第14話 帝国の大掃除

 城の会議室に集められた人たちは、みんなすごい迫力だった。

 ノアルさんに抱っこされたままで周囲を見回す。


「怖くはないか、サクラ殿」

「あい」

「ならいい、このメンツだと気迫に当てられて気分が悪くなる新兵もいそうだから」


 やっぱり、そんなにすごい人たちなのか。

 そう言われてみれば、くらくらしてきた……気がする。

 お母さまには心配をかけたくないので、私がこの会議に出ていることはナイショにしてもらった。


 皇帝陛下に側仕えしていたローブのおじいさんが、全員の前に歩み出る。

 こほん、とひとつ咳払いをしてから、じっとノアルさんを見つめる。


「ノアル・シュヴァルツ、先日の解呪は見事であった。事実の追跡から解決までを実行する胆力、そして白魔術の腕前……体術と隠密術のみの人間であると思っていたが」

「は、はい。恐悦至極でございます」

「今回の任務、」


 ちなみに、私の存在に目をとめている人はいない。

 隠遁水晶ハーミット・ストーンを借りているのだ。これは使い方によっては、存在感自体を限りなく薄くできるらしい。

 その場所にいるはずがない、という先入観があればあるほど姿を認識できなくなるらしい。かなりの貴重品らしいけれど、どうにか自分用に手に入れたい。少なくとも魔力を隠すためには、あったほうががいいよね。「ふつう」の子ども時代を過ごすためにも……!


「さて、今回の任務だが……魔塵症まじんしょうの患者が増えてきていることに関連して、帝都で妙な連中が暗躍している」

「……拝塵教団はいじんきょうだんですね」

「さよう」


 はいじんきょうだん。

 なんだそれは、と思っているとご丁寧にもローブのおじさんが説明をしてくれた。


「魔塵症をのさばる人間たちへの天罰であるとして、その原因とされている魔塵をありがたがって進行している連中だ」


 あらぁ。

 いわゆるカルトというやつだろうか。陰謀論って、異世界にもあるのだなぁ……前世で務めていた会社のお局社員がナンチャラ水というやつを新入社員に売りつけて問題になっていたっけ。私も「あなたの不幸オーラが消えるわよ!」とか言って。


(……残業も介護も貧乏も、ナンチャラ水でどうになるわけないだろ!!)


 と、当時は言えなかったのである。

 疲れ果てて、視界の四隅がどよどよ曇っていて、ただただ言われるがままに500mlペットボトルの水をお試し価格1200円で購入してしまったのだ。数日分の食費……と思いながら。


(どこの世界も同じなのね……)


 思わず、溜息が漏れてしまう。


「中産階級から貧民まで、広く拝塵教団はいじんきょうだんの教えが行き渡っている。やつらの厄介なところは……どうやら、無差別に魔塵をまき散らしているらしい」


 どよ、と広間に集まった人たちがどよめいた。


「よって、諸君らに! 皇帝陛下とわたし、ハバルの名をもって命じる。拝塵教団はいじんきょうだんを無力化し、市井にまき散らされた魔塵に対応してくれ!」


「ははぁ……つまりは、ってわけか」


 ノアルさんがふん、と鼻を鳴らした。

 あの偉そうなおじさん、ハバルさんって名前なのね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る