Life 2 Perhaps a lover? Daughter? 偽りの親子関係?恋人関係?

2018年8月28日。かくして僕は、保護者になって、初めての朝を迎えていた。

ひとまず友人に会うと適当な理由をでっち上げ、彼女をホテルに迎えに行った。もちろん、彼女が出てこなければそれでいいし、真夏の夜の夢という話でも悪くはない。

ただ、残念ながら僕を保護者として、何かの運命を与えようとする神みたいな存在が、それを許さないんだろう。


「おはようございます。って、なんか仰々しいかな?」

満面の笑みを浮かべた彼女。いかにも今を楽しんでいるという顔を見ると、落ち着く一方で、心配にもなる。

「おはよう。元気で良かったよ。」

軽く会話を交わす。ホテルに関して色々話したいことがありそうだけど、まあ、聞く機会はいくらでもある。

本当は元の世界に戻って欲しいところだったけど、目の前にいる以上は、少なくとも彼女と向き合うしかないのだなと感じる。


迷い猫と言うと聞こえはいいが、とにかく控えめながら、常に僕のどこかに触れたがる。20年後の世界で、彼女ができる精一杯の繋がり。

これが恋人でもなければ、親でもない、保護者だから平静を装うことができる原動力かもしれない。



しかし、そうだなあ、毎日同じ服でも良くないし、どうもこの制服ってのが抵抗感あるのと、親子感が周りににじみ出るんだろうなと思い、まずは衣類でもプレゼントしてあげようと思った。僕に娘がいたなら、きっとそういうことはしっかりしてあげるはずだ。

「とりあえず、服でも買いに行くか。ちょっとその制服だけ毎日着るんじゃねぇ。」

「それって、今の服を買ってくれるってこと?結構嬉しいかも」

...結構なのね。ランクがよくわからんけど、まあ服を買うにも予算はないので、高いブランドは買ってあげられない。

「しまむらか、そんなぐらいで良ければ一通りは買って上げるよ。制服よりは気楽になるだろ?」

「え、しまむら?やだよ、あれっておばさんが行くようなお店だよ。」

「20年前はそうだったけど、今は若い世代の衣類も充実してるよ。僕のことを信じるなら、この時代のことも、ちょっとは信じて欲しいかな。」


ともあれ、車を走らせた。さすがに車は持っていないので、レンタカーを借りて、色々彼女の身の回りのアイテムを揃えるぐらいのことはしてあげよう。

「そういえば、イオンモールなんかも知らないよね」

「イオンモールって何?またなにか新しい場所?」


うーん、どうもね、ギャップがすごいんだよね。僕が彼女に持つイメージというのは、クラスではあまり目立たない、幸薄そうだけど、周りに負けないぐらい整った顔立ちで、妙に男子受けするような感じの子だった。当然ながら性格もおしとやかというか、そういうイメージが強かったが、本物の彼女はどうも違うらしい。もっとアグレッシブで、きっとこの世界のことをもっと知りたいという好奇心で溢れているのだろう。


「ショッピング・モールっていうのがあるだろ。昔は...あ、ジャスコだったなあれ。そこにブランドショップなんかが併設されてるという感じ。」

「ジャスコって、あのジャスコ?洋服なんて売ってる?」

ジャスコも生鮮食料品しか売ってない店舗も多かったし、彼女はそう思ってるんだろうな。

「まあ、行ってみてからでも遅くはないよ。とりあえず、服をなんとかしよう、終わったら見て回ってもいいしね。」

「うん、行ってみたい。色んなものを見てみたい。」

「ただ、あんまりおねだりされても、甘やかすことは出来ないからね。そこは釘を挿しておくよ。」

「...惜しい。でも、20年違っても、お金の価値は変わらないから、私も自分で欲しいものは、自分で払う。でも、そんなに持ってないかな。」

そこは理解してるんだな。いや、年齢上は子供であっても、ごく普通の女性なんだし、何より同じ年代の男子に比べれば、よほど聡明だろう。



ふと、この状況が20年前だと、援助交際に見えなくもないと思った。いや、20年経っても、援助交際は続いてるけど、彼女はどう思っているのだろう?

