魔女の宿屋にて

「ふぁ~っ...」

さっきまでの街の喧騒とは打って変わり

その真逆のような田舎道で馬車を走らせ

すっかり日の暮れた中次の街に向かっていた。

ゆりは、さっきまで騒ぎを聞きつけた街の警備隊に

追いかけられバタバタと逃げ出すように出発したのもあり

眠気に襲われていた。


「代わるか?ユリ?」


そんな状態を見かねたのか後ろの荷台からハルディが

心配そうな表情浮かべ顔を覗かせる。

「あ~...ハルディありがとう

うん..結構眠いしお願い出来る?」

「分かった!」

ハルディは、頼られたのが嬉しいのか

にかッと歯を見せ笑う。

ゆりは、そんなハルディを見て

(かわいいなぁ)と内心思いながら馬のたづなを渡し、

屋根付きの荷台のほうに入っていく。

荷台は、半分が機材や衣装で埋まっているのもあってか

少し手狭に感じる。

一足先にエルミルとガルグゥが

寝ている影響もあるんだろう。

「おやすみぃ...」

ゆりは、二人を起こさぬようにゆっくりと

移動し一人分のスペースを作ると機材に寄りかかり瞳を閉じた。


「‥起きろ…ゆり…」

「うぇい?」

しばらくしてハルディから体を揺さぶられ

寝ぼけながらも体を起こし外を見ると

雨が降っており打ち付ける音が響いていた。

「ゆり?どうする雨が結構強いぞ」

「うっわぁ!大変じゃん!

ハルディ二人を起こしてぇ!私はどこか雨宿り出来そうな所探す!」

「分かった!おい!こら起きろ!」

ハルディはかなり寝入っていた二人を乱暴にゆすり

叩き殴り起こす。

「ふっふぁい!」

「ハルディ殴らなくていいからぁ!」

「分かった!おいっ!!」

「起きてますぅ…ハルディさぁん痛いですぅぐへっ!」

そう言いながらハルディの拳は、ガルグゥの

頬に無情にもめり込んでいく。

そんな事をしている中でも雨足は強くなってくる。

どうしようかと、ゆりは馬車を急がせて辺りを見回していると

森と森の間にこの馬車だったら通れそうな脇道を見つけた。


「ここ通れそう!!行くよぉ」

一目散にその小道に、突っ込んでいき

バッサバッサと木々に当たりながらも進んでいく。

「うわぁぁ!!」


強風の影響もあってか荷馬車はガタガタと揺さぶられ

視界の奥では、エルミルが叫びながら転がっていった。

「大丈夫!?もう少しだよ!」

段々と見えてくる入り口に、少しホッとしながら

入っていく。

「どこだ・・・ここ?」

木に囲まれ開けた小さめの平原が眼前に広がっており

「あっあれ家じゃない?」

雨に打たれその間に見える朧げな

人家の明かりが見える。

「本当だ!行こう!」

このままだときつすぎるため

駆け込むように、その場所に近づいていくとその家には

時代を感じさせるような木造の看板が取り付けられおり

「魔女の宿屋」と書かれていた。

その看板を見てゆりは

「魔女だろうが、化け物だろうが話がつければ

助かったぁ‥!それじゃ私とハルディで

話をつけてくるから、荷馬車のほうは2人お願い!」


「分かりました!!座長」


言うやいなやそれぞれ作業に取り掛かり始め、

ゆりは、営業用の表情を張り付け

ハルディは一応あったほうが良いとフード付きの外套を

羽織り二人は、少し緊張しながら宿屋の扉を開けた。


「すいませ~んっ…」


扉を開けると薄暗く

ぼんやりとランタンに照らされた手前のカウンターに、一人

体に刺青のような紋章を多く刻み煙を足を組みながら

気だるげな印象を放つ金髪で短髪と鋭いナイフを思わせるような

瞳を持った女性が座っていた。

女性は、ゆり達を一瞥すると来ることも分かったかのように

頷き言った。


「あーいらっしゃい~宿泊だろう?」

「えっあっはい…出来れば」

「あいっよ~後、お隣のフードの子さ

亜人でしょ?ここじゃ大丈夫だからとっちゃっていいよー」

黒い色付けされた長い爪で女性は、ピッとハルディは指す。

指され亜人だと初対面の女性に言い当てられた

ハルディは、少し驚きの表情を見せた後に

警戒心を滲ませる。それに気がついたのか女性は、誤解を解くように

違う違うと少々オーバー気味に首を横に振った。

「あ~っと違う違うっ

なんも企んでないよっただウチの宿は、亜人の人とかも来るから

そうかなぁ~って思っただけさ」

女性は笑いながら大袈裟に肩をすくめる。

(この人は多分大丈夫だな‥‥)

ゆりは、なんとなくだがその女性に少しばかりの

信頼をよせると、ハルディに目を向ける。

「ハルディ」

フードを取っても大丈夫だよと目で伝えると、

無事に伝わったのかハルディは、恐る恐るフードをとり

その瞬間に荷馬車を入れ終わった二人が宿屋の扉を開けて入ってくる。

「終わりましたぁ~!!あっ‥」

目線の先に初対面の人がいる事に気が付きしかも、

フードをつけていなかったのもあってか二人の表情が

(やってしまった…!!)とばかりに気まずい表情になる。

そんな二人にユリは声をかける。


「大丈夫だよ二人ともっ…てああ、そうだ。

すいません!自己紹介が遅れてしまって、ギーグリ座と言う

旅芸人の一座の座長をやってますっ!ユリと言います」


「ああ、こちらこそ ここ通称魔女の宿屋を経営してる

グリアっていう者だ。よろしくねぇ

それじゃあさっそくだけど、二階の部屋を

使ってくれるかい?」

とゴソゴソとカウンターから手製の木の札を

二枚取り出す。

「とりあえず、一泊団体用で

200ゴルと荷馬車代は...まけとくよ」

「えっ?良いんですか?」

同時に渡された宿帳に記帳していたユリは、グリアの申し出に

ありえないと顔を上げ言う。

それにグリアはいたずらっぽく笑みを浮かべると

「こんな偏屈で怪しい宿に来てくれたんだ

こんぐらいしないとバチが当たっちまうさっ それに旅芸人の一座って言うんなら

何か芸の一つや二つあるんだろう?それ見せておくれよ」

「もちろんです!」

「ありがとうね。それじゃ少し部屋で体を休めれたらで良いから

そこの広間でやってくれるかい?」


こうして、一泊の宿と朝食が確保され

同時に魔女の宿屋、大広間緊急講演が決定したのであった。






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