Life 3 Truth, Reality and .... 知らされた真実、今に「おかえり」

2018年8月29日。


昨晩、僕はふと、この世界でも、彼女が捜索届けを出されたのではないか?という可能性を考えた。

簡単な話だけど、捜索者リストにでもあれば、彼女は20年後の今の人生を、家族と暮らすことが出来るからだ。

ただ、20年神隠ししていた女の子が、当時のままの風貌で、果たして受け入れられるのかどうか。まあ、リストにあればの話だ。


「きたきた。おーい!」

彼女は今日もウキウキしている。またTVで何か現代の知識を得たのだろう。それを話したがってるような顔だ。

「おはよう。荷物少ないけど、そんなもんだったっけ?」

と思ったけど、なんか見慣れない、とても背格好には似合わないようなおっきなリュックが横においてある。

「...登山か、遭難することなく、無事に山頂まで着ければいいね。」


「持ってやらんぞ。さすがに僕もそういうところまでは譲らん。自分で背負って移動しなよ。」

しかし、満面の笑みで、

「もっちろん。大きいだけで、中はほとんど昨日送ってるから、実質空みたいなものです。毎日子供扱いされるのも、やっぱり嫌かなって。」

彼女なりに考えての、移動用リュックというわけだ。最悪、僕が見放しても、一人で生きていく、そのような覚悟みたいなものもあるんだろうな。


「さ、今日はちょっと警察に行って、君が捜索者リストに載ってないかを確認したいと思ったんだ。」

「今の御時世、君の身柄を預かるにしても、やっぱりしっかりとした生死を確認したいと思っているし、うまく行けば、そこから戸籍なんかも辿れるかもしれない。そうすれば、君が自活することだって可能になるんだ。」

キョトンとしている。まあ、難しいことを話したから、それもそうか。

「とりあえず、そのリュック持って上げるから、まずは朝ごはんでも食べながら説明しようか。」

「結局持ってくれるんだ。やっぱり、娘には甘いって?」

「...そうかもしれないね。君にはいささか情が移ってるから、優しく接してあげようと思うのかもね。」




何が楽しくて朝からラーメンをすすらなきゃならんのだ。いい加減涼しくなってほしいレベルの、8月の終わりに、まさか朝からラーメンを食べることになろうとは。

なんでも、そういう気分だったそうだ。本気で登山でも行くんじゃないか。もちろんツケらしいので、支払いは僕だ。

せめてファミレス、もしくはカフェでモーニングレベルのものなら、まだ食欲が湧くんだけど。これが若さというやつなんだろうなあ。

「で、仮に私がそのリストに載ってたとして、身分を証明するものって生徒手帳ぐらいしかないよ?」

「公的な文章がない以上、しょうがないよ。とりあえず、それであたってみるほかないよ。」


「そう言えばのせられたまま、朝ごはん食べてるけど、私が今生きてるってこと以上に、そういう戸籍とかって大事なの?」

「そうだなあ、20年で世の中は大きく変わってしまったんだよ。昔はバイトなんてどこの誰かわからないような人を雇える時代だったけど、今や国民はマイナンバーで管理されているから、例えば君が「よし、バイトする」ってことになって、住所は貸せるけど、そのナンバーは個人に1つ付けられているから、働くことすら出来ないんだよ。」

結局、大掛かりなシステム構築をしたところで、税収の改善ぐらいにしか効果がないマイナンバー、それと戸籍を持たない限りは、彼女を自活させることも難しくなってしまう。

「例えば、この先、僕が君とずっと暮らしていく...のはあまりよろしくないかもしれないけど、」

「言ってて照れがあるよ。君がそういう決心をしてくれたなら、私は喜んで受け入れるんだぞ。」

「茶々を入れないで聞いて欲しい。今の君は、少なくとも日本人でもないし、誰かも分からないというのが世間の認識なんだ。今日は、そこをはっきりさせて、その上で色々僕なりに考えることにする。本当なら弁護士さんにでも相談すべきなんだけど、そんなお金はない。」

さらに、僕がSFなりアニメなりで得た知識であるバタフライ・エフェクトのトリガーが彼女であってほしくないのだ。仮にそうなっていて、もう気づかないうちに変わっている可能性はあるかもしれないけど。