回りくどい話を抜きにして、ストレートに聞いてみることにした。

「これって、援助交際みたいなものなのかな?立場的にそういう立ち位置なのかなってちょっと思って。」

少しうつむく彼女。言われてみるとなのか、縁の切れ目を感じたのか、やや曇った表情を浮かべつつ、

「そう思える?少なくとも周りにはそう見えてる?見えてたとして、ここでおしまいは嫌かな。」

小声でつぶやくように、自分の気持を確認するするように、続ける。

「一人はね、本当は嫌なの。将来はどうでもいいけど、今だけは、一人でいたくない。」

この顔は人を悲しくさせる。もともと顔立ちがいいだけに、感情が顔に出てしまうのが、魅力的であり、感情的にもなってしまう。

「だけど、安心できる。私が君にいくら貢がせようと、君は私を大切に扱ってくれる。この時代で今のところ唯一信頼できる人かな。」

軽く貢がせると言ってますけど、まあそこは気にせず、彼女に付き合ってあげるようにしよう。

「それじゃあ、しっかり父親ぐらいは演じてみせましょうか...。」

人の親にもなったことのない人間に、こんなセリフを言わせてしまう。彼女が冗談を言っていないからこそ出る、感情的な本音だ。

「だから、簡単だよ。付き合っちゃえばいいんだよ。...君もわからない人だね。そうだなあ、エッチぐらいならしてもいいよ。」

ニシシと微笑みつつ、続ける。

「普段恥ずかしいから言わないけど、割とモテたんだから、少しは私もうぬぼれていい容姿はしてると思うんだよね。」

うう、そう言われると反抗出来ない。ただ、20年の経験値の差は少しでも見せたい。

「そうだよ。僕が告白したのは、後にも先にも君だけ。魅力がないなんて、見る目がないだけだよ。」

「そういうセリフを言えるだけで、私の方は十分付き合いたいのに。大人になっても、そういうところは律儀なんだよね。偉いけど、ちょっと悔しいかな。」


噛み合わない年の差。付き合う資格は十分だという17歳の彼女と、大人だからとかわして父親ヅラしてしまう38歳の僕。

別に彼女でもいいとは思っているけど、やっぱり歳だけは取りたくないな。どうも若者の頃の気持ちが思い出せないから困ってしまう。せめてあと5年ぐらい早く出会えれば、きっとその話に乗っただろうになと思いつつ。そういえば、「恋は雨上がりのように」ってマンガがあったけど、そんな感じであまり進展しないまま終わったような。


