チートを使ってハーレムと幸せを手に入れます!
ギル・A・ヤマト
こうやって俺は幸せを手に入れた
「はいはい、お気の毒ですがあなたは死んでしまいました。世界先は西洋ファンタジー、ディストピア、SFと色々あるけど、とりあえず転生先で何がしたい?」
「……あぁー、待て頭が今パンクしてる」
気が付いたら真っ白でキラキラしてる空間にいた。
その中心(?)で俺と美人な姉さんが椅子に座って向き合っている。
なんでこんな事になっているんだ?
……少しづつ思い出してきた。トラックに轢かれて即死したんだ。
「俺死んだのね」
「イエス」
「……じゃあアンタは、じゃなくて貴方は女神様ですか?」
「イエス」
答え方に女神らしさが一切感じられないな。
と口に出そうになったのを必死に堪えて心の中で収める。
「……」
だが目の前の人が女神様なのは本当なのだろう。この真っ白な世界が今まで生きていた世界とは別次元だと魂が察している。
その上で目の前に座っている女性。死んだからだろうか、彼女の背後からは命のオーラのような物を尋常じゃないほどに感じ取れていた。まるで山と対峙しているような、そんな錯覚に落ちるほどに。
そして彼女の黄金の目。人なら絶対にあり得ないだろう、引き込まれる魅力を持つそれを見て、妙に神様なんだと納得してしまった。
その全てを彼女の口調と態度が台無しにしてるけど。
圧倒、いや困惑かもしれないがそのせいで無言の空間になっていたのを女神様が手を叩いて、空気を変える。
「じゃあさっきの話に戻るぞい。今の貴方は異世界転生権を持っています。転生するの、転生しないの? 早く答えを下さいな」
「待って、待ってください……異世界転生権ってなんですか。言葉通りに受け取ればオッケー……なんですか?
「イエス。貴方達2010年代日本人に分かりやすくいうなら、最近ネット小説やラノベでよく見るジャンルだと思えばオッケーです。後喋り方はいつも通りでいいよ」
「あ、分かりました……じゃなくて分かった」
ていうか現世の事よく知ってるなぁ。
「めっちゃんでいいよ」
「何が?」
「私を呼ぶ名前」
「距離感バグってんじゃぁねぇのお前?」
「急に失礼になったな」
なぜか真顔で片手チョキチョキをしている女神様に俺はただ困惑する。というか話し方が変に変わるしやる気がないように見えるし……これじゃあ
(女神様には見えねぇな……)
どこから取り出したのかポテチを食べ始めてだらけている女神に俺はそう思った。
「おいお前私の事を女神らしくないって思っただろ」
え、なんで分かったんだ。
「私を誰だと思っている。女神様だぞ。相手の心を読むことなんて楽勝じゃ」
「そんな片手にポテチ、片手にコーラ持って言われても」
おい待てよ、心の声が聞こえているって事は……
「おい何で可愛い女性の事思い浮かべた」
「前世で告り損ねたなって思って」
「急に重くなりましたわね……未練って奴じゃな」
そうだよ。特に何もしてないまま青春が終わっちまったよ。
あーもっと女の子と付き合ったり、ヒーロみたいなカッコいい活躍したかったなぁ〜……。
「ふむふむハーレムにチート転生と……」
「何でそうなる。女の子と付き合いたいと思ったけど複数とは言ってないだろ!」
声を荒げながら俺は席を立つ。
この女神が捻くれてるせいで、話が明後日の方向へホームランしやがった。
後チート転生って何だよ何でそうラノベのいかにもな方に持っていくんだ!?
「でもこの特典があれば異世界でたくさんの女性に囲まれたり、ドラゴンみたいなモンスターを瞬殺してたくさんの名声が入りますよ?」
「それでいいです」
「もっと粘れよ」
その瞬間ピンポーンと言うこの場には全く似合わない、気の抜けたインターン音が響いた。
「あ、時間だ」
「え、時間って何?」
「貴方は後数秒で異世界へ転生しまーす」
「!?」
俺が驚いてるのも束の間、自分の周辺に光の粒子が浮かび上がってきた。
そんな状況は一切気にせず女神は話し続ける。
「安心して、特典はさっきの二つにしてあるから。ハーレムは貴方の第二人生設計図の一部をちょこっと弄って、チートの方は今回のタイプだと最初から発動すると色々まずい事になるから条件を付けておきました」
椅子が粒子になって消滅し俺の体が浮き始めた。
自分の手も少しづつ粒子になって消えていくのが見える。これ結構ホラーでもあるけどこの空間のお陰か不思議と恐怖は無かった。
「ま、待ってくれ。俺はどんな世界に行くんだ!?」
「……あ」
女神様が気の抜けた顔をしたかと思えば、実体がない映像でできた小さな板を手元に発現させ、スマホを触るように何やらぽちぽちし始めた。
「並行世界観測……条件検索……あ、見つけた。これにしよっとポチ」
「転生十秒前に行き先決めるのやめてもらいませんか!?」
「……テヘペロ♡」
可愛い顔しても騙されんぞ。
と俺が思った次の瞬間に女神は真面目な顔へ戻っていた。
「これから貴方が行く世界は現代です。しかしそこは元の世界とは似たようで全く違う道のりを辿る異世界。
先程の口調とは打って変わって真剣な喋り方をし始めた女神様には、神様らしいオーラを感じ取る事ができた。
後最後何言ったんだ? 物凄く嫌な予感しかしないんだけど。
《異世界転生権を所持している魂……確認。これから貴方を異世界で生まれ変わらせます》
すると脳内に機械的な声が聞こえた。目の前で手を振っている女神様とはまた違う声だ。
《転生工程確認………………エラー。プロットの再確認開始》
ん? なんか声の挙動(?)がおかしいような……
《……再確認完了。不備改めて無し。異世界転生を開始します》
その声を歯切りに俺の意識はだんだん途絶えていく。
そして意識が途切れる最後の瞬間。女神様の声が聞こえてきた。
「いい異世界ライフを〜〜!」
そんな間延びした声を聞き終えた俺は視界が暗転した。
◯◯◯◯年⬜︎月×日
やっと今世で文字が書ける体になったから日記を書き始めた。
まあ異世界転生したはずなのに見た目は前世の現代日本(生まれた場所も日本らしい)のままだし、なんかやばい生き物とかいるかと思えば全くいないし、色々文句があるがどうしてもこれだけは言いたい。
何で俺は女性に生まれ変わってんだ!? ふざけんな!? くたばれ女神ーーー!!!
◯◯◯◯年◯月×日
自分が女体化して数十年経った。最初こそ女性である事にとても苦労した物だが、それを数年もやってたら流石に慣れる。
それよりも神様が言ってた事だ。敵がいるだとかナントカ設計図を弄ったとか言ってたが何も起きていない。
俺が住んでいるところは前世と変わらないほど平和だし、恋愛関係の新しい出会いみたいなのも無い。
まあチート求めといてアレだけど、平和が一番だしそもそも俺が女性になった時点でハーレムとは縁がないような……
後俺ももう高校生。明日からは始業式だし、今度こそ青春を楽しんでいこう!
◯◯◯◯年◯月?日
あったよ出会い。通学路を普通に歩いてたら、街角でパンをくわえた美少女とぶつかったよ。
おまけに当たる直前に「遅刻遅刻ー!」と言うセリフ付き。
アニメかよ。いやアニメみたいな経験したけどさ。
さらにそいつとは同じ高校だった。まあ流れで何となくそうだろうなとは察してたけど、運命的だな。
きっとこれが女神様が言ってた設計図を少し変えた結果だろう。
ぶつかった黒髪メガネの少女は自分をアカリと名乗り、同じ高校のよしみで一緒に登校しようと言ってくれた。
やったぜ
もちろんそのまま一緒に行った。
ガハハ、こんな感じに色んなヒロインと会っていくんだろうなぁー、ハーレムよ待っていやがれ!
◯◯◯×年⬜︎月E日
それから一年。
俺は彼女と『友達』としていい感じになったり、運動大会で学校の記録を更新したり、テストで赤点取りかけたりしていた。
要するにそれなりにいい青春を謳歌していたのだ。
まあ今まで通り敵らしき奴らに遭遇してないけど。
何ならアカリ以外のヒロインっぽい人にも一切会ってない。
……本当にチート転生ハーレムは起きるのかなぁ?
……まあこんな平和な空間が続くのもいいな。アカリと過ごすのも楽しいし、これが続くならチート転生ハーレムもなしでいいかも。
◯◯◯×年⬜︎月@日
ああクソ、失敗した。
◯◯◯×年⬜︎月×日
ふはははは! やったぜチート能力解放だ!
空からやってきたインベーダーに最初はビビっちまったのはダサかったけど、そこからイベントを超えて能力解放!
