count2.5 変化

「ここです」


 スタッフさんに案内された部屋に着く。一応、関係者用のプレートをもらっておいたので、追い出されることもなかった。


「それじゃあ、開けるよ」


 夕奈がドアをノックする。


「はーい、少し待ってね。今、着替えてるから」

 

 え、今着替えてるの? 普通、着替え終わってから呼ばない?


「よし! 着替え終わったよ。入ってどうぞーだよー」

「お邪魔します」


 ドアを開けると、さっきライブで見た人が座っていた。服の感じは、見た目にあった地雷系のファッションをしている。髪は、お花のハーフツインにリボンをつけていてとっても可愛い。


 部屋の中は、テレビとかでよく見るあの白い部屋の感じで、奥にはさっきまで着ていたライブの衣装が掛けてあった。


「こんにちは」

「はい! こんにちはだよー」

「こんにちは」

「こんにちはだよー!」


 夕奈も続けて挨拶する。

 口癖なのだろうか? さっきから「だよー」と言っているのが気になる。


「ん……」

「望美ちゃん、はいっておいで」


 ドアのところで止まってしまって、動けない望美ちゃんを呼びかける。


「望美ちゃんっていうの?」

「はい」


 夕奈が返事する。


「望美ちゃん、おいで」

「……うん」


 とことこと走り出し、その人に駆け寄る。


「うわあああああああん」


 望美ちゃんが大声で泣き始めてしまった。


「さびしかったよね。ごめんね」

 

 かけ寄ってきた望美ちゃんとその人がハグする。望美ちゃんの泣き声はしばらく止まなかった。





 望美ちゃんが泣き終わった後、私たちは椅子を用意してもらった。


「まず、自己紹介だね! わたしの名前は、立木見鳥たちきみとりだよ。よろしくね!」


 思ってた通りの明るい人だった。


「えーっと、君たちは望美ちゃんの保護者であってるのだよ?」


「保護者といえば、保護者ですけど。今、預かってるのは私です」


 私が答える。


「そうなんだ。この子、いまどんなふうに過ごしてるの?」

「私の家と夕奈の家で交互に過ごしてて、この子の両親は海外旅行に行ってって、姉が友達の家に家出しちゃって、それでこの子を預かってるという感じにしてます」

「う、うん。なかなか大変な設定やってるね」


 改めて言われると、確かに難しいかも。


「望美ちゃん、私が預かってもいいかな?」


 へ? 話が飛躍しすぎていて意味がわからない。


「実は、一人をもう匿ってるの。その子は、私より望美ちゃんの方が仲がいいし、話しやすいと思うから。それに、君たちがやってるものは夏休みがある前提で、期限があり、いずれどこかにこの子を置かなければならない。そうでしょ?」


 それはそうなんだけど。それよりもこの人、一体何がしたいの? 急に望美ちゃんのことを欲しがるなんて


「一つ質問させてください」


 夕奈が手を挙げて質問する。


「鳥さん、あなたは一体何がしたいんですか?」


 夕奈が私の頭に浮かんだ質問をしてくれた。

 すると、鳥さんがふふっと笑った。


「別にみんなで私たちの星に帰りたいだけだよ? それ以上は何もない」


 何か裏があるようにしか見えない。それは、夕奈も同じだと思う。


「それでどうだよ? 渡してくれるかな?」

「まず、鳥さんが匿っている子を見てから考えます」


 私が鳥さんの問いかけに答える。

 渡すつもりはないけど。ほんとに匿っているのだとしたら、この人に預けてしまえばいいのだから。それで私たちは…


「わかった。付いてきて、私の家まで案内するから」


 夕奈と顔を見合わせて頷く。

 今は、とりあえず付いて行ってみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る