娘と、僕の同居生活(新訳版)

Life Re:4 Understand her ecosystem. 季節とともに、君は変わっていく

2018年9月。

帰省が遅れたが、夏休みという名の苦難の日々から、ようやく日常に戻ることになった。


意外であったが、彼女は、割とズボラであった。

ここ2日で部屋を片付けるという話だったけど、結局は布団を敷くスペースさえ確保しちゃえば、それで特に問題なく生活に順応している。

万年床を受け入れてくれる娘がいるというのは、それだけで貴重だと思う。でも世間的にはだらしない感じだ。

パジャマは着ない。この前にも話した通り、Tシャツにハーフパンツというラフな恰好。なんでも、これでちょっと薄化粧して、買い物に出ているらしい。


そして、彼女は寝起きが悪い。いつもの生活に戻るにあたって、7時40分出勤の僕を、よろよろになりながら起きて見送り、どうも二度寝をしているようである。

二度寝するのはいいんだけど、その分、夜は割と元気なんだよね。別に元気でも、静かに寝てくれればそれでいいんだけどね。

大体19時ぐらいまでには帰宅するが、そのときには夕飯がある。

彼女には1日1000円の食費、二人で食べる夕飯代を渡している。が、これなら自炊を諦めて、ほっともっとにでも行ったほうが、好きな食べ物が食べられる。

食べられないご飯に比べれば、インスタントでもお惣菜でもいい。これをきっかけに何か作れるようになってくれるとありがたいんだが。

まあ、その夕飯も、残念ながらインスタントやスーパーのお惣菜が並んでいる有様。作ってない。

一人暮らし歴20年と比べるのは酷ではあるが、彼女は自活出来ない。あの時に会ってなかったら、おそらく餓死しかねなかった。そう思えてきてしまう。


あとは、気まぐれで、教えてあげたLINEを使って連絡が来て、駅まで迎えに来てくれることもある。

「おかえり~。今日もお疲れ様。」

「うん、ただいま。それにしても...うーん、君のその恰好。ちょっと普通の人には刺激が強いかなって思うよね。」

「え、そう?涼しくていいよ。」

「いやいや、東京も安全じゃないって意味。その恰好で、例えばこの辺に住んでいる外国人に目を付けられて、誘拐されても、僕はどうすることも出来ないんだよ。」

「わかった。迎えに来るときは、少しおしゃれして来る。」

「そっちのほうが、安心出来る。で、今日はまだ夕飯は買ってないのかな?」

「うん。それに、君がいると、少しオーバーしてもいいご飯が食べられるじゃん。」

「僕の財布をあてにしないほうがいいよ。僕はここから、昼ごはんも出しているんだから。」

「あれ、意外と厳しい状態だったりしたんだね。ごめんね。私がしっかり考えればよかったかな。」

「まだそこまで考えられなくて当たり前なんだよ。君は、まだ順応する時間だから、色々知っていこう。」

そうして、頭を撫でてあげた。撫でてあげると、彼女は機嫌が良くなる。

「ありがとう。私、もっと頑張るからね。じゃ、帰ろう。」


なかなか想像とは違う、甘い生活ではない、本当に子育てパパの気持ちになる感じが日に日に増してきている。

一応、日常生活に慣れればバイトも許可した。高卒認定試験を受けるなら、僕は補助するほど生活に余裕がないから、自分で稼ぎなさいと言っているが、どうも本人にその気を起こさせない限りは、バイトもしばらくしないだろう。でも、この時代に順応する時間もそれなりに必要だ。

そして、20年も一人で生きてきたからなのか、彼女との会話は心地いい。聞き流しとはいえ、相槌を打って、帰ってくるというのは、やっぱり生活に潤いをもたらすのだろう。なんとなく、活力というか、生きてる原動力が湧くというか、そういう気持ちにさせられる。思った以上に、責任を負うというのも悪くないものだと思っている。


僕の好きだった少女は、本人が嫌悪感を示したように、色々な監視の目を受けて生きてきた。それをすべて取り払った彼女は、僕が思っていたよりも、だらしなかった。それでも僕は彼女が好きなんだと思うけど、今はそれで甘やかしているだけなのかもしれない。でも、それが彼女の生きるために必要な要素であれば、僕には止める必要はないと思ってる。