人々を脅かす化け物達を瞬殺した時は気持ちよかったぜ。
最初こそビビるなんて情けないことしちったけど今は問題ない。
100メートル走なんて一秒台当然。
ジャンプすれば超高層ビルなんて飛び越えられる。
パンチの力は鉄を紙みたいに簡単に壊せるほど。
このスーパーパワーを使って世界の
後アカリが無事で本当によかった。
◯◯◯×年⬜︎月◯日
日本政府が緊急で地球防衛組織を設立したらしい。
アカリと一緒に避難基地にいたら、守りについていた自衛隊の人がその事を伝えてくれた。
やる事は名前の通り、武器を持ってインベーダーに立ち向かうお仕事だ。名前は変わっているが要は対インベーダーの軍隊である。
侵略開始からまだ数日と経っていないが今いる兵力だけでは到底太刀打ちできないと政府は判断したらしい。
それを聞いたみんなの反応は参加する人としない人で半々だったかな。
まあ数日といえど大切な人が犠牲になった人もいる。そういう人達は復讐目的で入る気満々。それ以外は恐怖や怪我が理由で入らない気が満々だった。
もちろん俺も入隊する。
この避難基地周辺で勝手にインベーダー掃除をしていたがどうしても情報が足りない。敵の大ボスは誰かも分からないし、どこの基地を優先して守らなければ行けないかも分からない。
けど国の組織の下に入ればそんな情報も耳にするかもしれない。それ目的で俺も入隊する。まあ元々チート能力持ちだし行くしかないでしょ。
そう思って行こうとしたら誰かに手を引っ張られた。
誰だと後ろを振り向いたらすごい目でアカリが俺のこと見てた。
どうやら彼女も地球防衛軍に入るらしい。
そんなの危ないからダメだと否定しようとしたが、
「もし私を入れなかったら貴方が夜でやってる事言いふらしますよ」
と真剣な声で言われてしまい、反射的にはいと言ってしまった。
いやなんで夜インベーダー狩りをしてる事知ってるんですかねぇ……というか言いふらすのはマジでやめてほしい。
絶対救世主扱いされちゃうでしょ。そんな風になったら絶対面倒だし……そもそもそんな奴じゃないよ俺。
そんな扱いされても気分が悪くなるだけだ。
◯◯◯×年⬜︎月S日
はいそっこーでバレました。
いやそうだよねー、そりゃあ軍隊に入るって事は集団で動くわけであって。
戦闘も集団で行動しているわけであって、そんな時に襲われる一般市民がいるからとスーパーパワーを発動したらバレるに決まってるよねー(汗)
ま、まあ仕方ないじゃん。少年をインベーダーから一生懸命守ろうとしてる両親を見たら自分の事情とか無視して助けに行きたくなるじゃん。
俺は一切後悔してないぞ!(開き直り)
というかすぐ自衛隊の人から教えてもらったけど、自分の事はそれなりに有名になってたらしい。
具体的に言えば戦車でも倒せないような強敵をバシバシ倒していく謎のヒーローという形で。
……うん、政府にもバレないつもりでやってたけど、敵の分布図とかで最初からバレてたようだ。恥ずかし。
◯◯◯×年!月◯日
朗報
俺、前に助けた少女からお姉ちゃんと呼ばれる。
いやー、チート様様ですねぇ〜。
俺の事をお姉ちゃんと呼んでくれる少女の名前はミノリ。薄い緑髪のショートが特徴の彼女だ。
いつもの様にインベーダーと戦闘してたら地下で生活していたらしい彼女に会った。
いやー美少女だったしいかにもピンチだったからそっこーで助けに行ったね。
それでちょっと怪我しちゃったけど結果的にお姉ちゃん呼びされてるから、結果的には寧ろプラスだぜ!
ミノリの為にもしっかり幸せにしなきゃな。
◯◯◯×年@月!日
ミノリの保護は俺とアカリがする事になった。
地球防衛の仕事も常に忙しいわけではない。少しの間しかないがミノリと付き合う時間もあるのだ。
……まあ問題として人類最強の俺と一般兵(すごく頑張ってる方)のアカリでは空いてる時間の差はめちゃくちゃあるんだよね!
そのせいか、アカリに抱きついているミノリ(まだ中学生くらい)を見て俺も座って腕を伸ばしてみたらアカリの背後へ逃げてしまった。
……ここ最近で一番のショックだった。
その後アカリが慰めてくれた。やったぜ。
◯◯◯⬜︎年?月M日
インベーダーがウザい。ほぼ毎日侵略してくる。
メチャクチャデカい虫や山みたいに大きい怪獣に、明らかに人類より技術が数歩進んでいる魔法っぽい能力を使う戦闘機械。
全部が人類の兵器では倒せない奴らだ。
厳密に言えばデカい虫は頑張れば倒せるが、あいつら数は無駄にいるし倒しても倒しても表れ続けるから実質意味無し。
それ以外は戦車の大砲とか飛行機のミサイル受けても大したダメージを与える事ができない。ピンピンしてる。
そう、今の兵器では。
人類の利点といえば技術の進歩と言える。侵略してきた奴らの体や武器は地上では滅多にお目にかかれないレアなもの。
それを研究しておけば新しい武器も開発できて、インベーダーに対応する事ができる……はずだ。
という事で持ってきましたインベーダーの武器。
そこらへんで暴れていた宇宙戦闘機械を適度にボコボコにして、運びやすい様に
ちなみに今の話ではなく一年前の話だ。
あいつら一年も休む間もなく襲ってくるとか社畜かよ。
じゃあ何でこんな話を書いているかと言うと、できたんだ新武器。しかも俺用に!
そうだよなぁー専用武器は浪漫あるよなぁ。
武器開発担当に聞くと地球の最高クラスの技術を詰め込んで何とか形に出来たらしい。
作られた武器は刀。
そこは銃とかじゃ無いのと思われるかもしれないが、刀でいい。
マシンガンとか拳銃なんて誰が使っても威力は同じ。それならまだカチカチに固く切れ味を特化した近接武器の方がいい。
距離はどうするって?
戦闘機より早く走れる俺には関係ない。
とにかくこれで俺もヒーローらしくなってきたものだ。
よーし、これで敵をバシバシ倒していくぞぉ!
それで「またつまらぬ物を切ってしまった」とか言ってやるぜ……
ちなみにこれをアカリに言ったら冷めた目で見られた。いや、男のロマンいいじゃん……
ミノリにもこれ言って見たら「お姉ちゃんってたまに男の子みたい」と言われてしまった。
◯◯◯⬜︎年?月M日
専用武器壊れた。泣くぞ。
◯◯◯⬜︎年⬜︎月×日
俺が軽く刀を振って敵を数回切っただけ。俺的には普通に扱ったつもりだったのだが、数回切っただけで刀が粉々に砕けちゃった♡
要するに俺が異常すぎて武器が俺についてこれなかっただけです。
と武器開発担当にこのこと伝えたら頭抱えてました。
「嘘でしょ……アレには数千億もかけたのに」とか聞こえた気がするが気のせいだ気のせいだ。
俺は何も聞いてない(汗)
そうして俺の専用武器が壊れる悲しいイベントがあったが、俺以外の普通の兵士に渡される武器は着々と渡されている模様。
これで今まで以上にインベーダーに抵抗できる様になったはずだ。
インベーダーに奪われたところは沢山あるが、少しずつ奪い返してやる。絶対に。
◯◯◯⬜︎年⬜︎月S日
俺の新しい専用武器が出来たと武器開発担当に教えてもらった。
え、早くねと思ったが元々俺専用の装備は複数作る予定で、今回はその二つ目が出来ただけだとか。
ただ前回の想定以上にかかった負担の事を考慮して耐久性を大幅に上げたらしい。
そう説明を受けて双剣を受け取った。
◯◯◯⬜︎年⬜︎月!日
すぐに実戦で使って見たが、新作1号機よりだいぶ改良されている。主に耐久性が。
これはインベーダーの技術が使われているらしいが、技術素人の俺でも1号機の時よりだいぶ進歩しているのが分かる。
どうやらこの「魔法」っぽい力が使われているらしいが……これって何処から来た力なんだろ。
一般兵に配られた新兵器も早速効果が出てきている。
「これで私もただ見てるだけじゃない。貴方と同じ戦場で戦える」とアカリも嬉しそうに語っていた。
……俺としては彼女に危険な目に遭わせたくはないが、今はそんな事は言ってられない。俺も早くインベーダーの親玉を倒さなきゃな……。
◯◯◯⬜︎年@月×日
少し遅くなってしまったが武器開発担当に謝罪をしてきた。新兵器一号を壊した件でだ。
アレには数千億円掛かってたのは本当らしいので大急ぎで土下座しに行ったのだ。
まあそれは武器開発担当である本人に止められたが。
そんなことよりと、武器開発の為に新しいインベーダーを捕獲してほしいと言われた。
新兵器開発をした際にインベーダーの技術も色々わかってきて、欲しい物リストが増えたらしい。
まあそれでいいならと俺は了承した。
◯◯◯⬜︎年@月!日
と言うことで次の日には今いるインベーダーの戦闘マシーン全種を捕獲してきました。
これを武器開発担当に見せたらまた頭を抱えていた。
だがその反応もすぐ終わって手を差し伸べてきた。
「ありがとう、いつも君には驚かされてばかりだ。……今はまだ貴方に頼ってばかりだが、私達はこの科学力でいつか貴方の隣に立ってみせる」
そう言って来た時は彼女が眩しくて目を逸らしてしまった。
……こんな状況なのに前向きな心を持てる奴は凄いなって改めて実感したよ。
「不甲斐ない私達だが……貴方の隣に立つまでの間、よろしく頼む」
そう言ったタバコをくわえた赤髪の女性と俺は握手した。
◯◯◯♡年@月×日
朗報だ!
