第11話 ファッションショー
この数日間はノアルさんに面倒を見てもらいながら、色々と検査をうける日々だった。
各種検査の際にはノアルさんから
「サクラ殿、見事に猫を被り通したな」
「ねこっ!」
失礼な、と頬を膨らませて見せる。
別に猫を被っているわけじゃない。私の中身が大人だと知ってから、ノアルさんはちょっとだけ軽口を叩いてくれるようになった。
私の正体──私が、本当に異世界から召喚された聖女であるということは、私たち2人だけの秘密にしてくれると約束してくれた。
◆
そして、今朝。
正式に、私は「なんでもない子」として両親との面会が許可された。
「サクラ……!」
「うぅ、サクラちゃん!」
滝のような涙を流して、お父さまとお母さまが私に向かって猛ダッシュしてくる。
お母さまは紋章つきの仕立てのいいドレスを着て、お父さまもパリッと乗りのきいた小綺麗な装い。
その素敵な服にしわが寄るのもかまわないというかんじで、ノアルさんに私を抱き上げた。
ぎゅうっと抱きしめられて、苦しいくらいだ。
いや、ちょ、ほんとに。くるしいっ!
「おとーさま、おかーさま……っ、げほっ!」
お母さまの腕をぺちぺち叩いて、ギブアップの意思表示。
しぬ、しぬ!
「あっ、ごめんね。サクラ」
「つい、嬉しくてな……夜道で周囲を夜盗に囲まれたときにはもうダメかと思ったから……」
「ほんとね。でも、ちょっとスリルがあって楽しかったわ」
私が思っていたよりちょっと間の抜けたお父さまと、想定よりずっとホンワカお嬢様だったお母さまである。
それにしても、お母さま……ファンタジー漫画のお姫様みたいだ。
もちろん、お姫様というには実年齢は成人女性がすぎるけれど。
「まあ、サクラちゃん。その服……懐かしいわ、私が小さかった頃の!」
「あいっ!」
「かわいいぞ、サクラ。お姫様みたいだ」
お父さまが、ニッコリと微笑む。
その後ろで、今にもこちらにダッシュしてきたそうにしている人影が。
「へ、陛下! ここは他の家臣の目が! 抑えてください」
「わ、わかっておるが……アマンダが、サクラちゃんと戯れておる……!」
皇帝陛下だった。
なんだか、熱烈な視線を感じる。もう完全におじいちゃん気取りだ。
「くっ、わしだって……まざりたい……」
私たち家族の再会を遠くから見守る皇帝陛下なのであった。
珍しい人だ。
血の繋がっていない私を、本当の孫みたいに可愛がろうとしてくれるなんて。
「アマンダの育てた子が、あんなに可愛いのはずるいじゃろう……!」
ぐぬ、と歯噛みしている。
そうかのか、そんなに可愛いのか。
きっと、「愛娘の育てた子」というひいき目が大きいのだろう。
(ほんとに、お母さまのことが大切だったんだろうな)
ノアルさんに聞いた話では、皇帝陛下はアマンダ姫が失踪してから一気に10歳くらい老け込んだと噂されていたらしい。
事情を知らない家臣たちや帝都の住民たちの中には、「皇帝陛下も重い
変な噂ほど出回りやすいものね。
「あのね、サクラちゃん。お父さまとお母さまはね、何年かしたら正式に結婚できることになったの」
「ああ。ハンターとして帝国に雇用してもらって、その後、段階を踏んでね」
帝国のお姫様にふさわしい経歴を用意してくれる、ということだろう。
お父さまは真面目な方だから、きっと大丈夫なはず。
少し遅い結婚式をあげるのだろうか。羨ましいくらいの美男美女だから、きっと絵になるだろうな……。
「そうなったら、あらためてサクラを私たちの子として迎えることになっている」
「えっ」
「あなた、サクラちゃんを驚かせないで。もちろん、今も昔もサクラちゃんは大切な私たちの娘よ。正式に養子にする手続きに時間がかかってしまうの。ごめんなさい」
「あ、あわ」
「そう。手続きだけの話なんだ。すでに、明日から今までのように3人で生活することも許可していただいている」
私が驚いているのは、そっちではない。
もしも、正式に2人の養子になったとしたら……私は帝国の、お姫様ということになってしまうのでは。
(ひええぇ……恐れ多い……!)
いや、まあ、大聖女として過労死するよりはマシだ。
けれど、お姫様業というのも絶対に気苦労が絶えないと思う……。
「サクラちゃん、渡した服で気に入ったものはあった? よかったら、お父さまとお母さまに着せてみせてちょうだい」
にっこり、と微笑むお母さま。
すかさず、ノアルさんが一礼をした。
「失礼しました、ただいまお持ちいたします」
「あっ……のあるさん」
業務的で、他人行儀な声。
とても寂しくなってしまって、お母さまに抱っこされたまま振り返る。
さすがは隠密隊というか。ノアルさんの姿は、すでになかった。
「な、なんて可愛いのかしら……っ!」
その後の、ファッションショータイムには正直疲れてしまった。
たくさんの服を着てはくるくると回って見せる。
「サクラの髪の色には、やっぱり瞳と同じ若葉色やライトグリーンが似合うわね」
たっぷり時間をかけて、似合う服を見繕ってもらった。
くるくると回ると、スカートがお花のように広がる。どれだけたっぷりの布を使っているのだろう。
「さあ、陛下に挨拶に行きましょう」
「えっ」
「どうしたの? この間はああいう状況だったから厳しい態度でいらしたけど、陛下……お父さまは怖い方ではないのよ」
「いや、えと」
挨拶に行くといったって。
(……さっきから、羨ましそうに覗いてるの……陛下だよね……)
ちら、と扉を見る。
隙間からじっとこちらを見つめてるの、たぶん皇帝陛下である。
孫娘(仮)のファッションショーに混ざりたかったのだろうか。
なんだか俗っぽい人だなぁ。
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