「で、オトーサンは、やっぱり私のこと、心配だったりする?」

「そうだね。本当なら、家に一人で留守番させておくってことが心配。むしろ、バイトにでも行ってくれたほうが、僕は安心する。君を信じてないわけじゃないんだけど、やっぱり、誰かに見てて欲しいんだよ。それに、万が一、君がまたタイムスリップしちゃうってことも考えられる。その時、僕はどうしたらいい?」

「ということは、オトーサンには、私が常時誰かに見られてたほうが安心するのか。」

「今の生活において、君のプライベートがほぼないのも知ってる。プライベートな時間があるとすれば、僕が会社に行ってる時だ。」

「う~ん、私としては、君と二人でいる時間もプライベートかな。君に色々教えてもらえたり、君と話してるだけで、満たされる思いみたいなものがあるんだ。」

「そうなんだね。案外、僕は邪魔な存在かなと思ってたけど、そうでもないのか。」

「大好きな君にそんなこと言えるわけないし、何より二人で寝て、起きてるなんて、すごいことじゃん。私、それを17歳で実感出来てるんだよ。」

「そう。いや、こんなおじさんと、汚い部屋で暮らしてるってことに、不満を持つのが当たり前だと思ってたからさ。」

「汚い部屋なのは、多分私が一人になっても同じ。だから、君のことは責められないもん。」

そう言えば、僕は中学の、本当に一時期の彼女しか知らないし、実は私生活ではオープンマインドだったのかも。

そんな感じで夕飯をぱくつく。本当ならば、もう少しまともなご飯を食べさせてあげたいところだけど、なかなか難しいのも現状だ。


「お風呂空いたよ。」

最近、お風呂上がりは、ショーツにノーブラTシャツ。全く、うちの娘は警戒感がないのだろうか。

ちょっと長めのミディアムボブをドライヤーで乾かしている。爆発している彼女も愛嬌があるけど、なかなかクセが治らないらしい。

...うーん、ドライヤーはナノイオンドライヤーだから髪ツヤはいいんだよなあ。いや、やっぱり育ちがいいんだよ。そういうところは手を抜かない。

なんでナノイオンドライヤーなのかって?僕も案外髪の毛にはお金かかってるんです。黒髪だけど、未だに生え際も変わらないし、髪ツヤも女性の同僚には褒められるレベルですよ。


「飲む?」

「ん、飲む飲む。」

ミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、いつものマグカップに並々と注いであげた。こういうところも育ちのいいところ。

ごくっ、ごくっ、っと喉を鳴らす。運動部の休憩時間みたいな水の飲み方である。


いつもの風景だけど、Tシャツにははっきりとした膨らみ、そして先端もはっきり。そして下半身に至っては下着1枚だ。

日常の風景として見慣れてるとは言え、他人にはとても見せられない格好である。

なんでも確信犯的にこういう格好をしているらしい。彼女からしたら「そういうとこだぞ」って言われる。

無論、そういうとこだぞの意味は理解してるけど、娘に手を出す親がいますかって話だ。


洗濯物置きには脱ぎ捨てた下着。特に恥じらいもない。これも普通のことだし、そのまま洗濯機に入れて一緒に洗う。

こういうところは割と雑、おっさんの下着と一緒に洗われることには抵抗はない。

うちは洗濯乾燥機だから、おおよそ1日の洗濯量だったら、乾いてしまう。せいぜい洗濯物を畳むぐらいしか作業はない。時間があれば彼女がやってくれる。

まあ、そうじゃなくても、洗濯した自分の下着ぐらいはしっかりとしまう。流石にそこには恥じらいみたいなものがあるのかな。


ぬるくなっているお風呂を湯沸かしで温め直し、お風呂に入る。

シャワーだけだったんだけど、やっぱり毎日お風呂に入るだけでも、少し心に余裕は出来るものらしい。

悪くはない。まあ、これでガス代も水道代も倍以上になってるのを考えると、ちょっと考えものだ。


年頃の娘とは言っているけど、赤の他人、女性と棲んでいるわけで、当然ムラムラっとすることもあるだろうと思っていたが、これもさっぱりである。一つはずぼらであることがわかってしまったからか、それと倫理観といいたいところですけど、なぜか自分の中で娘だと思っているせいか、本気でなんとも思わない。これは意外だった。まあ、さすがに密着されてしまうと、男の性が目覚めてしまうけどね。

