第11話
「殿下! 急いで医者を!」
ライラは応急処置の手を止めず叫んだ。
「もう呼んである! すぐに来るはずだ! ソニア嬢の容態は!?」
「良くありません! 意識はあるようですが、体の痙攣が止まりません!」
ライラは顔を歪めながら答えた。ソニアの口の中に突っ込んだ手が、痙攣する度に歯で噛まれる。だが手を離す訳にはいかない。痙攣を続けるソニアが自分の舌を噛んでしまう恐れがあるからだ。
ライラが痛みを堪えながら耐えていると、
「遅くなりました!」
白衣を纏った医者が駆け付けて来た。
「手袋をして! 口の中に手を入れる必要があるから!」
「分かりました!」
ライラが医者にバトンタッチする。
「吐瀉物の匂いからして塩素系の毒物を飲まされた可能性が高いわ! 応急処置としてミルクを飲ませて中和させ、毒物を吐き出させたけど、全て吐き出したかどうかは分からないわ!」
「素晴らしい! 応急処置としては完璧です! 後はお任せ下さい! おい! 担架急げ!」
医者が看護士に指示してソニアを担架に乗せ、処置室へと運んで行った。そこでようやくライラは手の痛みを思い出した。
「ライラ嬢! 手から血が!」
気付いたミハエルが慌てて叫ぶ。
「えぇ、ソニア嬢に散々噛まれましたからね。でも大したことありませんよ。ご心配なく」
「そ、そうか...」
「それより殿下、こんな状況じゃとてもじゃないけどお茶会どころじゃないでしょうから、この辺りでお開きってことでいいですよね?」
ライラは周りを見渡してそう提言した。参加者全員がショックのためか青白い顔をして固まってしまっている。特にお茶会の主催者であるドロシーの顔色は、青を通り越して真っ白になってしまっていた。
「私も手を洗いたいし治療もしたいし、シャワー浴びて着替えもしたいんで失礼させて貰いますよ?」
ライラは手の傷のみならず、体中がソニアの吐瀉物塗れになってしまっていたのだ。
「あ、あぁ、そうだな...みんな、お茶会はお開きにしよう。一旦自室に戻ってくれ。ただし、こちらから指示があるまでは部屋から出ないように」
ミハエルは全員を見回してそう告げた。要は事態の詳細がハッキリするまで軟禁されるということだ。
参加者達は一人一人ノロノロと立ち上がり、無言でその場を後にした。彼女達を見送ったミハエルは、改めてライラに向き直り感謝の意を伝えた。
「ライラ嬢、ありがとう。良くやってくれた」
「どういたしまして。お役に立てたようでなによりです」
「ちなみにあのような知識をどこで?」
「小説を書く上で調べたことがあったんですよ。冒険活劇を書いてて良かったです」
そう言ってライラはニッコリと微笑んだ。
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