音楽愛好会

第10話 タイムリープ

 改めて、タイムリープというものについて考えてみる。


 未来から戻ってきて……未来を変えるために奮闘する物語を、よく見かける。


 それは美談だろうか。それとも……過去に対する冒涜だろうか。


 一度確定した未来を変えようとすることは、素晴らしいことなのだろうか。


 起こってしまった過去を否定せずに前へ進むことこそが、未来を生きるということなのではないだろうか。


 過去を悔いるのなら、今を変えるべきなのではないだろうか。


 過去の改変は……今を生きる人に失礼なのではないだろうか。


 ……


 答えはわからない。結局、タイムリープなんてのは夢物語だ。ありえない事象について考えても、答えなんて出ない。


 結局できることといえば……今を生きる事だけなのだろう。





「どうしたの?」廊下を歩きながら、隣の時鳥ときとりさんが僕の顔を覗き込んで、「難しい顔して……」

「うーん……」適当にごまかそうかとも思ったが、「タイムリープについて考えていたんだ」


 タイムリープ。時間遡行。


 彼女……時鳥ときとり子規しきは未来からタイムリープしてやってきた……という設定である。


「私が未来人かどうか、疑ってるの?」

「少しね」というより、完全に未来人じゃないと思っている。「証拠がないからね。簡単に信じることはできないよ」

「証拠か……それを見せるのは難しいね」


 おや……ちょっと作戦を変えてきたようだ。


「そうなの? クラス分けは当ててたのに?」

「うん。クラス分けくらい大きな出来事なら、些細なことでは未来は変わらないんだけど……ちょっとしたとは、小さなことで変わっちゃうからね」


 バタフライエフェクトみたいなことが言いたいのだろう。


「例えば……」時鳥ときとりさんは事前に用意していたであろう説明を続ける。「こうやって私とキミが友達になるのは、未来では起こらなかった事態なの」

「なるほど……その影響で、いろいろな変化が起きている。だから、未来予知は難しいと」

「そういうことになるね」


 なかなか知恵を絞ってきた。


 未来人という設定を守るのなら、未来予知は避けられない問題だ。

 すでに体験した未来を言い当てることなど、本来なら簡単なこと。本当にタイムリープしてきたのなら、簡単だ。

 

 だけれど彼女はタイムリープなんてしていない。だから未来予知はできないわけだ。


 一度くらいはクラス分けみたいに偶然予知できるかもしれない。だが……毎回的中させるのは不可能だろう。


 だから、未来予知ができない理由を付ける必要があった。それが……まぁバタフライエフェクトのことだろう。


 まぁ、これ以上突っ込んだ話は控えよう。未来人として取り繕おうとする時鳥ときとりさんも可愛いが、完全に秘密を暴いても面白くない。


 簡単な質問にしておこう、


「未来の僕は、部活とかやってたの?」

「やってなかったはずだけど……」

時鳥ときとりさんは?」

「私も帰宅部……だったよ」過去形で話すのが難しそうだ。「なにか部活やりたいなぁ、とは思ってるんだけど……勇気が出なくて」


 勇気……そうだろうな。知らないコミュニティに所属するというのは、かなり度胸がいるだろう。


「いっそのこと、自分で作っちゃえば?」

「それも度胸がいるかな……私、臆病だから」


 未来人という設定を作って告白した人が何を言うのか。


 まぁ……彼女はやはり未来人という設定を守る気でいるらしい。ならば、少しくらい乗ってあげよう。


「さて……じゃあ」時鳥ときとりさんは深呼吸してから、「デートしようか」


 突然、そんな事を言いだしたのだった。

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