魔女と与太話
「いやぁ~にしたって
嵐の中大変だったでしょ?」
二階は、二部屋に分かれた客室になっており
彼女が自ら手がけたらしき装飾が少し禍々しさを放っていた。
「本当死ぬかと思いましたよっ」
もうあんな目にあうのはこりごりだとばかりに、ゆりはため息をついた。
「ま、無事そうでよかったよ~
その木の札は部屋の外に出る時にかけておいてね?
ほかの従業員が清掃入る時に目印にしてるから~」
「...ほかの従業員? 見た感じさっきからいないけれど」
ぽつりとエルミルが呟き、確かにここに至るまで
彼女以外に従業員らしき人は見かけていなかった。
「ああ、うちの従業員は恥ずかしがり屋ばかりなんだ
だから運がよかったら会えるかもねぇ
じゃ後は、ごゆっくり!」
いたずらっ子のような笑みを浮かべるとそのまま、
一階のほうに手をひらつかせながら戻っていった。
「じゃあ部屋割りどうしよっか?
四人だし前と同じで良い?」
「わかったじゃあ‥オレはゆりと一緒か」
「そうそう、で隣の部屋はエルミルとガルグゥの2人で」
「分かりました!」
「‥‥(コクコクッ)」
部屋割りも順調に終わりユリとハルディはガルグゥ達と
別れ自分たちの部屋の扉を開けた。
「お~!」
部屋は木材で加工されたベットが二つと、
どうやって作られたのか網草で器用に編まれた机と長椅子が置かれていた。
魔女の家と書かれていたから、どんな感じかと実は身構えていた所があった
けれどこの内装を見て不安な気持ちは消えていき、ハルディのほうを見ると
危険はないと判断したのか、もう外套やらを脱いでベットに倒れこんでいる。
「これは結構なモフモフ具合だぁっ~」
「あっずるい!私も私も!」
ゆりもそれを見て我慢出来なくなり長椅子に荷物と外套を置くと、
ベットにダイブする。
「おお..これは中々」
「だろう?」
そのまま二人はしばらく横になりベットを思うが儘
堪能し、しばらくするとハルディがさっきまでと
変わり少し怪訝な表情を浮かべ言った。
「なぁ、ユリ」
「うーん?どうしたの?ハルディ」
「少し変じゃないか?」
「変って..この宿が?」
「ああ、そもそもこんな所で宿屋なんて
やってつまらなくないのか?」
「さぁね‥っと!
そもそも趣味半分なんじゃない? 見た感じ住居や店も兼ねているみたいだし
それにさ」
ゆりは言いながら起き上がると、二人分の外套をそばにあった
外套かけに干しバックから道具や何枚かの雑紙を出し始める。
「もしさ変だったとしても話せばなんとかなるよ」
ゆりは、自信満々に紙きれをひらつかせ言う。
紙にはさっき考えついた緊急演目の手順が書かれていた。
「演目は何にしたんだ?」
「それねぇ、ちょっと迷ったんだけど
エルミルの絵に私の話にしようかなって」
「私は今回はおやすみか?」
少し残念とばかりにハルディは悲しげな表情をする。
「うーんごめんねぇ
ハルディはもしもの時に備えて欲しいし
そうじゃ無くても室内でナイフは当たっちゃったら
申し訳ないしさ..ガルグゥのは
見た感じマイクと発電機がギリギリ入りそうな感じだからなぁ...
今回はどっちも使わないけど」
「そうゆう事なら分かった
じゃあ私も準備に入るな」
「うん!ありがとう
あっ武器は見せないようにね?まだ信用してないって
向こうに思われちゃうかもしれないからさ」
「了解した」
さっそくナイフの手入れとナイフポケットを装着
し今からでも大丈夫だと言う目線を送るハルディに
内心頼もしさと一抹の不安を感じながらゆりは、
何を話すか紙に向かいながら考え始め、少し悩んだのち
前に魔女の集会に出くわしてしまい
生贄にされかけたのを避けるために話した事に少しアレンジを
加えて話す事に決めた。
「じゃあそろそろ行こっか!
