昔の彼女
六畳旅行
第1話
将棋部の紅一点だった梁川さんと恋人になってから、今日で一年となる。
デートが終わり、彼女を家まで送ると、部屋に誘われた。
「ちょっと、目を閉じてもらえる?」
「……分かった」
目を閉じて考える。これは、そういうことだろうか? 確かに一年たったし、周りではそういう話も聞くが……、分からない。
どうすればいいのか必死に考えていると
「目、開けていいよ」
と彼女が言った。
恐る恐る目を開けると、そこには背中があった。真っ白な、美しい背中。
「あの、右側の肩甲骨の下あたり。ちょっと膨らんでるでしょ」
「……そうだね」
「幼稚園の頃にね、事故で背中に石が入っちゃって……、変じゃないかな?」
言われてみれば、少し不自然に膨らんでいる。だが、
「全然」
まったく気にならない。変だとも思わない。事故を乗り越えた、彼女の生きた証だと思う。
「本当に?」
「本当に」
「……良かった。昔から、変だってずっと言われてたから、怖くて……」
そう言った彼女を、抱きしめた。
****** ****** ******
「ありがとうね。石、取ってくれて」
横を歩く妻はそういった。
「石を取ったのはお医者さんだから……」
「だけど、そのために手術費貯めてくれたんでしょ?」
「まあ……」
あの夜から、何年もたち、彼女と結婚した俺は、石を取ることを提案してみた。そして、今日、石は約二十年ぶりに外へ出た。
先生に見せてもらったのは、小さな、石ころだった。俺は、それをもらった。そして、病院のトイレで飲み込んだ。
「右腕、回しやすい」
そう言って笑う愛しい妻の、俺と出会うまでの人生が、俺の中にある。
昔の彼女 六畳旅行 @jugoya_daiwa
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