長い間インベーダーが支配していた、中国にある地球防衛軍支部を解放することができた。
この作戦には世界中にある支部の部隊が参戦した。
俺や日本の部隊も一部参戦して、死闘の末何とか取り返すことができた。
今中国支部では復旧の作業をやっている所だ。まだ警備の仕事もあるからお祝いパーティーはしてないが、アカリはとても嬉しそうにしていた。
何なら涙流して抱き合ってたくらいだ。やったぜ。美少女と抱き合うのはご褒美みたいなもんだからな。
とりあえずこの調子でインベーダーの侵略を巻き返そう。そうすればアカリとみのりと一緒に平和な生活ができ
◯◯◯♡年@月S日
完全に油断してた。昨日日記を書いている途中で奴らが襲ってきた。それも中国支部を支配してた奴らよりも何倍の兵力で。
奴らは誘っていたんだ。俺達が支部を取り返す為に大量の兵を送ってくる事を。そして浮かれている間にその兵力を一気に削ってやろうと。
……全滅は俺が何とか避けさせた。でもこちらが受けた被害が大きすぎる。
まず中国支部は破壊されて奪還のためにやった努力は全て水の泡だ。
やってきたインベーダーは俺が全て皆殺しにしたが、中国支部の破損が酷すぎて犠牲者の数が確定してない。
誰が死んだのか、誰が生きているのか全く分からない。……アカリも。
◯◯◯♡年@月◯日
*何が書いてあるか分からないほど殴り書きされている。
◯◯◯♡年X月X日
まだインベーダーの侵略は終わらない。
今日もいつも通り奴らを殺した。
◯◯◯@年×月X日
インベーダーはまだ襲ってきている。
気のせいか少しずつ強くなっている様な気がする。
今日もいつも通り奴らを殺した。
◯◯◯?年×月X日
ヨーロッパ支部が落ちた。
少し前のことだ。気のせいじゃない。インベーダーは日が経つごとに進化している。
……今日もいつも通りに皆殺しにした。
◯◯⬜X︎年×月◯日
俺が覚醒してから十年くらい立った。
奴らはまだ侵攻してくる。
倒しても倒してもうじゃうじゃ湧いてくる。
その分こっちの死体がだんだん重なる。
いつ終わりが来るか分からない。
俺はいつまで戦えばいいのだろうか。
◯◯⬜︎X年⬜︎月@日
今日、ミノリが地球防衛軍に入隊した。
ミノリも少女と言える年から大人になった。そんなに年が経ったかと思ったよ。
インベーダーの侵略でこちら側が不利になったのは中国支部の件から変わらない。
本来ならミノリを入れるべきではないのだろう。だが今の戦場はギリギリの戦いになってきている。
何よりミノリは既に覚悟していた。
「お父さんやお母さん、姉ちゃんを奪った奴らは許せない。それに一人になった私を育ててくれたアカリさん達の助けになりたい」
その言葉を覚悟を決めた目で言われてしまった。
俺はその言葉でミノリを止めることはできなかった。
……絶対に俺はミノリを守る。絶対にだ。
◯◯⬜︎X年×月◯日
前にも書いたかもしれないが今の状況は不利と言っていい。
数年前は人類の技術力が上がって段々と優勢になっていった。でもあの件から状況は一転して、ギリギリから不利へと傾いている。
成長力はほぼ同じ。こちらの技術力とあっちの進化のスピードは同じと言えば同じなんだ。
こっちが新兵器を開発して倒しても、少ししたらその新兵器が効かないインベーダーが出てくる。
それでこっちがまた新しい武器を作ってと繰り返す。
これだけみると均衡しているように見えるが全くそうではない。
戦力の差がありすぎるのだ。
毎日必ず起こる戦闘で人間は必ず死者が出る。
少ない時は数人で多い時は百人に登る時だってある。残念なことに俺が出撃して戦場を荒らしてもこれだ。
対してインベーダーはほぼ無限。どれだけ倒しても倒しても次の日には同じ量のインベーダー達が襲ってくる。
常に死者が出て戦力が減り不利になるのを毎日感じる人間。
無限とも思える物量で減った戦力をすぐに補充してくるインベーダー。
差は明らかだった。
確実に死が迫ってくるのを感じている人間の士気も下がってきている。
◯◯⬜︎X年×月♡日
武器開発担当達の努力で、インベーダーの生態はハチやアリの生態と似ていると分かった。
細かい所は違うが要は親のインベーダーがその他全てのインベーダーに指令を出していると言うことだ。
逆に言えばこの親のインベーダーさえ倒せばその他のインベーダーは活動を停止する。または活動が鈍化していきだんだん弱まっていく。
科学班はそう推測している。
希望的観測だと言われたら否定は出来ないが、少しだけでも希望を見ないと人間が持たないのだ。
同時に問題もあった。
肝心の親のインベーダーがどこに居るのか全く分かっていない。人類の最新のレーダーでも発見する事が出来ないのだ。
レーダーでも反応できない隠れ方をしているのか、遥か遠い場所で身を隠しているのか。
結局、今日も親玉のインベーダーは見つからなかった。
◯◯◯⬜︎X年⬜︎月S日
きょうもたくさん殺した。殺した。殺した。
◯◯◯⬜︎X年⬜︎月?日
つかれた
⭐︎⭐︎⭐︎
「◯◯、食事を持ってきたぞ」
私の目の前にある扉は救世主と呼ばれる彼女の部屋に繋がっている。
赤髪を揺らした私はお盆の上に配給された軍用の食事を乗せていた。
慣れない命懸けの戦場から帰ってきた彼女は精神的にも肉体的にも疲れて寝ている。
そんな彼女を起こしてこの作業をやらせるなんて酷だし、非効率的だ。それより戦場に出ない武器開発の私が、この運搬やその他の仕事を率先してやっていった方が効率的だろう。
前線で足手纏いにしかならないならせめて後ろから色々支えなければな。大人としても。
「…………最近ミノリがな」
昔の話だ。
市民からは救世主と、兵士たちからは戦友と称えられた彼女が常に明るかったのは。
自分はすごい力を持っていると、だから私がいちばん前に行ってスーパーヒーローみたいに活躍するんだと。ほぼ毎日彼女は言っていた。
……それもあの日から変わってしまった。
彼女と常に一緒だったアカリが意識不明の重体に陥ったあの日から。
まだ最初はマシだった。
片腕がなくなって1日も目を開けない彼女を見ても、まだ助かる可能性があると知った時は、顔に希望にあった。
最新療法である医療ポットに入れたアカリを見て、神に縋るように祈っていた彼女の姿は印象に残っている。
でもそれが一週間、一ヶ月、一年、二年、と時が過ぎていき、彼女から笑顔が消えていった。
「……ミノリはすごく頑張っている。最近の新人の中だと一番の成績だそうだぞ。私も特訓を見て見たが、さすが◯◯達の子だなと思ったものさ」
時が経つにつれて彼女は部屋に引き篭もるようになり、戦場に出る時以外は姿を見せなくなった。
誰にも。
私もこうして毎日部屋に来て声を掛けているが、いつも返事はない。
「なあ、もう少しでミノリの誕生日なんだ。たまには戦場以外でも、彼女に会ってくれないか?」
そう声をかけて見たが反応は無し。
(……今回もダメか)
いつもの光景に目を細め、お盆を扉の前に置いて帰ろうとしたその時バタンっと音がした。
「……◯◯?」
急いで振り向き声を掛けるが反応は無し。
いつもと違う展開に私は驚き、扉のドアノブに手をつけてしまった。
私は何をしているのだろうか、扉なんて鍵が掛かっているだろうに──
(開いている?)
そう思ったが現実は予想に反して、少しだけ扉が開く。
「入るぞ……入るからな」
これはおかしいと思った私は一度声で確認しだが何の反応も無しだった為、彼女に怒られる覚悟で部屋に入った。
「◯◯、一体どうし…………………っ!?」
「医療班か、私だ! 至急そこへ運んでほしい患者がいる!」
「え、どこだって? 違う、戦場じゃない◯◯の部屋だ! そこで倒れているんだ!」
「誰が倒れているかなんて、そんなの今の話で分かるだろうっ!」
「◯◯が口から血を出して倒れているんだ!!! 意識もないんだ、早く来てくれ!!!」
「◯◯……! 死ぬんじゃないっ! お前が死んだら、人類は、置いてかれるミノリはどうなるんだ! アカリと再開すらしてないんだぞ! だから早く起きてくれ、早くっ……!」
⭐︎⭐︎⭐︎
俺は臆病者だ。チートの能力を持ってるくせに逃げちまった卑怯者だ。
俺はチートをもらった影響で覚醒前から運動能力がそれなりに良かった。高校になっても体育で男子に勝てるぐらい程には良かった。
それで学校の中で無双して気持ちよかったりしてはいた。調子に乗ってこのまま世界を救うヒーローになってやるぞとも思っていた。
……今思えば、小さい事で浮ついていただけのガキだったなとは思っている。
なんせあの酷い醜態を晒したことを思い出せば、世界を救うヒーロー? ふざけるなって言いたくなるものだ。
インベーダーが初めて侵略してきた日、奴らはいろんな場所に降りてきたが俺の通っている高校もその一つだった。
そうして女神が言った通りに空から敵が来た。なら俺はチートが覚醒してインベーダーを倒したかと言えば。
びびって戦いもしなかった。
気がついた時には高校は破壊されて、チートの影響で生き残った俺以外みんな大怪我か死体だ。
腕を切られて泣き叫んでいる男。腕が変な方向へ曲がっている女性。こちらを向いている顔だけになった同級生。
それを全部見てようやく分かった。
これは現実なんだと。
転生という経験を積んで俺はこの世界をゲームが何かだと無意識に思っていた。どんな酷いミスをしても取り返せる。
最終的にはハッピーエンドになるんだろうと何処か甘く見ていた。
その腐った考えはこの地獄を見て吹っ飛んだ。
地獄を見た俺は……ただそこから逃げた。
「大丈夫ですか!?」
目的地もないままひたすらに走って、どこかに隠れていた俺を助けてくれたのは自衛隊の人だった。
インベーダーが世界のあらゆる場所を攻撃し始めて、日本政府はインベーダーと戦闘、そして避難が遅れた市民の回収作業を行なっていた。
びびっていただけの俺と、命の危険がありながら助けに来てくれた自衛隊の男。
