Life Re:2 The truth that I was informed of and now I'm back. 私は現代に帰ってきた。

2018年8月28日。かくして僕は、保護者になって、初めての朝を迎えていた。

ひとまず友人に会うと適当な理由をでっち上げ、彼女をホテルに迎えに行った。もちろん、彼女が出てこなければそれでいいし、真夏の夜の夢という話でも悪くはない。

ただ、残念ながら僕を保護者として、何かの運命を与えようとする神みたいな存在が、それを許さないんだろう。


「おはよう~。昨日はごめんね。夜中まで喋っちゃって。」

「おはよう。別にいいよ。寂しかったんだよね。僕で良ければ、いつでも...はちょっと勘弁。」

「えへへへ、さすがに、寝るまで電話はもうしません。」

「そう。良かった。やっぱり君は、笑顔が似合う娘だね。」

この笑顔、彼女のチャームポイント。やっぱり、笑顔が素敵な人は、それだけでムードも良くなる。

手ぶらにiPhone。まあ、今日は特に使うものもなさそうだしね。

「私、昨日考えたんだけど、しばらく、君と一緒にいちゃダメかな?」

「いや、それで別にいいならだけど...。もしかして、僕と一緒に暮らすってこと?」

「え、他に考えられないんだもん。もしかして君って、家なき子の私を見捨てて行くつもりだった?」

「う~ん、僕は、警察に事情を話して、保護してもらおうかなって思ってたんだよね。だけど、君がそういうなら、まあ、やぶさかではないかな。」

「うんうん、で、君はどこに住んでるの?」

「東京に住んでる。」

「じゃあ、いきなり東京で暮らせるんだ。すごい、君って、一人で東京で暮らしてるんだ。」

「まあ、なまじながらに20年。19から一人暮らししてるからね。」


「でも、一つ条件がある。まず、警察で身元を明らかにすること。実は、これが一番の問題だったりする。そのうえで、僕が身元引受人って形で君を保護する。僕には、これしか方法がないんじゃないかと思っている。君が生きていくための道筋を立ててあげたいんだ。」

「そっか、今の私は、どこの誰だかわからない人ってことになってるんだ。」

「ホテルはある意味偽名でも大丈夫だし、僕が保護者だったから部屋が取れた。でも、現実にバイトしたり、高卒認定試験を受けたり、大学に行ったりするのに、君の素性が明らかにならないと、君が生きていく上で、必須なんだよ。」