ハルディさエルミルに、今日演目があるって送った?」
「ああ、もちろん送っていないな!」
「オッケー!なんてこった!じゃあ今送れる?」
「なんてな、さっきその話をしている時に
もう送ってある 向こうもそれで良いらしい」
私は、転移したさいに何も変化が無かったため
魔法も使えない。そのためこの世界ではポピュラーな
通信魔法も使えず、もっぱらハルディ達に任せている。
軽口をたたきながら扉を開けると同時に
廊下を挟んで向かい側の部屋からも同時に
エルミルとガルグゥが出てきたため
あまりのタイミングにゆりが少し吹き出しそうになりながらも
四人で一階に降りていった。
エルミルはハルディからの連絡の後、荷馬車に
道具を取りにいったらしく嬉しそうに小声で
鼻歌を奏でながら荷物を抱えている。
「おっ!待ってましたぁ~!」
一階の広間につくと、暖炉が焚かれ照明がさっきよりも少し明るくなっており
何かの獣の皮膚で作られた
絨毯の上に置かれたソファーには、グリアさんが足を組んで拍手していた。
改めて拍手で迎えられ若干気恥ずかしくなりながらも
それぞれ事前に伝えた場所につき私とエルミアは演目の準備を始める。
「あっそうそう、従業員達も結局演目が気になるみたいでさ
良かったら紹介してもいい?」
「もちろんです!」
「ありがと!じゃみんな~挨拶して!ガッーグル!」
グリアさんがパァン!と一つ手を鳴らし唱えると、
さっきまでただ、だと思っていた部分から真っ黒くコロッとした
フクロウな体に黄色く光る瞳を持った生物が四方八方から
ソファーに向かって飛び、オレンジ色だったソファーは
グリアさんの座る所以外瞬く間にその従業員たちで
真っ黒に染まっていったのだった。
「すっごいですね…」
「はははっ!そう?ありがとうね!」
グリアさんは、笑うと近くにいた従業員の一匹を優しく撫でた。
突然起こったあまりの現実離れした光景に驚き、出鼻を挫かれそうに
なりながらもなんとかエルミルのほうも準備を終え
ついに演目が開始され、ゆりは中央に進み
エルミルがはけを手に取ったのを確認すると息を吸い込み
咳払いをすると話し出した。
「え~まず最初に聞いていただきたい話が一つ
ございます。これは、我々が魔女の集会に
巻き込まれた際のお話でございます。グリアさんはよくご存知かも
しれませんがあっまず最初に言います。決して倒したやら
巷で出回っている類のつっまらない冒険譚などではございません!」
「なので..旅の不幸などを祈らないでいただけたら幸いで
ございます!
もしお気に召さない事や嫌な思い出を思い出してしまいましたら
それは、街のほうでのうのうと嘘をバラまいている
なんちゃら協会やそこに依存しすぎて中身がない
ぺらっぺらの詩人共にね、特大の腹をくだす魔法をぶつけて
いただけたら我々は泣いて喜びます!笑いすぎてね」
ゆりの話と共に後ろではエルミアによる
魔女に魔法を打たれて倒れている詩人の絵が描かれる。
「ハハハっ!!地獄に落ちちまうぐらい特大のやつをね!」
グリアさんの琴線に絵が触れたのか豪快に口を開けて笑い出し
体を揺らした。
「そして我々その時は、無知でございましたからなんと外からの
人間は氷魔法で固めたのちにね生贄にすると言われました!!
我々は別に魔女の皆様に恨みなどを買っていないと思っておりましたから
運がまさかここで尽きてしまうのか..受け入れるか?でも、生贄は嫌だ!
しかも氷漬けされると最後の一言が「あ」「う」で終わって
しまう!それだけは避けたい!」
ああ嫌だ終わりだとゆりは、頭をかかえ絨毯に蹲り
背後の絵は、シルエットで縁取られたユリたちが氷漬けにされる絵に切り替わる。
そこからすくっとゆりは立ち上がると両手を広げた。
「そしてその瞬間思いついたのです..この状況を打破出来る
方法が!しかも魔女の皆様も損のないそんな方法が!」
手を三回叩きゆりは、真剣な眼差しでゆっくりとグリアたちを
見やる。
「それは、なんと..と言う間に魔力の溜まらない朝がやってまいりまして
今の今までなぁなぁになった。結局の所運しだいでもあると言うお話でございました!ご清聴ありがとうございましたぁ!」
拝啓の絵も、太陽に隠れて逃げ出すゆり達がに変わり演目が終了し
ゆりは、大きく声を上げ深々と頭を下げた。
「いや~あんたらだったんだねぇ!
仲間から聞いた色々言って朝になったら結局結論を言わず
返って一泡吹かされたってのは」
ケタケタと笑いながらグリアさんは言う。
「いやぁあの時はすいませんでしたと、お伝えいただけたら..」
少し申し訳なさをにじませながらゆりは言う。
「何言ってんの!久々にきっちり逃げた人間たちが現れたって
面白がってたよ
いや~ありがとう!それじゃ約束どおりに荷馬車代は
タダで今から宴をつけちゃおう!」
「ありがとうございますっ!」
その後、加わったガルグゥの演奏やグリアさんと従業員さん達に
よるまるで魔法のように美味しすぎる料理によって
ゆり達は夢のような一夜をすごしたのであった。
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