その圧倒的な差を前に己の情けなさを感じながら俺は彼についていった。
後で分かる話だがアカリと会う避難所まで向かっていたのだ。
だが途中でアクシデントが起きた。
まだ生き残りがいたのか俺達以外にも住民がいたのだ。セットで生き残りのインベーダーもだが。
現れたインベーダーは巨大な虫。
インベーダーの中では最下層の敵だが、無防備な住民はもちろん、軽装備の自衛隊でも相手にすれば必ず死ぬほど危険な相手だ。
それは自衛隊の彼も分かっているだろう。
でも彼は「私はあの人達を助けるのであなたは避難所の方へ逃げてください」と言った。
無理だ、助からないから早く逃げようと俺は言った。
でも逃げなかった。
どうして? と俺は聞いた。
「目の前で危ない目に遭っている人がいるなら何だろうと助けに行きたいんです」と彼は言った。
その言葉の眩しさに俺は立ち尽くすしかなかった。
そうして自衛隊の彼は逃げ遅れた住民を助ける為に自ら囮となって虫達を引きつける。
(ああ、やめろ。アンタはそんなとこで死ぬべき人間じゃない)
自衛隊の人が一生懸命走る。だが悲しいかな。インベーダーの方がスピードが早かった。
(お前なんかより、びびって何もできなかった俺が死んだ方がマシだ)
でも俺の足は恐怖で前に進めない。目の前で今死にそうな彼を見ているのに。
(ああ、何で、何で動かないんだ俺の足)
涙を流しながら見ているだけだった。一生懸命走っていた彼は途中で瓦礫に引っかかって転んだ。
(待て、待ってく)
虫のカマみたいな手が彼に降り注いで血飛沫を上げた。
叫ぶ間もなく殺された。
「……くそ、クソクソクソ!」
そこでやっと俺は覚醒した。
正義の怒りではなく、己の情けなさに対する怒りで。
「っ…………あ……?」
「起きたか!」
悪夢から覚めると俺は日本支部の部屋にいた。
目を少し横に背けるとこちらを涙を流しながら見る武器開発担当と、自分に送られている点滴が見える。
「……アイシャ?」
「良かった……!」
俺の手を両手で掴んで喜ぶ彼女。今まで彼女をかっこよくてできる大人だと思っていた俺はその姿に内心驚いていた。
まあ疲れ過ぎて表情に出すことさえ出来ないけどな。
「覚えていないか……君は自分の部屋で倒れていたんだぞ」
「あぁ……」
そこでようやく思い出す。確かに俺はいつもの日記を書いていて、そこで記憶が飛んでいる。
「医者から話は聞いたが、体に相当な負担がかかっていたらしい。まぁそうでもなければ倒れる事態になるはずはないのだが……」
「あはは、最強の俺でも倒れるんだな。俺も入隊してからだいぶ時間が経ったからねぇ〜、年には勝てないかな」
頭がよく回ってない状態で自分なりの冗談を言って見た。が、彼女の悲痛な顔を見て失言だと後悔する。
「すまない、君がとても強いからと私達は頼り切っていた。ここまで追い込んでしまって……」
「ああ、待って待って、アイシャは悪くないよ……!?」
「……そう言ってもらえるとこちらも助かる」
うんうん、やっぱ空気が暗いと人間も自然と気持ちが重くなっちまって良くないな。頼り甲斐のあるアイシャがここまで弱くなっちゃうなんて、俺がしっかりしないと。
……あー、何でもいいから話題を変えよう。この空気はきつい。
「そういえばアイシャが倒れている俺を見つけてだんだっけ?」
「……まあそうだが?」
「あれ、アイシャさんが俺の部屋に来るなんて珍しいね。何か用があったの?」
「…………」
俺が質問したら、アイシャさんは目を見開いた。何かを察したらしい。
うん、頭が回らないからか知らないけど今回はよくミスするな。
「◯◯、一つ聞いていいか?」
「……嫌だ」
「その気持ちは分かる。でも答えてほしい、私はこれ以上君に負担を掛けたくないんだ」
「………………はぁ」
自分の隠し事は言いたくは無い。だがその悲しい顔でそう言われてしまうと、気持ちが負けてしまって頷いてしまった。
「あの深夜、君はインベーダーを狩りに行ってたのか?」
アイシャさんは予想で言ったのだろうがドンピシャだ。恐らく俺の性格と今までの行動からそう推測したのだろう。
「………………………………うん」
「君の勤務時間は朝早くから夜遅くまであるはずだが、私が君の部屋に訪ねた深夜は時間外のはずだ。それに……君が1日徹夜しただけでそうなるとは思えん」
「…………」
アイシャの説明を聞いている俺だが、俺の隠したい事をダイレクトに暴いてくるな……… 。
「その、どれほど君は」
「ずっと」
「……は?」
ああ、アイシャの事だから嘘を言ってもすぐバレるだろうな。もう事実を言っちゃえ。
「インベーダーが侵略してきた日からずっと、寝ないで奴らを殺してた」
「────」
「ほら、俺って最強じゃん? 体も覚醒した時から成長止まってるし、大怪我してもすぐ治るしパワーは化け物超えしてるからさ、やっぱ自分は一番働くべきだなって」
「………………………そうか」
きっとこれを言ったら怒られるだろうと思っていた。まあ勝手に残業するのはアウトだろうし十年以上オールナイトとか健康に悪すぎる。
「……え」
「すまない」
だからアイシャが僕に抱きついてきたのは予想外だった。
アカリとミノリ以外の女性に抱き付かれるのが滅多にない俺がオドオドしていると、隣から泣き声が静かに聞こえてきた。
「……本当にすまない」
「……アイシャが悪いわけじゃありませんよ。それにアナタは今まで多くの兵器を作ってくれたじゃないですか。あなたが居なかったらこの基地はとっくに滅びてます」
俺はそれで何をすれば良いのか分からなかった。色々考えて結局、ただ今は優しく受け止めるだけにしようと決めた。
「それで、この流れで聞くのは申し訳ないのですが」
アイシャが泣き止むまで数分。俺は特に何かをするわけでもなくされるがままにしていた。そうしたら彼女も泣き止んだのか元の体勢に戻っている。
これで必要な情報を聞ける。何よりも大切な情報が。
「俺はどれだけ寝ていたんですか」
「一週間ほどだ」
「…………」
一週間。それは今までインベーダーと戦ってきた十年間と比べるととても短い時間に見える。
だがこの一週間で俺は戦場に出ていない。その事実はとてつもない重みとなる。
聞きたくはないがジタバタしている暇はない。ここで聞こう。
「それでこちら側の被害は」
「…………」
アイシャはとても言いづらそうにしていたが、意を決してこちらの目を見て答えた。
「日本支部以外全滅だ」
「っ……!」
「アメリカ、オーストラリア、ブラジルにその他……◯◯が出ないことを理解した奴らは進行をいつも以上に強くした。その結果だ」
「残りはここだけ、つまり」
「ああ、インベーダーが今までに見たことのないほどの勢力を集めてこちらに侵攻してきている」
眩暈がした。というより疲れが抜け切った今の俺だから、そんな錯覚を受けたという方が正しい表現だろうが。
起き始めてから気になっていたことを聞いては見たが、考えていた最悪のケースだった。
「相手の親玉は……?」
「まだ見つかっていない。この一週間で血眼になって探したが、親玉の影すら掴めていない」
「……そうですか」
こっちの方も全く進歩がない。今回の進行を追い返しても親玉を倒さなければ、今まで以上に激しい進行が毎日くるだけだ。
敵の親玉を倒す以外人類が生き残る道はない。
(……よし、結局やる事は変わらないな)
「◯◯、いったい何をするつもりなんだ?」
少し考えて結局前線に立つのが最善だと考えをまとめた俺が、ベットから出ようとするとアイシャに声をかけられた。
「まさか」
「装備をお願いします。アイシャさん。私が今迫ってきている軍隊をどうにかします」
「……しかし!」
「アイシャも分かっているはずです。これが一番いい方法だって」
「そうだが、そうなのだが……!」
うーん決めた。装備持たずにいくか。
葛藤しているアイシャには悪いが、早速ここから抜け出そう。俺のスペックなら十秒もあればこの基地から抜けれるはずだ。装備がなくても俺の体は強い。少し負担が増えるがやるしかない。
そうベットから降りようとした時に、誰かが入って来る。
「アイシャさん!」
俺と同じくらいの女性。
そしてアカリの次に聞き慣れた声。俺が扉に目を向ければ、起きている俺を見て驚いているミノリがいた。
俺が起きているのは予想外だったんだろう。俺を見た瞬間に彼女の目から涙が溢れて始めていた。
ていうか彼女の目に大きなクマができてるじゃん。
(……ああ、本当にごめん)
さっきまであった逃走心は目の前の女の子の奴れた姿を見て吹き飛んでしまった。
「心配かけさせて悪かったミノリ。今起きた所だ」
「お姉ちゃん……!」
今日は抱きつかれることが多いなと思った俺は、飛び込んできた泣きじゃくるミノリを甘んじて受け止めた。
「よかったぁぁぁぁ、本当にーーー!」
昔から変わらない、たくさんの涙と鼻水を垂らすその姿に俺は少しだけ微笑んだ。
……アカリはずっとあの状態だがまだミノリがいる。この子がいるから俺はまだ戦うことを捨てられずにいる。
鼻水のせいで俺の服はグチャグチャだが、そんな事お構いなしに受け止めていた。そしたら
「今まで何も希望が持てなかったけど、今日は本当に良かっだよーー……
「……今なんて?」
ミノリから聞き捨てならない言葉が聞こえぞ。
驚いた俺はその事をミノリに聞くと、彼女は眩しい笑顔で答えを返してくれた。
「アカリ姉ちゃんももう少しで目が覚めるの!」
「あ、◯◯さまっ……さん! 今アカリさんを起こす所なのであまり暴れてもらっては……!」
「何言ってんだ、アカリだぞ! あのアカリが戻ってくるんだぞ!」
「あ、いつもの◯◯様に戻っちゃってる。これ私じゃあ止められないぃぃぃぃぃぃ……」
ミノリから状態が良くなったと聞かれた俺はアイシャ達を連れて全速力で医療ポットの所へ来た。
部屋に入ったら医療担当の人に注意を受けられたがそんな事知るかっ! アカリちゃんが戻ってくる……あいた!?
