第6話

退院した先輩に私は動揺していた。

「ふふ、あの日の璃子、可愛い」

両手を二人で合わせて指と指とを絡ませる。

先輩のお気に入り。

「先輩、あの日は本当にごめんなさい、無事に送り届けたかったのに」

「そんな昔のことはいいの。いまは、ねえ……?」

「んっ」

唇を塞がれて、手はしっかりと握られ、先輩の舌が尖らせるように侵入してきたかと思えば、私のナカをかき回す。

「先輩!私、ディープキスはじめてっ、」

「これからも全部、初めては私とよ。他の人になんて、あげない」

図書室のガラス張りの図書委員室内。返却代の下で私は、未来から来た先輩に翻弄されていた。

「いつか、ここも、ふたりで触り合いましょう」

「どこです?なんですか?それ?」

「ふふ、制服の璃子、ほんとうに可愛い。すきよ、璃子」

先輩に触れられて私は、感じてしまう。

「先輩、お願いっ、はあ、お願いがあるんです!」

「まだ胸だけよ、もっとあるのよ、璃子、お願い、お願いは私からもさせて?」

お願いだから、璃子のあの声を聞かせてちょうだい?

「先輩っ、元に戻るかわからないけれど、一つだけ、やらせてくださいっ」

私は灰色の積んで置いたノートの束から一番真新しいものを探しだし、備品のボールペンで思いの丈を記入した。


〈三年三組 黒沼麗子様

あの日に帰りましょう。かわいいといってくれたあの日に。無理でも良いんです。先輩が好き。

              一年一組安城璃子〉


「このノートは!まだあったのね。この時代に。私。嬉しい。名前まで書いちゃって、璃子ったらいけないんだ」


今度は軽く触れるような、キス。

先輩の目が、私に定まって。

「璃子」

「先輩」

「このノートたち、ふたりの、宝物にしましょう。嬉しいの。いままで、幻覚か夢のような、大変なことをしたのを覚えてる。あなたと出会うきっかけになったノートで、灰色のあの日の道を思い出したわ」

「黒沼、先輩……」

「麗子でいいわ。そのかわり、今後のことを知ったらもう、あなたを絶対に離さない」

「黒沼先輩、麗子先輩、私も、貴女に捕まっています、好きです。一緒に本を片付けてくれた日から」

「私、私は、わからない、でも、はじめから璃子が好き。これからも、璃子だけよ」


図書室であなたに、貴女に、会った時から。


愛してる

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タイムマシンもないのに図書室で貴女に会ったから。 明鏡止水 @miuraharuma30

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