第4話地球外生命体とは僕らのことですか?
突然意識を失った僕が次に目を覚ましたのは翌朝、まだ夜中と朝の境目の薄暗い世界だった。
目を覚ますと僕の身体はまだ半分ゴミ袋に埋まっていて、はたから見れば酔っ払いが酔ってゴミ捨て場に自ら埋もれたような感じに見えるだろう。
昨日のあれは、もしかして夢だったのか?そう信じたい僕の頭はひょんな事を考えるものだが、記憶の中に確かにあるあの奇妙な声と男の断末魔の叫び。
そして最も決定的なものは手にべっとりとついている赤黒い血のあと。
これが昨日の夜の出来事が夢ではなかったと決定づけるのだった。
手についた血と頭に小縁付いた叫び声が恐ろしくて、僕は今にも昇らんとする朝日から、現実から逃れんと必死に走った。
朝のジョギングを日課とするおじいちゃんや新聞配達のバイクとすれ違いながら、ただ行く先も決めず恐怖から逃げるためだけに脚を前へ前へと動かしていた。
朝日が街全体をオレンジ色の光で包み込む最中、僕は1人森の中で茂みに隠れてうずくまっていた。
「そんな…あれは、一体何だったんだよ。あの人はどうなったんだよ…!」
森の深い茂みの中で頭の中の声を聞かないように手のひらで耳を覆った。
だが、耳を覆うと視線の端にうつる血の跡。
それを見る度に思い出す昨夜の出来事。
人がなにかに食べられていかもしれない場面に遭遇したのはあれが初めてだった。
一体なにがあの人を食べていたのか?だが、ゴミ捨て場で目覚めた時、周囲に血の跡はおろか人がそこにいた痕跡すら見えなかった。
にもかかわらず、手にはしっかりと血の跡がついている。
僕にはこれが夢なのか現実なのか未だに判断出来ていない。ただ一つだけわかっているのは先程から僕は掌の血の匂いに恐怖とともに最大限の興味を持ち始めていること。
最初に森の中で自我を失いかけたときとは違って、血が乾いているからか興味を唆られるだけで自我を失うような感じはしない。
しかしこれ以上は血の匂いや跡を視界に入れてはいつおかしくなるかわからない。
僕は一度森を出る覚悟を決めて、近くの水道が設置されている公園に向かった。
小さな子ども達が母親に連れられて滑り台やアスレチックで遊んでいる景色に紛れて必死に掌についた血を洗い流す。透明な水が僕の手を介し血を洗い流していくも、流れる水は赤黒いものに変わって下水へと流れていく。
「なかなか…落ちない…!」摩擦で手の皮が剥げてしまうのではないかと思うぐらい必死に擦っていると、近くで遊んでいたはずの子供の1人が僕の事をじっと眺めていることに気がついた。
「おにいちゃん、お顔が変だね~?なんでおてての赤いの洗ってるの?」
…見られた!僕は辺りを見渡して近くにこの子供の親がいないか確認する。数名母親らしき集団はいるが、雑談に集中していてこちらには気づいていない。
「ぼく?僕の事は誰にもいっちゃいけないよ?この赤いのもちょっとだけ汚れちゃったから洗ってるんだ。お義母さんに教えて貰ったことない?おててはきれいにしましょうって?」
「言われたことある!おうちに帰ったらすぐに手を洗って!って言われるの~!面倒くさいけどね!」
「でもお母さんの言うことはちゃんと聞かないといけないよ?お兄さんとの約束だよ?わかったかい?」
「は~い」
「ほら、お母さんが君のこと探してるみたいだよ」
子供が振り返ったその瞬間に僕はすぐさまその場から離れた。
必死に走って、なるべく人目につかない場所へとまた行く先もわからぬままに脚を前へ動かした。
肺の中の酸素が無くなって意識が朦朧としてきた時、突然身体に強い衝撃が走った。
「痛っ…!」地面に放り出されたかと思い顔をあげると、そこには人間社会には似つかわしくないまるでファンタジー漫画の怪しげな術師が着ているようなフード付きのローブを着た何者かが見下ろしていた。
「$&$’’&(&(’%’$%#””%&$&’$…?」
この声…!僕にはこの人の言葉でも動物の鳴き声でもない不思議な発声と言語を話す者に覚えがある。
あいつだ。初めは森の中でズタ袋を肩に抱えて彷徨い、真夜中の暗闇が支配している世界では恐怖する人間を追いかけ回し、最後には血肉を啜っていたあいつだ。
「あ…ああ…」恐怖のあまり立ち上がれず開いた口から言葉にならない声が空気が漏れた風船のようにかすれかすれ出ていく。
「???あ、もしかして人間の言語じゃないとわからないのか」
すると眼の前のそいつは先程までの理解不能な言語から一変、流暢な人間の言葉を喋り始めた。
「なんで…?」
「なんで?なんだ、おまえここいらは初めてか?もしかしてよそ者か?それとも成り変わりたてなのか?まあいい、ともに来い、ここでは目立ちすぎる」
僕はあまりにも突然の出来事に混乱しながらも、そいつの手に引かれるままどこかへと連れて行かれた。
地球外生命体とは僕らのことですか? @uisan4869
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