count3 エルナ(前編)
「それじゃあ、いくのだよ! 開け扉《オープン・ザ・ドア》!」
私は口をぽかーんと開けてしまう。車で行くとか思ってたので予想外だった。
能力の唱え方が厨二病かよ!と頭の中でツッコミをしていた。
「入って大丈夫だよー。おいでー」
左のドアノブを捻り、ドアを開ける。
ドアの向こうから鳥さんの声が聞こえる。夕奈と顔見合わせてドアを開け通る。すると、高層ビルのリビングに出た。
「見てみて、夕奈お姉ちゃん! あの公園があんなに小さく見えるよ!」
望美ちゃんがトタトタと走り、窓に近寄る。
「望美ちゃん、ちょっと待ってね。靴置いてくるから。すみません、靴置くところってこのドアを出た先にありますか?」
夕奈が鳥さんに聞く。
「うん。あるのだよー」
「ありがとうございます」
鳥さんが一旦ドアを閉じ、再びドアを開ける。何をしたんだろう?
「どうぞなのだよー!」
私と夕奈は、鳥さんが開けてくれたドアを通る。通ってみると、至って普通のドアだった。
後ろを振り向く。
「どうかしたのだよ?」
望美ちゃんの能力を見てきていても、未だにこういうことにはなれないなぁ。
「スリッパってあっちにありますか?」
「あるのだよ」
「ありがとうございます」
鳥さんが笑顔になった。
私と夕奈が玄関に靴を置き、近くにあったスリッパを履いた。
「お姉ちゃんたち、まだー?」
「今行くよー」
望美ちゃんが頬を膨らませ、待っている。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「それで匿っている子はどこにいるんですか?」
「その前に一ついいかな? 私の能力はなんでしょう? 具体的な発動条件を答えてね」
自分自身でドアを閉めることだろうか、それとも望美ちゃんが言っていた通り、変化の能力だろうか? とりあえず、見たものであってそうなものを言ってみよう。
「自分自身でドアを開けること?」
私が悩んでいたところ、夕奈が答える。
「ブブー。それは、部分的には合っているけど、ちょっと違うね。答えは、自分から見て、左にドアノブがあればワープができることでした。まぁ、発動は任意だけど」
思い出してみると、確かに左のドアノブだった。
「なんでこんな質問を?」
夕奈が鳥さんに質問する。
鳥さんが自分の手を見つめながら、質問に答える。
「君たち、自分の力ってどれほどの物なのか、試したことはある? まぁ、この世界の人は私たちと違って、特別な力は何にも持ってないから、わからないかもしれないけど」
私たちのことをなんだと思っているのだろう? いくら特別な力を持たないからといって、ここまで舐められているの気に触るな。
「確かに、私たちは、鳥さんのように特別な力を使うことはできない。でも、それがわからないってことはないです」
鳥さんが手を下ろし、私の方を向く。
「それはどうして?」
「私たちは、経験することができます。例えば、あるところに一人の中学生がいました。その子は、部活動に入っており、部の中ですごい実力を持った子でした。ある時、大会に出ることになりました。その子は、トップバッターでチームの流れを作る役でした。大会に出た部活は、順調に勝ち上がり、準々決勝まで来ました。その時、その子はこう思いました。案外余裕で行けるじゃんと」
夕奈が私の方を見つめて、胸のところで手をぎゅっとしている。
「このまま全部勝って、優勝しちゃおうとそう思っていました。ですが、その準々決勝でその子は敗れました。いつものようなプレーができず、相手に翻弄されてしまったのです。その後、なんとか持ち直した部が勝ち越し、準決勝まで進みました。そして、その子も準決勝と決勝で勝ち、部活は優勝しました」
「そう。それでその話とあなたが言った経験とどう繋がるの?」
一度息を整え、丁寧に言葉で表す。
「その子は、一度敗れました。それが経験したということに繋がるんです」
「どういうこと?」
「その子は確かに負けました。ですが、ある意味で自分の力と技術をもう一度見直すきっかけになったんです。そうして、自分の力を見直して、勝つことができました。鳥さん、あなたは私たちに特別な力を持ってないから、わからないかもねと言いました。でも、私たちは、自分なりの特別な力を持っています。 その一つが経験なんです。自らたくさんのことを学び、たくさんのことを見て、私たちは成長するんです。例え、優れた能力を持つことになったとしても経験だけは無くならないから」
自分が言えるだけのことは言った。伝わるか、どうかはわからない。でも、この人が本当に大人なら、きっと答えてくれるはずだ。
「それがあなたたちの能力なの?」
「はい」
大きな声で返事をする。
「…そう。なら、これならきっと見ても大丈夫だね」
どういう意味だろう?
「今からもう一人の子へ連れて行くけど、何を見ても逃げ出さないで、約束できる?」
もう一人の子に何かあるのだろうか? もしかして…
「…約束します。責任を持って、その子に会いに行きます」
「わかった。そっちの子は?」
「私は…」
夕奈も悟ったのか、行くのためらっているように見える。
「夕奈、大丈夫。私がちゃんと見て、話をしてくるから。その間、この部屋で待ってて」
「でも…」
心配で手が震えている。
私は夕奈の手を握り、目を見つめ答える。
「私は大丈夫。私は、夕奈の幼なじみだから」
「…わかった。気をつけて」
「もちろん!」
夕奈から手を離し、鳥さんの方を向く。
「まるで化け物に会いに行くようになっているがそこまでじゃないよ。ただ、認識としては間違ってはいないけどね。あと、望美ちゃんは連れていかない方がいいかも。ここから先は少し、子供には見せたくないんだ」
「わかりました。望美ちゃん、一緒に待ってよ?」
「むにゃむにゃ…わかった」
望美ちゃんは近くにあったソファで寝てしまっている。さっき、話をしている時から、眠れそうなところを探していたのか、うろちょろしていた。そうして、今眠れるところを見つけ、寝てしまっていた。
「長引きそうになったら、私が君の家まで送るよ」
「わかりました。ありがとうございます」
夕奈がお辞儀をし、礼を言う。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
No.3 count2 「エルナ」
たどり着くのにそう時間はかからなかった。でも、自分の心に整理がついていなかった。でも、自分で決めた以上、見るしかない。
「開けるね」
鳥さんが扉を開ける。そして、扉を開けると、待っていたのは、窓際で空を見つめる車いすに座っている望美ちゃんと同じくらいの小さな女の子だった。
服装は、夏にもかかわらず、長い長袖を着ている。まるで何かを隠すように。
間違いない、この子だ。最初に望美ちゃんが会いたがっていた子だ。
「エルナさん?」
「うん。私がエルナ」
エルナさんがこちらを向き、私の目を見てくる。だけど、その目は二つではなく、一つだけだった。完全に一つ目というわけではない、眼帯をしている。ただそれだけだ、それだけなのに。
そこに私は 違和感を感じた。
彼女の昔の姿は眼帯をしていなかったはずだけど、どうして眼帯をしているのだろう? どうして、右目だけ? 何かあったのだろうか?
そんなことを考えているうちにエルナさんが徐々に近づいてきた。
そして、私の目の前まで来て、こう質問した。
「あなたは誰?」
七夕と空と宇宙人 黒野羽雪 @kuronohayuki
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