「おねいちゃん、気持ちはわかるけどはしゃぎすぎ。医療担当さん達の邪魔してどうするの!」
「……すまん、つい興奮し過ぎて」
ちょっと気分が爆発しそうになった所を、後ろからチョップされて少し気持ちが冷めた。
いかんいかん、たまにスーパーパワーで迷惑かけたことがあったのについ嬉し過ぎて……
「はぁ……良かったぁぁぁぁ…………」
「……お疲れ様だな君も、医療担当さん」
「いいえ……まあ◯◯様の気持ちも痛い程分かります」
後ろで医療と武器開発の担当二人が話しているがどうでも良い。とりあえず目の前で今にでも意識が覚醒しそうなヒカリを俺は待つ。
「◯◯さん、もう少しでアカリさんが目を醒めます。そうしたらポッドから解放するので待っていてくださいね」
「おうっ! 今全力で手を捻りながら待ってるから安心しろ!」
「……すごく心配」
そこから3、2、1とアナウンスされ、機械から空気が抜ける音がした。
業務用の操作板を持っている医療担当が意識が安全に覚醒した事を確認してポットの扉を開ける作業を始める。
程なくしてポット内の水が全て抜かれて、ガラス状の扉が開かれた。
それと同時に白い煙がポットの扉から出て来てアカリが隠れる。視界は悪くなったが足音と共にシルエット状になったアカリが近づいてくるのが分かる。
ただ……
(何かおかしい……)
何故だか俺は純粋に喜べずにいた。何故か彼女の意識が覚醒したあたりから強烈な違和感を感じるようになったのだ。
「警戒態勢を取れミノリ!」
「!」
自分の勘はよく当たる。だからこそこの違和感に警戒して構えをとった。それを見たミノリも困惑するもすぐに構える。
最愛の人が蘇ったというのに警戒する二人という状況が出来上がった所で、その最愛の人が白い煙から抜けて姿を見せた。
そしてそれを見た俺は。
「
奴が姿を表した瞬間に医療質の空気が重くなる。そうさせたのは部屋の中心にいる、俺が殺気を放っているからだ。
アカリではなくアカリの中に潜んでいる奴に対して。
「…………」
医療担当やアイシャは勿論、戦場経験のあるミノリさえ俺の殺気に怯えているというのに、目の前の奴は何も動じることもなくこちらを見た。
黄金の目を。
「何でお前が居るかって聞いているんだよ女神!」
もう一度聞くが返答は無し。
その反応に俺は少し迷うが切る判断をする。
アカリの体を失うのは俺だってとても嫌だが、アカリの中にいるであろう女神はこの侵略の元凶の可能性がある。
そんなやつの素性が分からない状態で野放しできない。もしかしたらこいつは俺より強いかもしれないのだ。
「……色々考えたがダメですわね」
アカリらしくない喋り方をした彼女にミノリも警戒を強めた。
「やっぱ結果だけ言おっと」
その瞬間奴が動く。それに反応して俺が切り捨てようとするが──
「私を助けてください!」
「……はい?」
奴は全力で土下座をしていた。
「つまりなんだ……本来なら介入しないはずの別勢力の神様がこの世界にやって来たから、アンタはその処理をしに来たのか」
「イエス」
それから剣は女神に向けたまま事情だけ聞いてた。
「◯◯、アカリというよりその中にいる奴を知っているのか?」
「まあ、だいぶ前に一回……」
一応転生の部分は無関係者の人がいるのか、できるだけふせいでおきながら女神は説明していた。
女神が言った事はこうだ。
ここは元々侵略者がやってくる世界だったそうだ。しかし難易度的には今のようにハードではなく少しイージーに設定されていたらしい。世界の難易度って何だよ。
とりあえずこの世界に入ってきた敵勢力は女神を介入できないようにして、インベーダーを送り込んで暴れている。
何で敵勢力がそんな事をしているかというと役割を全うする為らしい。
目の前でずっと土下座している女神の役割は『人類の守護』。それに敵対している存在の役割は『縄張りの拡大』で……
「ねえ、一つお願いがあるぞい」
「……何だ」
こいつのベラベラ変わる喋り方を変わってないな。
なんかこんな雰囲気でもこいつに振り回されて変な空気に変わりそうだ。
とはいえこいつの疑いはまだ晴れていない。気を抜かずに情報を抜き取らないとな。
そんな気持ちで女神の願いを聞いたが。
「服をくれ、流石にこの状態で長い間放置はこの子が可哀想だろ」
「…………」
アカリの状態を見る。一応服は着ているが医療ポッドの関係でとても軽装だ。というか肌が見える所が少し多い。
……うん、まあ確かに女神の言う通りだな。
「ミノリ、基地の服を持ってきて俺に渡せ」
「あ、はい」
そうしてミノリが服を持ってきて、念のために俺から直接女神に服を渡した。
「……ほら、服だ早く着替えろ」
「サンキュー」
気の抜けた声にこっちまで気が抜けそうになる。
この重い空気に構わずマイペースで動く彼女と対話するだけでこっちは少し疲れてしまう。
「じゃあ話を戻すぞ、お前は自称人類保護の女神で、お前と敵対している親玉は『縄張りの拡大』をするためにインベーダーを送っているんだな」
「イエス」
「じゃあそうする理由は?」
「……うむ?」
「今聞いたのは経緯だろ。何で相手が縄張りを広げようとしてるのか意味が分かってない」
理由というより動機に近いかこの場合。
昔の戦争を起こした人達だって理由は当然ある。領土拡大による資源の入手や、他の国の動きを牽制するためなど種類は様々だがとにかく理由はあるんだ。
「うむ」
「いきなりベラベラ喋ったのが止まったな。何だ、言いづらいことでもあんのか」
剣を女神にさらに近づけて威嚇するが、女神の顔色に変化はない。むしろ悩む仕草に磨き(?)が掛かったような。
「そうだな。これを言ったらお前は必ず怒るが……まあ避けて通れんか」
少し間を置いて女神は
「理由はない。強いていえば『縄張りの拡大』をするように作られてからそう行動している……といった所だな」
あっけからんにそう言った。
「……何」
「人間には少し難しい感性の話だったな。つまり──」
こいつが言うには女神やインベーダーの親玉というのは生き物ではなくシステムの方が生き方が似ているのだと言う。
感情や利害によって動くのではなく、そう作られたから善悪関係なくひたすらにそう動く。
女神なら人類を守護するために作られたから人類を守護する。敵の親玉は縄張りの拡大をするように作られたから縄張りを広げる。
彼らは上位存在だから誰かに造られたとかは無いらしいが、生態としてはそんなふうに動いているらしい。
正直理解出来なくはないが、価値観が違いすぎて納得ができない。
「つまりなんだ、大義名分とかはないのか」
「そうだ」
「……大した理由がないのか」
「そうだ」
剣を握る力が強くなる。
冷静になれ、まだこれが事実だと言う保証は無い。それにまだまだ確認しないといけない部分がある。
「分かった。なら次の質問だ」
「今のを聞いて怒らないのか?」
「事実かまだ分からないからな。まあ今言ったことが本当なら皆殺しにするけど」
「……そうか、なら次の質問を聞こう」
俺が気になったことはアカリが起きたタイミングだ。
なぜ最初からやって来なかったのか。そこが疑問に残る。
「ああ……それはさっきの話で言ったようにインベーダーの親玉が、私を入れないようにしたと言っていたじゃろ?」
「言っていたな、お陰で時間が掛かったともと」
アイシャの言葉に俺も頷く。それは女神も同様で話を続ける。
「というより普通は入る事は出来なかったんだ、でも入る事はできた。理由は簡単だぞい。この世界に私が直接残した《縁》があったから、それも介入直前に」
「俺の転生の件か」
「あの時言っていたように私は君の第二人生設計図を弄った。ただ形としては君をハーレムにする為に、ヒロイン達の第一設計図も少し弄ったがな」
「ハーレム、ヒロイン?」
「ごめん、今の会話に対する質問は後にしてくれ……」
アイシャが興味津々で話しかけて来るが、今その事を詳しく話すのはやばい。ただでさえ重い状況なのにこの情報が加わると、この場所がカオスになる。
「それが功を成したんね。まあ本当にちょっとしか弄ってないから無理やり
「そうか、まあ言ってる内容は理解できた」
話の筋が通っているとは思っている。しかし元々の話の内容が全て空想じみているのが問題だ。
「そもそもお前、助けてくださいって言ってただろ。あれどんな意味だ」
「力を貸してくれという意味じゃよ。今の私の身体能力はアカリならぬ、スーパーアカリだ。しかしあの大群を一人で相手にするのは無理がある。だから地球防衛軍のみんなと◯◯、お前の力を貸して欲しい」
「…………」
女神のその言葉に俺達は無言だ。こいつを信用しようと言った理由ではなく、どう扱うか考えている為だ。
結局質問は返してもらってが不明な点が多すぎる。
実際どうかは別として信頼できるラインを超えていないのだ。まあ女神の状況が本当なら、信頼に足る証拠を揃えられないのも理解できるが。
(せめてこいつが行動すればわかりやすいんだがな)
そんな時だった。日本基地の緊急のブザーが鳴り始めたのが。
「敵襲です! この基地に直接襲ってきているインベーダーが二体います!」
操作盤から情報を手に入れた医療担当が叫ぶ。
皆は驚きの声を上げる中、俺は冷静に頭の中で最適な武器を考えつつ医療担当に声をかける。
「インベーダーのタイプは」
「二体とも特級! 同じ方向からすぐこちらに到着します!」
「ちい、よりにもよって最高クラスが二体か!」
サイズは100メートル級で戦闘力も高く、大きさにしては素早く動くタイプか。
「威力偵察と言った所じゃな」
「◯◯大尉! こいつは私が見張っています。すぐさま現場へ!」
「ああ、もちろん。医療担当、奴らが出現した場所を教えてくれ!」
「はいっ!」
ミノリの適切な行動に頼もしさを感じながら、俺は焦る事はなくただし迅速にインベーダー退治へと部屋を出た。
それからして基地に大きな衝撃が走る。大きな壁を何かが打ち破る音と共に基地からインベーダーによって壁が破られた事を知らされる。
だがその直後でほぼ同時に二発、さっきの衝撃の時よりでかい何かを潰す音がここまで聞こえてきた。
そして少し遅れてからドスンと倒れる音も聞こえた。
「……やったようだな◯◯は」
「さすがはお姉ちゃんです、特級でも瞬殺なんて」
後からやってくる特級を倒した報告を待たずに二人は勝利の確信をした。長い間彼女の背中を見てきた彼女達は特級でも必ず倒せると思うほどの信頼を持っていた。
しかし、その反対に苦そうな表情をするのが一人。いや一柱いた。
「……まずいのこれは」
「止まりなさい!」
そう呟いたと同時に女神は静かに立ち上がる。それに気づいたミノリがマシンガンを近づけて警告するが女神は全く気にしていない。
「それ言いずらそうだな、めっちゃんって呼んでいいよ」
「め、めっちゃん? それよりアナタ何しようと──」
「ほいっ」
僅かに困惑した隙を見てマシンガンを奪う女神。
「しまっ……逃しません!」
ミノリはそこで罠に嵌められたと自覚して、すぐさまサブウェポンの拳銃を取り出して女神に撃つ。
だが彼女は涼しい顔をしながら玉を軽々と避けていき部屋を出ていった。
「待ちなさ──!」
『南側に待機しているスタッフ及び戦闘員はすぐさま退避してください!』
ミノリの声を遮るように本部からのアナウンスが入ってくる。南側といえば先ほど特急が来た方向とは真逆だ。
『特級一体、こちら側に──!』
そのアナウンスの声は最後まで届く事なく、大きな爆発音によって途切れた。
(さっきのは囮だったのかよ!)
