第2話

黒沼高校一年生、璃子は図書委員だった。

夕日の当たる図書室にセンチメンタルになりながら、璃子はある日、一人で本の貸し出しをして。

一日の役目を終えた。

この黒沼高校。男子は一人もいない。

しかし、共学ではある。ただ、男子がひとりも、ひとりも入ってこないのだ。

その代わり、三年に一度、怪物とも化け物とも思えぬ。

夏の紫陽花、冬の雪。春と秋は弱すぎて桜と紅葉のコウヨウを感じさせない。黒沼の美が入学してくる。

璃子は残念ながらソレではない。無数に並んだ本棚。分厚い本「黒沼高校の歴史」を熟読しつつ、璃子は。

ずっとあるスペースが気になっていた。

ここの本棚は比較的細い形状で迷路のように配置されている。

そうなると、けしてデッドスペースではないが、人が入れない、蔵書が取れない「空間」が出来上がるのだ。

町で言うと九つの住宅が綺麗に四角に並んでいるのに、真ん中の家だけ空き家のような。

道は、ある。

だが、通れない。運良く体を滑り込ませたとしても、戻れないかもしれない、そんな場所だ。

そして、不思議なことに、いや、不思議ではないのかもしれない。図書委員のガラス張りの詰め所には、高い場所の本を取るためか、背の高い脚立があるのだ。

そして、あえて、デッドスペースと言おう。

そこにはひとつの学習机と、何やらノートが一冊置かれている。灰色の表紙の、昔の大学ノートのような簡素さだ。

璃子は、もう、たまらなくなった。脚立を使えば本棚の上に乗り、その空間へおりられるのでは?

しかし、下におりたらどうすれば?

脚立を持ち上げて、今度は逆側に置く?

重くて持ち上がらないかもしれない。多分そう。それにどうやって畳むのだ。天井と本棚との高さはまあ、十分だが腕力には自信がない。

となると。璃子は、気づく。先程は迷路のようだと感じた本棚を観察する。規則正しく並んではいるのだ。しかし、方向が定まっていない。そして背が低い。しかし璃子の背よりは高い。

「本棚、これは……」

固定されていない。ただ本の重みでずっしりとしているだけだ。

なら。

璃子は下校時刻までに、デッドスペースのうちの一つの本棚を全部空にする勢いで本を取り出し始めた。

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