第13話 主人公補正に感謝したまえ

「同じ話題がほしいのだろう? ならば、同じ部活に入部すればいい。新しい部活を作っても良いし……生徒会はいつでも歓迎している」


 それは部の設立を歓迎しているということだろうか。それとも、僕たちが生徒会に入ることを歓迎しているということだろうか。


 なんにせよ……部活か。悪くないかもしれない。彼女との話題を作るためだけに部活を作る……悪くない。


 しかし……


「部活って……そんな簡単に作れるんですか?」

「条件を満たせばな」


 宿木やどりぎ会長は棚の中から、一枚のプリントを取り出す。まったく迷うことなく目的のプリントにたどり着いたところを見ると、すべてのプリントの位置を把握しているのかもしれない。


「これが部の設立の流れだ。読んでみてくれ」

「ありがとうございます」


 受け取って、プリントを何となく眺める。必要な情報だけ抜き出して、読み上げてみた。


「部の設立には最低3人の部員が必要。そのうち1人は部長という役職である必要がある」3人のうち誰かが部長を名乗ればいいということか。「部員が揃うまでは、愛好会や同好会という名前でグループを作ることも可能。ただし、部費や支援は得られない」


 それから、赤線が引かれた部分を読み上げた。


「グループ設立後1ヶ月で部の条件を満たさない場合、グループは解散」

「ああ。愛好会だと言って、教室を独占しようとする生徒が多かったものでな。グループや部としての活動が認められない場合は、廃部になる」


 支援は得られないけど、教室は得られるのか。まぁ空き教室も多いし……それくらいは与えてやろうという感じだろう。


「なら、不良グループがたまり場として愛好会を作れば成立しちゃうんですね」


 部員が3人以上。そして誰かが部長を名乗れば、部として成立してしまう。


「部として認められても、その後も審査がある。大会の成績等はとやかく言わないが……部活動として機能していないと判断された場合、それも廃部だ」


 なるほど……適当な部活を作ってたまり場に、ということは難しいようだ。


「キミが部活を作ろうとした場合、すでに時鳥ときとりさんも内定と考えていいだろう。つまりあと1人協力者がいれば、部活が作れるわけだ」

「あるいは……すでにある愛好会に入らせていただくか」

「たまたま1人で愛好会を作った人がいて、たまたま部員募集中?」

「そんな都合の良いことが――」

「あるぞ?」


 あるのかよ。冗談のつもりで言ってたのに……


 宿木やどりぎ会長はもう一枚プリントを僕に渡して、


「校内にも張り出されているが……キミは張り紙など気にしないタイプだよな」


 なんで知ってんだ。この人、僕にやたら詳しいな……


「これは……?」

「音楽愛好会の部員募集チラシだ」


 音楽愛好会……?


 プリントを見る。センスの欠片も感じないレイアウトのプリントだった。『音楽愛好会』の文字だけやたら達筆で、他の部分がダサい。


 しかし……丁寧なのは伝わってきた。このプリントから、真剣さが伝わってきた。決してふざけた末に行き着いたレイアウトではないようだ。


「キミの主人公補正に感謝したまえ」主人公じゃないけれど。「入学式初日に、音楽愛好会を設立した生徒が1人いる。他の部員のアテはゼロ。そんな状態で設立願いを出した……無鉄砲な若者がな」


 若者って……2つくらいしか違わないだろうに。


「現在の部員は1人だけ。部員募集中らしいが……うまくいってないようだな」

「……まぁ、うちは吹奏楽部が有名ですからね」この学校の音楽好きは、大抵は吹奏楽部か軽音楽部に入部している。「そんな状態で音楽愛好会……?」


 音楽が好きなのは理解している。だけれど……じゃあ吹奏楽や軽音楽部に入部すればいいのに……


 なんとも……奇特な人物がいるらしい。


 それから宿木やどりぎ会長が言う。


「キミと時鳥ときとりさんで、音楽愛好会を見てくると良い」

「……部活見学ですか……」

「ああ……それと、生徒会長として頼みがある」

「頼み?」


 嫌な予感しかしない。


「そうだ。その音楽愛好会部員の……悩みを解決してやってくれ」

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