特にユニットバスということもあるけど、トイレが我慢出来ない時なんかに断って入れば、チラッと裸が見えたりするし、お風呂から出てくればバスタオル一枚で水を飲んでる。誘惑するようにチラチラと見せてくるのがまた小賢しいのだが、そこまで堂々とされると、特に何も思えなくなってしまう。慣れなんだろうな。本人も、別に裸を見られることに抵抗がないという話をしてたし。そもそも女子校暮らしで、裸を見られるような状況なんて、プールの授業ぐらいなのかな。まあ、確かなのは、下着姿でウロウロされることも、もう慣れたということ。あまりに恥という感覚がなかったことには、父親の立場では、ちょっと心配なところだ。


どっちからでもなく、だいたいゼロ距離になる。部屋が狭いというのもあるんだけど、ついつい、TVのある方向を向くと、同じようなところに座ることになる。すると、彼女のほうが寄りかかってくる。新婚ならスキンシップの一種として許されそうだけど、僕らは一応親子だから、こういう関係はどうなんだろうかなと思いつつ、彼女から近づいてくるから、特に嫌なわけでもないんだろう。


さっきの格好のまま、

「ねぇねぇ、やっぱり、オトーサン役辞める気ないの?」

いつものように寄りかかった彼女が、なんとなくいつもの空気で聞いてきた。


「ねぇ、お互い裸も見てる同士だしさぁ。せっかくだからつまみ食いをしようとか、そういう感じにならなかったりしないの?」

「う~ん、彼女として見るなら、毎日でも頑張ろうってなるかもしれないけどさ。」

「しれないけど?」

ニヤっとした感じの目。だいたいからかっているときの目だったりする。

「そうねぇ、できることといえば、こんなぐらいだよ。」

横で寄りかかってる彼女を強く抱きしめる。彼女が寂しくしているときには、必ずやっている、落ち着かせ方みたいなものだろう。

「...苦しい、けど嬉しい。」


スキンシップが好きなんだろうけど、流石にキスしたり、体の関係を持つようなことは、やっぱり倫理的にはまずいと思うんだけどね。

「今ならピッカピカの処女を抱くチャンスが毎日のように転がってるんですよ?そんなチャンスをフイにしちゃうのは惜しいと思うよ。」

抱きしめている中でもこんなことを言う娘になってしまっているけど、欲求不満なのか、それとも俺のほうがあまりに無欲なのか。

「君は僕の娘として生活しているんだから、罪悪感もあるけど、体までズブズブになる気はちょっと考えられないよ。」

そう言いながら、いつものように頭をなでてあげる。せめてもの恋人ごっこと思ってしてあげている。

「別に君が嫌いってことでもないし、むしろどうしたら君が喜んでくれるかやっぱり考えちゃうし、それが君にとって苦痛だったら、やらないようにする。僕も初めてばかりだから。」

