第2話 最新の古臭い実験
西暦2028年、ロシア中部。この日、広大な大地にて巨砲が轟いていた。
「大統領閣下、試射は成功しました」
付近にある兵器試験場の建物内で、技術者の一人はそう言い、大統領は満足げに頷く。
「うむ…しかし、よくこの短期間で、試作にまで漕ぎ着ける事が出来たな。既に技術や設備は失われていたというのに…」
「流石に設計図や、製造に必要な資料は遺されていましたからね。それに閣下が火砲の生産に予算をくれたのも大きいです」
技術者はそう言いながら、試射を続ける巨大な大砲を、モニター越しに見つめる。
大統領の戦艦建造計画に伴い、当然ながら海軍上層部や技術陣は困惑を顕にしたのであるが、政治的パフォーマンスを完璧な状態で果たす事を求められた結果、過去の資料を参考に大口径火砲を復元し、実用に耐えうるものか検証するための試験が行われていた。しかも最新のコンピューターによるリアルタイムでの計測や、複数のシミュレーションも行いながらの試射であるため、データは多数確保出来ている。
「にしても、この時代に152ミリ以上の口径の火砲を開発する事になろうとは、思いもよりませんでした。本来ならこの地は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの試験に用いられるのですがね」
「その試験が、国際条約やら何やらで制限されてしまったからな…一応国連の監査機関には『艦載砲システムの試験』と通知しているが、まさかこんな巨大な大砲の試験だとは思うまい」
大統領はそう言いながら、調子よく砲撃を続ける試作砲を見つめた。
この数カ月後、『B-37M』と名付けられた40.6センチ砲は正式採用され、直ちに予備含む27門が製造される事となった。この砲は一応現代でも通用する様に、毎分2発の連射能力を成す自動装填システムと、人工衛星とのデータリンクにより高い命中精度を得た誘導砲弾が与えられ、火砲としてそれなりに使えるものとなっていた。
・・・
さて、実質的な敗戦の影響により、如何にして軍備を整備すべきかが分からなくなった様に見えるロシア海軍の戦艦建造であるが、実際はバルト海に面する全ての国々に動揺と不安をもたらしていた。
元々ロシア海軍は、旧ソ連時代より対空戦闘システムの整備に力を入れている。アメリカ海軍の空母機動部隊に抵抗するべく生み出された対空火器は、21世紀においてはリトゥード対空ミサイルと、コールチク対空防御火器システムに結実している。前者は複数の射程が異なるミサイルを運用する事によって全ての範囲を対応し、後者は機関砲とミサイルを複合して装備する事で防空網の隙を埋めていた。
そして先の戦争での、巡洋艦「モスクワ」撃沈の反省は間違いなく施される訳であり、従来の対艦ミサイルでは撃破出来ない可能性が高かった。当然ながら各国の軍備は増強の方向に向かった。
まずフィンランド海軍ウーシマー旅団は、火砲から地対艦ミサイルが中心の沿岸防備旅団として更新が行われていたが、新たにノルウェーよりNSM地対艦巡航ミサイルを導入する事となった。海軍艦艇も同様に、ポーヤンマー級コルベットより大きい上に、巡航ミサイルの運用能力を有するフリゲート艦の建造と、スウェーデンからの潜水艦導入という形で増強を進め、全力でサンクトペテルブルクにバルト海艦隊を押し込める覚悟を見せた。
バルト三国も同様に戦力の強化を押し進めており、地対艦ミサイル部隊の増強やミサイル艇の配備促進といった方策を打ち出してきたのだが、特徴的なのは西欧諸国からではなく、何と日本からも装備品の購入で対応を進めたという点である。フィンランドも同様に、パトリアAMV装甲車のライセンス生産に関する取り決めに合わせて、日本製艦対艦ミサイルの導入を決定しており、ロシアに対して全方位で警戒している事をアピールする結果となったのである。
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