どちらが、悪いのか?


「...ふぁぁっ」


従業員達も入り乱れ最高潮の盛り上がりを見せた宴終了後

一時間でも寝ようとしていたのか、ゆりはベットに

横たわっていた。横のベットを見るとものすごく

芸術的な姿勢でハルディが寝入り鼻をたて眠っていた。


「もう朝か..顔でも洗いにいこっかな..十分に寝たし」


ハルディを起こさないようにそっと

体を起こし部屋の扉を開ける。廊下からは、朝方特有の

シンとした静けさと少しヒヤッとした空気が感じられた。

ギシギシと軋む階段を下りながらこの宿が、

夢では無かった事に内心胸を撫でおろした。


今思い出しても、少し虫が良い話ではあったし

昨日披露した演目が急ごしらえだったため荒が

目立つものがあったなと思ったからだ。


「おっ!おはよぅ~ゆりちゃん!

昨日はよく眠れた?」


外に出て宿屋の後ろにある井戸に行ってみると、

先にグリアさんが顔を洗って体をほぐしていて、

ゆりを見つけると笑顔を浮かべて手をふった。

「ものすっごくよく眠れましたぁ..

あのベット寝心地すごいですね..!」

「でしょ~!?

中に入ってる羽毛とかもこだわって狩ってきたからさ~

いやぁ気に入ったみたいで良かったよぉ~!」

「ハルディも気に入ったみたいで

ずっと眠ってますもん~」

「え~そう?嬉しいなぁ」

水浴びを済ませながしばらく軽く話をし

そのまま朝食の時間になり、


昨日の宴の際に、グリアさんから教わった

亜人と人が手を取り合って暮らすこの世界では珍しい「セビオス」と言う

場所があり、

私達は、次の目的地をそこに変更し仕事する事にした。

朝食の話題もどうやってそこまで行けるのかや、

演目をどうするかみんなで

バケットを齧りながら話していた。

その時だった。

バァン!!バァン!と窓にぶつかりながら

村がどんな感じか見てくるようにグリアさんから

言われていた従業員の一羽が

ただ事ではない様子で転がり込んできたのだ。


「お~!どうしたどうした?落ち着いてっ」

グリアさんが混乱した様子の従業員を

宥めながら、(グリアさん曰く使い魔と

話す際は使い魔の標準語を覚えて話すそう。なので、私達にはただ

鳥の鳴き声にしか聞こえない)

しばらく話していくうちに、グリアさんの表情が曇っていき

広間には緊張が走っていく。


「うん..うん けが人は?いないのね?良かった..

ありがと ゆっくり休んで」

「どしたんですか?」

「ゆり!セビオスに正騎士教会の連中が

どうやって嗅ぎつけたか知らないけれど

鎮圧しに来たみたい..」


「も!んぱっけー!!(なっ!なんだってー!)」


それを聞き驚いたハルディは、バケットを

口一杯にバケットを含んでいるのを忘れ

頬膨らませながら叫び立ち上がる。


「どっどうします?座長?」

ガルグゥが不安そうな声色でゆりに聞く。

横では、詰まらせてせき込むハルディを

エルミルが介抱していた。

この世界でしかも亜人で生きていくのに

正騎士教会に良い思いをしている亜人なんていないだろう。

ゆり達もそうだ。ハルディ達は正騎士教会の思想によって

差別や不遇な目に会い、ゆりやグリアさんは味方しているとして

犯罪者のような扱いを受けている。(人ならざる物はすべて

敵らしいため魔女も含まれているそうだ。)


