第2話黒乃という男
その男は何かの本を広げているようだ。
「あれっ?ああ…また私の話が聞きたくてこちらに来ていただけたのですね?」
男は読んでいた本をパタンと閉じるとこちらを見ている。
「さて、じゃあ今日は何の話がいいかなぁ?どんな話が好みかな?」
男は本をそっと目の前のテーブルに置くと語り出す。
「では、そうだなぁ…こんなのは如何かな?」
そして男は語りだす。
◇
◇
◇
とある町に暮らす一人の男。
男の名は
これまで独身を貫いてきた彼だが最近仕事を休みがちだ。
それには、ちょっとした理由があり男は数ヶ月前から身体に不調を覚えるようになったのだ。そんな彼は今、料理をしている最中だ。
「ふぅ~しかし今日も暑いな…」
彼は汗を流しながらいつもの様に淡々と料理を進める。メニューは決まって卵焼きと豆腐。
これをほぼ毎日の日課としている彼であった。
「しかし…何だったんだあれは?」
そしてこの時、彼は体調不良を訴えるようになってしまった出来事を思い出してしまうのだった。
◇
◇
◇
浅葱視点
あれは三ヶ月ほど前。
俺は仕事終わりフラフラと歩いていた時の事。
その日は給料日という事もあり奮発してとある居酒屋へと顔を出してしまった。
そのまま上機嫌になった俺は店の閉店まで飲んでしまったのだ。
時は十二時。
俺は、つまみ出されるかのように居酒屋を後にするとフラフラと帰路につく。
俺が自分のボロアパートに帰るには、とある公園を通らなければならなかったのだ。
だが、この公園は意外と広く実は公園の周りを通って帰るのは遠回りになる為、稀にこの公園内を突っ切り近道をする事もあったのだ。
だがしかし…この公園には、とあるいわれがあったのだ。
公園内に何かを祀られている祠があり…深夜に一人で通ると何かが起こるという話であった。
この時俺は酔いのせいもあるがそんないわれはすっかり頭の中にはなかったのだ。
こうして俺はこの日…近道をする事にした。
◇
◇
◇
薄暗い公園内…時は深夜二時。
公園内に入ると辺りはこんな時間だ。当然のようにシンっと静まり返り声と音が聞こえるとすれば虫か動物の足音くらいだろう。
俺は少々不気味さは感じたが酔いのせいで全くこの時は恐怖を感じる事はなかったのだ。
◇
◇
◇
こうして俺は公園内を歩いていくと徐々に街灯から遠がっていく。
次第に闇が深くなっていくが俺は構わず公園の内部へと足を進めていった。
すると俺の目の前にポカンっと一つの街灯が見えてくる。
その場所というのが例の祠のある場所なのだ。
「うぅぅぅっ!ここはいつ通っても気持ち悪いとこだ!さっさと帰るか!?」
俺はそう叫びながらも祠の脇をさっさと通り抜ける事にしたのだ。
早足に祠の脇を歩いていく。
だが、おかしな事に俺の足は不思議とゆっくりとしか進まなかったのだ。
「んっ!?なんだ?足が!?」
俺の足は思うように前に出ない!
すると背中越しから不気味な声が聞こえてくる。
「うぅぅぅぅぅぅ。」
「なにっ!?」
俺は声の方を向くとそこには誰もいない。
再び歩き出す俺。
「ううううぅぅぅぅ……。」
そして聞こえる低音の何かの声。
次第に俺の耳には、くちゃくちゃという
「んん??なんだ今の音は?」
俺がそちらを振り返るがそこには誰もいない。
「くちゃくちゃ…ぴちゃっくちゅっ!」
俺の耳には更に何かの咀嚼音が聞こえてきたのだ。
そのまま振り返りもせず俺は前へ前へと歩き出す。
今にも走り出したい気分だったが何故かこの時俺の身体は思うように動かなかったのだ。
「バキッ!バリッボリッ!!」
次第に咀嚼音に誰かの声が混ざりあってくる。
「う…うぅぅぅ…いだっ!!いったいっ!!」
俺の耳に確実に聞こえたであろう若い女性の声が痛みと恐怖の声を上げていたのだ。
「バリバリっ!くちゃくちゃっ!」
「うぁぁぁーーーっ!!いたいっ!!痛いってば!!」
俺は恐怖で声を上げたかったがそちらを振り返らずにずんずん歩いていく!!
「うぁぁぁーーーーーっ!!たす!け……てぇ」
◇
◇
◇
俺は余所見もせずにとにかく必死に歩く!!
振り返ってはいけない!
とにかくここは帰らないと!!
俺はそのまま家まで何とか辿り着いたのだ。
◇
◇
◇
あれから俺はその日の事が忘れられず、ずっと
家で塞ぎ込む様になったのだ。
部屋で一人俺は電気もつけず夜も過ごす。
するとトントンっとドアをノックする音。
俺は誘われるようにフラフラとドアを開けに向かう。
ガチャッ。
ぎぃぃぃーーーっ。
俺の目はこれでもかというほど大きく見開いていく。
開いたドアから見えた大きな指の手。
◇
◇
◇
俺の部屋。
「バリ…バリッ……くちゃっ!」
妙な音で気がつくと俺は天井を見上げていた。
「んムッ!!!」
「うぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
突然俺の太ももに何かに噛み付かれたような激痛が走り俺は声を漏らす!!
そして咀嚼音が聞こえてくる。
くちゃくちゃといかにも美味そうに。
きっと俺の足を化け物か何かは食っているのだろう。
「はむん!!ふんっ!!」
「ぎゃあああああああああーーーっ!!!」
次は俺の首元にまるでナイフを数本突き立てられた様な激痛!!!
きっと俺の首元にこいつは噛み付いたのだろう。
次第に俺の意識は。
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