「知ってるし、ワガママはできるだけ言わない。私も、君の負担になりたくない。だけど、君が本気だったら、私は君にすべてあげる。それぐらい、好き。」

「好きなのを知ってて、ズルい娘だね。だけど、どこかで一線を超えないようにしないと、二人で生活してて亀裂が入ったりしたら、嫌だろ?」

「嫌。絶対に一緒にいる。一緒にいたいけど、誘惑したいのも私。それぐらい、君に本気。少しは気持ちを受け止めて欲しいと思ったりするんだよ。」

「分かってるつもり。だけど、やっぱり僕には、君はまだ娘として接していたいんだよ。それで、同居生活が長続きするんだったら、僕も仕方ないと思ってるよ。」


「そうやって、真面目だから好き。」

小声でいう。最初から襲われることなど考えていないような発言だった。

「だから、オトーサンって呼べるの。もっとチャラい関係だったら、私はもっと苦労したのかな?」

耳元でささやく。おそらく傍から見たら恋人同士の行為に見えるだろうけど、それが日常になってしまっている。

「苦労させたくないんだよ。だから父親としてなんとかしてあげたい。さっきも言ったけど、日々考えてるよ。」

「そういうところなんだよね。半分口説いてるような発言、ずるい言い方だよ。」

目線を合わせて来る。ああ、この目には弱いけど、僕も親だから、スマートに対応する。

「そう?預かってる身とは言え、自分の娘が不幸にならないようにすることを第一に考えてたら、セックスできる年齢でも、流石に大事にする。」

この娘がいるから、なんとなく生きていても楽しくなった。それだけで十分だから。

「僕も君のことが好き。好きだから、父親役を必死で務める義務と戦ってるんだよ。思ったような展開にならなくてごめん...ってのもおかしいかな。」

「ホント、そういうとこだぞ。ずるいんだから。」


「でも体は正直でよろしい。」

まだ10代、肌のハリも良く、柔らかさとはまた違う感覚を覚える。だから体は無意識に反応してしまう。情けないのか。ちゃんとした反応なのか。

「やっぱり、若い娘とハグしちゃうと、どうしても。ごめん。」

男の生理現象を理解しているからこその誘惑だ。もしかしたら受け入れてくれる。間違いに身を委ねてくれるという期待みたいなものが、彼女にもあるのかもしれない。

「エロい妄想でもしながらスッキリしてきなよ。私はもう大丈夫。今日も安心して眠れる。」

彼女は安心できたらしい。あとはいきりたってしまった僕の方をどうするか。

まったく、君という娘は、厄介だけど、理解のある娘だね。でも、君をオカズにする罪悪感というものも、ちょっと考えて欲しいなぁ。



夏から秋へ、季節は変わっていく。が、やはり四季というものは、突然切り替わるものに変貌しているようだ。

とある休日。あることを頼まれた。

「履歴書の書き方を教えてよ?」

前々から言っていたけど、やっぱりバイトを始めるようだ。


「で、なんのバイトをやるの?」

「近くだとコンビニがあるから、どっちか取ってくれたほうでやる。」

戸籍上は38歳だからなあ。しかも高校中退で今まで職歴なしって、結構な地雷臭しかしない。とはいえ、色々ややこしいことを説明するのも面倒だからなあ。


彼女はテキパキと履歴書を書き、応募の電話もしていた。iPhoneで、電話できるだけで進歩したなあと思う瞬間。

「それじゃ、行ってくるね~。」

と、ゆるい感じでアルバイトの面接に向かっていった。


程なくして、電話がかかってきた。案の定とは思っていたけどね。

「はい、...です。」

「えーと、...さんの親御さん?で合ってますか。某コンビニの店長をしております、...と申します。」

「あ、もしかしてうちの娘の話ですか?」

「ええ、履歴書を拝見いたしましたところ、経歴と実年齢に差異が大きく、ちょっと困っておりまして。」


まあ、当然の結果だし、僕が出向いて説明したほうが早いだろう。

「分かりました。私がお伺いして、彼女のことに関してご説明させていただきますので、少々お待ちいただきたいと思います。」

「お手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願い致します。」