本部からいち早く南側から接近してくる特級がいる事を伝えられた俺は急いで爆発音がした方へ向かっていった。
奴らの目的は俺を欺いて基地に大打撃を与える事だった。特級をワンパンした俺にとって、インベーダーというのは親玉以外恐ろしいものではない。
しかし俺以外なら話は当然変わるわけで、特級というと別の地球防衛軍支部の基地を破壊した化け物だと聞いている。
それが一体だけでも入ってきたらこの基地は簡単に壊れてしまう。
(さっきから女神の件と言い、特級の件といい……!)
起きてから不測の事態ばかりおきている。まるで中国支部のあの時のようだ。
(同じ悲劇は繰り返させるか!)
もう爆発音は聞こえてしまった。あれから数秒しかたっていないが、特級はその数秒で何十人も殺せる。
願わくば死者が出ていない事を祈りながら現場へ到着した俺は……
「何やってんだ女神!?」
「およ?」
特級の攻撃を受け止めているアリス、いや女神の姿を見た。
特級の姿は典型的な怪獣型というメチャクチャデカい二足歩行の化け物だ。そいつの十メートルもありそうな拳をアリスは
「なんで腕が再生して……いやお前なんでそれ持っている!?」
驚きはそれだけじゃない。拳を受け止めている本体の腕には、というか肩には彼女の数倍大きな大砲が乗っかっていた。
俺専用の遠距離武器。戦艦の大砲をそのままバズーカの様な形にした頭の悪そうなロマン兵器とも言える。
そのロマン兵器を俺のチートパワーによって走る戦艦の大砲という恐ろしい武器に変えているが、俺以外かあの武器を使ったら反動で体がぶっ壊れてしまう!
「肉体のリミッター限定解除。極」
何かつぶやくと共に女神は受け止めていた拳を吹き飛ばし、特級を後退りさせる。そして空いた左腕で武器を構え──
「待て、ここで撃つな!?」
彼女の魂胆を理解した俺は止めようとする。
あんなものここで撃ったら、反動で基地が小破しかねん……!
「幸運測定値……上極。ただし砲台関連に限定」
だがこの声も彼女に届く事は……届いているがそのまま引き金を引いた。
俺も耳を塞ぐほどにうるさい音が響いた直後、怪獣の首から上が吹き飛んで、悲鳴を上げることもなく静かに倒れていった。
「……どうなってんだこれ」
その光景を見た俺はそう言った。
特級を倒した事にではなく、反動があったはずなのに特級に壊された壁以外無傷の光景を見て。
「私は女神様だぞ。いくらパワーが落ちているからと言って、少しくらい世の理をいじることぐらいできる」
唖然している俺に平然な顔をして近寄ってくる女神。
その反対側から複数の足音が聞こえて来た。
「◯◯大尉、やはり来ていたんですね! ……ってアナタ、何でここに」
足音の正体であるミノリは女神に向けてマシンガンを構えた。
「お、マシンガン助かったぞい」
「え、おおっと」
ミノリに気づいた女神は床に置いてあったマシンガンを投げる。というかあのマシンガンさっき医療室で使われてた奴と同じに見えるが。
「お陰でこいつの武器このロック壊せたワイ」
「まさか君、あの扉をマシンガンで壊したな!」
「ちょっとチートも使ってな。テヘペロ♡」
遅れてやってきたアイシャも今のを聞いて「あれにも数千億かけたのに……」と言いながら頭を抱えている。
うん、請求はアカリじゃなくて中にいる女神にお願いね。
まあ今の会話で俺も彼女達に何があったのかうっすら理解できた。ならもう一度質問をしよう。
「もしかして女神、ミノリ達から逃げたか?」
「イエス、華麗に避けて動き始めてから五秒くらいで脱出できたぞい」
「……事実です。その◯◯大尉には及ばなくても彷彿させる力、野放しには出来ません」
前みたいにブイマークを決めている女神に対して、イラッときたミノリが再び銃を構え直す。
だが俺がそれを手で制した。
「ミノリ、こいつに銃を向ける必要はない」
「◯◯大尉……? しかし」
「もしコイツに敵意があったら、俺があそこを離れた瞬間に基地は崩壊していたよ」
「分かっておるの。まあ私の力があればー確かに基地を壊す事はできるよ。その後お前に瞬殺されるだろうがな」
さっきの戦闘だけ見ても女神が憑依しているアカリの戦闘力は特級より遥かに上だ。それならミノリ達を皆殺しにする事だって容易にできる。
まあ、実力を見抜けていなかった俺に問題点はあるが今は置いておこう。
とにかくこいつはそれをしなかった。それどころか誰も気づけなかった特級を率先して倒してくれた。
完全に信頼するまでではない。だがある程度は信頼してもいいだろうと、俺は思った。
「一応監視は付けておくけど、味方だと俺は判断するかな。アイシャもそれでいいと思う?」
俺に突然話題を振られたアイシャは考えるそぶりを少しして答えた。
「……まあ今の状況からして戦力は少しでも欲しい。それも特級を一人で倒す人材なら尚更にな」
アイシャも賛成した。
「……まあアイシャさんもそう言うなら私も賛同します。でも少しでもおかしな事をしたらアイツを排除しますよ。人類の為に」
「それでいい。今は」
そう言ってミノリも銃を下げた。
後は他の大勢や司令部の説得も必要だが、そこは俺の実績とこいつのチートパワーを見せて何とか納得させるしかない。
「話は終わったかい?」
タイミングを見計らっていた女神がこちらまで歩いて来た。その女神に俺は手を差し出した。
「……ん? これは」
「いろんな意味があるが、今回はよろしくの意味だな。監視はつけるがとりあえずアンタを味方として見ていいだろう」
「そのとおーり。でとりあえず握手しようと?」
「ああその通り」
「そう言えば人にはこういう文化もあったね。それではよろしくの」
「よろしく」
こうして俺は女神と握手を交わした。
「めっちゃんでいいよ」
「何が?」
「私を呼ぶ名前」
「お前いつも距離感ぶっ壊れてるな」
「こらこら君達。途中でインベーダーの介入があったが、まだ聞けていないことがあるだろう」
懐かしいやりとりをし始めた俺達にアイシャが手を叩いて話に入ってきた。いつも付けている真面目そうなメガネを付けて、彼女は本題に入る。
「めっ……いえアナタは力を貸して欲しいと言っていたが、元々インベーダーの親玉を止める為にこの世界に降りてきたと言っていましたね」
「その通りだよ。奴を排除するのは私の役割でもあるからの」
「なら一つ聞きたいことが。私達は今全滅の危機に瀕しています。それは知っていますか?」
「イエス。このアカリから記憶だけワシの方にインプットしておるからの、大体の情報は知っておる。そして……お主達が一番欲しい情報も持っているぞ」
「──まさかそれって」
一番欲しい情報と言ってピンと来た俺が、その正体を言おうと来て、女神に人差し指で口を塞がれた。
それが成功した女神はニコッと笑う。
「インベーダーの親玉の居場所さ」
「ここに来るのも久々だな……」
それから翌日。厳密に言えば深夜から早朝になっただけなので3時間しか経っていないが。
アカリの件に関する説明を俺がどうにかさせて納得させた後。女神は実際に親玉の居場所を発見させてみた。
彼女が言うには同じ神だから相手の居場所を感じ取るのは造作もないことらしい。
ただ場所に関してはそう遠くない所だった。
だいぶ前から人類の禁忌地になっていた元中国支部。恐らく日本以外の支部がほとんど崩壊した事と、インベーダーの巣を張る所としては中国支部跡地は大きさと距離的に丁度いい所からしてそこを使っているのだろう。
実際に中国支部周辺のインベーダーの増加量は僅かに上がり続けている。
とにかくインベーダーの親玉が確認できた日本支部の司令部はオペレーションメテオを発動。
司令部も今回の戦いでインベーダーとの戦いを終わらせるつもりだ。
作戦内容はとてもシンプル。
私を中国支部に送りつけてその他の防衛軍は日本支部の防衛に徹底。これだけ。
しかしその内容は今まで以上に激しいものになるだろう。
ゆっくりと進軍していたインベーダーの大群ももうすぐそこだ。数を過去最高でその中で特級クラスは何十体と確認できている。
逆に中国支部にはそれ以上の特級クラスがうじゃうじゃいて、親玉に関しては特級よりはるかに強いと女神から伝えられた。
「これで最後だな」
今基地にいるみんなは大急ぎで防衛戦の準備をしている。俺も手伝おうとしたが十数年徹夜していたことがバレて「これは私たちに任せてください」と押し切られてしまった。
もう俺も全ての装備を確認して基地の出発地点にいればすぐ様出れる様にはした。
しかし微妙に時間が残ってしまった俺は、同じ基地内にある墓地へと足を運んでいたのである。
目の前には大量の墓が綺麗に並べられている。ここにあるのはインベーダーの戦闘で死んだ者達が眠っている場所だ。
死体なんて戦場で塵になるから入ってないし、今は状況が世紀末なので全ての死者の分が置いてあるわけではないが……
(アナタが託した勇気は絶対に無駄にしません)
あの日俺を助けてくれた自衛隊の彼の墓を最後にお参りする。
「もう時間だし、行くか」
