第10話:心の支え

 今、小さな波が起きた。

小さな波は、やがて大きな津波へと変わっていく可能性がある。 波が起こす波紋は、世界の隅々まで広がっていく。 それがどんな小さな波であろうとも、波を起こす事ができれば広がっていく。


しかし、時代の波は、そう簡単に起こす事が出来ない。 どんな小さな波であろうとも、大きな犠牲のうえになりたっているものだからだ。 レジスタンスのアジトからさほど離れていない森の中。 木々に囲まれた所に白くて大きな船が横たわっていた。




 宇宙船エルの中にサラ達は、戻っていた。


ニブルの案内でエルは、ガスタルディーとサラを牢屋から連れ出して戻ってきた。

帝国軍が攻込んできた混乱の中、ニブルは今すぐにでも北のレジスタンスへ向けて旅立ちたかった。 サラは、船内を一人で歩き回っている。


「どうしたんだ……・いったい。エルの姿が見当たらない」


サラは、エルの行方を探していた。 一緒に戻ってきたものの、直ぐに消えてしまったエルの姿を求めてサラは、広い船内を探していた。

船内の何処にも見当たらなかったが、サラは、諦めずに探しつづけてると。 誰かのうめき声が聞こえてきた。


「うっううっ……グッ……」


「この声……エル?」


サラは、思わず駆出すとT字通路を左に曲がった。 その曲がって直ぐの所にエルがうずくまり苦しんでいた。 サラは、直ぐにエルのもとに駆け寄りその小さな身体を抱き上げた。


「大丈夫かい? エル? 何処か痛いのかい?」


「サラ……クッだいじょうぶ……大丈夫だから」


エルは、苦しそうに言ってサラの手を強く握りしめた。


サラは、この時どうして良いのかわからなかった。

サラは、苦しそうに悶え苦しむエルの姿を見ても何もしてあげる事のできない自分を呪った。 こんな場所でこんな時に苦しんでいる人を治療、処置できる者など居ない。

まして、そんな知識をサラ達が持ってるわけがなかった。 この世界の者は、病気にかかれば対策がない。 ただ見守るしかない。近くに医者が住んでいれば別の話しだか、普通そう言った者は、国王や貴族が取り囲み、医者に見てもらう事など一般人には、無理な事であった。 そういう世界で育ってきたサラであるから、エルをしっかりと見守ってあげようと思う。 自分自身の力で苦しみを克服できた者だけが生き残れるのだ。


「クッ……ああっ……うっ……」


エルのその醜い叫び声が船内に響き渡る。 サラは、そんなエルの姿を静かに見守るのだった。



  エルは、落ち付きを取り戻し、のたうち回っていた姿が嘘であったかのように静かに眠り付いた。 宇宙船エルは、自動航行システムが起動し北のレジスタンスに向けて飛行を続けている。 サラは、エルのことが心配でずっと側に居た。 ベットの上で寝息をたてて眠っているエルの横でサラは、椅子に腰掛けて居る。 エルは、サラに言っていた。

これから北のレジスタンスに密書を届ける事。 そして、それを成し遂げる事でレジスタンス(カハの軍)がエルに協力してくれるのだと。エルが連れてきた男、ニブルの事は、協力者だとしか聞いてなかった。 一人、旅をする仲間が増えただけと言うが何かサラにとって心につっかえるものがあった。父や自分がエルに協力して西のレジスタンス(カハの軍)のアジトへエルを連れてくる事は、出来た。 しかし、そこで父や自分が何 も出来ずに牢屋の中で待っていただけであった。 結局、エル一人が物事を推し進め、彼女自身が解決してしまった。 父や自分がただの人間であるから、いずれ足手まといになるのは、わかる。 自分がエルのやろうとしている事になんの役にもたっていない事にサラは、不安を感じていた。


エルが大きな流れの中に居て、今まさにサラがどうあがいても早くなった流れに押し流されそうな感じであった。 エルの手助けをするのだと、サラは、あの時決めたのだ。


シアンを振り払い戻って来たエルの姿を見た時から、サラはそう決めたのだ。


「よっ! エルの様子は、どうだ?」


とっいきなり部屋の扉を開けてニブルが入ってきた。


「えっ〜とっ……ニブルさん? だったよね?」


ニブルの方へ顔を向けてサラは、自信がなさそうに聞いた。

ニブルは、少し不愉快な顔をしたが直ぐにサラに隣まで来るとサラの頭にその大きな手を置いた。


「ぼうず、さん付けなんていらねぇよ。そんな呼ばれ方じゃ、身体が受け付けないぜ。俺の名は、ニブル! そう呼んでくれ」


ニブルがニヤケながら言うとサラは、あっけにとられた様子で上目使いにニブルを見た。



「それで、どうなんだ? エルの様子は?」


「静かになった。エルは、まだ目覚めたばかりだから、身体が馴れていないだけだって言ってた。でも、それだけであんなに苦しむのかな? ニブル、僕は古代人の事はよくわからない。古代人ってなんなんだろう? 見た目は、僕達と変わらないのに何が違うの?」


「ぼうず」


「ぼうずじゃない! 僕は、サラだ!」


「ああ、わかった! サラだな。俺はよ。古代人ってやつと一緒に旅をした事があるんだぜ。これでも古代人の事は、少しわかってるつもりだ。俺が古代人と旅をして感じた事はな、人間じゃねぇって事だ。人の皮を被った化け物と言ったらいいのか……・。 だがな、心まで化け物じゃなかった。エルを見てわかるだろ? 心は、間違いなく人間だ。本当の姿は、どんなのかは、わからねぇ。サラ、エルと歳が近いお前が彼女の心の支えになってやれ。古代人と言われ、周りは歳相応にエルの事を見ない。11、12歳の少女 だよ。エルは……大人の様に振舞っているが・・けなげだぜ」


「……」


サラは、ニブルの話しに驚いて言葉が出なかった。 ニブルの言う事は、サラにも理解できた。 しかし、サラはわからないで居た。 自分がどうしたらいいのか。


ニブルは、エルの心の支えになれと言う。


「僕、エルの心の支えになりたい。でも、わからないんだ! エルの心、僕は、どうしたらいいのだと思う? ニブル、教えて欲しいんだ!」


「ばかやろう。甘えるんじゃねぇ! そういう事は、自分で考えろ! サラ、人の心の支えになるって事は、大変なことだ! だが、エルはもっと大変な事をやろうとしてるんだ」


ニブルは、サラに強く叱りつけたかと思うとサラの頭を力強く撫でながら言った。


ニブルは、サラを甘やかすつもりは無い。古代人の心の支えになろうとする者が甘ったれ では、つとまらないからだ。


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