第6話 終戦記念式典にて
西暦2030年9月2日 アメリカ合衆国ニューヨーク
第二次世界大戦終結85周年記念式典が行われているニューヨークは、沖合に浮かぶ大艦隊でごった返していた。
此度の式典では、連合国・枢軸国の区別なく、世界各国より艦艇が派遣され、このニューヨークの地にて戦没者慰霊のための式典が執り行われる事となっていた。
「にしても、矢張りデカいな…」
アメリカ海軍航空母艦「ジェラルド・R・フォード」の艦橋にて、艦長は呟く。アメリカ最大の軍艦たる本艦の隣には、ロシア海軍がロシア革命以来始めて完成させた戦艦たる「スヴォドーナヤ・ロシア」の姿があり、白地に青い聖アンドレイ十字が描かれた軍艦旗をはためかせていた。
今回、ソビエト連邦の後継たるロシア海軍は、終戦記念式典に対して主力艦を派遣し、式典に参加させようと目論んでいたのだが、その際多数の問題が発生していた。
先ず、海軍唯一の空母である「アドミラル・グズネツォフ」は、近代化改修が一向に進んでおらず、太平洋艦隊や北方艦隊向けに建造を進めている重航空巡洋艦は未だに船渠より出ることが叶わない。ミサイル巡洋艦に関しても、キーロフ級ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」と「ピョートル・ヴェリキー」は整備に時間が掛かり、造船所を離れる事が出来ないでいた。
そこでは白羽の矢が立ったのが「スヴォドーナヤ・ロシア」であった。バルト海艦隊司令官を乗せた「スヴォドーナヤ・ロシア」は、フリゲート艦2隻と補給艦1隻を随伴させてサンクトペテルブルクを発ち、2週間かけて大西洋を横断。高い外交プレゼンスを発揮していた。
40.6センチ砲のみならず、多種多様な武装を搭載する本艦は、その巨体を活かして講堂をも有しており、練習艦としての能力も持ち合わせている。此度の任務では、終戦記念式典に参加した後はパナマ運河を渡ってウラジオストクに向かい、そこから中国沿岸を渡ってインドやエジプトに寄港。地中海を通って北海に戻り、世界一周を果たす計画が進められていた。
「ロシアは今回の戦艦建造を受けて、モニュメントとしての軍艦建造を計画しているそうです。レニングラード防衛戦で活躍したガングート級戦艦に、セバストポリ攻防戦で活躍した駆逐艦「タシュケント」…85年前の輝かしい栄光に縋りつかなければまともに国家として生き残れないのは悲しいですね」
副長の言葉に対し、艦長はため息をつく。
「それぐらい、7年前の戦争はロシアに大きな傷を残したという事だ。ロシア軍にとって『あってはならない事』であった敗北が、インターネットで広く伝えられたからな。威勢を張るための原潜も核も減らされた今、時代遅れの兵器で見栄を張るぐらいじゃないと、あの国は容易く崩れる。陸軍でも戦勝記念パレード用と言いながら、主砲を125ミリ滑腔砲に替えたIS-3重戦車の再生産なんて奇行を始めているしな」
「経済の再建が上手くいっているからとはいえ、愚かな事を…そう言えば、カリブ海諸国がきな臭い様ですね」
「ロシアは勿論の事、中国もカリブの国々に資源や製品を大安売りで押し付けているからだな…キューバとかハイチでは、現地に工場とか築いて雇用も与えているそうだが、ホワイトハウスの連中は内政のゴタゴタに忙しくて、裏庭の面倒に手が回らないそうだ」
「行き過ぎたポリコレとフェミニズムが、結果としてアイデンティティを傷物にしてしまいましたからね…」
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