『大尉!』
『戦女神様ァァァァ!!』
『◯◯様ァァァァァァァァ!!!』
(うおぉ……すごい人集りだ)
出発地点についていたらすごい人が集まっていた。誰も彼もが俺に対して凄い熱狂している。
あれだな、ヒーローを送り出す感じなんだろうな。
後たくさん人がいて今でも耳を塞ぎたいほど声がうるさいのに、俺が通る道だけ綺麗に作られている。
少し気後れしながらも道を歩いていく。
『生きて戻ってきてください!』
『親友の仇を打ってくれー!』
『無事戻ったら告らせてください!』
『おい誰だ今の!?』
いろんな声が聞こえてくる。中には涙を流している人達もいる。なんか変な声も紛れてた気がするけど……まあいいや。
中国基地へと出発するロケットに近づいていくほど俺の手を握る力は強くなっていった。
みんな生きている。生きているんだ。戦闘員だって一緒に過ごしている家族や親友、大切な人達がいる。
俺だって言うアカリやミノリ、アイシャ達がいる。
絶対に負けてやるもんかと、何があっても親玉は倒すと俺は覚悟を決めた。
「な、何で私がここにいるんですかぁ……」
「むしろお前は最後の所にいないとダメだろう」
「そうじゃぞ、最終決戦に向かう主人公に最後の言葉をかけるのはヒロインや家族だと決まっておる」
「お前は何でドヤ顔なんだ」
ロケットの扉に続く階段を登るとミノリ、アイシャ、アカリ……の体に入っている女神がいた。
「待っててくれたんだな」
「これが最後の挨拶になるかもしれないからな……と言うのはお前に限って無いだろうが」
「あったりまえよ、俺は最強だからな!」
「ははは、私はいつも君に驚かされてばかりだった。今回もいつもの様に驚かしてくれ。後今回は制作費は気にしない様に、いつも以上に全力で武器を使いたまえ」
「分かりました。アイシャの武器を全力で使えるなら誰にも負けませんよ」
その言葉に少しニヤリとするアイシャ。
出会ったのは数年前だが、彼女の作った兵器にはどれだけ助けられた事か。
初めて会った時から彼女の要望に合ったインベーダーを捕獲して、それをアイシャが研究して俺の専用武器を作るという相棒みたいな関係だった。
きっとそれはこの戦いで終わるだろう。でも親友という関係は平和になった世界でも続けていきたい。
「さて、私ばかり話すのも良く無いだろう」
彼女が振り向くと涙目になっているミノリがいた。
何かを察したのか、アイシャが少し避けた瞬間にミノリが抱きついてくる。
「おねいちゃゃゃん!!!」
「……うんうん」
昔の泣き虫だった頃の様に抱きついて来た俺は優しくミノリの頭を撫でる。今回は鼻水は出ていないな、ヨシヨシ。
「本当は行ってほしく無い……でもお姉ちゃんは行かなきゃいけなんもんね」
「…………そうだな」
抱きしめたいミノリは俺より背が高くなった。泣いてばっかりの小さい頃は、まだ俺の半分ちょいしか無いのにいつの間にか追い抜かれていた。
「ミノリはこんなに成長してたんだな。……ごめんね、長い間放置しちゃって」
「ううん……そんな事ない。お姉ちゃんだってインベーダー退治のために忙しかったの知ってるから」
アカリがやられて救急ポットに入ってしまった時、俺は余裕がなかった。身近な所で失う恐怖を覚えた俺は、これ以上奪われるものかと怯える様にインベーダーを殺しまくった。
もう身内と言っていいほどのミノリを守る為に。
結局自分が大切な物を失いたくないから、ひたすらにインベーダー退治に心の逃げ場を要していただけだったんだけど。
ミノリを守りたいと言いながら本当に大切なミノリとの交流を疎かにしてしまった。もう死んでしまった両親が見たら俺のことを親失格とか言うのが簡単に想像できる。
でもそんな失敗もこれで終わりだ。
「アイシャから聞いたよ、もう少しで誕生日だろ? 最近はしてなかったからさ、これ終わったらアカリとアイシャや友達と一緒にパーティーでも開こうな!」
「……うん、約束だから。絶対に帰って来てよ!」
「おうおう泣くな泣くな。最後の別れじゃないんだから」
涙を流しながら笑顔になるミノリをもう一度頭を撫でて、俺も笑顔で答える。
それ以上は何も語らなくていい。お互いに言いたいことは平和になった世界で言うべきだ。
……でラストなんだが。
「女神。一応聞くけどアカリは無事なんだよな」
「勿論じゃ」
女神、最後の最後に来た援軍。女神はアカリの体の中にいても女神由来の力は一部使えるらしい。よって女神の役目はここの防衛になった。
特級を倒せる彼女ならとても心強いだろう。
「安心しなさいな、アナタの大切なたいせ〜つなヒロインを傷つけなんてしないぞい!」
「当たり前だよ。もしおふざけで傷つけてみろ、あの世まで追ってでもお前を殺すからな」
「こわっ」
わざとらしくびびったマイペースな女神を見て俺も気が抜けそうになる。こいつと絡むと緊張感が緩んで仕方がないんだよなぁ……。
まあ念のために聞いた会話だが問題はないだろうな。こいつの謎パワーのおかげで無くなった左腕も元に戻ったし。
「勿論意識も戻るんだろ? ならラスボス倒した後に色々話すから本当にっ! 大事にしろよ……」
「あぁー……それなんじゃが」
「え、問題あるのか」
「違う違う。意識が戻りまシェーンみたいな胸糞エンドにはさせんから安心しなされ。というか逆や逆」
「……逆ってまさか」
「うん、少しの間だけだが無理矢理に起きて来たんじゃよさっき。今は寝ておるが」
「「「えっ」」」
「本当ならもう少し眠ってるはずなんだけどね〜。なんか我がこの体に入ったのがきっかけで、すごい精神パワーで早く起きたんだよ。お主に言葉を伝える為に」
「……アカリはなんて言ってたんだ?」
「『これが終わったら三人で一緒に暮らそ』ってな。お前達を見てて思ったんだが、誰も◯◯の勝利を疑ってないな」
「……そうか、じゃあもし意識が早めに戻った時伝えてくれないか。『でっかい一軒家でくらそう』ってな」
「おけおけ」
「じゃあ行ってくる」
「「「行ってらっしゃい!」」」
よしこれで大切な人との会話も終わった。
そうしてロケットの中に入って、俺は中国支部へと向かった。
「特級クラスを含めた敵、全方位から迫って来ます! 数はおよそ一万!」
「全員戦闘準備! これより人類最後の対インベーダー戦を行うっ!」
遠くで地面が抉れる音が聞こえた。そこからやって来たのはさっき本部を襲った特級と変わらない大きさも差を持つ怪獣。
その怪獣達が本部から見える景色全てを埋め尽くしている。地面の方を見れば虫と戦闘マシーが地面一色に覆うほどの量で進行して来ており、空は翼を持つ大きな虫や獣達で覆い尽くされている。
360°どこを見ても同じ景色。
それを見た戦闘員達は戦闘員達は絶望に陥ったか、自分たちが辿る未来を想像して悲鳴を上げたか。
「お前らぁ……分かってるだろうな! 俺達の家を死守するぞ!」
「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
いや、誰もが希望を捨てていなかった。
絶望などとは無縁だと戦闘員達は雄叫びによって証明する。
「俺達には最強の戦女神様がいるんだ!」
こんな絶望的な状況だって終わりは約束されたんだ。
何だって彼女がいたからだ。
「神様だろうが親玉だろうが戦女神様が相手なら必ず勝つに決まってんだろうがぁ!」
彼女に助けられて防衛軍に入った人がいる。
彼女に憧れて防衛軍に入った人がいる。
彼女の助けになりたいと思って防衛軍に入った人がいる。
この基地にいる全ての人がそうだ。
そして誰もが戦女神の勝ちを疑っていない。勝ちは当然の物だと思っている。
ならやることは何だ。
彼女の為に出来ることは何だ。
侵略の日から永遠に戦い続けていた少女に出来ることは何だ。
「俺達が戦女神の帰る場所を守る! 行くぞお前らぁ!!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
絶望に染まった人なんて誰もいない。
防衛軍は己の命を賭けて明るい未来の為に立ち向かう。
ロケットは相手の狙撃により落ちて俺は地に落ちる。
地に落ちた俺の周りからインベーダーが虫の様にウジャウジャ湧いてくる。
……弱い。さっさとラスボスのところまで行こう。
山より数倍大きい怪獣を一刀両断する。
地面から現れて俺を丸呑みしようとする虫を口ごと切り裂く。
空を覆い尽くす数千の虫達を全て粉々にする。
戦闘マシーンによって放たれた極太のビームを切る。
雨の様に降ってくる敵。
アリの様に群れで攻めてくる敵。
それら全てを出しても届きそうにないほどの大きさを持つ敵。
全部が全部無尽蔵に出てくる。終わりがないのではないかと思うほど増えていき、増えるスピードも上がっていく。
百倒したら一千。一万を倒せば十万と次には敵の数が増えていく。
だが俺にそんな事は関係ない。
一面を覆うほどの数が出たならその一面ごと敵を皆殺しにする。
山より巨大な奴なんて一撃でぶっ殺す。
