第12話 呼んでくれたまえ

 あまりにも短いデート編を終えて、考える。


 考えるのは良いことだ。だが、なぜ……なぜこの場所で?


 なんで僕は生徒会室にいるんだ?


「なるほどな」なぜか目の前にいる生徒会長、宿木やどりぎ黒百合くろゆりが、「デートしたまでは良いが、話題がなくて沈黙してしまったと」

「そういうことですね……」その前に、聞きたいことがある。「……なんで僕は、生徒会室にいるんでしょうか?」

「キミが悩みのある顔をしていたからな。恋愛相談に乗っているんだ。生徒の力になるのは、生徒会長の仕事だからな」


 そこまではわかる。生徒会長が生徒のために動くのは、なんとなく納得できる。


 だけれど……


宿木やどりぎ会長からすれば、時鳥ときとりさんは恋敵なのでは?」

「遠慮せずに黒百合くろゆりと呼んでくれたまえ」


 反応しづらいな、この人……


 そういえば黒百合くろゆりって……珍しい名前だよな。百合ならよく聞く名前だけれど……


 でも、この人には黒百合くろゆりのほうが合っている。黒いという言葉が似合っている。裏がありそうな人物なのだ。


 改めて対面すると……やはりこの人、すごい美人だよな。思わず目をそらしそうになってしまう。


「ともあれ、時鳥ときとりさんが私の恋敵であることは認めよう」

「だったら……」

「恋敵であることは、私個人の視点だ。生徒会長としては、関係がない」

「つまり……?」

「私はキミの幸せを願っているということさ」宿木やどりぎ会長は頬杖をついて微笑む。「私たちは、いろいろな手段でキミを手に入れようとするだろう。最終的には、キミが選べばいい。生徒会長としての私を求めて相談するのなら、私も生徒会長として引き受けよう」


 ……


 うーむ……


宿木やどりぎ黒百合くろゆりとしてのあなたと、生徒会長としてのあなた……それらは別物ってことですか」

「そういうことだ。そして今、私は生徒会長として生徒の相談に乗っている」だから相手が恋敵でも、関係ないってことか。「必要なら、宿木やどりぎ黒百合くろゆりとして対応するが?」

「遠慮しときますよ」生徒会長の姿を捨てた宿木やどりぎ黒百合くろゆり……食べられてしまいそうだ。「宿木やどりぎ会長に、相談します」

「遠慮せずに黒百合くろゆりと呼んでくれたまえ」


 ……ホント会話しづらいな、この人……


「さて、相談に戻ろうか」そうしてくれるとありがたい。「相談内容は……要するにということだろう?」

「そうなりますね」

「ハッキリ言おう。相談の意味がよくわからないな」僕だってそうだ。自分の気持ちがよくわからない。「キミは……すでに時鳥ときとりさんに告白されているのだろう? さっさと受け入れてしまえばいいじゃないか」

「それはそう……なんですけど……」


 言葉にしてしまえば簡単な話。

 僕たちは両思いなのだから、さっさと付き合ってしまえばいい。


 それから宿木やどりぎ会長は冗談っぽく、


「それとも、生徒会長にも告白されているから……悩んでいるということかな?」

「……」


 また返答に悩むことを……


 正直言って、宿木やどりぎ会長は魅力的な女性だ。

 1つ年上。生徒会長。成績優秀な彼女。

 スタイルだって良い。性格だって僕の好みだ。


 そんな彼女に心惹かれていないと言われたら、嘘になる。


 だけれど、だけれど……


「……傷つける言動になるかもしれませんが……」

「構わないよ」

「今の僕が好きな人は、時鳥ときとりさんです」宿木やどりぎ会長が嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。「細かい理由は双方に失礼になるので言いませんけど……僕は、あなたの気持ちには応えられません」

「……そうか……」とくに傷ついた様子は見えなかったが……「まぁいい。いつか、振り向かせてみせる。諦める気は、ないよ。ライバルは強力だがな」


 ……なんで宿木やどりぎ会長は、ここまで僕に執着するのだろうか……意味がわからない。


「しかしキミも、誠実な男だな」

「見る目のない人ですね」

「よく言われるよ」ダメじゃん。「ともあれ……キミは今時珍しい男だ。彼女に一目惚れに近い感情を抱いているのにもかかわらず、それでも慎重になっている」

「優柔不断なだけですよ」

「そうかもしれないな」ダメじゃん。「だが……キミが告白の返事を保留にしたのは、彼女を傷つけないためだ。違うかい?」


 反論できないほどの正論だった。この人は、僕の心でも読めるのだろうか。


 告白されて受け入れなかった理由は、時鳥ときとりさんを傷つけないため。


 僕は時鳥ときとりさんが好きだ。僕を好きでいてくれる彼女が好きだ。


 だけれど……彼女が僕のことを好きなのは、きっと勘違い。だから友達という期間を通せば、目を覚ましてくれる。


 それでもなお僕のことを好きだと言ってくれるのなら……その時は……


「なんにせよ、私からすればまだチャンスがあるということ」なんか企んでる顔だった。やはりこの人は、黒という言葉が似合う。「さて相談に戻ろう。要するに彼女との話題がないということだろう?」

「そうですね」

「部活でも入ったらどうだ?」

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