第11話:告白

ズゴ〜〜〜ッゴゴ〜〜〜ッ


空が唸るような大きい音に誰もが空を見上げる。 最北の街、マテーラの上空を白い宇宙船エルが通り過ぎていく。 最北の街だからと言っても寒い所ではない。

雪も降り積もって居ない。 ただ、これ以上北には、何も無いからだ。 砂漠、岩と砂だけの世界が永遠と続くのだ。 しかし、伝説では、その北の果てには、幻の国ダリアンがあると 言われている。誰も見た事のない、噂であるのだが……・。



  宇宙船エルのブリッジでは、エルとサラが不安そうにビジョンに 写る砂漠を眺めていた。


「エル、だいじょうぶだよね? きっと……」


「わからない……でも、ニブルさんとガスタルディーさんの載った ブラスター(偵察用ポッド)の反応は、この辺りで消えたはずなの」


ニブルとガスタルディーは、この辺りにあるはずのレジスタンスの集落を探す為に偵察用ポッドに載って宇宙船エルから飛び出したのだが行方不明になっていた。エルは、必死に辺りを見わたした。


だが、ビジョンに映し出されたのは、岩と砂の景色だけだった。 そんな必死になっているエルの姿を見て、サラは何かを思い出して いた。 そう、サラにとって懐かしく、とても悲しい事を。

心配そうに父とニブルを探してるエルの姿は、サラの母親エスルに そっくりだった。サラの母親は、もうこの世に居ない。 もともと身体が弱かったサラの母は、父ガスタルディーとの長旅に 耐えられなかったのだ。 ジプシーのような生活が祟って、母エスルは寝たきりの生活が4年も 続き、ついにサラの目の前で息をひきとったのだ。 サラは、あの時の母の悲しそうな顔を忘れない。 やせ衰え、生も根も尽き果てた顔に潤ませた青い瞳。

サラの手を弱々しく握って、自分は何もしてやれなかったと嘆きながら 死んでいった。


「サラ、あれを見て!」


唐突なエルの声にサラは、現実に引き戻された。 辛い思いでなど忘れてしまいたいと思い出す度にサラは、強く思う。 そして、こんな時に思いでにふけっていた自分が恥ずかしかった。 サラがエルの指し示した映像に目を向けた。


「あれは、……」


サラが目にしたのは、父とニブルが乗っていた偵察用ポッドの残骸 だった。 ポッドは、砂の山に突っ込むように突き刺さり、辺り一面に壊れた 部品を撒き散らしていた。


「父さん!! 父さんは?」


サラがそう叫んだが居るべき場所に父ガスタルディーとニブルの 姿は無かった。

ポッドの残骸の前で佇む、エルとサラの姿があった。 船から下りて見ても現実は、変わることがなかった。 残骸となったポッドは、みるも無惨な姿で、ボロボロになっていた。

ガスタルディーが座っていただろう操縦席には、べっとりと赤い血が 付着していた。



「サラ、大丈夫よ。きっと、生きているわ。姿が見えないのは、生きている 証拠」



あまりにも冷静な口調で言うエルをサラは、睨みつけた。


「冷たいんだね! エル!! そんなに冷静にいられるなんて!」


サラにとっては、こんな時に冷静でいられるエルの事が信じられなかった。一瞬でも心配しているそぶりを見せなかった事にサラは、傷ついたのだ。 エルは、心配していないのではない。あまり、 そういった感情を表にださないだけである。別に感情をさらけ出す事が苦手だというのではなく、わからないのである。 この場合、どのような顔をすれば良いのか?どのように感じたら良いのか、わからないのだ。無意識に顔に出る事はあるかもしれない。 しかし、意識して顔に出すことは、しない。



「きゃ!!」


突然、エルの短い悲鳴が上がった。


「エル!?」


サラが振り向く。

今、エルの身体が砂の中へ潜り込み、頭だけを出してもがいている所だった。 まるで何かが砂の中でエルの脚を掴み、中へと引きずり込むような勢いだった。 サラが直ぐに助けようと向かったがサラも砂に脚を取られて身動きが出来なく なってしまった。


「うっ……エル!!!」


サラのその叫びもむなしくエルは、頭さえも砂の中へ潜っていってしまった。 そして、サラもエルの後を追うように砂の中へと引きずりこまれていくのだった。



サラサラサラ


天井から、細かく綺麗な砂が流れ落ちている。流れ落ちた床の上には、積もり積もって大きな砂山を形成していた。その直ぐ横でエルとサラが気を失って横たわっている。

サラの右手は、しっかりとエルの左手を握り締めていた。それは、まるでサラがエルを気づかってるように。


「うっ……ううっクッげほげほ!!」


サラが意識を取り戻し、口の中に入った砂を吐き出した。サラは、素早く身を起こして周りを見わたす。今、自分が居る場所が何処であるのか周りを見た限りでは、サラには、理解できなかった。周りには、硬そうな石の壁が四方に正方形を形どるように存在していた。天井からは、いまだに細かい砂がサラサラと落ちてくる。