「ということは、まず、私の身元がどうなっているか?ということを調べたほうがいいんだね。」

「あれ、案外、乗り気?」

「あったりまえじゃん。君と暮らすなんて、夢のような展開。あ、でも、私家事って何も出来ないか。」

「その先のことを考えてる?」

「だって、やっぱり憧れるじゃん。恋人との同居生活。」

「現実には、そんなにいいものじゃないし、君とならなおさら私生活は本当は晒したくないんだけどね。」

「どうせ、汚い部屋に住んでるんでしょ?大丈夫。あなたとなら、私は耐えて生きていけるよ。」

「ま、現実は本当にそういうものじゃない。身をもって体感してる人のことを、信じて欲しいな。」

「あれ?同棲経験、誰かとあるんだ。」

「まあね。でも、僕は一人でしか生きていけない人間だって決定的に分かったから、なんともだよ。」


「で、私達は、今日、どうするの?」

「まずは警察署に行ってみて、君に捜索届が出てないか、それを確かめようかと思ってる。」

「私、補導されたりとか、しないよね。」

「なんか身に覚えがあるの?」

「いやいや、それはないんだけど。身分を証明できる書類って、私は生徒手帳しか持ってないんだよね。」

「まあ、どうにでもなるとは思うけどね。ともかく、ちょっと警察署へ行ってみようか。」

今日はレンタカーを借りて、色々移動しようと思ってる。もしかしたら、色々移動になってしまいそうだしね。


とはいえだ、僕もそもそも警察のお世話になったことはないし、どこに聞くべきなのかはよくわからない。とりあえず管轄の警察署に行って、事情を話してみようと思う。

「警察署なんて初めて来た。結構キレイなところなんだね。」

「ああ、そういえば昔は警察署の場所も違ってたもんね。いや、来たことないなら、別に関係ないか。」


意外とフラッと入れるところだ。役所みたいなものだろう。そう言えば運転免許証の更新がそろそろあるような気もするけど、その時にまた来るのだろう。

「案内係って書いてあるよ。ここで聞けばいいんじゃない?」

捜索者自らが手を引っ張ってそこへ連れて行かされる、僕の気持ちにもなってほしい。

「えっとですね。この子が行方不明者リストに入っているかどうかを調べに来たんですけど。」

係の女性の方も、驚いたような、怪しんでるような。

「失礼ですけど、この方とはどういうご関係で、いつお知り合いになられたのですか?」

「信じてもらえるかわかりませんけど、昨日、野木駅で知り合いました。彼女の両親とも連絡が取れないので、こちらに伺ったのですが。」

...まあ、こんなものだろう。言い訳してもしょうがないし、今話したことは事実だし、別にやましいこともないしな。

「わかりました。それにしても随分と年の差がありますけど、本当に何もしてないでしょうね?」

「まあ、ホテルに泊めてあげたりはしましたけど、本当にそれぐらいしか。」

うーん、反応が良くないな。分からんでもないんだけど、明らかなパパ活行為ではあるからなあ。

「その人の言っていることは全部本当です。この2日間、私をしっかりと保護してくれていました。関係も持っていません。」

意外だ。しっかりと主張できるじゃないか。いや、でも17歳。バカに出来ない年齢だからね。君も、出来る娘だった。


「わかりました。ご案内しますので、そちらでお話を伺いましょう。」

ようやくわかってくれたようである。まあ、こういう風に言われても、疑いは晴れないだろうけどね。

「警察の人って、やっぱり怖いねえ。フォロー入れて正解だった?」

彼女がイタズラっぽく、小声でささやく。

「助かった。さすがに無理があるんだよ。今の僕らの状況は。」

「そうかもね。でも、もっと続いて欲しいよ。こういう関係。」



しかし、まさかの話である。どうしてこうなってしまったのか分からないのだが...。

「非常に申し上げにくいのですが、行方不明者リストにはありませんでした。しかし、失踪者リストにお名前が載ってらっしゃるのです。」

「それって、どういうことなんですか?」

「親戚の方から、19年前に出されているようです。家族全員が失踪者リストにあるケースは決して珍しいことではないんですが。」

「その場合、戸籍などはどういう扱いになるのですか?できれば、彼女を自活させてあげたいと思っているんで。」

「何か身分証明書はありますか?そちらを役所へお持ちになることで、手続き等ありますけど、認定死亡の取り消しと、戸籍の復古は可能になります。」


「...ただ、先程から申し上げていますけれど、実年齢での戸籍が復古となるので、彼女の場合は37歳、今はどう見ても...20歳ぐらいですか?」

「それは僕も引っかかるところではあるんです。ただ、現実に失踪者になっている人が、戸籍を復古させるには、それしか方法がないということですよね。」

「認定されればの話ですが、それでもいいなら、役所の方へ連絡を取ってみましょうか。」

「お願いします。」


ノーテンキに難しい話は聞き流していた彼女が、ここぞとばかりに、

「行方不明者と失踪者って、なにか違うの?イメージとしては一緒な気がするけど。」

「それは僕も調べた。行方不明者ってのは、捜索されているケースのことを言って、仮に君がそうなった場合は、親御さんがそうしていると思う。」

「だけど、失踪者というのは、他の身内、多分親戚とかから、役所に失踪者として届けられて、死亡者扱いされているってことなんだ。どうしてそうなったのか、理由は知らない。でも、君と、君の家族は、戸籍上は全員亡くなっているということになっている。」