と、あっという間にコンビニ。まあ、そりゃ毎日通ってるようなところですから、僕も顔が割れてる。バイトの人に、

「お客様のお連れ様だったんですね。」

と言われるぐらいには、行っている場所なんだよなあ。

「実年齢は38歳ですけど、この見た目だと、確かに18歳ぐらいにしか見えないですよねえ。」

「仮に18歳でも、私は働いて、少しでも自分の夢に近づきたいんです。お願いします。ここで雇ってください。」

店長?オーナー?いずれにしてもあまり見ない方なんだよなあ。彼の顔はやや渋い。経歴だけ見たら問題あるもんね。

「事実だけ申し上げると、この娘は18歳なんです。本当ならば高校に通っていたのですが、諸事情あって、今のような形になり、私が育てているんです。」

「ということは、戸籍上は38歳だけど、実際には18歳と。」

「彼女、実は行方不明になってた時期があるんです。そのため、実年齢と戸籍上の年齢が合わないという問題が出てきているんです。」

「...う~ん、事情は分かりました。ということは、社会人経験もないし、最終学歴も、ここにあるように中卒と。」

「出来れば高卒認定試験なんかを受けさせて、大学に進学させたいと思っています。そのための一歩なんです。私からも、よろしくお願いします。」


「お嬢ちゃん、仕事っていろいろなことがあるけど、耐えられるかい?」

いつも見る、おばちゃんの店員さんが割って入ってきた。

「オーナーさ、立派じゃない。仮に長い期間家で引きこもってたとして、そこから一歩踏み出そうと、アルバイトを始めてみる勇気。そういう意気込みを買ってあげたいよね。」

「おばさん、私、立派に仕事をこなせるようになりますか?」

「それはアンタのやる気と、能力次第。なに、若いんでしょ。私ができてるんだから、大丈夫よ。やってみなさいよ。」

「うん、やってみたいです。いや、きちんと戦力になって、ちゃんと仕事出来るようになります。」

「そうそう、困ったことがあったら、誰でも教えてくれるし、アンタ一人じゃないんだから、きっと出来る。」


そこへオーナーが言葉を選びながら、

「わかりました。まあ、一応38歳ということですけど、18歳として採用しましょう。今からシフトについて相談しましょう。」

「わぁ~~、ありがとうございます。一生懸命がんばります。」

こうして、とりあえず彼女は職を得ることが出来たわけである。


「で、オバちゃんとしては、アンタと彼女の関係性に興味があるんだけど。」

やっぱりか。どちらにしろ、娘の負担は最低限取り除いてあげたいところだし、素直に話してみることにした。

「実は...かくかくじかじかで。戸籍通り書いてしまうとこうなるんですよね。」

「...本当なのかい...といいたいところだけど、現に戸籍と年齢が合っていないのだから、半分本当なんだろうと思うよ。」

「僕も、なんとか彼女が社会に適応してくれるように、一生懸命考えてるんですけど、彼女はポジティブだから、それは必要ないかなと思っているんです。」

「元気な看板娘ってところでいいじゃないか。私もしっかり仕事を教えてあげるから、もっと大きくなるといいね。」

「ありがとうございます。娘をどうぞよろしくお願い致します。」

「...娘?あの娘を娘と呼んでいるのかい?」

「ええ、一応、僕は彼女の保護者です。中身は18の若い女の子ですよ。当然、父親役をしていますよ。」

「そう...。アンタも色々抱えてて、大変そうだね。あの娘がコンビニにいる間は、私が責任を持って面倒見てあげるよ。」

「それは助かります。世間知らずなので、そこのところもしっかり教えてあげてください。」

なんとなくオバちゃんと意気投合してしまったが、これもかわいい娘には旅させろということで、その旅先の案内人が見つかったとでも言うのだろうか。


無理を言うわけでもなかったが、やっぱり18歳の娘ということもあり、主に日勤で、僕の就労時間と同じぐらいにしてもらった。ただし、収入が大きくてもまた面倒になるので、年間103万ルールに則った形にはしてもらった。おおよそ週3~4日というところだろう。たまに土日にも出勤するというシフトとなった。

