count1.5 問いかけ

 望美ちゃんがお水を全然飲んでないと言うので一旦、場所を公園に移した。お昼を過ぎていたので、小学生がたくさんいて、遊具などで遊んでいた。


「望美ちゃんって言うの?」


 私が公園へと向かっている途中で、夕奈にさっきまでの話を説明した。 


「うん。宇宙の外から来たみたいで名前がないみたいだから私が付けたんだ」

「いいと思う」

「ねぇ、どうしてあの場所にいたの?」


 夕奈が望美ちゃんに問いかける。


え、もう少し私に聞くことないの? 名前の意味とか!?


 夕奈と望美ちゃんが木陰に隠れている公園のベンチに座り、私が近くの自販機で買ったジュースを望美ちゃんにあげる。


『ありがとう!』


 笑顔で受け取ってくれる。やっぱり可愛い。望美ちゃんがジュースを受け取ったところでさっきの質問に答える。


「えっとね、おトモダチ?と離れ離れになっちゃったの。だから、トモダチ? を探しに来た。でも、どこにいるか、わかんない。お姉ちゃん、そもそもトモダチって何?」


 ペットボトルの蓋を開けながら夕奈に質問してくる。あれ、今普通に喋った?


「えーっとね、望美が楽しく話せて、一緒にいて楽しいと思える人のことだよ」


普通に会話をする。では、さっきの時間の脳内会話の時間はなんだったのだろうか?


「そーなんだ。じゃあ、お姉ちゃんと望美もおトモダチ?」

「うん、お友達だよ」


 夕奈が明るく返す。


「望美が探しているのはどんな子なの?」


「んーと、こんな顔の子」と言い、望美ちゃんが私たちの頭の中に探している人物の全体像を見せてくれた。

 

 すごいかわいい。こんな子が実在していたというほうがびっくりだ。芸能人だって比じゃないくらい、すごいかわいい。


「そうですよね! 自慢の友達なんだぁ」


 いきなり勢いが良くなる。そして、さっきとは違う殺人級の笑顔が放たれる。ギャー、眩しい。


「? お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。それで、その友達の名前は?」


 うろたえながら、質問する。


「エルナっていうの!」

「ん? ちょっと待って。望美ちゃんには名前がなくてエルナって子には名前があるんだ」

「私には個体名がないから」


 へぇ、個体名がないから名前がわからないのか。すると、望美ちゃんが少しうつむいてしまった。あまり話したくない内容なのかな。じゃあ、話を変えてみよう。


「そうだ、そのお友達が今いる居場所って分かる?」

「わからない」


 望美ちゃんが泣き出しそうな顔をして、スカートを握っている。


「エレナ、どこにいるの? 早く会いたいよぉ」


 ハンカチを取り出し、望美ちゃんの涙を少し拭いてあげる。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんたちが必ず見つけてあげるからね。ほら、泣いたらかわいい顔が台無しになっちゃうよ」


 …うん、と頷いてハンカチを受け取って、涙を拭く。


「それで、この子どうしょっか?」


 少し蚊帳かやの外だった夕奈が質問してくる。普通に警察の手を借りた方がいいと思うけど、この子、戸籍がないし、身分証明ができないからなぁ。下手したら、変な研究所みたいなところに連れて行かれちゃうかもしれないし。


「とりあえず、警察呼ばない?」

「ダメだよ!」

「どうして?」


 夕奈が私に質問する。


「それは……」


 どう説明した方が伝わるんだろう? そうだ。


「耳を貸して」

「耳を? いいけど」


 夕奈の耳に口を当て、今考えていたことを説明する。夕奈が耳を少しくすがったそうにするが、続ける。


「…って感じ」

「なるほどね。確かにこの子がどうなるか分からないし。匿《かくま》えられたら匿った方がいいとは思うけど、親にどう説明するの? 匿ったら匿ったで怪しまれない?」


 そこなんだよなぁ。うーん、それじゃあ、こういうのはどうかと夕奈に提案してみる。


「いけなくはないかもしれないど、すぐにバレちゃわない?」

「ある程度の期間を持たせて、交代すればたぶんいけるから。そのうちに私たちが望美ちゃんの友達を探して帰せば、わかんないでしょ」


 笑顔で返す。さすがに無理があったかな?


「はぁ、分かったよ」


 意外と早く納得した!?


「それで、友達って一人だけ他には来てたりしない?」

 