「なにより、君が今の時代にもうひとりいるかもしれないと言ったけど、そこは知っておきたいところなんだよ。どこかで会ってしまった時に、君の身に何が起こるか分からないし、もうひとりの君にも迷惑は掛けられない。まして、また行方不明者にでも入れられてしまうのは、心苦しいよ。」


...あ、さっぱり理解していない顔だ。

「なので、戸籍を今でも持つ権利があるのかどうかを確かめよう。持っていれば、晴れて君は社会的に君になれるからね。」

「うーん、まあ、バイトしたりだとか、そのうち大検受けたりだとか、そういうことが出来るようにしたいってことなんだね。」


「やっぱりオトーサンになりすぎてるよ。変な責任感を負わせるために私がいるなら、私がいなくなったほうがいい?」

不安そうな顔、僕はこの顔に弱い。そしてこの顔を見たくないから、色々考えを巡らせてるんだ。

「父親としても頼りないだろうけど、僕は、少なくとも今を生きてる君の生きる道を作ってあげたいんだよ。そうすることが、今の僕の役割だと思ってるよ。」

ラーメンを食べる手も止まり、腕にしがみついて不安がる彼女が、ある程度落ち着けばそれでいいんだけど、しかし甘いことを言ってると思う。


「本当に見捨てない?」

「少なくとも、今は見捨てられるわけ無いだろ。」


「見捨てたら誰がここの勘定を払うんだって話だよ。皿洗いしたくないだろ。」


「...うん、なんか、アリガトウゴザイマス。」

「なんでそんなにカタコトになる必要があるかな。大丈夫だよ。出来るだけ、一緒にいるようにするから、ラーメン伸びないうちに...はもう伸びてるか。」


仕方ない、おかわりを一つもらおう。

「さ、今日も長くなるぞ。しっかり食べて。」

「うん、ラーメンとか本当に久しぶりに食べるし。なんで食べなかったんだろうね。」


...あ、僕はもういいです。やっぱり朝からラーメンは厳しい。大人になるのは大変なことだ。






とはいえだ、僕もそもそも警察のお世話になったことはないし、どこに聞くべきなのかはよくわからない。とりあえず管轄の警察署に行って、事情を話してみようと思う。


「警察署なんて初めて来た。結構キレイなところなんだね。」

「ああ、そういえば昔は警察署の場所も違ってたもんね。いや、来たことないなら、別に関係ないか。」



意外とフラッと入れるところだ。役所みたいなものだろう。そう言えば運転免許証の更新がそろそろあるような気もするけど、その時にまた来るのだろう。

「案内係って書いてあるよ。ここで聞けばいいんじゃない?」

捜索者自らが手を引っ張ってそこへ連れて行かされる、僕の気持ちにもなってほしい。

「えっとですね。この子が行方不明者リストに入っているかどうかを調べに来たんですけど。」

係の女性の方も、驚いたような、怪しんでるような。

「失礼ですけど、この方とはどういうご関係で、いつお知り合いになられたのですか?」

「信じてもらえるかわかりませんけど、2日前に、野木駅で知り合いました。彼女の両親とも連絡が取れないので、こちらに伺ったのですが。」

...まあ、こんなものだろう。言い訳してもしょうがないし、今話したことは事実だし、別にやましいこともないしな。

「わかりました。それにしても随分と年の差がありますけど、本当に何もしてないでしょうね?」

「まあ、服を買ってあげたり、ホテルに泊めてあげたりはしましたけど、本当にそれぐらいしか。」

うーん、反応が良くないな。分からんでもないんだけど、明らかなパパ活行為ではあるからなあ。

「その人の言っていることは全部本当です。この2日間、私をしっかりと保護してくれていました。関係も持っていません。」

意外だ。しっかりと主張できるじゃないか。オトーサンとしては嬉しいよ。


「わかりました。ご案内しますので、そちらでお話を伺いましょう。」

ようやくわかってくれたようである。まあ、こういう風に言われても、疑いは晴れないだろうけどね。

「警察の人って、やっぱり怖いねえ。フォロー入れて正解だった?」

彼女がイタズラっぽく、小声でささやく。

「助かった。さすがに無理があるんだよ。今の僕らの状況は。」

「そうかもね。でも、もっと続いて欲しいよ。こういう関係。」



しかし、まさかの話である。どうしてこうなってしまったのか分からないのだが...。

「非常に申し上げにくいのですが、行方不明者リストにはありませんでした。しかし、失踪者リストにお名前が載ってらっしゃるのです。」

