第34話 帝都に潜む拝塵教団、捕縛!

 ぺっかー!


 まばゆい光が、魔塵を無力化していく。

 完全に霧が晴れると、倒れていた信者の人たちが起き上がる。まだ立ち上がれないようだけれど、とりあえずは無事なようだ。

 ノアルさんに助けられた男の子が、母親に縋り付いて泣き始める。

 母親も、男の子を抱きしめて縋り付いている。


「ごめんなさいね、坊や……お母ちゃんが間違ってた……こんなところに縋るべきじゃなかった……」


 うんうん、よかった。

 あのお母さんは正気に戻ってくれたみたいだ。


 そして。

 そこには熱く抱擁をかわしているノアルさんとアインツさんである。ドラマの最中に、魔塵の靄がなくなってしまって、非情に気まずい空気が漂っている。


 こっちについては、その、なんか……。

 な、なんか、ごめんなさい。


「……アインツ、もう大丈夫そうだが」

「あ、ああ。すまない、つい」

「謝る必要はないだろう!」


 ノアルさんが声を荒げて、黙り込む。

 そして、言葉を探してぱくぱくと口を動かしてから、堰を切ったように喋り出す。


「むしろ、私の方が御礼を言うべきだ。帝都騎士団の新鋭であるアインツ・フォン・シュヴァルツが、使い捨ての隠密隊を助ける義理などなかろうに。というか拝塵教団のやつらを取り逃がしたことのほうが問題だ。千載一遇のチャンスだったのに──」


 アインツさんが、たまらずにアインツさんの言葉を遮る。


「助けるのは当たり前だ! きみは、ずっと僕にとって特別な存在なんだから……」

「は、はぁ!?」


 はい、尊い。

 また私が淡く光り始めてしまうから、勘弁してください。


「当然だろう。僕の友人になってくれて、ライバルとして食らいついてきて……本当に嬉しかったんだ。なのに、宮廷仕えが始まってから、ちっとも話してくれないし」

「あ、アインツ! 気持ちはわかったが……そ、それは嬉しいが……。だからといって、拝塵教団のやつらを取り逃がすのは愚策だったぞ」


 ん、とアインツさんが首をかしげた。


「ああ、そのことなら問題ないよ。さっき、僕らを尾行してきてくれていた騎士団員に合図を出した。町中に潜伏させている部下が、この建物からでてきた人間はすべて捕らえているはずだよ」


 あ、そういえば!

 私は思い出す。


 さっき、アインツさんを外に連れ出したときのこと。

 アインツさんは私を抱っこしたままで、どこかに目配せをして何かサイン的なものをおくっていた……ような気がする。

 そのときには、拝塵教団信者の皆様による洗脳トーク波状攻撃で参ってしまって、遠くを見て落ち着いているのかと思っていたけれど。


(ほんわかしたお坊ちゃんと見せかけて、やっぱり優秀な騎士様なんだな……というか、皇帝陛下おじいちゃまの腹心三人組のうちのひとりだもんなぁ)


 しみじみと、すごいなぁと溜息を漏らす。


「折を見て、合図を送らねばと思っていたのだが……サクラ殿のおかげで、うまく怪しまれずに外にコンタクトできたよ。さすがは、サクラ殿だ」


「あはは……」


 偶然ですけれども、ね。


「待て、アインツ。作戦要綱にはそんなことは書いていなかったぞ」

「うん、これは僕の独断だし、実行しているのも志願してくれた僕の部下と私兵なんだ……叱責は甘んじてうけるよ」

「どうしてそんなことを」

「だって……きみと一緒の作戦行動なんて、この先ないだろうからね。いいとこ、見せたいじゃないか」


 しれっと言い放つアインツさん。

 なんか……もしかしてこの人たち、バカップルの素養があるかも。

 ほら、ノアルさんもごにょごにょ文句言いながらも、ずっと赤面しているし。



***



 そういうわけで、拝塵教団の集会に潜り込む潜入任務は、成功のうちに終了した。


 結果としては、アインツさんの部下によって教団員のほとんどは捕縛。

 ただし、その場でいちばん偉そうにしていた教主様は上手く逃げおおせたらしい……けれど、実体不明の教団メンバーを捕らえられたというだけでも、大きな成果だとか。


 そして、巻き込まれていた一般人の皆さんは、しばらく王城内の施設で保護されることになったそうだ。教団に命を狙われる可能性もあるし……あとは、魔塵を大量に浴びた人間がどうなるのか、という経過観察の側面もあるらしい。


 数日後、私は保護されている元信者さんたちが保護されている施設を訪れた。

 というか、ノアルさんの部屋がある、例の山奥のアパートっぽい建物なので、慣れたものだ。


「うん、なんか、よくなさそうなモヤは、きえました!」


 事件当初、魔塵を多く吸い込んでしまった人からは、禍々しいオーラが感じられていた。お母さまにかけられていた、『不妊の呪い』によく似た感じだ。

 何日かに分けて、私が発する光で浄化することができたようだ。


「さすがだな、サクラ殿」


 付き添ってくれていたアインツさんに褒められて、「えへへ」と頭をかく。

 この数日で、自分の力を扱う感覚を完全に理解した。

 色々と実験してみたけれど、ちょっとした毒や呪いなら、問題なく解除できてしまう。どうやら、ノアルさんとアインツさんの尊さ大爆発によって、私の魔力は完全に目覚めてしまったらしい……。


「あの、ノアルさんのペンダント、こわしちゃってほんとにごめんなさい……」

隠遁水晶ハーミット・ストーンか……まあ、貴重なものだが、仕方ない」


 あの魔力の暴発によって、ノアルさんに借りていた隠遁水晶ハーミット・ストーンが壊れてしまったのである。本当に申し訳なさすぎる……。


「やあ。サクラ殿、!」


 お城にもどると、アインツさんが私たちを待っていた。


「……


 あの事件以来、お互いを名前で呼び合うようになったノアルさんとアインツさんからは、初々しい空気があふれ出ている。

 青春の続き、いいですね。尊いですね……おっと。

 うっかり魔力を溢れさせないようにしないと。


「先程、皇帝陛下とアデリア殿下がお帰りになられた……急ぎ、今回の報告会をするぞ」

「わかった」


 作戦会議以降、ノアルさんは大忙しだったのだ。

 主に、捕らえた教団関係者への「尋問」のために。怖い。


「サクラ殿には、後ほどご報告しますね」

「はいっ」


 もちろん、お子ちゃまである私は報告会には出ません。

 お母さまとお父さまが帰っていらっしゃったので、ひさびさの親子の対面だ。


 ノアルさんと別れて、お城の廊下を駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る