「ふーん、殺されちゃったんだね。私。」

「世間一般から見たらそうなるか。しかし、そんなにショックでもない?」

「だって、現に生きてるし、今のこの状況が何より分からないまま、今日も生きてるんだから、そっちのほうが大事かなって。」

ま、そうだよね。彼女が生きてたとわかったことで肝を冷やす人間がいるのかもしれないが、少なくとも、この世界で生きてるということのほうが大事だな。

「でも、両親のことは、残念だったね。」

「厳しい人達だったけど、あれはすべて私のためだったのかもしれない。そう思うと、なんで、こんなお別れになっちゃったんだろうね。」

泣きそうな悲しい顔をする。この娘の悲しそうな顔は、本当に気分を沈ませる。

思わず、頭に手をやり、胸を貸してあげた。

「ごめんね。僕が君の身元をはっきりさせるために、色々いらない情報まで開示されてしまった。ここまで、おおごとだったとは、僕も知らなかったんだ。」

「うん、わかってる。私こそごめん。私がもっと強くなって、生きていったら、両親も喜んでくれるよね。」

「両親の分まで、幸せになって欲しいかな。僕は、及ばずながら、その手伝いをするよ。」

「ありがとう。やっぱり、困ったら助けてくれる。さすが私の王子様。」

無理に笑ってくれたが、やっぱり精神的には厳しいとは思う。でも、手続きなんかは、早いほうが有利に働くこともある。

可哀想だけど、このまま粛々と手続きを行っていくしかないな。


「役所にはこちらより連絡しておきました。お手数ですけど、そちらの方を、役所へ連れて行ってあげてください。手続きはそれほどかからないようですけど、」

「けど、何か不安なことでもあるんですか?」

「実年齢と見た目が噛み合わないってケースは初めてですから、どちらかと言えば、そっちが心配です。本人曰く17歳ですよね?」

「思ったよりしっかりしていますよ。彼女も状況を受け止めていますから、まずはその役所で戸籍を戻してから、話し合いますよ。」



これはあとで知ることになるのだけど、当時、家族全員失踪というニュースがあったというのは事実だったようで、失踪当日に目撃情報があることや、ある時間までは父親の同僚が一緒にいたという証言などもあり、おそらくは最初こそ捜索届けが出された。

届出が出された日付が、1999年の8月28日である。ただ、地方紙に小さく載った程度で、決定的な目撃情報があったにも関わらず、一切の痕跡すら残らなかったことで、捜索も完全に行き詰まったようである。唯一、所有車だけが発見された程度だったらしく、世間一般である、一家心中みたいな扱いになってしまった。ただ死体が出ることもなかった。

結局、そのあとすぐに彼女も含めて、遺族が失踪届を出した、というのがことの真相のようである。まあ、遺産争いとか、そういう話になってしまったのかもしれない。出した本人たちは、彼女は会いたくないと言っていたので、答え合わせはしなかったが、つまりは神隠しにでもあって、なんの運命のいたずらか、彼女は20年後に飛ばされたということである。だから、捜索すればもしかすると彼女の両親も見つかったのかもしれない。


結果だけ言うと、やはり彼女だけがこの時代に飛ばされた、という事実だけしかなかった。例えば、ご両親が100年後とかに飛ばされてたとしたら、果たしてどうなっていただろうかとは気になったけど、いない人間の話、机上の空論を証明するすべはもうないのだから、それで良かったと思う。


話を戻すと。

それからは、まあ、色々めんどくさいことのオンパレードだった。

役所について、本人の身分証明書が、学校の生徒手帳だったことでひと悶着、本籍地はもとの住所になる。戸籍の移動はいずれ考えるとして、あとはマイナンバーカードの手続きも一緒にやってもらった。どうも、彼女にはすでに新しい番号が付与されるらしいが、どちらにしろ出来るのは数カ月後らしい。お役所商売とはよく言ったものだが、これで半日掛かってしまう手際のわるさ。まあ、戸籍を手に入れたから、それで良しとしよう。

