第12話
シャワーを浴びて着替えを済ませ、手の治療を終えたライラはミハエルの部屋に呼ばれていた。
「怪我の具合は?」
「大丈夫です。かすり傷みたいなもんですから。それよりソニア嬢の容態は?」
「安心してくれ。一命は取り留めた」
「それは良かったです」
「君の応急処置が完璧だったというお陰もあるが、そもそも盛られた毒の量が致命的なものではなかったらしい」
「そうだったんですね」
「だが毒による致命的な量なんて人それぞれな訳だし、人によっては致命的な量でなくともショック死してしまう場合だってあるかも知れないんだから、やはりソニア嬢が助かったのは君の応急処置によるところが大きいと思っている。だから改めて礼を言う。本当にありがとう」
そう言ってミハエルは軽く頭を下げた。
「どういたしまして。ちなみにどんな種類の毒だったんですか?」
「それも君の予想通り、塩素系の化合物だと言うことだ。恐らくだが農薬かあるいは洗剤かなにかだろうということだった」
「なるほど。比較的手に入りやすい毒物なのかも知れませんね」
「そのようだな」
「良く分かりました。ありがとうございます。ところで、教えて頂いてなんですが、殿下はなぜ私をご自分の部屋にお呼びになったんですか? 他の候補者達同様、部屋で大人しくしてなくても良いんですか?」
「君の意見を聞いてみたくてね」
「私の?」
ライラは首を傾げた。
「ズバリ、犯人は誰だと思う?」
「直球ですね...」
「回りくどいのは嫌いでね」
「私、探偵でもなんでもないんですが...」
ライラは困惑した。
「推理小説は書いたことないのかい?」
「ありません。推理小説は読んで楽しむもんですよ。自分で書いてみたいとは思いませんもん」
「そりゃ残念。だが新しいジャンルに挑戦してみる気はないかい? 今なら格好の題材が目の前にあると思うが?」
グイグイ迫って来るミハエルに、ライラは肩を竦めるしかなかった。
「勘弁して下さいよ。自分が巻き込まれた事件を小説になんかしたくありませんて...」
「ここには宮廷物語絵巻物の取材に来たとか言ってなかったか?」
「確かに言いましたけど、それとこれとは話が別ですよ。そもそも私は野次馬のつもりでここに来たんですから。こんなガッツリと巻き込まれるなんて思ってませんもん。それにさっきも言いましたけど私、推理するのはあんまり得意じゃないんですよ。だからこれまで推理小説には手を出していなかったんです」
「まぁそう言わずに。僕としては他の候補者達と一緒に過ごしていた君の意見を聞かせて欲しいんだ」
ミハエルは一歩も引かなかった。ライラは思わずため息を吐いた。
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