第14話
「そんなロザリア様を側に置くジャスティン様の方が優しいわ」
軽く探りを入れてみる。
ジャスティンはそもそも不遇の皇子だ。今は皇帝にまでなっているけれど……。
「そうですね……陛下はとてもお優しいのですが……今の話を聞いていると心配になってきましたわ……」
一瞬だけパルロアの目が睨むような形になったのを見逃さなかった。
が、返答から考えるにジャスティンを狙うライバルかもしれないが、今はロザリアという共通の敵がいると認識して良いのだろうか。
「なんとかしてロザリア様を連れて帰ろうと思う」
「ロザリア様とジャスティン様を説得したいのですが……二人別々なら説得に応じてくれるかしら」
「ですがエルガー譲は体調が……」
「ただの心労ですわ。心配で心配で……」
体調不良を心労で押し通す事にした。間違ってはいないし、貴族令嬢なら心労で倒れる事もあるだろうから、そんな状態での長旅なんて無理と押し通せば良いだけだ。
アーサーもロザリアが居なければ帰る気もないし、ディスタ国の王太子という身分を存分に使う気でいる。
「二人別々か……」
アーサーがあたしの言葉を復唱して考えるように手を口元にあてる。
「だってジャスティン様はロザリア様を離そうとしないじゃないですか。ロザリア様に帰ると言わせる事が出来れば良いと思うんです」
どんな手を使っても。
そんなあたしの言外に含まれる思いを汲み取ったのか、パルロアの口元が歪にゆがむ。
やはりパルロアもロザリアが邪魔だったのだ。ジャスティンを渡すつもりはないが、ロザリアを排除する為には是非とも役立ってもらいたい。
「それでしたら……私が何とかしましょうか?」
「本当か!?」
「ありがとうございます!」
くらいついてきた――。
なかなか自由に動けないあたし達に代わって、二人をうまくおびき寄せる餌になってね。
◇
王城を歩いていると、ふと後ろから声がかかる。
「パルロア」
「あら、お父様!」
声の主である父に、私は愛らしい笑顔を振りまくと、父の鋭い視線は少し柔らかくなった。
まだ少しだけ厳しさを宿しているけれど、父が私を溺愛している事を知っている。
「こんな所で何をしているのですか」
「それは……私、ブラッドリー公爵令嬢に謝罪しようと思いまして……」
「今更ですか?」
父は厳しそうな声で言うものの、表情は少し優しく苦笑している。
私に対する隠しきれない愛情が溢れ出ているのが分かった為、目に涙を貯めて、悲しそうな表情をしながら少し間を置いたりする事を計算しながら話をする。
「……私は皇帝陛下の事が本当に好きなのです……嫉妬という感情で後先考えずあのような行動をしたのは人として失格なのは理解しております……」
貯めに貯めて、涙を一滴頬に伝わせながら、真剣な表情で父に視線を合わせる。
「しかし謝罪をするのなら上辺ではなく真剣に行うべきだと思い、自分の感情を向き合っていたのです。また嫉妬にのまれないように!」
そんな私の言葉に、父は柔らかい表情を向ける。
「大人になりましたね、パルロア。同じ事を繰り返していては反省もありません。きちんと謝罪をしてきなさい」
私に甘い父は、私の頭を軽く撫でると、すぐに仕事へ戻っていった。
えぇ……同じ事は繰り返しませんわ。
『私』は手を下しませんもの――。
「本当に申し訳ございませんでした!ブラッドリー公爵令嬢」
唖然としている女を前に、小刻みに震え顔を青くし、涙目になりながらもひたすら頭を下げ続ける。
遠くから見れば、目の前の女が私をいじめているかのように。
会話が聞こえていても、許さない女が悪いと言わんばかりのように。
「私……皇帝陛下の事を昔からお慕いしておりまして……だからと言って、嫉妬にかられてあんな恐ろしい事を……」
更に身体を震わせて。
嘘と本当を織り交ぜて。
私がジャスティンの事を愛しているのは事実だから。それが理由なのも事実だから。
「……謝罪を受け入れます。頭を上げて下さい」
そうよね。あんたならそう言うわよね。
公爵令嬢がここまで頭を下げているのだもの。国の事を考えるあんたなら、受け入れざるおえない。
「ありがとうございます!これから仲良くしていきたいと思っておりますの!私の事はパルロワとお呼び下さいませ」
「ありがとうございます、パルロワ様。私の事もロザリアとお呼び下さいませ」
「後日、親睦をかねてお茶でもどうでしょうか」
「お受けいたしますわ」
一切内情が読み取れない、貴族ならではの表情を崩す事なくあいつは受け答えをする。
こちらは笑顔を見せて対応しているのに……。
まぁ、良いわ。
「ありがとうございます。嬉しく思いますわ」
あんな男爵令嬢如き、敵でもなんでもない……。
ただの煩い羽虫。
問題はこの女!
この女さえ居なくなれば――。
どうせあんたなんか終わるから。
だから今は慈悲として、微笑んであげるわ。
「本日はありがとうございます!さすがにロザリア様を外にお連れする事ができなかったので、温室で失礼いたしますわ」
パルロア様にお連れされた場所は王城の中にある温室だった。
確かに客人として招かれている状態の私が帝国貴族の邸へ赴くのも色々あるのだろう。
ティン様とは執務の合間が多かったので、専らサロンかガゼボだった為、こんな広く光がよく入っている素晴らしい温室がある事に心を動かされていた。
噴水の近くにテーブルと椅子もあり、その周囲には様々な花が配色よく彩っているし、大小のバランスも良い。
しばらく雑談を交わしていると、ふと眠気が襲ってきた。心地の良い温度と陽気のせいだろうか。
少しウトウトとしはじめた為、断りを入れようかと思ったら、パルロア様は忙しなく身体を揺るがし始めた。
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