第3話 私は未来から来た\(^o^)/

 要するに彼女は、学校のアイドルなのだ。マドンナなのだ。

 少しばかりアホであるらしいが、補ってあまりあるほど容姿がいい。そんな彼女に思いを寄せる男子は数しれず……


 そんな彼女が……なんて言った?


――私の恋人になって――


 聞き間違い、だよな。


「……ごめん、もう1回言ってもらってもいい?」

「え……」彼女は顔を赤くして、「そ、そんなの……冷静になると恥ずかしいし……」


 冷静になると恥ずかしい……

 つまり今僕は、本当に告白されたのか?


 悩んでいるうちに、彼女は土手に置かれていたカバンを開ける。おそらく彼女のカバンなのだろう。


「これ……読んでみて。私、後ろ向いてるから……」


 そう言って、彼女は僕に背を向けた。


 僕に渡されたのは……ノートだ。青いノート。100円ショップで3冊セットとかで売ってるタイプのノート。


 ……なんだかよくわからないが、これを読めばいいのだろうか……


 戸惑いつつ、ページを開く。


『私は未来から来た\(^o^)/』


 何だこの顔文字……じゃなくて……


 ……未来……? 未来から来た? クラスのアイドル時鳥ときとり子規しきが?


 ……なんか顔文字を手書きしてるのが腹立つな……


 ともあれ読めと言われたのなら読もう。


『情報によると、彼はライトノベルが好きらしい。その中でも好きなのはタイムリープもの』なんで知ってんだ。『だから彼に気に入られるために、私は未来からタイムリープしてきたという設定にしてある』

 

 ……設定……


『タイトルを考えるなら……【青春時代のやり直し。25歳の私が高校時代にタイムリープ?~青春時代に憧れていたあの人に、今度こそ告白します~】って感じ?』


 知らんがな。


『でも、私はタイムリープなんかできない。未来を変えたいのなら、今を変えるしかない。このまま片思いでは終わりたくないので、行動することにする』

 

 片思いって……


『私がタイムリープしてきたと知れば、彼は私に興味を持ってくれる』タイムリープしてなくても興味は持っていたけれど。『未来人という設定を守る。本当はタイムリープなんてしてないと、バレてはいけない。演技力には自信がある』


 ……


 これ、読んだらダメなやつでは? そう思ってとっさにノートを閉じた瞬間だった。


「あ……!」時鳥ときとりさんが大慌てで、カバンの中からもう1冊のノートを取り出した。「そっちじゃなかった……!」

「そ、そうなんだ……」あまりにも彼女が慌てていたので、つい、「よかった……ま、まだ読んでないから……」


 そんなウソをついてしまった。直ぐにバレるウソだと思ったが、


「そっか……」彼女は心底ホッとしたように、「良かった……ちょっとそれは、見られたらマズイから……」

「へ、へぇ……」声が上ずってしまった、「ぐ、偶然にも見なかったよ……」

「良かったぁ……」噂に違わぬアホらしい。「じゃあ……今度こそ、こっちのノートを読んでみて」


 同じ背表紙のノート使うから間違えるんだよ。100円ショップで3冊セットのやつ使うからだよ。


 ともあれ……今度こそ気を取り直して読もう。さっきのノートは……見なかったことにしよう。


 ノートを開いて、一枚目。


『直接、顔を合わせたら恥ずかしくて言えない可能性があるので、紙に書いてきました』


 そんな前置きのあとに、


『私、時鳥ときとり子規しきは、あなたが好きです。付き合ってください』


 ……


 聞き間違いじゃあ、なかったらしい。

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