第11話 体育祭の都市伝説

 僕の目的って、なんなのだろう。


 結局僕は彼女からのデートの誘いを受け入れた。彼女のことが嫌いなら、断ってしまえばいい。


 とどのつまり……僕は彼女が好きなのだろう。彼女に気に入られたいのだろう。だから、デートだってやぶさかではない。


 彼女のことを、もっと知りたい。もっと好きになりたい。最終的には恋人になりたい。


 だから、デートを受け入れたのだろう。


 1週間が経過した。お互いちょっとスケジュールが合わず、デートは1週間後ということになったのだ。


 そしてその当日……


「この学校近くのデートスポットと言えば、ここだよね」


 ということで案内されたのが……とある喫茶店。


 今日は土曜日だが、そこまで混み合っていない。平日でも休日でもにぎやかになりすぎず、落ち着いた雰囲気を楽しめるお店。そのお店だけが時間の流れに取り残されているかのように、変わらない内装。


 喫茶店『風光明媚』


 気まぐれな美人店主と、真面目な美人従業員の2人だけで経営しているお店である。


 お店に入って、席につく。そしてオムライスを2人で注文して、


「この学校の従業員さん……うちの学校の卒業生らしいよ」そんなことを時鳥ときとりさんが言う。「バスケ部の部長だったとか、学校のマドンナだったとか」

「へぇ……確かに美人だよね……」ついでに、気になっていたことを聞いてみる。「このお店の時間って、止まってる?」

「ああ……それ、私も思ってた」


 もっぱらの噂である。風光明媚の時間は停止している。それがうちの学校の通説。


 誰からか聞いた話では……このお店の店主はヒカリという人物だが、容姿が変わらないことで有名である。


 大学生のお姉さんが働いているのだと思っていた。そして10年後に来てみたら、まだ大学生のお姉さんみたいな容姿だった、という噂。それがヒカリという人物。


 それだけならヒカリさんが不老不死説を推すのだが、しばらく前に従業員になった人も同じく若々しいのだ。


 この風光明媚には人を若々しく保つ秘技が隠されている……そんな根拠のない噂。


「10年後も、まだ若々しいの?」

「そうだね……なにも変わってないよ」バタフライエフェクトの影響はないらしい。「ここだけは……いつの私も変わらず受け入れてくれる」


 そんな気がする。いつの時代にも存在する、謎の喫茶店。それが風光明媚というお店。


 不老不死、時間停止……いろいろな都市伝説の飛び交う不思議なお店。

 まぁ僕からすれば、オムライスが美味しいお店という認識だ。それだけでいい。


「都市伝説といえば……」時鳥ときとりさんは水を一口飲んで、「知ってる? 体育祭の都市伝説」

「……体育祭の?」

「そう。まぁ……体育祭もデモとかで大変そうだけど……」


 デモ……とはなんだろう。聞き返す前に、時鳥ときとりさんが続けた。


「えーっとね……っていうやつ。特に体育祭運営に全力を尽くした人の願いは叶いやすいらしいよ」


 その都市伝説を聞いて、少し吹き出してしまった。


 そんな僕を見た時鳥ときとりさんが、


「どうしたの?」

「いや……なんでもないよ」


 様子を見る限り、時鳥ときとりさんはその都市伝説を信じているのだろう。


 僕からすれば……しょうもない都市伝説だ。まだ風光明媚の時間が止まっているというほうが信憑性がある。


 要するにその都市伝説は……教師が流した噂なのだろう。


 生徒に全力で体育祭を楽しんでほしい。そのために、生徒にとって都合の良い情報を流した。

 好きな人と結ばれるというのは、求める人にとっては最高の報酬だ。そして……その手の都市伝説にすらすがりたくなるような話なのだ。


 だから恋愛関連の都市伝説を流した。体育祭を全力で頑張れば願いが叶うという噂を流した。


 ……そういえばうちの高校の体育祭は盛り上がることで有名だったのだが……そんな裏話があったとは。多くの人が好きな人のために頑張ったんだろうな。そして玉砕したんだろうな。


 そして、


「……」

「……」


 話題がなくなりましたとさ。

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