「しかし、その制服。私が高校時代に着てた制服ですけど、まだ新しいですよね。」

「まぁ、この辺がちょっと訳ありなところなんです。でも、ちゃんと生きてるし、服はいくらでも着替えられますしね。」

「言いたくないですけど、あなたの趣味だったりします?」

「僕?そんなわけないですよ。保護した時から、同じ格好してますから。」

「不思議なこともあるんですね。ああいう子、学校にいたかも知れないです。まさかとは思いますけど。」

「その辺は、僕も良く分からないんです。だから、あの娘の自立心に任せたいと思ってます。」



「1日かかったけど、私、自分の戸籍に戻ることができました。」

「君が戻って来たのか、やってきたのか分からないけど、とりあえず、おかえりって言っておくか。」

「うん、ただいま。私、君の世界に帰ってこれたよ。」

もっとも、彼女のいた20年前に比べ、日本という国は疲弊し、より貧富の差は広がる一方。そして、先の見えない不安が常に付きまとう。

僕は、果たしてこの娘を守って行けるのか?いや、守るというより、同居出来るのか、のほうが正しいかな。

「えへへへ、これで、君と同居。いつでも...は無理でも、家では一緒。」

「そうなるね。それじゃあ、せっかく野木の役場だし、ちょいとしまむらで洋服と靴でも買っていきましょうか。さすがに制服とローファーだけだと、辛いだろうし。」

「え、しまむら?やだよ、あれっておばさんが行くようなお店だよ。」

「20年前はそうだったけど、今は若い世代の衣類も充実してるよ。僕のことを信じるなら、この時代のことも、ちょっとは信じて欲しいかな。」


そして車で5分もしないで、しまむらがある。

「ねーえ、ここ本当に20年後?しまむらの外観が何一つ変わってないんですけど。」

「なかなか鋭いね。だけど、今やメンズも取り扱うぐらい、マジなファッションセンターだからね。」

しまむらをバカにしないでいただきたい。今はコラボもマメにやってるし、いいお店だと思う。俺はプロデューサーとしてお世話になったので、頭が上がらない。


...女性の服選びというものは非常に長い。そしてしまむらはマジファッションセンター。

見ていて飽きないし、ちゃんと現代の服を着こなす。こういうところを見せられると、やっぱり普通の17歳なんだなと実感する。

制服を着ているから地味子なのであって、現代では、一回りして、こういう見せ方をしている女性もいる。

あと、元々のセンスがいいんだろう。私服姿の彼女は1回ぐらいしか見たことなかったけど、確かにモデルみたいな着こなしだった記憶があった。

いや、もともとの素材がいいんだ。昨日もほぼすっぴんだったのだろう。大人が経験を見せるなら、子供は若さを見せつける。まあ、子供とは言い難い年齢だよね。17歳か。

存分に今を楽しんでいる。彼女が生きている証拠。一日頑張ったご褒美と言ったところだろう。もちろん、制服じゃなくて、ここで買った服を着て行くことにした。


しまむらで38,960円。これ、しまむらのレシートの長さなのか?居酒屋で悪ノリした兄ちゃんたちが5人ぐらいで払う長さしてるぞ。

「本当にファッションセンターだった。満足満足。」

まあ、下着から揃える以上はこうなるよね。しょうがないとしか言いようがない。

「本当に僕の家に住むの?なら、明日着る洋服だけバックに入れて、後は宅急便で家に送ろう。」

「え、いいの?」

「朝、約束しちゃったからさ。これで君は自由にバイトも出来るし、高校は残念だけど、高卒認定試験を受ければ、大学にも行ける。その間の面倒は、僕が見るよ。」

「その後は?」

「う~ん、今は考えないほうがいいかな。じゃ、小山に戻って、夕飯でも食べようか。」


とはいえ、あんまり小山に来ることもないから、そもそもに小山のファミレスを知らんのだよなぁ。

お、右手にサイゼリアがあるな。まあ、手持ちでも十分奢ってあげられるか。

「サイゼリアでいい?」

「サイゼリア?知らないお店かな。」

「あ、そうか。20年前はサイゼリアもまだまだ栃木にはなかったもんね。」

「サイゼリア...イタリアンレストランなんてチェーン店になるぐらい流行ってるの?」

「サイゼは、まあ、なんだ、イタリアンレストランといえば、ぐらいのお店だよ。気にせず入ろう。」