「それって、どういうことなんですか?」

「親戚の方から、19年前に出されているようです。家族全員が失踪者リストにあるケースは決して珍しいことではないんですが。」

「その場合、戸籍などはどういう扱いになるのですか?できれば、彼女を自活させてあげたいと思っているんで。」

「何か身分証明書はありますか?そちらを役所へお持ちになることで、手続き等ありますけど、認定死亡の取り消しと、戸籍の復古は可能になります。」


「...ただ、先程から申し上げていますけれど、実年齢での戸籍が復古となるので、彼女の場合は37歳、今はどう見ても...20歳ぐらいですか?」

「それは僕も引っかかるところではあるんです。ただ、現実に失踪者になっている人が、戸籍を復古させるには、それしか方法がないということですよね。」

「認定されればの話ですが、それでもいいなら、役所の方へ連絡を取ってみましょうか。」

「お願いします。」


ノーテンキに難しい話は聞き流していた彼女が、ここぞとばかりに、

「行方不明者と失踪者って、なにか違うの?イメージとしては一緒な気がするけど。」

「それは僕も調べた。行方不明者ってのは、捜索されているケースのことを言って、仮に君がそうなった場合は、親御さんがそうしていると思う。」

「だけど、失踪者というのは、他の身内、多分親戚とかから、役所に失踪者として届けられて、死亡者扱いされているってことなんだ。どうしてそうなったのか、理由は知らない。でも、君と、君の家族は、戸籍上は全員亡くなっているということになっている。」


「ふーん、殺されちゃったんだね。私。」

「世間一般から見たらそうなるか。しかし、そんなにショックでもない?」

「だって、現に生きてるし、今のこの状況が何より分からないまま、今日も生きてるんだから、そっちのほうが大事かなって。」

ま、そうだな。彼女が生きてたとわかったことで肝を冷やす人間がいるのかもしれないが、少なくとも、この世界で生きてるということのほうが大事だな。


「役所にはこちらより連絡しておきました。お手数ですけど、そちらの方を、役所へ連れて行ってあげてください。手続きはそれほどかからないようですけど、」

「けど、何か不安なことでもあるんですか?」

「実年齢と見た目が噛み合わないってケースは初めてですから、どちらかと言えば、そっちが心配です。本人曰く17歳ですよね?」

「思ったよりしっかりしていますよ。彼女も状況を受け止めていますから、まずはその役所で戸籍を戻してから、話し合いますよ。」




これはあとで知ることになるのだけど、当時、家族全員失踪というニュースがあったというのは事実だったようで、失踪当日に目撃情報があることや、ある時間までは父親の同僚が一緒にいたという証言などもあり、おそらくは最初こそ捜索届けが出された。届出が出された日付が、1999年の8月28日である。ただ、地方紙に小さく載った程度で、決定的な目撃情報があったにも関わらず、一切の痕跡すら残らなかったことで、捜索も完全に行き詰まったようである。唯一、所有車だけが発見された程度だったらしく、世間一般である、一家心中みたいな扱いになってしまった。ただ死体が出ることもなかった。結局、そのあとすぐに彼女も含めて、遺族が失踪届を出した、というのがことの真相のようである。まあ、遺産争いとか、そういう話になってしまったのかもしれない。出した本人たちは会いたくないと彼女は言っていたので、答え合わせはしなかったが、つまりは神隠しにでもあって、なんの運命のいたずらか、彼女は20年後に飛ばされたということである。だから、捜索すればもしかすると彼女の両親も見つかったのかもしれない。

結果だけ言うと、やはり彼女だけがこの時代に飛ばされた、という事実だけしかなかった。ご両親が100年後とかに飛ばされてたとしたら、果たしてどうなっていただろうかとは気になったけど、いない人間の話、机上の空論を証明するすべはもうないのだから、それで良かったと思う。


何より、時代改変が起こっていたとしても、今の僕らの時代にも、おそらく彼女は一人ということが証明されたのだから、僕や数人の人生は多少なりとも変わったかもしれないが、大多数の人には影響はなかった。それだけでも、世界は敵に回さなくて済んだのは大きい。ただ、この考え方が、後に二重の意味で甘かったということも、そのうちわかることである。