「げっ、まだ……口の中がジャリジャリする……・」


サラは、少し落ち着いた様子で口の中の気持ち悪さに舌を出した。自分もエルも死んでは、いない。生きているのだと言う実感がサラを安心させた。今、この奇怪な場所で居るにもかかわらず落ち着いて居られる事がサラには、おかしな感じがした。サラがエルを気遣うように抱き起こすとエルは、ゆっくりと目を開いた。


「うっ……ケホケホ……」


っとエルは、小さな声を出して口の中に入った砂を吐き出した。そんなエルの姿を見たサラが可笑しそうに笑った。


「サラ……」


エルもサラにつられて可笑しくなったのだろうか。いつの間にかサラに笑顔を向けていた。暫く、二人だけの笑い声が周りを支配していた。そして、何も無い密閉された空間でサラとエルは、お互いを見つめ合った。先にエルの方がサラに視線から逃れるように目を逸らし口を開いた。


「ここは何処なのかな? サラ、出口もない。きっと、私たち、落ちてきたのね」



エルが天井の隙間から砂が漏れ落ちている箇所を指差した。そこをサラが見上げるとエルは、気づかないようにふっと笑みを浮かべるのだった。


「さっきは、ごめん! 取り乱しちゃって……酷い事を言っちゃった!」


突然サラが天井を見上げたまま、そんな事を言った。エルは、一瞬なんの事を言っているのかわからなかった。だけど、直ぐにサラが自分に「冷たいだね」っと言った事を謝っているのだと理解した。


「サラ、良いのよ! 私、気にしてない。ありがとう、サラ……」


「謝ったのに……お礼を言われるなんて……」


サラは、そう言って少し照れた様子で俯いた。そして、サラは、地面にエルと向き合うような格好で座り、真剣な表情でエルの両手を握った。


「……」


「僕、……もっとエルの事が知りたいんだ! エルの力になりたい! エルの心の支えになりたい! 僕は、・・たいした力も知識も持っていない! だけど、ずっとエルの側に居たい! エルの進む先を見て見たい! このままじゃきっと駄目だから……・だから……・」


「サラ……何て言ったらいいのか解らない。サラの気持ちは、嬉しい! でも、私には、過去なんて無いの! サラと出会った事が始まり。私は、生まれた

時には、既に誰かに使命を与えられていた」


「エル……その誰かって?」


「わからない。でも、使命を果たすようにって、それから逃げれないように私の心も身体もそうなっているの」


エルは、悲しそうにサラを見つめた。

エルは、自分にサラと出会う前の過去が無い事が辛かった。名前も「ELLE」と製造ネームしかない。自分は、何者なのか。人間でも古代人でもないと言う事は、わかっている。作られた人間であり、より古代人に近い存在である事しかわからない。与えられた使命を果たす事でしか自分の存在を示す事ができない事が悲しいのだ。納得のいかない使命など果たすつもりなどなかった。


「サラ、私は……自分の過去なんて要らない!! だって、これからいくらでも出来ていくわ! 記憶……過去なんてそんなものよ」


「僕は、そう思わない! 赤ん坊の頃の記憶、まだ幼い頃の父さんと母さんのとの思い出が無いなんて……悲し過ぎるじゃないか!!」


悲しそうな顔で見つめるエルにサラは、まるで説得するかのように言った。

そして、エルはサラの首筋に両手を添えて深く目を閉じた。


「私には、父も母も居ないわ!サラ、私は、私から生まれた!」


エルがそう言い終わる前にサラは、エルを強く抱きしめていた。


「えっ? サラ?」


エルは、驚いて声を上げた。


「悲しすぎるよ! 悲しすぎる!! エル、君は悲しい人だ!」


サラは、エルの身体を抱きしめて泣いていた。エルの代わりに涙を流し、悲しんでいた。


サラにとって、エルの境遇は、信じられないものであり、自分の不幸などエルに比べれば幸せな方だと感じた。エルは、どうしてサラが泣いているのか理解できずに居た。


ただ、サラの温もりを感じながら、エルは、泣いているサラの頭をよしよしと撫でていた。

自分が自分である為にエルもサラも悩み、考え、そして成長していく。特殊な環境であろうがなかろうがそれは、関係がない。それは、全ての人間が経験する事であり、そうやって大人になっていくのだから。



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