「とりあえずしまむらな。僕が頑張って働いて払うから、まずはここで何着か服を買っていこう。」

まるで恋人同士の言葉みたいであるけど、これは完全な親心から出ているセリフなのが、哀愁を感じる。


「車の免許って取ったほうがいいよね。特に栃木は電車だけじゃ無理が多すぎ。」

「宇都宮ぐらいバスが走っていれば、不自由はないんだけど、ここは小山ですからねえ。車社会だよな。」

「ねーえ、ここ本当に20年後?しまむらの外観が何一つ変わってないんですけど。」

「なかなか鋭いね。だけど、今やメンズも取り扱うぐらい、マジなファッションセンターだからね。」

しまむらをバカにしないでいただきたい。今はコラボもマメにやってるし、いいお店だと思う。俺はプロデューサーとしてお世話になったので、頭が上がらない。


...女性の服選びというものは非常に長い。そしてしまむらはマジファッションセンター。

見ていて飽きないし、ちゃんと現代の服を着こなす。こういうところを見せられると、やっぱり普通の17歳なんだなと実感する。

制服を着ているから地味子なのであって、現代では、一回りして、こういう見せ方をしている女性もいる。

いや、もともとの素材がいいんだ。昨日もほぼすっぴんだったのだろう。大人が経験を見せるなら、子供は若さを見せつける。まあ、子供とは言い難い年齢だよね。17歳か。

存分に今を楽しんでいるのも、いいスパイスになっている。

あと、元々のセンスがいいんだろう。私服姿の彼女は1回ぐらいしか見たことなかったけど、確かにモデルみたいな着こなしだった記憶があった。


しまむらで38,960円。これ、しまむらのレシートの長さなのか?居酒屋で悪ノリした兄ちゃんたちが5人ぐらいで払う長さしてるぞ。

「本当にファッションセンターだった。満足満足。」

まあ、下着から揃える以上はこうなるよね。しょうがないとしか言いようがない。



「日も高いし、それじゃお昼がてら、イオンモールにでも行ってみようか。足りなければ日用品も買えるし。」

「これだけ買ってもらって、制服から着替えさせてもらっただけでも感謝だよ。なんでそんなに無償の愛を注げるの?」

「親心ってのは不思議なもんだよ。こうやって若い感じで話してるけど、なんか使命感に駆られるというか。」

「はいはい、感謝してます。オトーサン。」

...嫌味で言ったな。あとで覚えてろよ。



田舎のイオンモールというものは、大概にして恰好のカップルのデートスポットである。

1日いても飽きないらしいけど、やっぱり僕はその辺がズレてるので、せめて巨大な100円ショップを1時間ぐらい掛けて見るぐらいしか過ごし様がない。

「とりあえず、フードコート?それとも店?どっちでもいいよ。」

「ここは好きなものを選んで欲しいかな。ね、エスコートしてみてよ?」

イオンモールでエスコートですか。そんな格式高いようなお店ではないですよ。もっと庶民派です。


とはいえだ。いざエスコートしてみようにも、そういうお店があるわけでもないのが、イオンモール。高級食材は買えても、高級な料理を食べるようなお店はない。

ひとまず、はしゃぎっぷりを見てる限り、何かに期待してそうなのはわかるんだけど、20年で新しい食べ物なんてそうそう...あ、サイゼリアがある。20年前は存在すら知らなかったし、ちょうどチェーン展開し始めたころだろう。なにより、今の俺には財布に優しい。


「サイゼリア...イタリアンレストランなんてチェーン店になるぐらい流行ってるの?」

「サイゼは、まあ、なんだ、イタリアンレストランといえば、ぐらいのお店だよ。気にせず入ろう。」



...女性のメニュー選びは非常に長い。そしてサイゼリアはマジ庶民派。

いくら頼んでも大した額にはならないし、何より見たこともないような食べ物もあるみたいだ。片っ端から注文していくけど、大したことではない。


「すごいね。割と本格的なイタリアンのメニューで驚いちゃった。」

「これからしばらくは嫌というほどファミレス飯とコンビニ飯は食うことになるから、覚悟はしておけよ。」

「うん、なんかそれだけで満足。なんだろね。ウキウキしちゃう。」


言いようのない量の料理が運ばれてくる。さながらフードファイトのようだか、それでもなんとなく他愛もないおしゃべりをしていれば、それなりに片付くのね。

ここ半日で彼女に起こったこと、疑問に思ったことを次から次に答えていくように、料理も進む。例えばホテルで女性限定サービスの化粧品サンプルセットをもらったとか、20年前は影も形もないホテルの液晶テレビの薄さとか、20年後でもSurfaceの「さぁ」が流行ってるの?とか、そういえば、その芸人もしばらく見てないな。


身長は160cmぐらいだろうか。細身のどこにこの食べ物を押し込むスペースがあるのだろうか。あるいはうまいこと体型を誤魔化してるのだろうか。いずれにしても、大柄ではない彼女にしては、よく食べ、よく喋り、よくはしゃいだのだろう。あっという間におやすみの時間、世間では昼寝というらしいけど、そういう感じになってしまった。まあ、サイゼの人も少し休んでいっていいと言っているので、そのまま寝顔でも拝見することにした。

顔立ちのいい、地味子というのは、一見すると矛盾をはらんでいるが、一方で幼くも大人っぽくも見えるから困る。美魔女ではないが、現代では30代や40代が普通に年齢不詳になっていることを考えると、案外、彼女にとっては、昔より住みやすい時代になったのかもしれない。

あと、寝てるから強いこと言えないのだが、どうも手だけは握りっぱなしだ。これのせいで、ドリンクバーにも行けないし、スマホいじりも出来ない。まあ、ここは役得として、彼女の寝顔をそばで眺めつつ、自然ともう一方の手で頭をなでてしまった。これが魔力というやつですか。



...お目覚めですか?