だからか、内心全員の答えは一致していた。

協会の一団をムカつくためつぶし里を救おうと


善は急げとばかりゆり達は荷馬車に、とりあえずの荷物を突っ込んで

乗りこみグリアさんは、馬で横を併走して案内されながら

里に向かう事にした。

「でっ何か策はある?ゆり」

「やっ無いまま走り出してたんですか…?」

横で馬を乗りこなしながらグリアさんが問いかけ

ガルグゥがぼそっとツッコミをいれる。

ゆりは、知らせが飛び込んできた時に

一つ思いついた演目を言葉にした。

「うんと、そうですね..グリアさんはそのまま協会の連中の

前に威厳たっぷりに登場してください。

協会の連中でしかも末端は小物ばかりですから抑止力にはなるはずです。」

「ユリ 私達はどうする?殺るか?」


馬車に振り落とされないように踏ん張りながら、ハルディが

ナイフを器用に回して言う。


彼女は一座の中でも一番協会の連中に

恨みがあるし出会った時も、何人か信者を殺していた。

だから、今すぐにでも殲滅させたい思いがあるのだろう。


「いや、私達はグリアさんの後ろに従者に変装して

出ていってその後は、適時に判断しよう、最悪の場合は..」


ゆりは、指で首を切るハンドサインをしハルディ達は

それぞれ察したようで決意を固めた顔をする。

「分かった!見えたよ!」

宿屋からさらに奥の道を進んでいき

さらにうっそうと茂った木々を掻き分けた先に

グリアさんの言葉の通り

山間の集落が見えてくる。

が、ゆったりとした雰囲気とは異なり

家はいくつか焼け

集落の真ん中に人が集められていて、

周りには、協会のマークを

全面に押し出したセンスの悪すぎる

鎧を装備した連中が取り囲んでいた。


「じゃあみんな..準備はいい?」

グレアさんがゆり達のほうを振り返る。


ゆり達は、すっかり従者に見られるように荷馬車を

降り近く隠すと、全員フードを深くかぶり

仮面をつけた状態に着替えていた。


グリアさんも出る際にマントを持ってきており

それに着替えその姿は、愉快な魔法が使えるお姉さんではなく

権威の溢れる魔女そのものだ。

ゆりは、グッと親指をたていつでも行けると合図を送り、

グリアさんはそれを受け取る里に入っていき

ゆりたちもそれに続いていった。


「おいおいおい!!なんだい?この状況は」


グリアさんは、到着するなり声を荒げ視線を集中させる。

里の住民達は、何人がグリアさんを知っているのか

少し安心した顔を覗かせ

協会の連中は突然のしかも従者づれの乱入者に茫然としていた。

「なっなんなんですか..貴方がたは!」

武力担当らしき烏合の衆のような兵士たちを掻き分け

教典なのかやたら分厚い本を抱えた細い体つきの牧師のような

青年が困惑を隠そうともせず、前に出てきた。


「それはこちらの台詞だ!我はこの先に住む

暗黙の魔女グリアと言う。この里には定期的に

薬を卸していてな..おおっ!リゥムではないか!

大丈夫か?けがはないか?」


中央に集められた住民の中に、見知った人物を見つけたのか

グリアさんは馬を下りすぐさま犬獣人族の女性に

駆け寄り軽く抱きしめた。


「だっダイジョブです.キてくれてあリがとうございます」


少し訛りを感じさせる喋りと驚愕の入り混じった声で女性は言い

元気そうな様子を見て安心するとすぐさま青年のほうを、

睨み怒りを滲ませながら言い放った。


「これはどうゆう事だ? 

なぜこの里が このような目にあわねばならぬ!!」


青年はグリアさんの気迫に押されながら

「そっそれはこの里は、我らが神の教えに反して

共生など愚行を行い亜人を庇っているからだ!」

「そうだ!!そうだ!愚行にもほどがあるぞ!」

と周りにいる協会の兵士たちも声を上げるが

それは、逆に自分たちの状況を悪化させるばかりだった。


声を震わせ感情を露わにする姿は、まるで

小さな幼子なようでその姿を見て

心の底から可笑しくなったグリア達は一斉に笑った。

「「「「「アッハハハッ!」」」」

「何が可笑しいのだ!この異端者共め!!」

「おかしいに決まっているだろう..!ハハハっ!

おいっ!こいつらに教えて差し上げろ」

グリアは、笑いすぎて出てきた涙を拭きながら

ゆりにそろそろ次に移るよと合図を出し

それに答えるようにグリアの前に出てくる。

「何が可笑しいか教えますね?

まず、気づかず我々の前でそのような世迷言を言ったからですよ」


その言葉と共に、ゆりはバサッと外套を脱ぎ顔を明かした。


それが連中を餌にしたショーのスタートの合図だった。

やはり、末端にも顔は回ってしまっているのか青年司祭もどきらは

ゆりの顔を見て、猫が銃を誤発射したような顔し狼狽しだした。


「おっお前はっ詐欺師集団の棟梁 緑髪のユリ!」

「色々不服な点はありますがまぁそうです..!!

そして二つ目は今からお伝えしますねっ!


えー会場の皆様お待たせしましたぁぁ!演目を開始いたします!」


ゆりは空に向かって声高々に発するとそれを合図に、

ハルディとエルミルが飛び出し背後から

グリアさん特製の催眠針を混乱してきている協会の兵士達の

首元に打ち込んでいく。

たたみ掛けるように

ガルグゥの鳴らす不穏な印象の曲に合わせ一人、二人と兵士が倒れていく。

その姿は異様な光景そのものだった。

「なっななっなんだ!!なにが起きているおい!お前ら!」

「二つ目はね、と決めつけているって言う所です」

足を震わせながら辺りを見渡す青年に、ゆりは

作り笑顔を見せながらコツコツと近づき言った。

「はっ…?」

「まだ分かりませんか?ああ、なんて言う事でしょう!

貴方方の信じる神とやらは、よほど知識がない方なのですね‥」

よよよ…ゆりは、大袈裟に泣き真似をしさらに続ける。

「今まで亜人が人間に自ら仇を成した事がありましたか?

確かに亜人の中でも悪人はいます!

でもそれは、人間でも起こりうる事でしょう?」

「しっししっしかし‥ひいっ!!」

まだ何か言おうとしていたが、その言葉が

届く事は無かった。兵士全員に針を打ち終わった

ハルディが鬼の形相で喉元にナイフを当てていたからである。

「いいか もう何も喋るんじゃないぞ

命と引き換えでもいいからありがたいお言葉を

話したいほど信心深かったら別だがな」

「…‥」

青年は等々限界が来たのか

白目を向いて気絶し地面に無様にも倒れこんでおり

その場で、異議を唱えるものはいなくなっていた。

「さぁこうして、平和の里を襲った

不届き者たちは、退治されたのでした!

めでたしめでたぁし!」


ゆりの言葉に合わせて

ガルグゥとエルミルがロープを切り

解放された里の人々は、

抱きしめ合い自分たちが一人残らず生きている事に

涙を流し喜んでいた。

どんなに自分たちに、都合が悪くてもそれらに対して

手を出してしまったら別だ。彼らはそれがわからなかったのだろ

なんて事を一瞬思いながらゆりは

歓喜の人々の波に入っていくのであった。

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