そんな技術があるなんてヤバい
リリアナが剣を振ると、炎が噴き出した。それはまるで、リリアナの闘志のように燃え盛り、辺りを明るく照らす。刃に彫った経典は、切っ先が裂いた空間を炎に変えて、そのまま前方を薙ぎ払った。
「下がれ、巻き込まれるぞ!」
レイヴンは晴子の手を引いてリリアナの後ろに移動する。炎の刃は文字通り地面を抉り取り、遅れて爆炎を噴出させる。
「リリアナさんがこんなに凄いなんて──」
晴子は驚きつつも、リリアナの活躍を見て感動していた。リリアナが剣を鞘に収めると、すぐにレイヴンがノートを開く。
「貴様は手を出すなと言ったろう」
「時流れの応用を見せるだけだ」
レイヴンはそう言うが早いが、経典を素早く読み上げた。すると、周りの木に絡んでいた蔦がメリメリ音を建てて伸び、一方では枯れて、鬱蒼とした森のなか、蔦が三人の導線を作り始めた。
「炎で吹き飛ばした道を利用して、連中を妨害する壁を作った。これなら走れるだろう」
「ふむ、悪くない。行くぞ」
「は、ははい! リリアナさん」
三人はレイヴンが作った道を走り抜けていく。しかし、それを阻もうとする者がいた。
「お待ちください。リリアナさま」
黒いローブを纏い、顔を隠した男が三人の前に立ちふさがった。
「……先程の下郎共か。警告は済ませたはずだぞ。それでもなおこの私の前に立ちはだかるか」
三人の男は一斉に懐からナイフを抜く。装飾がされているそれを見て、リリアナははっと息を呑む。
そして、男達は自らの首へナイフの切っ先を向けて敵意のないことを示しつつ、その刃に刻まれた印を三人へ見せつけた。
「その紋様は──まさか我が騎士団の者か!」
レイヴンや晴子もそれに驚き、顔を見合わせる。リリアナにとっては身内同然ということになる。
「リリアナさま、あなたは我々にとって必要な存在。どうか、こちら側について頂けませんか」
「戯言を。貴様ら、誇りあるヴァルハラ騎士団の歴々と陛下に申し訳が立たぬぞ。私は顔も見せられぬ人間の元には付かぬ。どうしても、と抜かすのであれば、その顔を見せ、申し開きをしてみろ」
「……残念です」
男のローブの中から、何かが飛び出した。それが何なのか、一瞬では分からなかった。しかし、その物体が空中に浮かぶと、ようやく理解できた。
「な、なんだあれは!?」
レイヴンは鋭く空中で機動するそれを見て、驚きを隠せない。しかし一方でそれを冷静に分析していたのは晴子であった。
「ど、ドローン、ですよあれは! あんなもの、どうやって──!」
再び剣の切っ先が煌めき、空中で炎の刃があたりをなめ取った。しかし高速で移動する三機のドローンを捉えるのは難しく、リリアナは裏切り者の部下たちを睨みつけた。
「卑怯だぞ貴様ら! 姑息な手段を弄するなど騎士として恥を知れ!」
「リリアナさま。あなたもわからないはずがない。我ら騎士は泰平の世の中で役割を失った。民が必要とするのならばどのような戦場にも赴いたのに、リリアナさま、あなたですらよく分からぬ役職で飼い殺しだ。このようなことは間違っております」
男の一人が苦しげに感じられるほど悲痛な声で言う。しかしそれはリリアナにとって、許せざる発言であった。
「左様なことは知らぬ! 私が仕えるべき主はこのヴァルハラ王国の陛下とその民だ。陛下が、民がそうあれと望むのならば、私はそのとおりにある。それが忠を尽くすということだ。間違っているというなら貴様らの方だ」
リリアナの瞳は怒りに染まっていた。その色は彼女の信念の強さに染まっている。
「リリアナさん……」
「お前達は下がっていろ。これは私と彼らの問題だ」
リリアナの剣幕に押されて、晴子とレイヴンは一歩下がる。男達は一斉にナイフでドローンを指す。それが合図だったかのように、ドローンが急降下し、三人に向かってきた。
「き、来ましたよ!」
「見えている!」
ドローンは急に散開し、リリアナをちょうど三点から囲むと、空気が抜けた音と共に、紐の付いた何かを彼女へ向かって発射する。
「 小賢しい真似を」
リリアナは飛来してくる物体を切り払う。ひとつ、ふたつ──しかしその隙を突かれ、もう一機が再度発射した物体が、リリアナの腕に絡みついた。
「なっ、これはッ」
直後、電撃が紐を伝いリリアナを苛む!全身を駆け巡る痛みに、彼女は膝をつく。
「リリアナさん!」
「ダメだ、近づくな!」
晴子は慌ててリリアナの元へ駆けつけようとする。しかし次の瞬間、レイヴンの手が彼女の肩を掴んだ。
もう片方の手にはノートがあり、彼は素早く経典を読み上げる。しかし、何も起こらない。
「どういうことだ……!? 時流れが効かん!」
彼が混乱している最中にも、リリアナからは肉が焦げるようないやな臭いが漂ってくる。危険だ。これではリリアナは死んでしまう。
絶望からか晴子はその場にへなへなと崩れ落ちる。レイヴンも他の方法を探ろうとしているが、今度は別のドローンが晴子達を取り囲もうとしていた。
絶体絶命──その時だった。
「私は……ヴァルハラ騎士団名誉騎士団長、光焔のリリアナだッ!」
その場の何もかもを吹き飛ばさんかの如き大声で、握りしめたままの剣をそのまま振り払った。
経典がリリアナに呼応するように自動的に発動し、炎の刃が再び前方の全てを──空中のドローンをも全て吹き飛ばした。
「おぉっ」
レイヴンが感嘆の声を上げる。晴子も何が起こったのか分からず、ただ呆然とするばかりだった。
リリアナも自分の身に何が起きたのか分からない様子で、困惑した表情を浮かべ、膝をついた。電撃が身体中を苛んでいたが、なんとか動くのに不自由はしないようだった。
「くそっ……なんというザマだ。晴子、すまん。しばらく休ませてくれ」
「は、はい!」
リリアナは地面に座り込む。顔色も悪く、かなり辛そうだ。先程の男達は吹き飛ばされ面食らったのか、姿は見えない。
「連中、すぐに戻ってくるかもしれんぞ。戦えるのか」
レイヴンは冷静にそう言って、リリアナの前に座り込む。焦げかけた肌や髪は酷い有様だ。
「貴様はともかく、晴子は日本国の要人でもある。私の命に代えても──」
彼はリリアナの言葉を手で制し、経典を読み上げる。周りの木々の蔦が、自分たちを取り巻くように成長し始める。
「お前の気持ちは分かった。だが、俺のことも少しは頼ってくれてもいいだろう。……今こそ、時登りの力を見せる時だ」
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