第3話 建造

 西暦2029年、ロシア連邦はサンクトペテルブルグにあるアドミラルティ造船所。そのドックにて、1隻の巨大な船体が組み上げられていた。


「建造は順調な様だな」


 造船所を訪れていた大統領は、そう評する。既に船体は4割以上が完成しつつあり、クレーンは忙しなく動いている。


「現在建造中の戦艦は、旧ソビエト時代に設計された23設計戦列艦をベースにしております。ですが機関システムや兵装システムは最新のものにしており、十分現代戦でも使える様にしております」


 技師の説明を聞き、大統領は満足げに頷く。第二次世界大戦前に開発され、戦中にナチス・ドイツの侵攻によって勃発した大祖国戦争によって建造が中断されたソビエツキー・ソユーズ級戦艦は、ソ連海軍の近代化を懸けて建造が開始されたものであり、今回建造している本艦も、未だに外洋海軍への夢を諦めていない事の象徴となる筈であった。


 無論、海軍上層部には『予算の無駄』だと最後まで拒もうとした者はいた。だが、大統領は決して折れる事は無かった。


「そうやってフルシチョフが海軍を軽視し、巡洋艦と駆逐艦と潜水艦だけにした結果、キューバ危機で無様を晒したではないか。しかも今回は、潜水艦に全て頼れる状況でもないのだぞ」


 ロシア海軍の戦略を担う存在たる潜水艦は、国際的な視線を重視した自主的な軍縮と大掛かりな更新計画により、戦前の半分近くにまで減っている。さらに賠償艦やら経済制裁解除の『示談金』としてウクライナやポーランドに数隻引き渡しており、水面下からの圧力は急激に低下していた。であれば視覚的に分かりやすい抑止力として大型水上艦を建造しなければならず、最終的に戦艦の建造を認めさせる事となったのである。


「だが、来年度には新たに重航空巡洋艦を3隻、原子力ロケット巡洋艦を1隻建造し、水上艦部隊の再建を進める事となる。2035年までには、ロシア海軍は再びその勇姿を見せつける事が出来よう」


「それまでに、本艦を完成させてみせましょう」


 この1年後、この戦艦は無事に進水式を迎え、「スヴォドーナヤ・ロシア」の名前を与えられる。この時には大統領は代替わりしていたが、ロシアの経済再生に関与している国は意地悪にも『例の戦艦の建造・就役期間中は新たな経済制裁を加える事はない』と、無駄に軍事費を前大統領の奇行に使い潰される事を望む様な条件を示してきたため、新大統領も建造を続行するしかなかったのである。

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