第6話 「失敗作」
「いやいやいや、ありえません!」
大声で一同の疑念を批判したのは、ローブを着た一団のうちの1人だった。
「さきほどの魔力を見たでしょう! 貴重な白色の光……白魔法の素養があるとはいえ、魔力量はわずかばかり。長年におよぶ呪いを解除するなど、ありえません!」
「では、先程のは……?」
ずっと私に注がれていた視線が、少しずつずれていく。
私を抱っこしている、シュヴァルツさんに。
「シュヴァルツ、まさかお前なのか……?」
「はい?」
急に水を向けられたシュヴァルツさんが狼狽える。
「い、いや……そんなわけは……」
「隠密隊の人間は謎が多く、その素性も知れないといわれている。もしや……」
「あー……詮索はおやめください」
困惑したシュヴァルツさんの声に、一応はざわめきはおさまった。
こほん、と咳払いをして、ローブの老人が言った。
「とにかく、今はわからないことが多すぎます。帝都大聖域に異界からの
皇帝陛下にそう進言するおじさんは、すっかり疲れ果てた様子だ。
一度に色々なことが起きたばかりなのだろう。
「保留です! 今日のところは、判断をくだすべきではないでしょう。アデル殿下が、その……アデリア殿下に不妊の呪いをかけていたことが事実かどうか、その呪いが解けたのは何故か……わからないことばかりですからな」
それはそうだ、という空気が蔓延する。
私は、ほっと胸をなで下ろす。
「そうだな……では、アデルについては追加調査を行う。アデリアとその狩人については、城に留まるように。それで、召喚された赤子は……」
皇帝陛下が、じっと私を見つめる。
「……しばらくは、シュヴァルツが見張るように」
「は、はい?」
「そんな、お父さま……! サクラは私たちの子です、引き離すようなことは……!」
「こほん! どうあれ、お前が召喚された赤子を連れ去ったことは間違いない事実だ。立場上、お前たちにこの赤子を託すことは許されるはずがなかろう」
威厳に満ちた声だ。
お母さまを連れ戻したいという気持ちはあるけれど、何もかも許すわけにはいかないというのが本音だろう。皇帝陛下なのだから、体面というものもあるはずだ。
「本当に異世界から召喚された聖女であるならばともかく……さきほど程度の失敗作では、国費を使うことはまかりならん。とはいえ、放り出すこともできんからな……困ったことだ」
はあ、とこれみよがしな溜息をつく皇帝陛下。
眉間の皺がグランドキャニオンだ。
きっとストレスの多い職業なのだろうな。
私はにぎにぎと、手のひらを閉じたり開いたりする。
小さな手に、黒鎖を砕いた感触がまだ残っている気がする。
あんなものにずっと苛まれてきたお母さまは、大変だっただろうな。
それと同時に……前世でずっと感じていた絶望感は、ああいう姿だったのかもしれないなと思ったりして。
「では、解散だ……シュヴァルツ、その女児の監視任務を怠るでないぞ。いいな?」
「はっ」
お母さまとお父さまは、私の方を何度も振り返りながら城の人たちに連れて行かれてしまった。
生まれなおしてから3年間、お父さまとお母さまと離ればなれになるのは初めてのことだった。
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たくさんのブックマークや応援、ありがとうございます。
とてもドキドキしていたので、嬉しいです。
仕事の書き物が立て込んでおり、短めの更新ですがごめんなさい!
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