第9話ゴールデンウィークに変態教師の住処へ
私はスマホの画面と前方に聳えるマンションを交互に見ていた。
傍目からすると、私は変質者に見えるだろう。
道路を挟んだ向こうには、この近辺では一番高いマンションが建っている。
「あそこに住んでんの、あの
思わず、往来のある歩道に佇んで、独り言を呟いてしまった。
擦れ違う肥満の主婦に訝しがりながらジロジロ見られた。
このままここに佇んでいたら、誰かに警察へと通報されそうだ。
そろそろ、道路を渡らないといけない。
私の背後で数人の小学生らしき男子が、下心丸出しの「あの女の人、可愛いなぁ〜」と漏らしながら走り去っていく。
私は遠ざかっていく小学生らしき男子らに視線を移し、これだから男は、と内心で毒づきながら道路を渡り始めた。
五段ある階段を上がって、広がるエントランスホールに足を踏み入れ、エレベーターがおりてくるのを待つ。
エレベーターの扉が開いて、乗り込む私だった。
好狭野教諭が住む6Fのボタンを押し、『閉』のボタンを続けて押すと、エレベーターの扉が閉じて昇っていく。
エレベーターからおりた私は、好狭野という表札を探し、好狭野晶が住む一室の扉の前で足を揃え、立ち止まる。
ふぅ、と一息吐いてから、部活終わりに好狭野教諭から渡された鍵をポケットから取り出し、マジマジと見る。
十秒も経たずに、鍵を鍵穴に挿しこみ、開錠して上がる私。
狭い玄関には、茶色のローファーが一足と好狭野教諭が履いている印象が浮かばないスニーカーが二足が置かれていた。
「お、お邪魔しまぁ〜す……」
彼女は、一人暮らしではないのか?
私は、恐る恐るスニーカーを揃えて脱いで上がる。
「センセー、に無理矢理……泊まってくように言われて、来たんですけどぅー……」
……
私は、無音のまま物音が聴こえないのを警戒を張ったままに、リビングへと通じる扉のドアノブに手を掛けて恐る恐る開ける。
リビングは、無人だった。
安堵した私は、ダイニングにいき、シンクの蛇口で手洗いうがいを済ませ、三脚置かれたリビングチェアに腰掛けた。
リビングは壁に掛けられた時計の刻む針の音と外のカラスがうるさく鳴き続ける鳴き声や車道を走るバイクのエンジン音などが聴こえるだけだ。
現在の時刻は、17時50分だ。
私は、彼女の寝室を覗きたいという欲求が湧き出していた。
はぁー、なんで私がこんな気分になんなきゃいけないのよ、と叫びたかった。
もし彼女に、私が彼女の寝室に許可なしに足を踏み入れたことがバレてしまえば、この先一生これでもかというほどに脅しの材料として持ち出されてしまうのが想像できる……。
でも……彼女の、好狭野晶の弱みをここで握りたいという願望がないことも……。
私は、葛藤に悩み出すのだった。
ゴールデンウィークの、5月1日は汐嶋凪沙にとって地獄となることは確定しているのだった。
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