四十七話おりんと涼子
私の目の前には。
◇
ふよふよと浮いている何か。
それはなんと…おりん人形の首だった。
「な…くっ!?」
すると人形は絞り上げたような声をあげる。
「うくうううぅぅう。」
「お前は……」
私がそう呟くと人形は何かを言いたげな表情へと変わる。
『に……憎い……あの男が、憎い。』
「えっ!?それって貴女をその人形に閉じ込めたといわれる男の事か!?」
私はそう問いかける。
するとおりん人形は涙なのだろうか目からポタリポタリと何かの液体を流し始める。
私は思いきって話しかける事に踏み切る。
「お……おりん……君はかつて…普通に暮らし普通に生きてきたと聞いている。」
するとおりん人形はじっと私の話を聞いているようだ。
私は意を決し…深く息を吸い深呼吸をする。
(仁……私に勇気をくれ。)
するとぬいぐるみはピクりと反応した気がしたのだ。
私はおりん人形に向かい語りかけるのだった。
◇
「さあ…おりんさん……私の声に改めて耳をお貸しください。」
すると私の前でふわふわと浮きながらこちらを見ているおりん。
確かにこの近距離ならばいつでも私に攻撃を与える事も出来よう。
だからこそこうして私の話に耳を傾けようとしてくれてるのかも知れない。
だが私にとってはこれはチャンスなのである。
私はおりんさんと話をする。
「おりんさん、この寺の僧侶から貴女の話は聞きました…。」
私がそう話を始めるとゆっくり聞いている様子のおりん。
私は言葉を続ける。
「そんな貴女は当時、一人の男に騙されそしてそちらの人形の中に閉じ込められたとお聞きしました。」
おりんの表情は人形にもかかわらず微かに悲しげに変わった気がしたのだ。
私は話に乗ってきてくれるかと思い続ける。
「もしかしたら貴女も、もう人の姿に戻る事が出来るのであればそうなりたい…そう思っているのではありませんか!?」
『!!!???』
私の声に驚きの表情に変わるおりん。
何百年の時を人形の中で朽ち果てる事も叶わない…そんな彼女の悲痛な悲しみが私の心の中にいつしか芽生えていたのだ。
確かに当時はかの男に恨みつらみの思いだけが存在していた事だろう。
だが世はもうそんな時代は遥かに超え過ぎ去ってしまっている。
この状況で私が彼女ならばそう考えてしまう。
私は強くそう思ったのだ。
いつしか私は仁の事ではなく彼女の事を考えていたのだ。
すると、、、おりん人形は声を絞り出す。
『が…ぎぎぎぎ…わ…たしは……たし、かに、も…うこ……んな……こと、つ、つか……れた。』
「ならば、私が和尚に頼んで一度成仏するとよい…そして生まれ変わったら、今度こそ幸せに。」
「あ…りが…とう」
おりん人形はそういうとにこりと微かに微笑んだ気がした。
すると……。
ゴゴゴという何かの音が聞こえる。
それはおりん人形の中から聞こえてくる。
次の瞬間。
「が、が、じゃ、、、じゃます、る、な。」
「えっ!?」
私は急に急変したおりん人形に身構える。
すると聞こえてくるのはおりん人形とは違う全くの別ものの恐ろしい声。
「じゃま………するなーーーーーー!!!!!」
「きゃーーーーーーーーーーっ!!???」
そして私目掛け、飛びかかってきた何か。
その時…私を庇うように飛び出したがあった!?
私は思わず目を奪われていたのだ。
それは。
私の手に握られていたハズの。
そう………。
ぬいぐるみの姿だったハズの。
あいつが立ち塞がっていた。
仁が私を庇うように両手を広げ立ち尽くしていたのだ。
「仁!!???」
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