33話 岩飾りの加護
「さあ、みなさん! 馬車馬の如く働きなさい!」
「「「かしこまり~」」」
【奴隷オークション】の次の日。
エース少年から譲ってもらった【
ちなみにエース少年とは今後とも良いお付き合いをしていきたいので、手紙のやり取りをすることになっている。宛先はなぜか王宮なので、王級勤めの下級貴族を両親に持つのかもしれない。
大物貴族でない限りは、王級勤めの者はだいたいが世襲できない一代限りの名誉貴族である。
となると準男爵あたりの家系だろうか?
「おい、岩むすめ! 気合が足りないわん!」
「もっと聖女様のために粉骨砕身するにゃ! 掘るにゃ!」
「「「かしこまり~」」」
んー。
わんにゃんずたちはすごく一生懸命に【精霊石】を掘ってくれているけど、【
これが救済された者と、お金で買われた者の違いなのだろう。
でもこのまま【
まず彼女たちは、土属性の精霊に好かれているようだ。【
おそらく【
となると、彼女たちはわんにゃんずよりも【精霊石】を見つけるのが上手になるだろうし、ゆくゆくは私のように精霊力を込められるまでに成長するかもしれない。
「【
最初が肝心だ。
ここでバッチリ彼女たちの心を掴まないと。
「貴女方の望みは何でしょう? 自由ですか? 美味しい食事ですか? 温かい寝床ですか? それとも奪われた故郷ですか?」
「……その通り~」
「我々の石切り場へ戻りたい~」
「この土の回廊も落ち着く~」
「お腹へった~」
「休みたい~」
「でしたら私のために働きなさい。貴女たちの願いを全て叶えてさしあげます!」
「本当なの~?」
「人間うそつき~」
「我々を騙す~」
「そうやって石切り場も奪った~」
「聖女様の祝福は本物だわん!」
「私たちにあったかいふかふかベッドも用意してくれたにゃん!」
「安全もくれたわん!」
「うみゃーメシもあるにゃあ!」
「本当です。貴女たちの尽力が私の糧となり、私の力が強まれば貴女方の故郷すら奪い返せます。ただし、働かざる者食うべからず。私は私に尽くす者にのみ、この祝福を与えます」
そしてこれ見よがしに、わんにゃんずたちには青薔薇で冷やしておいた果実水を配って渡す。
芳醇で爽やかな匂いが鼻孔をくすぐり、労働の後にはたまらない美味さが喉を潤すだろうと、この場の全員にわからせる。
私はまだ【
それだけ彼女たちは私に心を開いていない。
だから誰がロッキナ・アースかもわからない。
彼女たちの信頼を勝ち取らなければ、金細工の生産もままならないだろう。とはいえ、私に尽くしてくれるわんにゃんずを差し置いて、彼女たちだけ甘やかすつもりなどない。
だからこそ、彼女たちを引き合わせて労働環境の教育を施している最中なのだ。
「……ゴクリッ」
【
そして先輩風を吹かせるわんにゃんずたちは、誇らしげに果実水を飲んでいく。
「美味いわん」
「天国だにゃあ」
「……いぬねこには負けたくない~」
「石いじりで岩飾りをなめるな~」
「やってやる~」
競争心を植え付けることで、どうにか【
やってることは報酬で釣って競わせているだけだけど、これが案外効果があったりする。
勇者時代、戦場では特にそうだった。
綺麗事を並べ立てる貴族のお偉方の言葉は響かなかった。
『勇猛なる王国の戦士たちよ! 王国のためにその命を捧げよ!』と言われて奮起するのはよほど愛国心が高い馬鹿だけだ。
だいたいの兵士たちが戦う理由は、食い扶持のためだったり、出稼ぎだったり、口減らしだったり……戦友のためだったり。
どんなに崇高な夢や目的があっても、腹が減っては何もできない。
とにかく戦場ではどんな大義名分よりも、今日や明日のメシが大事だった。
『成果を出した者にはそれなりの恩賞と待遇が与えられる! 金も女も酒も思いのままだ! みな切磋琢磨せよ!』
こう言えば、おのずと兵士たちの士気はみなぎる。
そして『できる奴』にはどうすれば追い越せるのかと、自然と学び研鑽するようになる。
単純だが明日をも知れぬ戦場では、今日を少しでも幸せに過ごしたい。少しでも美味いご飯を食べて、いい女を抱いて、成功者としての夢を胸に眠る。
そんな兵士たちと、彼女たちは多分変わらない。
そして私もあの時と変わらない。
勇者として、兵士たちを死なせぬように戦い抜いていたあの頃。
私を信じてついてきてくれる者たちに少しでも報いたかった。
彼ら彼女らの戦いに報いたい。
だからこそ、私の
いい思いをしてほしいのだ。
もちろん成果次第だけど。
「聖女様の目つきが本気だわん! 働きによってはうまうま肉をもらえるチャンスだわん!」
「ここはさらに気合いを入れて、もうひと踏ん張りするにゃ!」
「うまうま肉~? 食べたい~」
それから数日後、帝国軍と王国軍が衝突したとの知らせが入ってきた。
いよいよ戦争が始まったのだ。
【精霊石】が兵器として爆売れする未来も近い。
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