第七話 ジュスティーヌ杯 趣味のメイドさんコンテスト

 今の私、とても偉そうです。


 月蝕城の王座の間、左右にセシルとメアリージェンを揃えつつ、一人豪華な玉座に座っています。

 あまり長く立っていられる自信がないので、座らせてもらってる感覚なのですが、この城の主としては当然の対応らしいです。

 嬉々として椅子(玉座)に座って、臣下たちを睥睨します。


 吸血鬼バンパイアになってから日も浅く、特に吸血衝動にも駆られていない私とセシルですので、当然のように自ら眷属に招いた者がいるはずもなく……。

 姉妹たちが荒ぶってた頃に増やした眷属で、仕事にあぶれている者を採用した状態。

 典型的な、寄せ集め軍団ですね……。


「ジュスティーヌ様が、眷属に招きたい人材がいらしたら良いのですけど……」


 などとメアリージェンは溢しますが、訳を知るセシルは苦笑い。

 ええ……ほとんど寝たきりの病弱令嬢だったので、お友達がいないだけですとも!

 セシルだけでも充分なのに、メアリージェンというお友達ができて喜んでいる所です。

 さすがに三人でお城や領地を運営するのは面倒(とは言わない優秀な侍女たちです)なので、雇用を促進してみました。


「変則的になりますが、領地運営をセシル様と私が中心となって執り行い、手の届かぬ専門分野のみの担当を任命する形にしております。

 今後の人材強化に期待しましょう。

 そして、ジュスティーヌ様の要望もあって、一部は寿命のある者たちも採用しました」

「わ……私たち、血を吸われちゃうんですか?」


 メアリージェンの言葉に悲鳴を上げたのは、緋色のメイド軍団だ。

 迷い込んだり、魔王領から買い取った人族女子奴隷たちを集めてみました。

 ノスフェラトゥ不死の者たちに囲まれ、可哀想なくらいに脅えてる。

 ちなみにメイド服は、セシルとの識別もあって、黒シルク部分が白コットンとデザイン変更されています。


「そう希望するなら、対応しますけど……まだ人でいたい人ぉ、挙手! 全員ですね、そのまま現状維持です」

「それでよろしいのでしょうか?」

「メイドたちは元気な方が良いです。……一番偉いらしい私の好みですから、適用されるはずですよ。他の同僚たちから、セクハラ、モラハラ、吸血ハラ等を受けた場合は、すぐに申し出て下さい。対応します」


 明らかに安堵するメイド軍団。

 貫禄の欠片もない言葉遣いに、左右から咳払いが聞こえるけど……。

 立場が人をつくるというけど、人は急には変われません。

 私たちにはあまり必要ないけれど、食事とかは美味しい方が良いからね。城内の士気向上のためにも、熱意を持って美味しいものを作って欲しいです。


「下級吸血鬼たちは情報収集も兼ねて、人族の領地や、魔族の領地に派遣しているので、無理な吸血を欲する者もいないでしょう?」


 きちんとしているつもりでも、後頭部に寝癖の残った、神経質そうな眼鏡の男が頬を緩めます。

 メアリージェンの補足によると、【軍師】として採用したバンパイアネヒュー……ニースの男性版ですね。のハビューソーターという方です。

 軍に限らず、施政に助言を与えてくれる学者さんだとか。

 元は、ドロレス様が女官たちを確実にニースにできるよう、吸血の練習に使われた実験台その他大勢だったそうです。

 爵位を持たぬ吸血鬼バンパイアは吸血衝動が抑えられず、むやみに下級吸血鬼を増やすので、野に放って情報収集をさせた方が良いそうな。

 定期的に冒険者達が駆除してくれますから蔓延しませんし、コウモリ便アイテムで最新情報が手に入るのでお得だとか。


「ある程度は理性的に動けないと困りますからね……」

「活きの良い人族を準備するだけでも高くつきますから……。それで増えるのが、爵位なし確定では話になりません」


 顔を見合わせたのは、爵位持ちの最下級の男爵に当たるバンパイアカズンの夫婦。

 コンビで不死のモンスターたちの調教、運用に当たるランヴァンとエミリー。

 地味ながら、領地の運営に『領民』は欠かせないので、現在フル稼働中だとか……。


「あとは何か、領地の特産品を作り出せると経済的に安定するでしょう」


 他の姉妹や、他領との交易を任せる同じバンパイアカズンのバグス。

 うん、そうだね……。

 でも、それには実家の父も苦労してたからなぁ。

 ようやく「コスパの高いワイン」という評判を得て、数年という話だから。


「何もかもと、慌てることもないでしょう。体制が整った後に、改めてこの地を見直して、新たな産業を興すなり考えましょう。……バグスはまず、この領内で不足しそうなものを調達する仕事に専念して下さいな」