話を戻そう。

それからは、まあ、色々めんどくさいことのオンパレードだった。

役所について、本人の身分証明書が、学校の生徒手帳だったことでひと悶着、本籍地はもとの住所になる。戸籍の移動はいずれ考えるとして、あとはマイナンバーカードの手続きも一緒にやってもらった。どうも、彼女にはすでに新しい番号が付与されるらしいが、どちらにしろ出来るのは数カ月後らしい。お役所商売とはよく言ったものだが、これで半日掛かってしまう手際のわるさ。まあ、戸籍を手に入れたから、それで良しとしよう。


「ねえ、これでまた、この時代の人間になることが出来ました。もっと喜んで欲しいな。」

住民票の写しを見せながら、ニコニコ顔である。立場が定まったことで、彼女も安心感を得たのかな。でも、お役所仕事にはうんざりしてる僕は、

「本当ならそうしてる。けど、待っている時間が長すぎるんだよ。なんか揉めたの?」

「さっきの警察の人と同じこと言われた。あまりに実年齢と見た目が合わないって。」

まあ、タイムスリップしてしまった、なんて言っても信じてもらえないだろうし、今後もつきまとう問題にはなりそうかな。


「で、37歳になったお気持ちは?」

「私はまだ17歳なんです。あ、そうか、戸籍上は入籍出来るよ。どうする?ここで届け出しちゃおうか?」

「からかうんじゃないよ。その時が来たら、正面切って出しに来ればいいよ。ノリで出すものじゃない。」


「歳を取るのも悪くないって言ってた気持ち、少しわかったかも。」

ともあれ、どこかの探偵ではないが、見た目はまだ幼さも残る17歳、戸籍上は37歳という、不思議な娘とこれからを過ごしていくのか。

確かに合法的に結婚も出来るし、恋人ごっこしないでそのまま入籍というのも悪くはない。でも、彼女にはやっぱり自活してほしいんだよな。

「やっぱり、父親にしかなれないかもね。」

ひとこと、ボソッと呟いた。彼女にその声は届いたのかわからないけど、これから考えればいい。



「さ、ようやく一段落付いたので、いよいよ東京へ帰ろうかと思います。答えは聞く間でもないだろうけど。」

「一緒に行く。行って、迷惑がかからないように、一緒に暮らす。」

「とてもじゃないけど、暮らせるような家じゃないよ。大丈夫かなあ。女子高暮らしだったわけだし。」

「あ、女子高暮らしって、案外男子校よりもっとヒドイよ。ああ見えて、汚い世界だから大丈夫。」



帰路の電車の中でも、話は尽きなかったし、これぐらい前向きならば、まあ、心配事は多少あれど、なんとかやっていけるだろう。


ガチャ

「着いた。一人暮らしのオタクの部屋だから、驚くことしかないと思うけど、驚くなよ。」

「その言い訳、全然いいわけになってないよ。お邪魔しまーす。」



「...やっぱり違うところに住みたいな。」

「言うと思った。まあ、しばらくは我慢して、部屋を片付けてから、二人で暮らせるようにすればいいでしょ。」

「う~ん、夏休み、まだ残ってるんでしょ?その間だけ我慢してあげるから、二人で片付けしよ。」

とても片付くとは思えないが、まあ頑張ってみよう。守るものを守るための仕事と考えれば、それで十分すぎる大義にはなっただろう。


「改めまして、これからしばらくご厄介になります。よろしくお願いします。」

良く律儀と褒めてくれるけど、彼女も大概である。十分大人として振る舞うことも出来るだろうに。

「こちらこそ、面倒ばかり掛けるけど、よろしくお願いします。」

大人としての挨拶かな。僕にそうさせたのも、彼女のこの挨拶からだ。やはり、彼女に惹かれてる自分がいるのは、認めざるを得ないようだ。


「ニシシ、少しの間だけ、私を育ててください。オトーサン。」

「努力はするよ。父親として、君を一人前にするまで、そこまでは頑張るよ。」




かくして、枯れたおじさんと、女子高生、もとい17歳無職の女の子の同居が始まってしまった。



今日はこの辺で。

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