豊富な方である。

 それはアイドル時代にやっていた、新聞配達やダンスといったもので、体を鍛えていたからだ。




 ライブパフォーマンスの凄いバンドが、男性グループであることが多い理由。

 それは一つには、純粋な体力もあるのだろう。

 もっとも暁の場合は、体力ではなく気力でギターを弾くところがある。

 しかしそういった気力というのも、体力の裏づけがあってこそとも言える。

 夏場のパフォーマンスなどは、確かに体力は必要だ。


 今年中にはまた何度か、そこそこ大きなハコで演奏をしよう。

 おおまかにそういった予定は組んでいる。

 実際にどこでやるかは、やはり関東圏ということになるか。

 あるいは関西に行ってもいいかな、と思っている。

 ツアーというほどではなく、関西公演に小旅行、といった感じのものにするのだ。


 俊としては新たなインプットに、もっと異なった創作物を入れていきたい。

 そのためには関西に行って、京都を巡ってみたいとも思うのだ。

 月子にしても久しぶりに、じっくりと叔母に会う機会でもあるだろう。

 阿部と相談してみたら、会場が取れるかどうか、という話になってくる。

「あとは賞レースもあるんだけど」

「うちは賞レースに興味もないし、そもそも取れないでしょ」

 阿部が言ってきたが、おそらくノミネートぐらいまでになる。

 レコード会社やテレビ局との力関係で決まるので、俊にとってはどうでもいいものだ。

 ただ主要部門でなければ、確かに何かがノミネートぐらいはされてもおかしくないのだ。

 主要部門であっても、ノミネートまでならされてもおかしくない。


 ただ選ばれたとしても、むしろ恥ずかしい。

 俊はそんな考えをしているし、暁などもロックではないと考えていたりする。

「う~ん、まだ先のことなんだけど、グラミー賞にならノミネートされそうなんだけど」 

 さすがに俊以外も驚いた。

「グラミー賞ってアメリカの?」

 千歳が改めて確認し、阿部も少し怖い顔で頷いた。


 グラミー賞とはアメリカの、最も音楽に対して権威のある賞である。

 ただ部門はかなり細分化されていて、ポップスだけではなくクラシックや、インストゥルメンタル音楽の部門もある。

「あ、そうか。そういうことか」

 俊が気づいたのは、グラミー賞が受賞されるタイミングだ。

 日本の賞レースに比べれば、ずっと納得のいくミュージシャンが選ばれる。

 しかしそれでも、そこに大きな力関係が、影響しないわけではない。


 グラミー賞の発表は二月だ。

 ノイズのアメリカツアーの時期と、一致している。

 受賞にまでは至らなくても、ノミネートだけでチケットを売るのに追い風にはなるであろう。

「出来レース?」

「そこまではひどくないと思うが、まあノミネートまではされてもおかしくないな」

 主要部門でないのならば、あるいは主要部門でも受賞しないのならば、おかしな話ではない。


 話題性というのもこういった賞レースには必要だ。

 ノイズにはその点で追い風が吹いている。

「さすがに受賞は無理だと思うが、すると国内の賞レースにも影響してくるな」

「どうして?」

「日本で受賞していないアーティストや曲が、アメリカで万一にも受賞したとしたらどう思う?」

「日本の選定するやつ聴く耳ないな、ってなるかあ」

 千歳の受け取り方は正しい。


 事務所の力関係や、テレビ局とのつながりによって、日本の賞レースは左右される。

 ノイズはこれまで、そういったものには完全に無縁であった。

 なんでノミネートすらされないのと言われたこともあるが、実は果てしなき流れの果てには受賞している。

 もっともあれは、白雪の曲であるが。

 MNRはしっかりと業界内でのテレビ局とのつながりも作っている。

 そして実際に売れているのだから、今回の白雪の休養は、ちょっと痛いものであるのだ。




 アメリカで評価されたからこそ、日本でも評価せざるをえない。

 あるいは再評価されるというのは、昔からよくあったことである。

 ジャンルは違うが、浮世絵が西洋に与えた影響は大きい。

 しかしあれは今の日本で言うなら、マンガのようなものであったのだ。

 いわゆる庶民の娯楽文化である。


 他にはどこかの国のグループは、アメリカのヒットチャートを操作して、偽りの世界的人気を作ろうとした。

 このアメリカでも認められた、というのは大きな看板になるわけだ。

「まあ実際に受賞するのは無理だろうな」

「どうして?」

「俺たちがアジア人だからだ」

 まったく容赦のない、俊の受け止め方である。


 今の時点でも、黒人に対する差別的傾向は明らかだ。

 またラップ系が主要部門を得ることも少ない。

 既に大きな人気を得ていて、ノミネートを拒否するアーティストも多い。

 グラミー賞はそもそもノミネートされるために、作品を提出する必要がある。