「解りましたジュスティーヌ様。早速、各所に連絡を取ってみます」

「よしなに……」


 こんなものかしらと、左右のお二人さんに確かめる。

 ニッコリと頷いてくれたので、問題はなかったようです。

 では、解散、解散。

 メイド軍団と打ち合わせのセシルを残して、私はメアリージェンと居室に引き上げます。

 今日はもう、私にしては働き過ぎです。

 熱を出して寝込まないように、早めに身体を休めないと……。

 最近、熱を出しても『不老不死だから』と、セシルがあまり心配してくれないのが不満です。

 死にはしないけど、熱に浮かされると苦しいというのも、なんだか理不尽ですよね?


☆★☆


「第一回ジュスティーヌ杯争奪 趣味のメイドさんコンテスト~!」


 そう宣言すると、メイドさんを呼ぶハンドベルを滅茶苦茶に振り鳴らして、盛り上げようと頑張ります。

 セシルは呆れ顔で、メアリージェンは首を傾げつつ拍手。

 いったい何を始めたのかと言いたげです。

 最初の総会以来、着々と体制を整えつつあるジュスティーヌ領ですが、すでに火蓋が切られているはずの、姉妹バトルの準備もしておかないとね。

 実は、この一ヶ月。メイドさんたちに趣味を推奨していました。

 働くだけじゃ虚しいし、特に殿方の目にとまるわけもない。

 それならいっそ、絵画でも、詩作でも、刺繍でも何でも良いから趣味を楽しんでくださいねと。

 その為の道具代や、道具そのものの準備、楽器だって買っちゃいましたよ。


「エントリーナンバー一番! お料理メイドのアンナちゃん。油絵『メアリージェン様』」


 おおっ、可愛い……。ちょっと気取った感じのメアリージェンらしさが、とても良く出ています。

 当のメアリージェンも頬を染めて、目を丸くしてますね。


「エントリーナンバー二番! お掃除メイドのルノアさん。詩集『月蝕城の日々』」


 そんな感じで、玉座の間に思い思いのクッションを持ち込んで、私以外は車座になって同僚の趣味の成果を品評会です。

 本当の素人芸もあれば、意外に侮れない方もいらして。

 仲間内の意外な特技にビックリしつつ、座は盛り上がって行きます。


「では、第一回ジュスティーヌ杯 優勝は……洗濯メイドのヴァイオレットさん! 小説『黄昏王国物語』に決定しました!」


 アラサーのベテランメイドの貫禄でしょうか。

 読んでる方も、ドキドキハラハラしてしまうような、とてもお耽美な一作に決定です。

 ヴァイオレットさんには、是非とも続編を書いて下さいませとのお願いと、副賞として第二回の発表までの間、食事に一品デザート追加の特典が贈られます。

 盛大な拍手と、次回は私がっ! の決意で盛り上がって、解散となります。


「皆さん、なかなか器用な方が多いのですね……驚きました」

「でしょう、でしょう? でも、ただのお遊びではないのですよ?」

「……?」


 とてもできる方である、メアリージェンの意表を突くというのも楽しいものです。

 私はにっこり笑って、指示しました。


「『黄昏王国物語』と『月蝕城の日々』の写本をお願い。お姉様方と、御父様の居城の分に予備を含めて四冊づつ必要ね」

「写本って……いったい何をなさるつもりですか?」

「主を含めて、皆さん退屈なさってるのでしょう? ……写本を各城のメイド室に届けたら、人気になると思いません?」


 意を得たりと、メアリージェンがにやっと笑います。

 私も悪い笑顔で、メイドさんたち作の御本を抱きかかえました。


「私、自分はダメダメだと思うのですけど……その分、身の回りの方の自慢をするのが好きなのです。フフッ……皆さんで、流行を作りましょう」

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