第20話 好きでしょう?

 宿木やどりぎ会長から聞いた事件の概要はこうだ。


 入学式の日。女子トイレで乱闘騒ぎがあった。


 被害者は仲良し女子グループ3人。加害者が伊刈いかり春見かすみ


 トイレから出ようとしたら、突然伊刈いかりさんが殴りかかってきた。そう女子グループは証言。

 

 そして伊刈いかりさんも罪を認めたようだった。


 幸い3人組のケガは浅く、そこまで大事にはならなかった。伊刈いかりさんも反省文を書いて、それで終了。


 結果として伊刈いかりさんは、クラスで孤立。当然彼女が立ち上げた音楽愛好会も人が集まらず、部として成立しない。


「という状況の認識でOK?」


 僕は音楽愛好会の部室で、伊刈いかり春見かすみさんにそう言った。


「その認識で構いませんが……」彼女は若干呆れ気味に、「そういうの……直接聞いちゃうんですね」

伊刈いかりさんに聞くのが手っ取り早いでしょ?」

「それはそうですが……」


 張本人に聞いてしまうのが一番早い。そして正確だろう。


 本当のことを話してくれなくても、話し方や間の取り方から情報が伝わってくるのだ。


 

「今日は彼女さんはいらっしゃらないんですか?」

「彼女って……時鳥ときとりさんのこと? だったら……彼女じゃないって答えるよ」

「あ、そうなんですか。仲が良いみたいなので……てっきり恋人同士なのかと」


 この人も見る目ないな……って、意外とそうでもないのか?


時鳥ときとりさんも物好きだよね……なんでも彼女は、僕のことが好きらしいよ。他の人にしとけばいいのに」

「そうですか?」伊刈いかりさんはこともなげに、「時鳥ときとり先輩があなたの隣にいなかったら、私も告白してましたけど」

「……えぇ……」


 なんで……こうも見る目のない女性が多いのだろう。


 僕のどこが良いのだろうか。なんで学校最大級の美少女3人から告白されるところだったのだろう……


「なんで僕なの? 自分で言うのもアレだけど……僕は結構アホだよ?」

「それはそうですが……」そうなんかい。「私、中学でもセンパイと同じ学校だったんですよ。知ってました?」

「え……?」

「覚えてないんですね……一応言っておくと、時鳥ときとり先輩も同じ中学校ですよ」

「えぇ……」


 僕はアホなのだろうか……こんな美少女が同じ中学にいて、まったく記憶にないとは……


「まぁ、そんなところもセンパイの魅力の1つですけど」

「記憶力悪いのが好きなの?」

「そのセリフは減点対象ですよ」ごめんなさい。「これこそ自分で言うのはおかしいかもしれませんが……私たち、結構かわいいんですよ」

「それは事実だね」

「加点対象です。私にとっては、ですけど」それはどうも。「だからまぁ……かなりの確率で覚えられるんですよ。特に私の場合……目立つ部分がありますし」


 胸のことか……ごめん。僕もその部分で覚えてた気がする。心の中で謝罪しておこう。


「でもセンパイは、私に興味ないですよね。というより……外見で人を判断してない」

「その割には……僕の周りには美少女だらけだね」

「私は人を外見で判断する人、嫌いですから」伊刈いかりさんは肩をすくめて、「時鳥ときとりさんも……宿木やどりぎ会長もそうなんでしょうね。ニュートラルに接してくれるあなただから、好きになった」

「……過大評価だね……僕は人を見た目で判断するよ」


 かわいい人とそうでない人だったら、当然かわいい人が良い。


 見た目は重要だ。外見はとても大事だ。僕はそう思う。


 だから実際に……こうやって美少女に囲まれてるじゃないか。


「愛することと平等に接することは違うんですよ」……伊刈いかりさん……年下なのに落ち着いてるな。クールキャラだったっけ……? 「好みがあるのは当然です。かわいい人が好きなのも当然です」

「……」しばらく考えて、「キミの話は哲学的だね。僕にはよくわからないよ」

「好きでしょう? そういう会話」よくご存知で。「では、わかりやすい会話をしましょうか」

「なに?」

「窓拭き、手伝ってください」


 それくらいお安い御用だ。

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