第15話引きこもる教師
好狭野が三輪に脅迫された翌日から二日も続いて欠勤した。
クラスメイト達も心配して、授業中も私語が目立ち、授業を担当する教諭達に叱られた。
私は放課後になると、好狭野教諭が住むマンションに赴いた。
私は高校に入学してこれまでに好狭野教諭が欠勤した話を聞いておらず、珍しかった。
玄関扉は施錠されておらず、合鍵は必要がなかった。
「お邪魔しまぁ〜す……センセー、体調は如何ですかぁ〜?」
私は玄関先に置かれたスリッパを履き、あがる。
廊下の先も光が射し込んでおらず、薄暗かった。
リビングに続く扉を開け、無音のマンションの一室を見渡し、改めて声を掛ける。
「センセー、返事くらいしてくださいよぉ〜……」
ダイニングテーブルの上には、同棲者の書類が数枚だけ乱雑に置かれていた。
シンクを一瞥したが、濡れておらず乾いていた。
脚音を立てまいと忍足で彼女の寝室に向かい、閉じられた扉をノックした私。
「センセー、汐嶋です。入っても良いですか?」
「……」
扉を隔てた彼女が塞ぎ込んでいるであろう寝室は、相変わらず無音で物音ひとつ聴こえない。
入室の許可は得られず、無断で脚を踏み入れることにした。
「センセー、二日も学校に来ないなんて珍しいですね。どうしたんです?コンビニでセンセーの好きな物を幾つか見繕ってきました……」
「……」
彼女はベッドで掛け布団を頭から被って、一言も発さない。
私は無言を貫き返事をしない彼女の傍——ベッドに歩み寄り、ラグの上で両膝をつき、ベッドの縁に片腕を載せる。
「晶、どうして学校に来ないのか……私に教えてよ?」
「……なぁっ、凪沙ぁっ!あぁゔぅゔぅぅっっ……ぐすぅっ……凪沙ぁあぁぁぁ、怖いぃいいぃぃよぉぉおおぉぉぅぅぅっっ……あの娘ぅぅっっっ……凪沙ぁああぁぁぁ、凪沙ぁああぁぁぁぁっっっ……」
彼女は頭を掛け布団から出し、涙と洟水でぐしゃぐしゃな顔で嗚咽を漏らしながら、思いを吐露してシーツを濡らしていく。
「そうだね、そうだね晶ぁ。うんうん、晶の気持ちは分かるよ……一度ベッドから出て、私とお話ししよ、晶。ね、そうしよ?」
私は彼女の頭を撫で、泣きじゃくる彼女を宥めて、落ち着かせる。
「……ゔぅんっ……凪沙ぁ、凪沙ぁああぁぁ!」
私はベッドから下りた泣き止んで一様は落ち着きを見せる彼女を抱擁しながら背中を摩り続けた。
「あっ、ありがと……凪沙ぁ。どうにか、落ち着いた……」
「良いよ、晶。お腹空いてるでしょ、食べたい物食べな」
私はコンビニ袋を彼女に差し出した。
泣き腫らした顔の彼女がはにかんで、コンビニ袋を受け取り、コンビニ袋を漁って、食べたい物を食べ始めた。
私は彼女に学校に来れるようにおまじないをかけて、好狭野が住むマンションを後にして、帰宅した。
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