第7話 ヒーローの話

 自分で言うのもなんだが、僕はモテない。

 今まで女子と友達にすらなったことなかったし、まして告白されるなんてありえないことだった。


 それがなんだ……今日は何かがおかしい。


 なんで2


「……立候補……?」時鳥ときとりさんが首を傾げて、「……どういうことでしょうか」

「そっちの彼に、告白したということだ」

「……」時鳥ときとりさんはようやく現状を理解したらしい。「告白って……私が先ですよ」

「まだ答えは保留中なのだろう?」


 しばらく、2人は見つめ合って……いや、にらみ合っていた。


 ……えーっと、なんだこれ。どういう状況?


 僕を取り合って、美少女がにらみ合っている?


「キミ」宿木やどりぎ会長が僕に、「答えを聞かせてもらおう。私の告白、受けてくれるか?」

「……」もうちょっと落ち着いてほしい。2人して、急すぎる。「あの……僕たち、初対面ですよね……?」


 時鳥ときとりさんも含めて……ほぼ初対面なはずだ。もちろん同じ学校に通っているのだから、姿くらいは見たことあるけれど。


「……そうだな。初対面だ」含みのある言い方だな。「しかし……まぁ生徒会長としてキミの噂は聞いているよ」

「……噂?」


 なんだろう……なにかやらかしたかな……怒れられるのかな……


「正体不明の、ヒーローの話だ」

「ヒーロー?」


 僕が絡む要素を感じない。


「ああ……無くした帽子を見つけてくれたとか、川に流されたランドセルを拾ってくれたとか……いろいろな報告が学校には来るんだ。生徒会長という立場上、その噂を聞くことは多くてね」

「はぁ……」

「彼ら彼女らは、口を揃えて言うよ。と」


 ……優しそう、ね。


「それが僕とは限りませんよ」

「そうかもしれないな。だが……大多数はキミだろう?」


 反応に困る。どの事柄を指しているのか、特定できない。


「心当たりが多すぎて、困っているようだね」

「ヒーローと言われるほど、人を助けていませんよ」

「そうか。じゃあ、そういうことにしておこう」


 そういうことにしてくれると嬉しい。

 ヒーローなんてなりたくないし、ヒーローと呼ばれるほどの男でもない。


 それに……優しそうな男子高校生なんていくらでもいるだろう。そもそも僕は優しそうじゃないし……やはり噂が間違っているだけだ。


「間違った噂に恋をされているのなら……告白は受けられませんね」

「それは失礼。では……一目惚れだ」


 ……一目惚れねぇ……学校のマドンナ生徒会長宿木やどりぎ黒百合くろゆりが、ただの一般生徒である僕に?


「……よくわからないですね……どうして、僕にそこまで……」

「付き合ってみればわかるさ」卑怯な物言いだ。嫌いじゃない。「まぁ、考えておいてくれ」


 それから宿木やどりぎ会長は笑顔で、


「キミのことが好きだというのは、本当だぞ?」

「……嘘をつく人だとは思ってませんけど……」

「そうか……」宿木やどりぎ会長は再び職員室に向けて歩き始めた。「では行こうか」


 クラス分けの内容を……自分のクラスがどこなのかを聞きに職員室へ。


 ふーむ……


 やっぱりこれ、夢だろう……


 時鳥ときとりさんだけでも眉唾ものなのに、宿木やどりぎ会長まで僕のことが好き?


 モテない男の妄想……それが夢となって現れたのだろう。


 まぁ、夢なら夢で楽しませてもらおうか。

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