第十一話 お月見夜話

 今宵は満月。

 特にすることのない私たちは、のんびりワイン片手にお月見してます。


 リャナンシーたちだって、現地入りして直ぐに結果を出せるはずもなく。

 他の姉妹たちのお城のメイドさんたちの間で、じわじわ人気上昇中の『黄昏王国物語』ですので、作者のヴァイオレットさんをメイドから専業作家にしたばかり。

 エントランスに掲げる肖像画、巨大サイズの私のを描き上げたアンナちゃんも、宮廷画家に昇格。

 残るセシルのも描いてもらってます。

 もうちょっとでメイドさん楽団もできそうだし、その内メイドさん劇団だって作れるかも知れない……。

 メアリージェンには呆れられるかも知れないけど、暇つぶしは探してるだけじゃ駄目で、自分たちで作るのが一番。

 劇団作って、自分たちでお話作って、演奏もして、舞台装置も作ったりして、御父様や姉妹たちの城に巡業したら、喜ばれると思うんだけど……。

 マウントの取り合いとかしてるより、よほど生産的ですよね?


 シフトの時間にしっかり仕事してくれているなら、余暇は好きに使って欲しい。

 隠してるのかも知れないけど、人族の職人街建設のお手伝いに出してる娘たちからは、まだ浮いた話が聞こえてこないのはちょっと寂しかったり……。

 身分こそ奴隷のままだけど、そうすることで他から守るためにしているわけで、普通に暮らして欲しいのです。

 メイドだけじゃなく、執事も入れた方が良いのかな?


「城の主が女性三人ですから、あまり必要とは思えません」


 チロっとワインを嘗めつつ、目指せ! 専業作家の新人メイド作家の作をチェックしながらセシルが素っ気なく。

 就業中の真剣味が失われると、男子を加えることに否定的なセシルです。


「摘み食いしてみるのも、楽しいですよ?」


 なんて、見た目と吸血鬼バンパイア経験にギャップが有りすぎるメアリージェンがしれっと。

 大人に憧れるおしゃまな少女にしか見えないのに……。

 しっかり、ひと通りの経験は積んでるのでしょうか? ……謎。


 趣味のメイドさん育成に励んでいる私を除けば、領地運営の方針を決めて、関係各所に仕事の割り振りを終えた二人は、やっと手が空いた状況。

 労う意味も兼ねてのお月見。

 お疲れ様でした。


「この後はしばらく、成果待ち?」

「打てる手は少ないけど、やらなきゃいけないことはまだ山積みです。だからといって、一足飛びに成果は出ません」

「……様子見、とも言いますね」


 まだ色々したいのに、これ以上は無理! な、セシルと、達観してるメアリージェン。

 寿命すら超越してる現状では、気長にやるしか無い。

 姉妹たちとのマウント合戦(?)も、そんな早急に動く感じはなさそうだ。

 メイドさんたちの心をがっちり掴んでる小説が、主人たちに広がるのを期待しながら、じっくり待つくらいでちょうど良いのかも。

 ノスフェラトゥ不死の者って、気の長い存在だしね。


「では、様子を見ている間、何してましょう?」

「そうせっかちに動くのは、ノスフェラトゥらしくはないとも言えますが……」

「ジュスティーヌ様と私は、まだノスフェラトゥ時間に馴染んでませんから」

「のんびりし過ぎても、なんとなく後ろめたいと言うか……」

「ジュスティーヌ様は、メイドたちと遊んでいるのがよろしいかと」

「私はそれとして、セシルが退屈そうで……」

「私はメイドたちと遊んでる、ジュスティーヌ様のお世話をいたしますので」

「待って、それだとメイドたちのいる意味がありません」


 まあ、セシル自身が有能なメイドでもあるのですけど、ここでは主の一人ですから、問題がありそうな。

 そんな不思議そうな顔で見られても困るけど……。

 私の身の回りの世話をするために、わざわざ吸血鬼にまでなってくれたのだから、首を傾げるのも当然かしら?

 楽しそうに、メアリージェンが助け舟を出してくれた。


「他のメイドさん同様、セシル様も何か嗜まれては?」

「私も……?」


 チェックしていた原稿を置いて、考え込んでる。

 大概のことは何でもできてしまうセシルだけど、自分から進んでするのは、私のお手伝いくらいなんだよね。


「メアリージェンは何かする事があるのですか?」

「私は慣れてますから、しばらく退屈を楽しんでいます」

「それは……何となく、暇を持て余すのでは?」

「セシルは、働き者の侍女ですものね。働いてないと不安なのでしょう」

「はい……」


 セシルにいろいろ動いてもらえば早いのですが、今は人材育成もしないと組織化できない状況。

 そうか……人材か……。


「メアリージェン、教えて頂きたいのですが……。ハビューソーターとかをピックアップしたように、余ってる人材ってどこにいるのでしょう?」

「普通に街にいますよ? この城の街はまだ整備できていないですが、それでももう偏屈なのが住み着いてますし。御父様の城下や、姉妹たちの城下には、それなりの人数がおります」

「何で、そんなに吸血鬼がいるのでしょう?」

「……ノスフェラトゥの国ですから、ノスフェラトゥの国民がいるのが当然でしょう。長い年月の間に増えてますし、姉妹兄弟たちの吸血の練習の時期は、特に増えますよ」

「そうなのですか……」

「ですから、ジュスティーヌ様が人族メイドを欲した時は、てっきり吸血の練習をなさると思ってましたのに……本当に楽しい方です」


 変な主人でごめんね……。

 でも、自分で眷属を増やそうっていう気にはならないのですよね。

 私のように吸血鬼体質の方が健康的になる方は、なかなかいらっしゃいません。

 でも、良いこと聞いた。


「セシル……人材探しをお願いします」

「人材探し……ですか?」

「まず、メアリージェンが必要そうな人材をピックアップしてくれましたが、まだ足りないのは確かです。……私が喜びそうな人材は、セシルが一番詳しいはずですから、あなたの目で街を歩いて探してきて下さい」

「私の判断で……よろしいのでしょうか?」

「まだまだ私に遠出は難しいでしょ? だから、代わりに」


 ついでに他所の街で面白い話でも拾ってきて、教えてくれると嬉しい。

 バンパイアドーターは、御父様に次ぐ強大な力を持ってるそうなので、セシル一人が街歩きしても大丈夫でしょう。

 暇な時は、お散歩メイドしていてもらおう。

 真面目に人材探しをしちゃいそうだけど、回数を増せば、気持ちの余裕もできるでしょう。


「わかりました。……良い人材がいると良いのですが」

「時間はいっぱいあるのだから、しっかり見定めてくださいな。……明日から、お願い」


 おつまみはいらないので、ワインのボトルを替えて味変。

 こんな風に他愛なくお月見する夜も必要です。

 長い付き合いになりそうですから……。

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