第44話 はじめまして、王立学園!

「到着しましたよ、サクラ殿」


 馬車がゆっくりと止まる。

 護衛についてきてくれたアインツさんが、馬車から降りる私をエスコートしてくれた。

 疑似親子セミナー潜入作戦のときも思ったけれど、本当になんというか「ザ・イケメン」という人だ。この微笑みに、一体どれくらいの数の老若男女がくらっときていることだろう。


 アインツさんの差し伸べた手を取って、ステップを降りる。

 ここまで歩いてくれた馬を撫でているノアルさんは、しゃんと背筋を伸ばして絵になる立ち姿──その向こうに、王立学園が見えた。


「おおおおっ!」


 お城だった。

 質実剛健なちょっと要塞然とした帝都のお城とはまた別の、ザ・お城である。小さいけれど、あきらかにオシャレ。というか、馬車の後ろを振り返ってみても、校門が見えない。ちょっとした森なのではないかというこくらいに広大な庭園が広がっているのだ。

 帝都の城にも、山や森はあったけれど、あれはどちらかというと要塞の一部というか、使用人たちが住むための敷地という感じだった。


 とにかく、可愛いお城。

 これが校舎なのか。


「中央棟と東棟が、生徒達の学び舎となっています。西棟は教職員の居住スペースや研究室ですね」


 説明してくれたのは、アインツさんだった。


「生徒たちが住む寮は、城の後ろにある別棟です。一般生徒たちは、六つある建物に分かれて共同生活を送っています。サクラ殿は王族として、寮とは別に小さなハウスに住んでいただくことになるかと」

「え、いっけんや!!」


 超絶VIP待遇だった。

 というか、本当にアインツさんは王立学園に詳しい。

 馬たちを騎士団の人に引き渡したノアルさんが、ふふんと鼻を鳴らした。


「さすがは王立学園の首席卒業生だな、しかも飛び級で」

「えっ!」


 アインツさん、まさかの大先輩だった。


「あはは……職業学校に入るので、はやめに修了しただけだよ」

「いや、それを飛び級というんだろうに」

「そうなのかい?」


 ノアルさんとアインツさんによる、夫婦漫才である。

 最近は、こうやってことあるごとにイチャイチャを見せつけてくるんだから。

 というか、本当に優秀な人なんだな。アインツさんって……もちろん、ノアルさんも負けていないのだろうけれど。


(出る杭は打たれるっていうけど、この二人がすごく仲いいのって……お互いに、通じるところがあったんだろうなぁ)


 出る杭、で思い出す。

 右手に刻まれた、聖女の紋章だ。


(どうにか隠せないかな、これ)


 あきらかに異質なそれは、平穏無事な学園生活の妨げになりそうだ。

 この紋章があれば「コントロール力」が上がるとかなんとか、そんなようなことを小さな神様は言っていたけれど。


──「莫大な力を操るには、そういう『なかだち』が必要だ。ほりゃ、巫女は幣をふりまわすし、まほーつかいは杖をにぎってるだろ」だったか。


 ……って、いわれても。私は困ってしまう。

 こんな、あからさまな烙印。何か聞かれたときに、どう誤魔化そうか……と、そればかりを考えてしまう。


「ああ、そうだ。サクラ殿」


 ノアルが、馬車に積み込んでいた大きなトランクの山からひとつ、小包を取り出した。とても、軽い。中には何が入っているのだろうか?


「これは?」

「どうぞ、明けてみてください」

「……てぶくよ?」


 手袋だ。

 小包の中に入っていたのは、レース編みの手袋だった。

 それも、私の手にぴったりの子ども用サイズ。


「そちらは母君が……アマンダ王女殿下が、サクラ殿にと」

「おかあさまが?」

「紋章のことを気にしていらっしゃったので、『せめて可愛い手袋で隠せたらいいわね』と」


 あっ、と私は息を呑んだ。


(そういえば、お母様……指に包帯を巻いてたじゃない? もしかして、あれって)


 出立のときに、いつもの朗らかな表情とは裏腹に目の下にクマがあった……ような気がする。もしかして、この手袋を作っていたのだろうか。

 決して、手芸が得意な人ではないのは、北の村での生活で知っている。


「どうちて、ちょくせつ、わたちてくえなかったの?」


 直接渡してくれればよかったのに。

 こんなに、嬉しいプレゼントをくれたのに。

 私はお母様に、ありがとうを言えていない。


「……新しい門出は憂いなく笑ってするものだから、と。アマンダ様からはうかがっています」

「そ、っか」


 ちょっと、じーんとしてしまうじゃないか!

 あのほんわかお嬢さまなお母様が、こんなふうに手袋を用意してくれていたなんて。マジの「かあさんが夜なべをして手袋編んでくれた」をやるなんて、あの人はもう、れっきとした王女様なのに!


「うん、ぴったりよ」


 右手にレースの手袋をはめる。

 それは私の手にぴったりとなじんで、指の動きもちっとも制限されない。

 仕立てのいい制服にも、不思議なくらいに馴染んでいる。


 ……そして、右手の紋章も、これならばほとんど見えないようになっている。


「とても、お似合いですよ。小さなレディ」


 アインツさんが微笑んだ。

 だから、この人はどうしてこう歯の浮くような……まあ、いいけれど。


「いこう、ノアルしゃん!」


 私たちの当面の宿舎となる、王族用のハウスに駆けていく。

 まずは荷解きをして、生活を整えなくては。


 それが終わったら、夕食を兼ねた懇親会でほかの生徒達との顔合わせという予定になっている。一体、どんな同級生がいるのだろう。


 ……とにかく。

 これから私の、わくわく学園生活が始まるのだ。

 異世界から召喚された聖女様だってことは、絶対にバレませんように。


ーーーーー


【ご挨拶】

作者がたくさん連載を増やしてしまったのと、他に書きたい作品があるのでいったん完結とします。また落ち着いたら再開いたします。その際には、サクラがいらんっつってるのにもらった聖女の紋章、シャンガル王立学院での学園生活、ノアルとアインツの恋模様などなど書きたいなと思っています。


★以下の作品を執筆中です。商業版もありますので、ox先生による可愛いイラストともどもよろしくお願いいたします。★


【続刊執筆中】『山奥育ちの俺のゆるり異世界生活~もふもふと最強たちに囲まれて二度目の人生満喫中~』(カクヨムでも読めます!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る