「あ、寝てた。ごめん、迷惑掛けちゃった。起こしてくれても良かったのに。」

「僕がそうしたかったから、そうしてたんだよ。お店には迷惑が掛かっちゃったかな。」

そそくさと出る準備をし始めた。俺もお嬢様の荷物でも持つか。

「そろそろ行こうか、お店の人にも謝っておかないとね。」

お嬢さん、お綺麗ですね、とお会計に言われた。これがスタンダードな世間評である。そして何回も頭を下げる彼女も、店員さんを思いやる、また立派な女性の一人だ。


「満足した。昼寝もさせてもらったし、お店の中でも暑いもんね。」

「暑いと思うよね。20年で温暖化が進んだと思うよ。今の暑さは異常だ。」



「っと、どうしようか、別にホテルにチェックインしても構わない時間だけど、そんなわけないよね。」

「当たり。さすがオトーサン。喋りたいことも、伝えたいことも、いっぱいあるよ。」

ハンバーグ師匠がツッコミを入れてきそうなセリフだけど、今の彼女は、これが必死なのだろう。頼る相手がいない世界を想像した時、それは恐怖にしかならない。


一方で、そう懇願する、顔立ちのいい地味子というのは、ニッチな人間には良く映る。確かに制服を着ている彼女からすれば、2018年モデルの彼女は、どこか幸薄そうな雰囲気を持ちながらも、健気に生きているような、きれいな顔立ちだった。彼女の魅力には思わず引き込まれるが、そこは倫理観と、先に出てくる親心がストッパーになっている。

どこに出しても恥ずかしくない、立派な娘だと思う。いや、育てているわけではないし、99%は彼女の資質で成り立っている。


喫茶店に入った。落ち着いた雰囲気が欲しかった。こういう場所でも、彼女は絵になる。


「まあ、今で言うパパ活とか、そういう類のことなのかな。」

援助交際も20年すればパパ活というカジュアルな言語に変わっている。日本語というものは、常に広いスケールで受け入れる土壌を持ち、あっという間に伝染してしまう。僕が国文学者なら、このメカニズムを解明する研究をしてみたいが、勤め人が同人研究でなんとかなるようなものではない。

にしても、親子に見えてるようで何より安心している。僕も30ぐらいから見た目があまり変わっていないらしいとよく言われるので、若い父親で通すのも、悪くはない。

「パパ活?知らない言葉ばっかり使うよね。またいかがわしい言葉?」

「いや、エンコーも20年するとそういう同意義語があってね。似たようなものだよ。今はレンタルおじさんってのも商売にあるぐらいだしね。」


「ねえ、君は、レンタルお父さんなの?それとも、男女の関係になりたいのかな?」

「無理しなくていいし、今は君の保護者だ。それ以下ではないから安心していいよ。」

「でも、それ以上の関係なのかな?もう買ってもらうものは買ってもらっちゃったしね。本当なら、お返ししなきゃいけないんだろうけど」

切なげな表情。やっぱり、彼女もしっかり育てられた家の人間だ。その恩義は十分にわかっているみたいだ。

「なに、ひと夏の思い出ってことで、予算計上しているから安心していい。他に必要なものがあれば、極力買ってあげる。」

またも飛び出したプロポーズである。でも、別にそういう意味で出た言葉ではない。頼る相手のいない怖さは、僕もこの20年で理解した。一人は怖い。だから、せめて目の前に偶然現れた、20年越しのこの女性だけは、どうにかして後押ししたい。

「じゃあ、ホテルで、しちゃう?もう我慢しなくていいんだぞ?」

緩急の付け方がうまいんだよなあ。どこからこの話術を身に着けたんだろうか。やっぱり女子高の力は偉大だったのか。

「とはいえ、君がそんなにエッチ出来るような女の子じゃないことも知ってるけどね。そういう覚悟もあんまりないでしょ?」

「あ、やっぱり知ってたか。本当は保健体育の授業で習ったのと、友達に実体験を聞いただけだから。まだ処女です。」

「そういうのは言わなくていいんだよ。興味があっても、こういう場で、あんまり男にそういう話をしちゃダメだよ。今はそれだけで勘違いするやつも多いからね。」

「もちろん。それは君の前でしか言わない。でも、君とだから興味があるんだよ。知ってるでしょ?」

しかし、僕のランクというのは、彼女の中では爆上がりである。元々何人かに話していたというあの話は、本当に数人にしか話してなかったのかも知れない。


ふと、20年前の話になった。

「20年前の生活ってそんなにイヤだった?ほとんど見覚えはないけど、ちゃんと女子高で生活してたじゃないの?」

「両親とは成績と進路の話、教室に行けば特に興味のない他愛もないおしゃべり、受験して、手に職をつけろってさんざん言われてた。」

よほどずっと言われてたんだろう。嫌悪感すら感じる強い口調である。

「予備校に行ってたのは、家にも居たくないって気持ちが少しあったのかもしれない。でも、両親には感謝してた。」

言うまでもなく、僕らの世代は就職氷河期世代であり、未だに社会で地位を得られていない世代だ。賃金もある一定からは上がらず、頑張っても所得税と保険料だけで何割取られてしまうものか。これが20年後の現実でも、だろうか。まあ、しばらくは彼女に関係することではない。