...女性のメニュー選びは非常に長い。そしてサイゼリアはマジ庶民派。

いくら頼んでも大した額にはならないし、何より見たこともないような食べ物もあるみたいだ。片っ端から注文していくけど、大したことではない。


「すごいね。割と本格的なイタリアンのメニューで驚いちゃった。」

「これからしばらくは嫌というほどファミレス飯とコンビニ飯は食うことになるから、覚悟はしておけよ。」

「うん、なんかそれだけで満足。なんだろね。ウキウキしちゃう。」


言いようのない量の料理が運ばれてくる。さながらフードファイトのようだか、それでもなんとなく他愛もないおしゃべりをしていれば、それなりに片付くのね。


ここ半日で彼女に起こったこと、疑問に思ったことを次から次に答えていくように、料理も進む。例えばホテルで女性限定サービスの化粧品サンプルセットをもらったとか、20年前は影も形もないホテルの液晶テレビの薄さとか、20年後でもSurfaceの「さぁ」が流行ってるの?とか、そういえば、その芸人もしばらく見てないな。


身長は160cmぐらいだろうか。細身のどこにこの食べ物を押し込むスペースがあるのだろうか。あるいはうまいこと体型を誤魔化してるのだろうか。いずれにしても、大柄ではない彼女にしては、よく食べ、よく喋り、よくはしゃいだ。そう、今日のことをこのまま忘れないように、そして忘れたいことは忘れるように。

僕は彼女の話を聞いてあげて、必要に応じて真面目に答えたり、冗談を言ったり、そして笑ってあげた。


ふと、20年前の話になった。

「20年前の生活ってそんなにイヤだった?ほとんど見覚えはないけど、ちゃんと女子高で生活してたじゃないの?」

「両親とは成績と進路の話、教室に行けば特に興味のない他愛もないおしゃべり、受験して、手に職をつけろってさんざん言われてた。」

よほどずっと言われてたんだろう。嫌悪感すら感じる強い口調である。

「予備校に行ってたのは、家にも居たくないって気持ちが少しあったのかもしれない。でも、両親には感謝してた。」

言うまでもなく、僕らの世代は就職氷河期世代であり、未だに社会で地位を得られていない世代だ。それを回避出来たとて、今は幸せな世の中なのだろうか?


「まあ、でも、昨日と今日の行動は、今で言うパパ活とか、そういう類のことなのかな。」

援助交際も20年すればパパ活というカジュアルな言語に変わっている。日本語というものは、常に広いスケールで受け入れる土壌を持ち、あっという間に伝染してしまう。僕が国文学者なら、このメカニズムを解明する研究をしてみたいが、勤め人が同人研究でなんとかなるようなものではない。

にしても、親子に見えてるようで何より安心している。僕も30ぐらいから見た目があまり変わっていないらしいとよく言われるので、若い父親で通すのも、悪くはない。

「パパ活?知らない言葉ばっかり使うよね。またいかがわしい言葉?」

「いや、エンコーも20年するとそういう同意義語があってね。似たようなものだよ。今はレンタルおじさんってのも商売にあるぐらいだしね。」


「ねえ、君は、レンタルお父さんなの?それとも、男女の関係になりたいのかな?」

「無理しなくていいし、今は君の保護者だ。それ以下ではないから安心していいよ。」

「でも、それ以上の関係なのかな?もう買ってもらうものは買ってもらっちゃったしね。本当なら、お返ししなきゃいけないんだろうけど。」

切なげな表情。やっぱり、彼女もしっかり育てられた家の人間だ。その恩義は十分にわかっているみたいだ。

「心配することはないよ。ひとまず、僕と君で暮らす。その中で君はバイトでもしながら、やりたいことを見つけていく。それで、十分な見返りになる。」

「一つ、お願いしていい?」

「何、答えられる範囲で答えるよ。」

「君に、私のオトーサンになって欲しいの。レンタルじゃなくて、本当のオトーサン。」

「唐突だなぁ。恋人の次は父親って。」

「もちろん、一番君になって欲しいのは恋人。だけど、君と私、20歳も年齢が違うじゃん。しかも、まだ未成年だし。だから、家族にしてほしいんだ。そうなると、私は君に色々教えてもらう立場。だからオトーサン。私のことは、公には娘だと言えば、とりあえず上手くごまかせるでしょ?」

