第10話

「でも!貧しい人達や親が居ない子ども達へ炊き出しも行いました!教養だけが全てではなく民の為に動けるかではないですか!?」

「ふざけた事を……教養なくして政が分かると思うな!!」

「ヒッ!」


 またしても怒鳴る国王に、アーサー様が短く悲鳴を上げた。

 本当に頼りにならない。


「炊き出しも国庫の金……つまり民の血税だ!炊き出しだけならまだしも、外に出るからと着飾るなんぞ言語道断!挙句、その場限りの食事を提供してどうなる!それ以降の考えもなく動いたところで意味がないだろう!国庫を圧迫……つまり民の血税を無駄に使用しているだけではないか!!!!」

「そんな!王太子やその婚約者が人前に出るのに見窄らし格好など!」

「見栄や評判の為だけに行ったのは皆が知るところだ!!そんなものを今後も通せると思うな!」


 ……なんで……。

 炊き出しの後、どうするかなんて知らない……。

 そんなのニュースでもやってなかったし……。

 何が駄目で、何がいけなかったのか全く分からない……。


「……申し訳ございません」

「お前は謝る事しか出来ないのか……」

「…………」


 ずっと謝り続けるアーサー様に、国王は侮蔑の視線を向ける。


「そもそも、お前とブラッドリー公爵令嬢の婚約は王命であった事を忘れたのか」

「……」


 黙っているアーサー様に、もう興味がないように国王は続ける。


「十年前にお前とブラッドリー公爵令嬢の婚約を結んだのは、帝国の皇太子がブラッドリー公爵令嬢を迎えいれようとしていると言う噂が聞こえてきたから、焦って結んだのだ。あわよくば帝国に対しブラッドリー公爵令嬢という弱みが、次期王太子妃になれば有利になるのではとな」

「「え?」」


 あたしとアーサー様は同時に驚きの声をあげる。きっとロザリアと皇帝の接点についての事だろう。

 あたしもそうだ。そんなストーリーなんてなかった。

 ロザリアとジャスティン様との間に、そんなイベントがあったなんて聞いた事がない。

 バグ?そこからゲームのシナリオが狂っていった……?


 ……まさか!


 ジャスティンとの出会いイベントは11年前。

 あたしはそのイベントの為にジャスティンに会いに行ったのに、その場所にジャスティンは居なかった……すでに保護された後だったとしたら?

 その相手がロザリアだったとしたら……!

 ゲームでジャスティンは、助けてくれたヒロインの事を覚えていて、お礼を言う為にディスタ国の学園に通い、そして再会してヒロインと恋に落ちるのだ。

 ……もしかしなくても、イベントを奪われた!?


 無意識に力が入る。

 歯を食いしばり、拳を握りこむ。


「皇帝陛下がおる卒業パーティという大勢の前でブラッドリー公爵令嬢と婚約破棄をし、エルガー男爵令嬢と新たに婚約を結ぶと宣言したおかげで、不貞の事実を声高に宣言したようなものだ。その事実は覆しようがない。更に言うなればブラッドリー公爵令嬢は虐めなんてしらおらん!せめてもの情けとしてエルガー男爵令嬢が優秀であればと思ったが……」

「ちょっと!失礼じゃないですか!?」

「黙れ!!」


 あまりの言いように腹が立って反論しようと声をあげたら、まさかのアーサー様から怒られた。

 アーサー様の方へ視線を向けるも、俯いて身体を震わせたままで、あたしに対して視線を絡ませる事もない。


「責任として、罰を言い渡す。アーサー・バデルは王太子剥奪。第二王子はまだ五歳だが、そちらを立太子させることとする。こんな醜態が二度と起こらぬよう、王太子の責任というものを教育していこう」

「父上!そんな!」

「あんまりです!どうして王太子剥奪なんて!」

「廃嫡されなかっただけ有難いと思え!」

「ではロザリアがいれば!」

「アーサー様!?」


 喚くあたし達に言う事はないと言わんばかりに国王が手をあげると、騎士達が私達を部屋から出そうとする。

 なんで!?

 アーサーのエンディングでは王太子妃となるはずだったのに!どうしてこんな事になってるの!?どうしてあたしがこんな目に!?

 全部ロザリアのせいだ!!!

 そんな恨みをロザリアに向ける。

 絶対にジャスティンを手に入れてやるという気持ちと共に――……。





 ◇




「リア……まただな……」

「また……ですね」


 そう言って読んでいた手紙を戻すと二人揃ってため息をついた。


「今度からは読まずに捨てるか」

「さすがにそれは……」

「喧嘩売ってるとしか思えないがな」


 そう言ったティン様は手紙を握りつぶした。表情には一切見せないが、かなり苛立っている様子が見て取れる。

 ティン様は卒業パーティの後から、ずっとディスタ国の動向を探っていたようで、この間アーサー様が王太子剥奪となり、第二王子が立太子すると国王が決めたという情報が入ってきた。

 急に決まった事に加え、第二王子の年齢も考えるとすぐに正式に立太子の儀を行うというわけではないようで、現状まだ王太子の位には誰も居ない状態だ。

 だから、まだ間に合うと思っているのだろうか……。

 アーサー様から何度も手紙が届いている。主に私だが、たまにティン様にも失礼な手紙が。


 曰く、ロザリアは王太子妃教育が終わっているからディスタ国へ返せ、戻ってこい、と。


 それに関して、王太子妃教育の内容には外部に漏らしてはいけない機密事項的な内容はなく、王家に準ずるマナーや国の詳細を知る事な為、戻る必要はなくエルガー男爵令嬢に教育を施して下さい。とお返事をしてある。

 そのお返事を書いている時に、ティン様が声をたてて笑っていたので、もしかしなくとも教育が進んでいないのではないかと思ったが、だからと言って私の屈辱が晴れるわけでもない。

 学園で頑張っていたように、しっかり学んで下さい。としか思えない。


 そして何より……ティン様の隣が心地良いのもあるが、アーサー様の元になんて戻りたくなかったのもある。

 冤罪を被せられ、怪我までしたのだ。

 何より臣下としてあの方に忠誠を誓えないというのもある。

 夫婦として、王太子妃として、忠誠を誓えなければ互いに支え合う事も協力しあう事も難しいだろうし、私がそもそも添い遂げる気がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る