「でも、半日考えたの。もう、戻ることが出来ないのであれば、運命を信じて生きようって。だから、何度も言ってる通り、私は真剣にお付き合いしたいです。」

「...知ってる。そして、その気持ちに報いるために、僕は君の保護者をやってる。今はこれで許して欲しいんだ。」

「3回目かな。本当にそういうところが真面目で律儀。だから好き、オトーサンの君も好き。」

20代から、なぜか隠し子疑惑を色々な人から掛けられてきていたけど、いざ父親として認めてくれるような状況になると、こっ恥ずかしいことしかない。

「男性として魅力あるんじゃない?独身なんでしょ?出たとこ出たら人気ありそうなのにね。」

「もてない、というより、あんまり人と関わりたくないんだよ。そういう生き方が好きなんだよ。」


「一人で生きるって、最高にワガママなんだよ。自分だけ責任を取ればいいだけだし。でも、君が現れたから、考えを少し変えたよ。」

僕も腹をくくった。もうそこまで言われてしまった以上、この子を育ててあげたい。

「嫌かもしれないけどさ、しばらく一緒に棲んでみよう。どうするかは、二人で考えればいいよ。」


「うん...」

やっと満足げな表情を浮かべてくれた。彼女のことをどうするかは、二人で考えればいい。そして一つ一つクリアしていけばいいんだ。

「なんか、嬉しいかも。これって同棲ってことだよね。うわ、なんかすごく恥ずかしいんだけど。」

きっと、彼女も気持ちが伝わったことに喜びを感じてるのだろう。あるいは恥じらい?まあいいや。

「まあ、だけど、君の気持ちが一番とはいえ、今は保護者と社会的には子供の関係だ。何度も言うけど、しばらくはそれで通して欲しい。」

「うん、わかった。出来るだけ努力する。努力するけど、出てきちゃったらごめんね。」

「その時はしっかりエスコートするつもりですよ。お嬢様。」

「お嬢様じゃないもん。...同い年の男の子だったら取り乱すと思うけど、そこは大人なんだよね。」

「伊達に歳だけ取ってないよ。僕も僕なりに生きてきたから、かな。」




結局、1日デートしていたようなものだったが、荷物がとんでもないことになってたことに、レンタカーを返す時に気づいた。

もう、しばらくは二人で、汚い部屋の中で暮らすと決めた以上は、荷物はそこに送って、明日帰る用の服だけ出してもらった。


「やっぱり、一緒にごはん食べようよ。」

駄々をこねる。年頃なのだし、やっぱり離れたくないのだろう。本心が見えた以上は付き合ってあげたいが、

「ごめん、保護者だけど、僕も人の子なんでね。実家でご飯食べるぐらい許して。」


じーっと見つめる。別にやましいこともないし、帰省した意味もあまりないし、何より一人の時に、色々と問題を潰しておきたい。

彼女が抱える問題は多岐に渡る。それを如何にして解決するか。そこを考えておきたいのだ。

「うん、あんまり困らせるのは、今日はやめる。最後に手をギューッと包んで。」

不思議なおねだりだ。また一晩、一人にさせるのはちょっとかわいそうではあるが、気持ちを込めてギューッと包んであげた。これが、今できる精一杯の愛情表現だ。


「またあしたも迎えに来る。その後は、東京へ行こう。」

「待ってる。...あ、夕飯代貸して?」


けど今の僕らのテンポはこれでいい。変わっていく彼女も見ていきたいけど、今の彼女も焼き付けておきたい。


「ありがと。また明日、迎えに来てね。」

ホテルの前で別れた。あれ、そういえば一晩どうとかいう話、やっぱり真剣に考えてなかったのかな。まあ、そんなことを考えてる余裕がないんだろうけど。




今日はこの辺で。

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