「ごめんなさい。君に面倒をかけちゃったね。」

「いや、こうなることは僕もわかっていたし、それより職を見つけられて良かったね。おめでとう。」

「ありがと。やっぱり君は理想の彼氏で、オトーサンだよ。」

「オトーサンだから厳しいこと言うけど、今後趣味とかのお金は稼いで払っていこうね。正直、僕の収入ではやっぱり厳しいところはあるしね。」

「分かった。でも、これは高卒認定試験、そして大学を受けるための資金として稼ぐようなものだから、たんまり貯めて行くつもり。たまにはおねだりしちゃうかも。」

甘え顔。彼女はあまりしないんだけど、こういうときの一撃必殺に持ってくるんだよなあ。武器を知っている賢い娘は好きだ。

「そうだね。まあ、制服みたいなものがあるし、動きやすいズボンとか、靴は必要かもしれないね。それは買ってあげる。」

「ありがとう。そういうところ、本当に優しいよね。」

「だって、君もアルバイトとはいえ、社会人デビューするってことだよ。本当だったら、お祝いしてもいいぐらいだよね。」

「そうなんだ。私、社会人デビューなのか。なんか実感湧かないけど。」

「アルバイトなんて最初はそんなもんだよ。仕事のことだけじゃなくて、色々、知りたいことを聞いて、話して、どんどん吸収していけるといいね。」

「うん、分かった。教えてもらって、もっと君に見合うだけの女性になってみせるね。」

「それは楽しみ。僕が、君をもっと好きになれるようになれたら、僕も嬉しいよ。」

そんなことを話ながら帰った。君が、魅力のある女性になる。父親としては寂しいけど、恋人としては、君と並べるように、僕も努力しなくちゃいけないかもね。



しかし、それから弊害もあった。

彼女は、バイトの日には、必ず僕の帰りを駅まで迎えに来た。

コンビニは帰り道にあるので、その日はコンビニで色々お惣菜を買うことになった。

知っての通り、コンビニのお惣菜は若干割高である。そのため、夕飯の一日の予算を、週の半分は、オーバーすることになってしまった。

オバちゃんがいつも栄養に気を配ったお惣菜を選んでくれているので、彩りは豊かになったが、やっぱり予算としては、厳しい。

でも、断るわけにもいかないし、とりあえずそれを買って帰ることにしているが、これもいつまで続けられるだろうな。

理想としては、彼女が栄養に気を配ったメニューを考えてくれれば一番いい。でも、最近知ったけど、この娘、やっぱり、料理関係は壊滅的にダメで、食べ専だ。

料理も教えれば、なんとなく出来るでしょうと思っていたのだが、その料理が、どういうわけか出来ない。何一つ手順どおりに間違えずにやったとしても、出来た試しがない。おまけに、味付けも極端だから、おそらく料理のスキルは皆無なのだろうと思った。


ある時、彼女に言った事があった。

「いや、もう料理は諦めよう。作るときは僕が作る。あんまり言いたくないけど、やっぱり君には料理のセンスが皆無。」

「そんなこと言わないでよぉ。頑張って作ってるじゃん。今度はもっと美味しく出来るからさ。」

「美味しく出来るのは認めるけど、君に料理を教えても、正直アシスタントにしかならない。ちゃんと作れるようには、おそらくならないと思う。」

「18歳の娘に対して、それはないでしょ。まだ、料理を作れる余地は、どこかに残ってると思う...んだよね。」

「んじゃ言うけどさ、なんか誤魔化してる感のすごい料理なんだよね。これは勘違いじゃないと思うんだよ。ねえ?」

「うーん、わかった。もう料理は諦める。」

まあ、そのうち、自分からやる気になってくれれば、もしかしたら上達するかもしれない。でも、今の世の中、別に料理が作れなくても、生活は出来る。

彼女が必要になったときに、やってくれればいい。そこで、彼女に教えられることがあれば、教えていこう。


「料理作ったご褒美ほしいな。」

「そのご褒美は冷凍庫の中。自分からリクエストしておいて、ご褒美なんて言うなよ。」


「ん~~、おいちい。よくハーゲンダッツの当たり味ばっかり買ってくるよね。私の好みとか分かってきてる?オトーサン。」

「別にそういう意図はないんだけど、喜んでもらえるなら、身に余る光栄でこざいます。」

食器の洗い物は僕にさせる。そういう娘だからもう諦めている。でも、ちょっとした幸せを噛み締めてるようであれば、別にどうでもよくなる。娘とは偉大なモノだな。

「そういうとこなんだよなあ。年の功ってサラッというところも含めて、ちょっと嫌味なところだよね。」

「でも、君が幸せならそれでいいよ。親心としては、そういうことが嬉しいんだよ。」

彼女は複雑な顔をする、けどそれは一瞬で、すぐに嬉しそうにする。

「やっぱり好きになっちゃうよね。ずっとオトーサンやらずに、やっぱり私と恋人になって欲しいかな。」

「そりゃあ、僕もその気がないわけじゃないけど、今は父親役だから。なんかごめんね。」

理解を示してるような顔で、返してくる。

「知ってる。本当に真面目なんだから。そういとこだぞ。大好き。」


やっぱり甘い生活というやつだ。苦難があっても、この日常だから少しは頑張ってみることが出来る。それで僕と君の人生が少し幸せなら、それでいいよ。

こうやって、日常は過ぎていく。まだ、彼女と暮らして半年も経っていないけど、僕も色々わかったり、教えてもらえることもある。一人では知り得ないのだから、不思議なものだ。

もっと素敵になって欲しい。僕の好きな娘は、まだまだ成長していく。親としては、この生活を、思いを、心に焼き付けておきたい。



今日はこの辺で。また次の機会に。

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