第15話 にゅぇ……!

「にゅぇ……!」


 なんとも言葉にしづらい悲鳴とともに、バケツがひっくり返って水が撒き散らされる音が聞こえてきた。


 慌てて、僕はその教室の扉を開けた。


「だ、大丈夫……?」


 教室の中には小柄な女の子が1人いた。


 バケツを頭からかぶって、びしょ濡れになっていた。地面が水浸しで……どうやら彼女がバケツを引っくり返して中の水をかぶってしまったらしい。


 これまた……かわいい人だった。背は低くて小柄だが……とある一部分がデカい。誰もが目を奪われてしまうような……

 一言でいうと……巨乳。童顔な顔と合わないような、抜群のスタイルを持った少女だった。


 しかも……メガネ女子。メガネに短髪に巨乳……好きな人はとことん好きになりそうな見た目だった。


「あ……」彼女はバケツを被ったまま、「これは……お恥ずかしいところを……」

「……大丈夫……?」

「ああ……はい」彼女は立ち上がって、ようやくバケツを頭から外した。「すいません……窓拭きをしようと思ったら、バケツを引っくり返してしまって……」

「そうなんだ。まぁ……ケガがないなら良かったんだけど……」


 本当に怪我がなくてよかった。転ぶというのは……イメージよりも危険なのだ。骨折や……最悪の場合、死にも至る危険なことなのだ。


「さて……」彼女は笑顔を作って、「えーっと……なにか、御用でしょうか? もしかして、入部希望者ですか?」

「あぁ……えっと……」まだ入部希望じゃない。「転んだような音がしたから……」

「なるほど……心配してくれたということですね。しかし、心配はご無用です。慣れっこですので」


 転ぶことに慣れている……つまり、高頻度で転んでいるようだ。よほどの……ドジっ子なのだろうか。


 それにしても……


「あの……服、着替えたら?」

「え……?」

 

 キョトンとされても困る。


「濡れてるし……」制服が豊満なお胸に張り付いて、目のやり場に困る。「体操服とか」

「あ、そうですね。では、少し失礼して……」


 彼女は近くにおいてあった自身のカバンを探って、体操服を取り出した。


 そして次の瞬間――


「……!?」


 ガバっと勢いよく、彼女が服を脱ぎ始めた。

 なんの躊躇もなく制服を脱ぎ去り……


「ちょ……! ちょっと待った!」僕は慌てて目をそらして、「ちょっと僕は外に出てるから……終わったら呼んで」


 返事を待たずに、僕は逃げるように教室の外に出た。


 驚いた。度肝を抜かれた。大人しそうな見た目なのに……なんとも恥じらいがない。


「び、びっくりした……」同じく教室の外に出た時鳥ときとりさんが、「いきなり脱ぎだすなんて……」

「……僕も驚いたけど……時鳥ときとりさんは同性だから、そこまで逃げなくても……」

「……なんだか、敗北感があって……」


 無意識のうちに、時鳥ときとりさんの胸を見てしまった。


 まな板――


「なにか?」

「ごめんごめんごめん……」本当に悪かったから睨まないでほしい。「そ、それにしても……なんだか強烈な人だったね……」


 年齢的には1つ年下で、後輩だろうか。入学式の日に音楽愛好会を設立したということは、おそらく1年生だろう。


 ……あんな強烈な人物の悩みか……


 宿木やどりぎ会長も、かなり面倒なことを押し付けてくれたものだ。

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