第22話 メインヒロインは

 被害者3人グループは、伊刈いかりさんと同じクラスの女子たちだ。


 その日はすでに、被害者グループは帰宅を終えてしまっていた。というわけで今日のところは僕たちも帰宅することにした。


「復活!」アホっぽい掛け声とともに、時鳥ときとりさんが保健室から出てきた。「さぁ、デートに行こう!」

「ダメ」さすがに受け入れられない。「まだ顔が赤いじゃないか。しっかりと体調を治してからね」

「むぅ……」なにを焦っているのやら……「今のところ……私ヒロインの中で影薄いから……」


 それはそう。一応メインヒロインのはずなのに、とっても影が薄い。


 宿木やどりぎ会長にも存在感で勝てず……さらに伊刈いかりさんにすらキャラクターとエピソードで負けている。


 良くも悪くも……時鳥ときとりさんは普通なのだ。

 

 だからこそ……未来人という普通じゃない設定を付加してきたのだが……その設定すらもガバガバである。全然活かしきれていない。


 そんな彼女が僕は好きなのだけれど。


 平凡でアホな彼女が、僕は好きだ。最初に僕に告白してくれたから、というのもあるのだろう。


「心配せずとも……メインヒロインはキミだよ」

「え……? それって……」

「帰ろうか」なんか恥ずかしいことを言った気がする。「熱は大丈夫?」

「う、うん……もう下がったよ」

「どれくらい?」

「37.8」


 即座に返って休ませた。


 そんなに熱があって復活とか言ってたのか……さらにその状態でデートて……


 馬鹿は風邪をひかないというのは、どうやら本当らしい。道理で僕も風邪をひいた記憶がないわけだ。


「熱が下がっても、明日は休むように」


 そう注意しておいてから、僕自身も家に帰った。時鳥ときとりさんを送っていったので、もう被害者たちも帰ってしまっただろう。


 果たして伊刈いかりさんは本当に暴力的な人なのか……そして本当に理不尽にも被害者たちを殴ったのか……それが気になるな。


 翌日。


「さて……」


 いつものようにコーヒーを飲んで、ネットで適当にニュースを確認する。


 カーテンを開けて日差しを浴びて、トーストを口の中に入れた。


 朝というのはなんとも気だるい。ソシャゲのデイリーミッションを惰性でこなしながら眠気を覚まし、制服に着替える。


 時鳥ときとりさんの体調は大丈夫だろうか……少し気になるけれど、彼女の連絡先を知らない。


 ……彼女は未来人だし、僕の電話番号くらい知ってるか。って、そんなわけがない。次に会ったら連絡先を交換しておこう。


 そんな事を考えながら、学校に到着。


 そしてお昼の長い休み時間になったとき、僕は伊刈いかりさんの教室を訪れた。


 教室を見回すが、伊刈いかりさんの姿は見当たらない。まぁ、今日の本命は彼女ではないので、別に良いけれど。


 被害者3人の顔はすでに把握している。というより、ガーゼが貼られていたので、すぐに見つかった。


 ……伊刈いかりさん……治療が必要なくらい殴ったのか。さすがにやりすぎな気がするが……


 僕は教室に入って、その3人組に声をかけた。


「ちょっといいかな」

「は?」パックジュースを飲みながら、1人が対応してくれた。「なに?」


 派手なグループだった。金髪が2人と茶髪1人。

 おそらく自分の席ではない机に腰掛けて会話をしていた。イスではなく、机に座るあたり……面倒だな。この席の人がかわいそうだ。これが僕の席だったら、トイレで時間を潰している。


 ……やはり僕は人を見た目で判断してるよな……伊刈いかりさんも見る目がない。


伊刈いかりさんに殴られたって聞いてね」

「ああ……その話?」彼女は頬のガーゼを見せつけて、「見てよこれ。女の子の顔を傷つけるとか……最低だと思わない?」

「……」女の子とか関係なく、人の顔は傷つけてはいけないだろうけど。「少し話を聞きたいんだけど……いいかな?」

「えぇ……」露骨に嫌な顔をされた。「なんで……? もう、その話は決着ついたじゃん」


 ……決着がついた……


 なるほど。たしかにそうかもしれないな。とくに彼女たちからすれば、この話を蒸し返されるのは面倒でしかないだろう。


 彼女たちは被害者で終わりたいのだ。だから彼女たちに話を聞いても無意味なのはわかっていた。


 僕の狙いは別にある。


「じゃあいいや。突然ごめんね。お話ありがとう」


 礼を言ってから、僕はその教室をあとにした。


 とある人物を追いかけて、である。

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