第13話届かない想い

エアコンの冷房の稼働音と三輪が漫画のページをめくる物音だけが室内で聞こえる。

「あぁー、飽きたぁ〜……いつまで居なきゃなんないのぉー茜ぇぇ……」

三輪が私のベッドの上で仰向けに、漫画を掴んでいる片腕をベッドからだらんと投げだし愚痴を漏らす。

「いつまでって……莉央が私に構わず誰かといるのがいけないんだよぅ。私のどこが莉央に嫌われてんの?ねぇ、莉央……」

「あぁー、うっさいぃなぁー。私は茜に友達になってなんていうこと、言ってないじゃん……茜が私に抱いてる感情に私は応えらんないって」

三輪が心底煩わしそうに低い声で返した。

「莉央、酷いよぉ……ねぇねえ私とっ——」

私は今にも泣き出しそうな震える声でラグに座っていたのを立ち上がり、三輪が寝そべるベッドに載り彼女に覆い被さるような体勢でキスを迫ろうとした。

体重を支えるようにベッドに両腕を突いていた私の腕が曲がっていき、お互いの顔が近付いていく。

私と彼女の鼻が触れ合う距離に迫った刹那に、彼女が壁際の腕を私の顔へと近づけ、唇を覆った。

「茜と居ても、そんな気分になんない。悪いけど、他の娘とそういう事をして……」

「莉央ぉぉ……莉央、莉央ぅっ、莉央ぅっっ……」

私の悲痛な声はくぐもったままで、三輪には届かずに虚しく消える。

「夏祭りくらいは付き合うから……」

三輪は扉へ顔を逸らし、消え入りそうなか細い声で呟いた。

三輪は三輪なりの優しさのつもりで返した言葉だろうけれど、私にはただ苦しいだけだった。

三輪は扉側に身体をずらして、脱力した私を壁際に横たわれるように動く。


私は嗚咽を漏らしながら、泣き続けた。

夏休み中の平日の昼下がり、自室には泣き崩れる野澤茜と宥めずに無言でいる三輪莉央がいるだけだった。


オレンジジュースが注がれたグラスの氷が、カランと音を立てる。


私は隣に横たわる三輪の顔を見れずに、ただただ時間が溶けていった。

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