 あ、確かに。さっき、頭の中で見た時は一人だけだったけど、本当に一人とは限らないから聞いたほうがいいのかも。


「うん、もう何人かいるよ」


 望美ちゃんがからっぽになったペットボトルをどうすればいいのか、分からず、困っている。


「具体的には何人で来てるの?」


 夕奈がさらに質問を続ける。その間、私は望美ちゃんにペットボトルの捨て方を教えてあげた。


「えーっと、確か私を含めて8人」

「どうして地球に来たの?」

「ここは、私たちの夢がつまってるから」


 私がどう言う意味?と問おうしたが、またうつむいて黙ってしまった。多分、聞かれたくない事情でもあるのだろう。


「別の質問していいかな?」


 少し近づき、ひざを折りながら、夕奈が質問をする。


「さっき、あなたの友達があと七人来てるって言ってたけど、エルナって以外どこにいるか分かる?」

「分からない」

「へ?」

「でも、顔ならわかるよ」


 さっきと同じように、友達全員の顔を見せてもらう。


「なんでわざわざ自分の友達を避ける必要があるんだろう? 普通なら早めに合流したいはずなのに」


 そこがわからない。よほどこの国を気に入ったのか、それとも……


「あとのもう六人の顔はわかってるんでしょ? とっと探しに行かない?」

「そうする? エルナちゃんって子に関しては一旦保留にしておいて、他の六人を明日から探しに行ってみよっか」


 そうして話が終わり、この子をどっちの家に泊めるか決めようと思っていた時だった。


「ちょっと、待ってください!」


 望美ちゃんが慌てて、夕奈を止める。


「どうしたの?」

「私、泊まる場所もないし、服もこれしかないんです!」


 タイミングいいな。


「とりあえず私が昔使ってた服を貸してあげる。たぶん着れると思うから。今日泊まる場所は七奈の家でいい?」

「いいよ」


 即答する。お母さんには、後で説明しようと心に誓いながら。


「それじゃあ、望美ちゃんは私に付いて来て。七奈、また後でね」

 

 手を降り別れ、急いで家に帰り、お母さんに夕奈と望美が来ることを伝える。さすがにいきなりすぎて驚かれたが、それでもなんとか準備してくれた。


 少し待った後に、話しながら望美ちゃんと夕奈がやって来た。


「「お邪魔します」」


 くつを脱いでいると、私のお母さんが出てきた。


「こんばんは、夕奈ちゃん。それと……」

「初めまして、私の名前は宮川望美って言います。夕奈お姉ちゃんの妹です。七奈お姉ちゃんとは仲良くさせてもらってます」


 ぺこりと望美ちゃんがお辞儀する。


「初めまして、望美ちゃん。ゆっくりしていってね」

「はーい」


 そうして、夕奈と望美ちゃんが靴を脱ぎ、入ってくる。


「まさか、夕奈ちゃんに妹がいたなんて知らなかったわ」


 私の場合は、夕奈に妹がいることにしたという設定にした。夕奈の場合は、友達が友達の友達の家に出かけて、お父さんとお母さんが海外旅行に行ってしまった。要するに、友達の家族全員が旅行に行くから預かってきたということになっている。


「私も今日、初めて知った(棒)」

「お姉ちゃん、何してるの? 早く行こうよ」

 

 右腕を掴んで抱きついてくる。今日、初めて会ったばっかりなのに親に友達アピールしちゃったよ。それになんだろう? さっきから夕奈の視線が痛い。


「案内するから待ってね」


 掴まれて、早く行こうとせがまれる。


「ドタバタしてしまい、すみません」


 夕奈が謝る。


「いいのよ。子供はあのぐらい元気じゃなきゃね」


 お母さんが笑いながら見守っている。


「そうですね、あの子は元気がありすぎて困っちゃいますけどね」


 望美ちゃんが少し行ったところで家の中をキョロキョロしている。


「なんかあった?」

「夕奈お姉ちゃんの家とは違って、大きい!」


 そうか、夕奈の家はマンションだから。空間の違いに驚いてるのか。


「私の部屋は二階にあるの。足元気をつけてね」

「うん!」


 私が先導して、望美ちゃんを案内する。


「ここが私の部屋だよ」

「わぁ、すごい。七奈お姉ちゃんの部屋、かわいいものがいっぱいあるね!」

「そうかな?」

「お姉ちゃん、これは何?」


 望美ちゃんが本棚の本に指を刺す。


「それはね、小説って言ってね。望美ちゃんにはちょっと早いかも」

「へぇ、私が読めそうなものはないの?」


 宇宙人が読めそうなものってなんだろう?


「望美ちゃんって今話してる言葉が話している言葉が文字になっても読めるかな?」

「文字ってなんですか?」


 そこからか。


「えーっと、文字っていうのはね、こんな感じ書いてあることだよ。読める?」


 本棚から漫画を取り出し、説明してあげる。


「うーん?」

「難しかったかな」


 ということは、あくまで言語として日本語を認識していて文字の読み方はわからないということかな。


「ま、とりあえずこれは置いておいて望美と夕奈のベット、どうするか決めなきゃ」

「うん、そうだね」

 

 望美ちゃんが少し残念そうにうつむいてしまった。


「じゃあ、ご飯食べ終わったら一緒に本読んでみよっか?」

「うん!」

「よし、それじゃあ望美はどこで寝たい?」

「七奈お姉ちゃんと一緒に寝たい」


 かわいすぎて今すぐにでも抱きしめたくなるのを抑えてなんとか堪える。


「それじゃあ、私と一緒に寝る?」

「うん!」

「夕奈はどうする?」

「私も一緒に寝たい」


 どうしよう、私のベットそんな広くないんだけど。


「じゃあ、私がクッション持ってきて、下で寝ればいいか」

「「ダメ!」」


 望美ちゃんと夕奈に止められる。


「二人と一緒に寝たい!」


 望美ちゃんがすぐそこに置いてあった毛布を大きく広げ、私たちを包む。


「こうすれば、みんな一緒に寝れる」


 望美ちゃんがえへへっと笑う。


「うん! 今の形で寝れば、いけると思う」


 右が私、真ん中が望美ちゃん、左が夕奈。これが私の人生で初めての川の字で寝た日だった。


「お風呂入ったよー」


 お母さんが階段の下から呼んで来る。


「それじゃ、お風呂入ろっか」

「うん!」


 望美ちゃんが大きくうなずく。お風呂の意味を知っているのだろうか?