「まあ、それでいいなら、保護者も兼ねて、君の父親役として、頑張ってみるよ。」

「あ、でも、恋人の時間も作って欲しいな。たまにはデートもしたい。」

「デートになるかなぁ。どう頑張っても、娘に連れてこられた父親にしか見えないと思うよ。」

「狙い通りじゃん。君と毎日、笑ったり、怒ったり、泣いたり、甘えたりしながら、過ごせるのが一番の幸せ。」

「そうだね。二人で暮らしていけば、何かいい方法が見つかるかも知れない。あ、でも、家計は苦しいから、君はまずバイトして、お金を稼ぐことを覚えようね。」

「お金を稼ぐぐらいだったら、援助交際でもしたほうがいいのかな?」

「突拍子もないことを言うね。それは絶対ダメ。簡単に体でお金を稼ぐことはしちゃいけない。」

「冗談だよ。さすがに、私も援助交際は怖いもん。」

「絶対ダメだからね。娘としても、恋人としても、君にそんなことは絶対させないからね。」

「うん。そっか、ちゃんと怒ってくれるんだ。君って、本当に頼りがいのある父親役になれる素質があるかもね。」

「あんまりヒヤヒヤさせないでよね。僕も人様の娘を預かってるって思って、君とは接していくから。」

「でも、家族なんでしょ。あ、でも家族はキスしたりしないか。」

「う~ん、同居だからね。同棲だったら、まあそういう関係なんだろうけどね。」

「じゃあ、たまには恋人になってくれる?」

「それは、時と場合によるかな。君がそういうシチュエーションになったときに、僕が勝手にそういう見方をするかもね。あ、ただ、体の関係は、絶対に持たない。これも約束。」

「...想像できないかな。でも、恋人同士になれば、体の関係になるのも普通のことだよね。」

「そのために、僕は恋人として見ないようにする。あくまで娘。でも、君って呼んじゃうから、曖昧な感じになっちゃうね。」

「まあ、真面目に考えるのは、君のいいところだけど、そこは曖昧でもいいんじゃない。その時の気持ちで、お互い生活していこう。」

「そうだね。僕も分からないことだらけだから、二人で解決していこう。きっと、その先は、幸せだと思う。」

「それ、素敵な発想。私もやったことないし、二人で頑張っていこう。」

そう決意を新たにして、ちょっと長めのサイゼリアでの夕食というか、雑談を終えた。


車を返し、ホテルまで荷物持ち。ちなみにiPhoneの充電方法は教えておいた。

「明日も、同じぐらいでいいかな?」

「大丈夫。でも、明日は東京に行くんでしょ?」

「そうだね。う~ん、男の汚い部屋に、本当に住めるかなぁ。あ、布団はあるからね。」

「じゃあ、大丈夫だよ。いや、布団が一つでも、君と一緒に寝ればいいんだし。」

「...判断が難しいけど、間違いが起きたら遅いからね。出来れば、一緒に寝るのは避けようか。」

「真面目だなぁ。大好きだよ。そういうところ。」

「ズルい娘だね。僕も好きだよ。」

「そうやって、ちょいちょいポイント稼いで来るよね。オトーサン。」

オトーサンか。過度なプレッシャーはないけど、彼女と暮らすことには、やはり不安は残る。

でも、僕の中で、君となら不思議とやっていけそうな気がするんだ。なんでだろうね。前の彼女とは違うところだ。


「それじゃあね。おやすみなさい。オトーサン。」

ホテルへ入っていった彼女。それを見送り、僕も自宅へ帰るとしよう。



今日はこの辺で。明日へ続く。

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