倒した十倍の数でまた攻めてくるのならその百倍の数を殺していく。
憎悪の為にではなく、帰りを待つ大切な人達の為にひたすら
気が遠くなりそうなほどの死体を超えて、そいつらの親玉へと辿り着いた。
俺は親玉がどんな存在かは知らなかった。女神に聞いてもそこまでは分からないと言われたからだ。
ただそいつを目にした瞬間、それが親玉だと数十万のの敵がいる中確信する。
実態は持っておらず黒い瘴気の様なナニカ。
物理的には存在しなさそうだなという感想を持った俺とは反対に斬れると確信する別の俺。
矛盾するが斬れるという勘は正しいと思った。
斬れるなら殺せるとも思った。
「ッ!」
中国支部での蹂躙が始まって初めて出た声。
俺は人生で初めて感じた目にも見えない速さの衝撃を喰らって後ろへ吹っ飛ぶ。
後ろにある山を五つほど貫通してようやく勢いが止まった。
痛みは感じる。
この戦いは俺と敵の親玉が出て来てやっと、蹂躙から戦闘へと変わった。
吹き飛ばされた時よりも早く来た道を戻って切りにかかる。
その前に放たれた親玉の攻撃。
数千度の熱さを持つビームが山を飲み込むほどの大きさで迫る。
どうでもいい。切って消滅させた。
お陰で腕の肌が全て焼けたが剣は無事だ。痛みはあるが他の人達が感じて来た痛みと比べればヘッチャラ。
少し離れた所で勢いが止まってしまったが問題ない。もう一度前へ飛んで親玉に近づく。
今度は目に見えない衝撃が来た。見えない槍の様な攻撃を俺はかわせず左肩に直撃する。
骨が削れて、体と左腕が離れそうだ。
だけど問題ない。剣を振ることができるから親玉に近づく。
攻撃が来た。今度は片足がやられた。
問題ない。もう片方の足で飛べばいい。
攻撃が来た。今のは危なかった。ギリギリで避けて脳は避けた。
片目を失ったがまだ半分見れるから問題ない。とにかくラスボスに近づく。
攻撃が来た。もうその攻撃は慣れた。コンマミリで避けて無傷で進む。
今度はビームだ。さっきより論外。
直接斬らずに斬撃で斬って無傷で進む。
攻撃が来た。進む。
攻撃が来た。進む。
だんだん目の前のこいつから焦りや恐怖を感じる様になった。
攻撃するテンポは速くなり、攻撃の精度はそれに反比例して落ちていく。
こいつにも感情はあるらしい。まああの女神があんなんだからこれぐらいの反応はするか。
ただ目の前に迫る相手が自分を殺せる相手だと理解した瞬間、怯えている様だ。
……あの時俺を変えてくれた自衛隊の人はどうだっただろうか?
まあ恐怖はあっただろうな。でも彼は死ぬ瞬間までビビることもなく全力でインベーダーを引き付けていた。
俺も怖い気持ちはある。でもそれは俺が死ぬことじゃなくて彼女達が死ぬ事だ。
そう思えばどんな痛みだって耐えれるし、あの時の俺みたいにビビる事はない。
大切な人が死ぬ方がもっと嫌だから。
だから頑張れる。なら後は勝つだけだ。
やっと至近距離まで近づけた。
親玉が自爆覚悟で一番強力な攻撃を仕掛けてくるがもう遅い。
攻撃が始まる前に俺は奴の体を真っ二つにした。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ってあれ、よりにもよってインベーダーの侵略が終わる直前で日記途切れてるじゃん」
俺は自分の個室のテーブルで懐かしい物を読んでいた。昔は毎日書いていたボロボロになった日記を。
ただ読んでいたら肝心な部分で途切れていた。
あっけなく終わってしまったラストに俺はなんとも言えない気持ちになって日記をしまう。
「◯◯ー! 速く降りて来て、ミノリの誕生日パーティー始めますよ!」
「あ、気がつけばもうこんな時間か」
一階のアカリの声が聞こえて俺は長い間この日記に夢中になっていたことに気づいた。時計の針はもう七時を過ぎている。
今日はミノリの25歳の誕生日なのに何やっているんだか。
そう思いながら俺は個室へ出て一階へと降りると、ケーキが置いてあるテーブルがあった。
周りを見ればすでに四人いる。俺が一番最後だったそうだ。
「個室で何していたんですか?」
「ちょっと片付けしてたら懐かしい日記が出て来てさ」
椅子に座ると黒髪の妙齢の女性に話しかけられた。
初めて会った時から同じタイプのメガネを使っている女性、
俺がインベーダーの親玉を倒して数日後に医療ポットに入っていた彼女は意識が覚醒した。
後遺症は何も無くインベーダーが居なくなった平和な世界で遅れた青春という名のイチャイチャをしたもんだ。
それも五年前の話だが。
「あぁー懐かしいね。最近は全く見れなくなったけど昔は毎日日記書いてたもんね」
俺の反対側に座っている緑髪の女性ミノリは昔を懐かしむ様に話しかけてくる。
彼女も今は教官という立場になり、最後の戦場で特に活躍した人として色々教えている。今日は彼女にとっても特別な日だから休みをとって我が家に帰ってきたら所だ。
「あ、アカリ。準備の手伝いするよ」
「いいですよ◯◯。貴方はまだ左腕のメンテナンスを受けたばかりでしょう? それよりアイシャさん、本ばかり読んでないで手伝ってください」
「おっとそうだな。私もあまり◯◯君の事は言えんな」
「と言うか私もするよアカリさん」
「助かるわ」
さっきまで研究用の本を読んでいた赤髪の彼女はメガネを外してアカリを手伝い始めた。
彼女もこの一軒家に住んでいる。
その理由は俺の左腕の義腕だ。今俺の左腕を見てもそこには前と変わらない、アイシャが作ってくれた生身の腕がある。
彼女はインベーダーが消えた後にインベーダーのオーバーテクノロジーを扱って新兵器を作った経験とその天才的な頭脳で、今度はインベーダー侵略で負傷した兵士達の支援を行っている。
つまりは義手などを作っているわけだ。
彼女の頭脳はやっぱり本物の天才と言えるようでその点に関する研究は基本的に順調に進んでいる。
たまに頭を抱えるアイシャを見る事もあるが。
彼女から研究費という種が消えても、悩みそのものが消えることはないらしい。
そして最後に。
「めっちゃん、お前も手伝いないさい」
「……………」
「めっちゃん!」
「おっと驚いたわい」
黒髪のロングでイヤホンをかけながら俺の隣に座ってる奴。誰が見ても美女と言える美貌の持ち主である女神がいた。
あれ、彼女はインベーダー倒したんだから帰ったんじゃないの? と思っている人も多いだろう。俺も最初からすぐ帰ると思っていたのだが……
《私は神だしシステムみたいなものだがら、感情もあまりは無いのだけどね》
《感情が薄い私でもプライドがある》
女神さんが言うにはインベーダーの親玉の侵入を許したのは私の責任だ。なのにインベーダーによって受けた被害を放置して帰るのは私のプライドが許さない。
だからこの世界がそれなりに復旧するまで私は戻らんぞ。それに色々できる私がいれば人類にとっても都合がいいだろう……らしい。
まあ女神さんをこの世界に置いておくメリットは実際に大きいので居残ってもらっている。
ちなみに体はアイシャが作ったアンドロイドである。
アイシャ曰く普通に生活できるほどの精度ではないと言っていたが、そこは神様チートでどうにかしてるそうだ。
……ちょっと羨ましいがアイシャはむしろ研究に使えると喜んでいた。
ただ外ではしっかり仕事しているとはいえ、家の中ではずっとゲームしてるのはどうかと思う。今もゲームしてるし。
「おーい手伝えるめっちゃんーー!」
「アイタタタタッ!」
「◯◯、もういいですよ。二人が手伝ってくれたので終わりました」
俺が女神の耳を軽く捻ってるとアカリがそう言って椅子に座った。
他の二人も椅子に座っている。
「もう痛いのう……」
「たまには家の中で働かないかい」
「私は働こうと思った時にしか働かないのよ」
「お前女神としてそれでいいのか……」
こんな漫才じみた会話も家の中でよくする。しかし外に出て話を聞いたらよく働いてるとか誉められてばっかりだからタチが悪い。
「こら二人とも。速く食べますよ」
「おっとそうだった」
「うーん、私は誕生日パーティーはいいんだけど……」
そう言ったのはミノリ本人だ。彼女からすればもういい歳だから恥ずかしいと言う気持ちがあるんだろう。
まあ彼女を祝う為にやっているのもそうだが、別の理由もある。
「まあ一年平和に暮らせた記念だよこれは。平和な時間だからいい事はお祝いしないと」
「……はあ姉さんにそう言われると何もいえないね」
インベーダーの侵略が終わって数年。
俺は日本基地の近くに一軒家を建てて、そこで女性五人で平和に暮らしている。
第二の人生は色々あったけど今は大切な人達と出会えて幸せだと思っている。
まあこんな事をベラベラ話しててもしょうがないし、今は──
「「「「ハッピーバースデー、ミノリ!」」」」
この幸せを堪能していこう。
チートを使ってハーレムと幸せを手に入れます! ギル・A・ヤマト @okookorannble
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