「おっきい水の容器!」

「望美ちゃん、待って。まずは、体を洗わないと」


 服を脱がしながら夕奈が望美ちゃんを湯船に浸かるのを防ぐ。


「はーい」

「ちょっと待っててね。お姉ちゃんもすぐそっちに行くから。よし」


 全裸になった夕奈がボディタオルを持って、望美ちゃんのところへ向かう。私も早くしよ。


「それにしてもすごいね。ここまで綺麗な銀髪なんて」


 夕奈が望美ちゃんの髪を洗う。


「そうかなぁ」

「うん。とってもかわいいよ。これでよし。流すから目閉じててね」

「はーい」


 流し終わったところで私も入る。


「どんな感じ?」

「今、望美ちゃんの髪を洗ってたところ。今から体洗う」

「じゃあ、私が夕奈の体を洗うよ」

「へ? いいよ、別に」


 夕奈が照れくさそうに身をよじる。


「まぁまぁそう言わずに。それか、望美ちゃんが洗い終わった後でもいいよ」

「お姉ちゃんの体、私も洗いたい!」


 望美ちゃんも乗っかってくる。


「わかった、わかったから。その代わり、痛くしないでね」


 体を捩らせながら、夕奈が答える。


「うん、もちろん。だよねー、望美ちゃん」

「うん!」

「そ、そう。ならいいけど」


 いいんだ。それにしても、最近夕奈どうしたんだろう? 照れたり、怒ったり忙しいな。


「はい、終わり」


 望美ちゃんに付いている泡を流す。


「じゃあ、夕奈お姉ちゃんの番だね!」

「お手柔らかにお願いします」


 声を小さくしながら、望美ちゃんが座っていた椅子に座る。


「じゃあ、洗っていくよー!」


 ゴシゴシ。ゴシゴシ。


「もうちょっと強めにやっても大丈だよ」

「わかった! もう少し、強くするね」


 ゴシゴシ。ゴシゴシ。


「そうそう。いい感じ」

「これで後ろはおしまい! 前もやっていくよ!」

「前も!?」

「え? お姉ちゃんの"体"を洗うんだから当然でしょ? それにお姉ちゃん、前はやっちゃいけないなんて一言も言ってないよね?」


 急に夕奈ちゃんが大人びた言葉を使い出した。


「くっ、やられた」

「早く前を向きましょうねぇ」


 小悪魔になった望美ちゃんが笑顔で夕奈の体の前の部分を洗う。


「望美ちゃん、もうちょっと優しくしてくれるとー。ひゃん!?」

「こうですか?」


 望美ちゃんがわざとらしく、夕奈の脇腹の辺りをボディタオルで軽く拭く。


「の、望美ちゃん? お姉ちゃん、そういうの弱いから待ってね」

「えー、なんでですか? まだまだこれからじゃないですか?」


 望美ちゃんが悪い笑顔を見せる。こうして、夕方奈はメスガキになった望美ちゃんに隅々まで洗われたのだった。




「そろそろいい時間だし、寝よっか」

「うん」


 夕奈が返事をする。


 お風呂から出て、何かぶつぶつ言っている夕奈を連れ出し、望美ちゃんの体を拭いてあげた。それからみんなでパジャマに着替え、夕食を食べた。


 そして、約束した通り、望美ちゃんに読み聞かせをしてあげた。望美ちゃんは後半に入るとうとうとして、最後には寝てしまった。


 望美ちゃんに方を少し見てみる。今は、ぐっすり眠れてみたい、よかった。


「そんなに望美ちゃんが心配?」


 夕奈がこっちを見てくる。

 

「それもあるけど。望美ちゃんの友達は、どうしてるのかなって思って」

「明日から午前中は学校の宿題をやって、午後はその子の友達を探してみよ」


 驚いた。


「意外。てっきり、自分で見つけて来るからこの子のことは心配しなくていいとでも言われるかと思った」

「本来なら、そうやって終わらせて。また七奈をからかいたいんだけどね」


 まだ何か納得できてないような顔だった。


「でも、二人で探したら方が効率がいいから」


 夕奈があまり見たことがないような笑い方をされ、少し心臓がドキドキする。


「じゃあ消すよ」

「…う、うん」


 夕奈の電気を消され、すぐに落ち着くと思っていた心臓の鼓動がさらに早まる。あともう少し何か言っていたらどうなっていただろう。


 その心臓の音は、私が眠りについた後も激しく鳴り響いた。

 

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