 それをしないアーティストが、はっきりといるわけだ。

 そしてそれは黒人が多い。


 過去に日本人が、グラミー賞を取っていないわけではない。

 しかしそれは主要四部門ではないのだ。

 それでも充分に、話題になることは確か。

 また部門の分け方も、年によって変わっている。

「提出自体はしてるんですか?」

「霹靂の刻の時から、やってることはやってるわよ」

「聞いてない……」 

 だがまあ俊に相談しても、やるだけやってみたらいいんじゃないか、という程度の答えが返ってきたであろう。


 ワールドミュージックという括りで、日本の音楽を評価できないものか。

 しかし日本の音楽は、基本的に欧米との親和性が高い。

 独自性というのが、そう極端には感じられないのだ。

「まあノミネートされればそれだけで、充分と考えておこうか」

 俊としては冷静に、そして現実的に状況を考えていた。




「俊さん、ちょっとだけ時間いいかな」

 暁に呼ばれて、俊は考え込むのを中断する。

 作曲ではなく、これからの展開を考えていたため、問題もなく外に出る。

 二人は家を出て、多摩川沿いの道にまで出て来た。

「陽が没すると、少しは涼しい季節になってきたな」

「そうだね」

 九月の休養期間も、ほぼ終りといったところ。

 賞レースのことなどもあって、色々と考えることはある。


 ツアーのためには受賞まで行かなくても、ノミネートぐらいは許容範囲だろう。

 俊はその程度には考えているし、主要部門でないならプロモーターも、少しは票を動かしてくるはずだ。

 アジア人としては、という枕詞がついてもいい。

 話題性からのノミネートであっても、充分に新たな話題性にはなる。

「俊さん、ごめん、あたし妊娠した」

「そうか……え?」

 思わず聞き返した俊である。

「うん、ごめん、妊娠しちゃった。俊さんの子供」

「え、なんで? 避妊に失敗した? え? そんなのすぐに分かるんだっけ?」

 俊は混乱している。

 ひょっとしたら生まれてきた中で、一番衝撃的なことであったかもしれない。


 暁は少し頬を赤らめながら、言葉を続ける。

「それで、認知だけでも、してもらってほしいんだけど、無理かな?」

「え、いやいやいや、確かなのか? どうしてなんだ?」

「うん、生理遅れてるなと思ってこないだお医者さん行ったら、妊娠してた。あの最初の日、あたしは完全に安全日だと思ってたんだけど、普通に危険日だったんだって」

「…………………………………………」

「ごめん、アフターピル飲まなかったから、後にどんだけ気をつけてても、意味がなかった」

「…………………………………………」

「あたしとしては産むつもりだから、出来れば認知だけでもしてほしいんだけど、難しいのも分かるし。

「…………………………………………」

「これから俊さんも結婚とか考えるだろうし、バンド内のことも考えたら、このままの関係でもいいよ。ただスケジュールを考えなおしたり、色々と大変になるのは本当に悪いけど」

「…………………………………………暁が謝ることじゃないだろ」

「でも、すぐにお医者さんに行ってたら、問題なかったはずだし」

 それはそうなのだ。


 女性の中でも危険日と安全日に、かなり間違った知識を持っている者は多い。

 生理周期が安定している人間であっても、生活リズムで狂ってしまうことはある。

 今年の夏など、アメリカのフェスから日本のフェスへと、バイオリズムを狂わせる要素はたくさんあった。

 なので安全日などないし、アフターピルでも完全に効果があるわけではない。

 また普通に避妊具を使っても、10%以上は失敗していたりする。


 俊は堤防の斜面に座り込んだ。

 さすがに即座に、返答できるようなものではない。

「大前提として、堕胎はしないんだな?」

「うん、普通に生きててあたしが、誰かと子供作るのって、可能性低いと思うし。なら出来ちゃったからには産んでおこうかなって」

 軽い。


 軽く聞こえるが、それでも暁はちゃんと考えたことであるのだろう。

 俊としてもそのぐらいには、暁を理解出来ている。

「子供、ほしかったのか」

「まあ普通程度には」

「そうか……」

 俊は考える。

 自分と、暁と、ノイズにとってどんな選択が、一番望ましいものになるのか。

「悪いが即答は出来ない」

「うん、ただあたしの考えだけは知っておいて」

 暁は責任を、俊に負わせようとはしない。

 俊に全くないわけではないが、明らかに自分の方に、この結果の責任はあると思っているからだ。

「涼しくなってきたね……」

 暁の言葉に、川からの風がわずかに応えているようであった。

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